■何をもって義とし、何をもって念とするべきだろうか
Contents
■オススメ度
韓国のクライムサスペンスが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.5(T・JOY京都)
■映画情報
原題:헌트(ハント)、英題:Hunt
情報:2022年、韓国、125分、PG12
ジャンル:紛れ込んだ北のスパイを追う国家安全企画部の次長2人を描くクライムサスペンス映画
監督&脚本:イ・ジョンジェ
キャスト:
イ・ジョンジェ/이정재(パク・ピョンホ:国家安全企画部一班・海外チームの次長)
チョン・ウソン/정우성(キム・ジョンド:国家安全企画部第二班・国内チームの次長、元軍人)
【ピョンホ関連】
チョン・ヘジン/전혜진(パン・ジュギュン:ピョンホの補佐官)
チョン・マンシク/정만식(ヤン・ボソン:国家安全企画部・東京支部長、ビョンホの作戦課長)
ゴ・ユンジョン/고윤정(チョ・ユジュン:大学のデモに巻き込まれる大学生、ウォンシクの娘)
イ・ソンミン/이성민(チョ・ウォンシク:ピョンホの元上司、日本情報院、チョ・ユジョンの父)
【ジョンド関連】
ホ・ソンテ/허성태(チャン・チョルソン:ジョンドの補佐官、課長)
キム・ムンチャン/김문찬(リ先生:ジョンドの部下、拷問担当)
【国家安全企画課・上層部】
キム・ジョンス/김종수(アン・ビョンギ:第14代国家安全企画部長、両次長に北のスパイ捜索を命令)
ソン・ヨンチャン/송영창(カン・ムンヨン:第13代国家安全企画部の部長)
【国家安全企画部・東京支部:ピョンホの部下】
パク・ソンウン/박성웅(パク・ジョンハン:国家企画部、東京支部のエージェント)
チョ・ウジン/문형석(ムン・ヒョンソク:国家企画部、東京支部のエージェント)
キム・ナムギル/이재준(イ・ジェジュン:国家企画部、東京支部のエージェント)
チュ・ジフン/주지훈(チョン・ヒョンス: 国家企画部、東京支部のエージェント)
【韓国国内:その他】
チョン・ソンモ/정성모(キム・スンシク:反軍部勢力の代表格)
イム・ソンジュ/임성재(デモ隊に巻き込まれる大学の警備員)
ソン・ドクホ/송덕호(デモをする学生)
チャン・ソギャン/장서경(デモをする女学生)
カン・ギョンホン/강경헌(キム・ジョンドの妻)
チャン・ジェハ/장재하(ジョンドの長男)
クォン・ウンソン/권은성(ジョンドの次男)
キム・ドクジュ/김덕주(ジョンドの母)
イ・チェウン/이채은(ヤン・ボソンの娘)
オ・マンソク/오만석(カン:ジャーナリスト)
ユ・ジェミョン/유재명(チェ・ギョンチャン:軍事納入業者、ジョンドの元同胞、元軍人)
ソン・ソンホ/손성호(チョン・スホ:韓国大統領、モデルは全斗煥)
ソン・ギョンウォン/손경원(イ・ジュミョン:バンコクに来る大使)
【北朝鮮関連】
チョン・ギョンスン/정경순(チョン・ボサン:韓国内に潜伏する北朝鮮エージェントのリーダー)
イム・ヒョングク/임형국(クリーニング屋に扮する北朝鮮のスパイ)
イム・ソンジュ/임성재(北朝鮮のエージェント)
ファン・ジョンミン/황정민(リ・ウンビョン:北朝鮮からの亡命軍人)
チョン・ジェソン/정재성(ピョ・ドンホ:北朝鮮の核開発担当局の局長)
コ・ソヒ/고서희(ピョ・ドンホの妻)
オ・マンソク/오만석(カン・ギジャ:北朝鮮のスナイパー)
【海外:その他】
ポール・バトル(CIAアジア支部長)
■映画の舞台
1980年代、
韓国
日本:東京
タイ:バンコク(モデルはビルマのラングーン、アウンサン廟)
ロケ地:
韓国のどこか
■簡単なあらすじ
1983年、ワシントンD.C.にて、米韓首脳会談が行われ、チョン・ドゥファン大統領の退陣を求めるデモが繰り広げられていた
安全企画部の国内チームの次長ジョンドと、海外チームの次長ピョンホのそれぞれのチームが警護に当たっていたが、CIAがテロの動きを察知し、銃撃戦へと発展した
同じ年の韓国でも、独裁軍事政権に対するデモ活動が激化し、機動隊との衝突の最中、女学生のユジョンが逮捕されてしまう
ユジョンは、ピョンホが世話をしている学生で、3年前まで一緒に働いていたウォンシクの娘だった
ワシントンD.C.での不始末のためにカン部長に呼び出されたピョンホとジョンドは、大統領の訪日と417特殊作戦に対する念を押す
その夜、ピョンホは北朝鮮からの亡命者が情報提供を求めているという情報を入手する
カン部長の指示で亡命計画にあたるものの、部下のヤン課長が単独行動に出てしまい、それによって亡命者は命を落としてしまった
ピョンホはカン部長に詰め寄り、自身の汚職問題をチラつかせて退職を迫る
そして、ほどなくアン・ピョギが部長に任命された
アン部長はジョンドとピョンホそれぞれに「同胞を調べるように」指示を出した
テーマ:大義と葛藤
裏テーマ:目的遂行のための犠牲
■ひとこと感想
実在の事件がベースになっているフィクションで、光州事件、アウンサン廟事件、北朝鮮軍人の亡命騒ぎなどが盛り込まれていました
このあたりの史実を知っている方が理解は早いと思いますが、知らない方が「フィクションとしてのスパイアクション」を楽しめるかもしれません
映画は、国家安全企画課(旧KCIA)の海外と国内のチームの次長2人が主人公で、レビューサイトを見ると見分けが付かずに苦労したという声が多かったですね
どっちもスーツに七三分けという格好なのがややこしさを倍増させています
一応は、ピョンホがグレイのスーツ、ジョンドが紺のスーツになっていますし、恰幅のある肉体派がジョンドなのでそこまでハードモードではないと思います
物語は、二重スパイは誰なのか?というのを双方が探すという展開になっていて、どちらも怪しさが満載になっていましたね
双方の関係者への拷問取り調べも強烈ですし、脱臼専門の拷問官とか、ネタなのか史実なのか困惑してしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
事前情報を入れている時間がなく、パンフレットを先に購入して、簡単な人物相関だけを頭に入れて臨みました
その甲斐もあって、そこまで混乱しなかったのですが、部下関連が途中からごっちゃになってしまいましたね
北朝鮮側のボスの貫禄はなかなかでしたが、亡命軍人のラーメンネタは笑うところなのか困ってしまいます
アクションはそこまで激しくないのですが、爆弾の使い方がうまくて、要所要所を締めていましたね
バンコクでの爆発はマジでビビりましたし、迫力は凄まじいものがありました
韓国のサイトによるプロットだと、ラストシーンの銃声はユジョンが北の工作員に向けて発砲したものだそうで、てっきり工作員がユジョンを始末したのかと思ってしまいました
どちらとも取れる内容ですが、第二の人生を歩んでいる方が希望が持てるかなと思いました
■歴史的背景について
本作の映画の舞台は1980年代になっていて、この時点に至るまでの歴史的な背景をある程度知っておく必要があります
その中でも特筆すべき点は「軍事政権に至った経緯」「KICAから安全企画部に変化した経緯」「韓国国内の軍事政権に対する国民感情」であると言えます
また、本作では実際の事件が絡むフィクションになっていて、ジョンドが軍隊時代に経験した「光州事件」、映画のラストになる「ビルマのラングーン事件」も押さえておきたいポイントであるかと思います
ざっくりとした歴史観だと、1897年に日清戦争の清の敗北を受けて、朝鮮が冊封体制(中国の支配下)から離脱して、「大韓帝国」となったところから始まります
1904年に第一次日韓協約を結び、1905年には第二次日韓協約を結んでいて、これによって大韓帝国は外交権を失い、日本の保護国となりました
1906年に韓国総督府が設置され、1907年の第三次日韓協約によって、内政権が日本の管轄下に入り、韓国軍の解散が定められています
1910年、日韓併合条約を結び、これによって日韓併合が起こります
1914年から第一次世界大戦が勃発、1918年に終結
その後の1919年、三・一独立運動が起こり、中華民国の上海市にて、大韓民国臨時政府が設立されます
1929年、光州学生事件が起こり、光州で起きた喧嘩の対応を巡って、朝鮮人学生による抗議活動へと発展したものでした
事の起こりは、1929年10月30日に羅州行きの列車内で起きた日本人中学生が朝鮮人女生徒を揶揄ったことで、そこで喧嘩が起こって、決闘へと発展します
この事件が光州日報で報じされるものの、日本人学生寄りの報道になったことに抗議をすることになりました
1938年には国家総動員法が施行され、1940年から創始改名が行われていきます
このあたりの経緯は韓国映画『復讐の記憶』で取り扱われていました
1941年から第二次世界大戦が勃発、1945年のポツダム宣言によって終結しますが、日本の敗戦によって、「北緯38度線」で朝鮮を分割統治するという時代に向かいます
1948年には李承晩による第一共和国となり、これは1960年まで続くことになりました
1950年代に入って、朝鮮戦争が勃発し、朝鮮人民軍(北朝鮮)が38度線を突破することになります
アメリカを中心とした国連軍が参戦し、これが1953年まで続きました
1953年7月27日の休戦協定により、軍事境界線が確定、韓国は第一共和国時代に入ります
1960年に第二共和国となった大韓民国ですが、1961年にクーデターによって朴正煕が大統領となり、第三共和国となります
その後、日韓基本条約締結、ベトナム戦争参戦へと続き、1979年、朴正煕が側近に暗殺され、粛軍クーデターが起こります
そして、第五共和国として、全斗煥による軍事政権が誕生します
1980年5月18日、光州にて軍事政権に対する市民のデモが勃発し、軍事力によって鎮圧します
これが、ジョンドが参加することになった「光州事件」というもので、死者は154〜198人という発表がなされています
映画は、この光州事件直後(3ヶ月後)となっていて、1988年に盧泰愚政権に変わるまでの間になります
ちなみに映画の後半で描かれるラングーン事件(映画ではタイのバンコクになっている)が起こったのは、1983年の10月9日のことでした
■アウンサン廟事件(ラングーン事件)について
映画のラストにあたる「ラングーン事件(映画ではタイのバンコクに変更されている)」は、ビルマの首都ラングーンのアウンサン廟で発生した爆弾テロ事件のことを言います
全斗煥大統領暗殺を目的としたもので、死亡者21名、負傷者47名を出した事件で、犯人は北朝鮮工作員の実行犯が3名、在マレーシア朝鮮大使館が絡んでいたものでした
この事件が起こった背景には、北朝鮮の孤立化への懸念があり、1988年のソウルオリンピック招致というものがありました
非同盟中立国がオリンピック参加を表明しておらず、ロス五輪同様に、これらの国が不参加になる可能性がありました
これを受けて、全斗煥大統領が諸外国を歴訪することになりました
1982年にもアフリカ歴訪をしていた全斗煥大統領暗殺が計画されていましたが、ソ連のレオニード・プレジネフ政権が北朝鮮の金日成主席に圧力をかけて中止させていました
1982年11月にレオニードが死去し、対米強硬派のユーリ・アンドロポフが就任し、北朝鮮有事の際の積極的支援を打ち出します
これによって、金日成は偵察局第711部隊に命じ、計画を立案していきます
全斗煥暗殺によって、韓国国内での共産革命が起こるか、韓国軍の挑発に対して南侵するという計画になっていました
映画では、テロと同時に南侵するとなっていましたが、このあたりはフィクションの部分にあたると言えます
1983年10月、キム・ジンホ少佐とカン・ミンチョル上尉、キム・チホ上尉がラングーンに入り、アウンサン廟の屋根裏に遠隔操作のクレイモア地雷を仕掛けます
全斗煥大統領一行がビルマのラングーンに到着し、サン・ユ大統領らの出迎えを受けます
その翌日、アウンサン廟への献花に訪れた全斗煥大統領一行を狙うことになりました
でも、一歩先にその場を訪れた駐ビルマ特命全権大使の車を全斗煥の乗った車と間違えて、遠隔操作によって爆弾は爆発することになりました
全斗煥大統領の車は2分遅れで到着し難を逃れています
映画は、このあたりを少しだけ改変して、2分後に来た全斗煥大統領の到着後に爆発が起こっているのですね
映画はこの事件を彷彿をさせていますが、タイのバンコクに訪れたことになっていて、実際に起きた史実をフィクションとして描いていることになります
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、時代背景とモチーフにしたフィクションになっていて、映画の冒頭でも「フィクションですよ」は強調されていました
色んな改変がありますが、大義に生きるジョンドと使命に生きるピョンホを描いていて、その想いの交錯を主題としています
ジョンドは韓国の軍人として、全斗煥を守る立場にあるものの、この軍事政権を存続させることに疑問を感じています
それは、彼が経験した光州事件が元になっていて、その事件の鎮圧に関わったことを悔いていました
また、この時に一緒に参加したのが、のちの取引を行なっていると疑惑を持たれているチェ社長ということになります
一方のピョンホは北朝鮮工作員として韓国中枢に入り込んだスパイになっていて、本来の目的は「全斗煥暗殺」でした
彼を怪しんでいる勢力は監視人をつけていて、東京時代のウォンシクとその娘とされる(実際には娘かはわからない)ユジュンがその役割を担っています
ユジュンも鍛えられた北朝鮮工作員で、国家安全企画部の拷問に耐え得る能力を有しています
結果として、軍事政権を疑問視するジョンドがピョンホの正体を知ることになり、本来ならば止めるはずの立場なのに加担する方向に向かいます
状況を利用して全斗煥暗殺へと向かうのですが、それは叶わずにジョンドがスパイであると誤認されたまま物語は終わることになりました
映画のラストでは、南に逃げたユジュンを訪ねるピョンホが描かれていますが、北朝鮮は彼を始末することになります
車内で「新しい人生」を提示されたユジュンは、そこで生き方を変えることを決意し、同胞であるはずの工作員を殺して去るという結末になっていました
このユジュンが車に出た後というのはどちらにも解釈できるようになっていて、ユジュンも一緒に始末されたという見方もできると思います
判断材料は「音」だけで、彼女が車を降りた直後に複数発の銃声が響いていました
さすがに音だけでは方向は分かりませんが、ピョンホが死んだ車にユジュンの血が散乱するとか、そういったものがなかったので、おそらくはユジュンが生き方を変えて、その場にいた工作員を殺したのだと思います
銃声の数からすれば3〜4人はいたと思いますが、その全てを殺せたのか、相打ちになったのかは想像にお任せしますという感じになっています
個人的な感覚だと、ユジュンはかなり凄腕の工作員で、ターゲットを複数年にわたって知られることなくマークし続け、国家安全企画部の拷問に耐えている人物でした
なので、彼女がその気になれば、そこにいた同胞を殺すことは容易であったと思います
また、北朝鮮が計画を知るユジュンをも抹殺するのであれば、車内にいる間に手榴弾を使うとか、出てくる前に撃ち殺す方が確実なので、ユジュンが外には出られなかったでしょう
そう考えると、ユジュンが同胞を殺して、新しい生活へと向かうという方がしっくり来るのかなと思いました
このあたりをはっきり描くと問題になりそうではありますが、与えられた任務を遂行した工作員を殺す必然性はないことを考えると、スタイリッシュにまとめ上げるエンディングを採択したのかなと思いました
あくまでも個人的な感想ではありますが、別の見方があっても良いと思うので、「新しいパスポートを受け取ろうとしたユジュンを裏切り者認定して始末する」という路線でもありなのだと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
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