■言葉を使えば弾圧が起きるけど、ダンスならばそれを回避できる可能性があったりしますね


■オススメ度

 

アルジェリアの実情を知りたい人(★★★)

女性たち再生と蜂起を描いた映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.7.22(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Houria(自由)

情報:2022年、フランス&アルジェリア、99分、G

ジャンル:大怪我で声を失ったダンサーが、リハビリで出会った人々にダンスを教えるヒューマンドラマ

 

監督&脚本:ムニア・メドール

 

キャスト:

リナ・クードリ/Lyna Khoudri(フーリア:大怪我によって声を失った元プリマドンナ、ホテルの清掃員)

 

ラシダ・ブラクニ/Rachida Brakni(サブリナ:フーリアの母、バレエのコーチ)

アミラ・イルダ・ドゥアウダ/Amira Hilda Douaouda(ソニア:スペインに行きたいフーリアの親友、ホテルの清掃員)

 

Marwan Fares(アリ・ベン・ハダフ:フーリアを襲う男)

Salim Kissari(ギャンブルの元締め)

 

メリエム・ムジカネ/Meriem Medikane(アメル:リハビリの先生)

ナディア・カシ/Nadia Kaci(ハリマ:夫を亡くして声を失った女性)

ザーラ・ドゥモンティ/Zahra Manel Doumandji(サナ:聾唖の女性)

サラ・グエンドゥス/Sarah Guendouz(ナセラ:自閉症の姉妹)

Amina Benghernaout(リラ:自閉症の姉妹)

Sarah Hamidi(ラミア:子どもが産めない女性)

 

Camila Haima-Filali(カリマ:バレエの仲間)

Sofia Nait(ラティファ:バレエの仲間)

 

Hadjar Benmansour(ソルタニ:弁護士)

 

Hassen Ferhani(サミー:教室を覗く男)

Hocine Charnai(リエス:教室を覗く男)

Hamza Bensahnoune(サリム:教室を覗く男)

 

Salima Abada(ユセフ:警察署長)

Redouanne Hajane(マンスール:刑事)

 

Reda Benaceur(遺体安置所の警官)

Rym Foglia(遺体安置所のスタッフ)

 

Damane Agal(出国の仲介人)

 

Nadir Lammari(サラ医師:フーリアの主治医)

 


■映画の舞台

 

アルジェリア:

Algiers/アルジェ

https://maps.app.goo.gl/1bMDHFSAic8oqrMq9?g_st=ic

 

ロケ地:

フランス:マルセイユ

 

アルジェリア:アルジェ

 


■簡単なあらすじ

 

アルジェリアに住むバレエダンサーのフーリアは、王立バレエ団に入るための訓練を行なっていた

母サブリナの厳しい指導の元、親友のソニアたちと一緒に練習に励み、時にはハメを外して遊んでいた

フーリアはお金を貯めて母のために車を買おうとしていて、ホテル清掃で得たお金を闇賭博に注ぎ込んでいた

 

ある日、ギャンブルに勝ったフーリアだったが、勝負の向こうを主張するアリに襲われてしまう

石階段を転落したフーリアは、顔面を強打し、足も骨折してしまう

バレエ団への試験にも参加できず、失意のフーリアは、心的外傷の影響で声をも失ってしまう

 

母が寄り添い、ソニアが声をかけても、フーリアは心から笑うことができない

そんな折、病院のリハビリ患者たちと交流することになったフーリアは、彼女たちにダンスを教えることになったのである

 

テーマ:不屈と恐怖

裏テーマ:アルジェリアの闇

 


■ひとこと感想

 

大怪我をしたダンサーが再起を果たすという物語かと思っていましたが、思った以上に重くて怖い話になっていました

アルジェリアをイメージで語るのは良くないのですが、映画はある側面を描いているのかなと思います

 

主人公のフーリアは裕福ではない家庭ですが、アルジェリア国立バレエ団を目指して練習ができる環境にはあります

高級そうなホテルの清掃員として働き、母はバレエの先生として収入を得ています

まるで姉妹のようなソニアはスペインに脱出することを考えていて、その厳戒態勢は相当なものでしたね

 

再生において、自分よりも不遇な人たちと出会うことになったのですが、彼女たちの過去にアルジェリアの激動の歴史が刻まれていました

このあたりはアルジェリアの歴史を紐解くしかないないのですが、テロリストと警察の関係などダークな部分が多く描かれていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

フーリアが怪我をした理由が意外な感じで、まさかの闇賭博の報復とは思いもしませんでした

その犯人がまさかの元テロリストで、しかも警察が捕まえないというところが凄いことになっていますね

とは言え、アルジェリア内戦とその後のことを知っていれば、色々とヤバめな感じが汲み取れるかもしれません

 

物語は、怪我からの再出発で、この国でどうやって立ち上がるかというものを描いていきます

「この国でやりたいことがあるのね」というソニアの言葉が印象的で、フーリアはアルジェリアの傷ついた女性たちをもう一度輝かせようとダンス教室を開くことを考えます

 

ソニアの顛末は予定調和な感じになっていましたが、あのような悲劇を迎える人は少なくないのでしょう

それぐらい、アルジェリアという国には「自由」がないようにも思えてきます

「Houria」には「自由」という意味がありますが、外の世界に出れば自由が保障されるわけではないところも切なくもありますね

 


アルジェリアの歴史あれこれ

 

アルジェリアは民主人民共和国で、首都はアルジェになります

公用語はアラビア語とベルベル語で、人口は約4400万人くらいいます

その歴史は、8世紀頃にイスラーム帝国の一部となり、16世紀になって、オスマン帝国領アルジェリアとなります

この時期にアメリカがバルバリア海賊に対して武力攻撃を行い、これを第1次バーバリ戦争と呼びます

その後、第2次バーバリ戦争を経て、西欧諸国による「アルジェ砲撃」が起き、最終的にフランスがアルジェリアを占領することになりました

 

アルジェリアが独立を果たしたのは、1962年のことで、この時点でアルジェリア民主人民共和国という名前になります

初代のベン・バラMohamed Ahmed Ben Bella)大統領は「社会主義政策」を採り、キューバ革命後のキューバと非同盟運動と世界革命路線を推進します

その後、冷戦下で需要が高まったウランを巡り、第1次トゥアレグ抵抗運動(Tuareg Rebellion)が起こりました

 

1965年、ウアリー・ブーメディエン(Houari Boumediene)が軍事クーデターを起こし、ベン・バラ政権を倒します

彼は社会主義政策を継続させて社会発展を達成させました

その後、1976年に第1次アムガラの戦い、西サハラ戦争に参加し、サハラ・アラブ側についてモロッコと交戦することになります

1989年、経済的な危機の影響から「複数政党制」が認められ、イスラーム主義へと傾倒していきます

クーデター、国会非常事態宣言で選挙結果が無効になるなどの時期を経て、1991年アルジェリア内戦Algerian Civil War)が勃発します

これによって、10万人以上の犠牲者が出たとされています

 

映画は、このアルジェリア内戦が終了しているので、国家非常事態宣言が解除された2011年以降であると推測されます(多分、内戦後20年後の2020年頃)

現在でも、モロッコとの対立は続き、国交断絶状態になっているようですね

フーリア自身は戦争や内戦とは無関係で過ごせていましたが、リハビリで療養中の女性たちは、その影響を受けていた人物たちとして描かれていました

決して裕福ではなかったと思いますが、戦いの犠牲者が身内にいなかったことは恵まれていたのかなと思ってしまいます

 


声を失って得たものとは何か

 

フーリアはギャンブルの不当性を訴えるアリの暴行を受け大怪我を負いますが、彼女が声を失ったのは心的外傷によるものと思われます

彼女にとっての声は、日常の人間関係を構築するためのものでしたが、声を失っても、彼女がコミュニケーションに困るということはありません

ジェスチャー、筆談、手話などのように、意思を伝えるという意味では、多くの言葉を駆使することができます

 

コミュニケーションに必要なものは、伝えたい受け取りたいという欲求で、目的が明確であれば、それを達成するために様々な工夫がなされます

でも、その欲求を蜂起したり、維持したりするマインドの方が難しくて、そこに至るまでのハードルというものは低くはありません

フーリアがリハビリ患者たちと交流を果たすまでに相当の時間を要し、そのマインドの原点は「もう一度踊りたい」ということよりも、「このままではダメだ」という想いの方が強かったように思えます

 

踊れないとわかると自暴自棄になって活動を中止する人もいれば、再起という目標がないのに立ちあがろうとする人もいる

怪我による挫折を受ける高みを目指すスポーツ選手の物語はたくさんありますが、本作は元の路線に戻ろうと奮闘する訳ではないという特徴がありました

この手の物語の多くは、再び国立バレエ団を目指すというタイプが多いのですが、本作ではその要素が微塵にも感じられません

 

それを諦めさせたのは声を失ったからではなく、自然と進路変更をしているのですね

これまでのこだわりが嘘だったかのように、日常生活を送ることを念頭にリハビリをしていきます

実際に、フーリアがその夢を諦めたのかはわかりませんが、ある種の壁を感じていて、それを突破できない自分がいたことは感じていました

声を失ったことで、彼女の中にあるダンスの意味や目的がいつの間にか変わっていて、まるで手話の延長線上にある身体表現になっています

この変化の背景には、彼女がダンスを始めたきっかけ、すなわちバレエを始めるきっかけに近いものがあるのかなと感じさせます

そういった意味では、原点回帰に近くて、元に戻ろうとする物語だったのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画のラストでは、非業の死を遂げたソニアに対する鎮魂の意味を込めたダンスが踊られます

患者たちとソニアが交流するシーンが描かれていて、全員がソニアに対する想いを抱えていると思います

ダンスはある意味「天国にいるソニアとの会話」のようになっていて、そこで表現されているのは「怒り」であるように感じられます

ダンスの間、フーリアは一度も笑わず、常に一点だけを見据えていました

 

彼女が表現する「怒り」は、ソニアを止められなかった自分を責めることから、この状況を放置している政府や、男尊女卑の慣習など、様々なものに波及していきます

本来は、身内を集めての発表会として企画されたダンスは、ソニアの死を悼む目的に変わりますが、フーリアはプロを目指していたので、リハビリ患者たちとの練習の温度差というものが違いました

リハビリの先生アメルは、「彼女たちも頑張っている」と言い、フーリアは暴走している自分に気付きます

でも、彼女が暴走している理由をみんなはわかっているのですね

なので、彼女に対して文句を言うこともなく、必死で食らいついていきました

 

彼女たちが必死になったのは、ソニアの死が一因ではありますが、それぞれの中には別の感情があると思います

それは、言語としてのダンスの魅力を感じているからでしょう

フーリアは手話やボディランゲージを通じてみんなと会話をしますが、それ以上に彼女のダンスから感じられるものがある

ピクニック先で初めて披露されるダンスは、そのレベルの高さに驚いたこともありますが、体を動かすだけで感動が生まれると言う稀有な体験につながっていきます

言葉を伝えるのが手話だとすれば、感情を伝えるのがダンスになっていて、ラストダンスはそれが融合したものになっています

 

あの場面で描かれたのは鎮魂ではありますが、これからの彼女たちのダンスは、それぞれの表現したいものを映していくものに変化をしていくと思われます

そのきっかけとして、ある目的を有することを成し得ると言う成功体験はとても重要なものになったと感じます

コンテンポラリーダンスは、発信者と受信者の言葉なき対話ではありますが、何を表現して何を受け取るかというところに正解を必要としません

でも、なんとなく思うのは、何かしらの感情がそこにあって、それが共有されることが大事なのかな、と思いました

そう言った意味において、ラストダンスで私が感じたのは「怒り」でした

この感覚が正しいかどうかは別として、何かしらの感情を受け取ったのであれば、それで良いのかなと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/389324/review/9970f50e-4d79-49a4-b9ef-c1d6864f7997/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/hadashi0721/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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