■少女が最後にドミノを止めた意味は、映画の評価を暗示したものだったのだろうか
Contents
■オススメ度
特殊能力系クライムミステリーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.27(イオンシネマ久御山)
■映画情報
原題:Hypnotic(催眠術)
情報:2023年、アメリカ、94分、G
ジャンル:誘拐された娘を追う刑事が、不可思議な能力を持つ男と相対する様子を描いたミステリー映画
監督:ロバート・ロドリゲス
脚本:ロバート・ロドリゲス&マックス・ボレンスタイン
キャスト:
ベン・アフレック/Ben Affleck(ダニー・ローク:オースティン市警察の刑事、娘を誘拐された男)
アリス・ブラガ/Alice Braga(ダイアナ・クルーズ:占い師)
ハラ・フィンリー/Hala Finley(ミニー:誘拐されたダニーの娘、10歳時)
(7歳時:Ionie Olivia Nieves)
ケリー・フライ/Kelly Frye(ヴィヴ/ヴィヴィアン:ロークの元妻)
J・D・パルド/J. D. Pardo(ニックス:ダニーのパートナーの刑事)
ダヨ・オケニイー/Dayo Okeniyi(リバー:引きこもりのハッカー)
ジャッキー・アール・ヘイリー/Jackie Earle Haley(ジェレマイア:ダイアナの旧友)
Corina Calderon(マリア:ジェレマイアの使用人)
ウィリアム・フィクトナー/William Fichtner(レブ・デルレーン:銀行に来る謎の男)
ゼイン・ホルツ/Zane Holtz(マス:ダニーの部下、操られる刑事)
ルーベン・カバレロ/Ruben Cabaalero(ワトキンス:ダニーの部下、操られる刑事)
ジェフ・フェイヘイ/Jeff Fahey(カール・エベレット:メキシコの夫婦)
サンディ・アヴィラ/Sandy Avila(テルマ・エベレット:メキシコの夫婦)
ライアン・リュウサキ/Ryan Ryusaki(ボン:?)
Nikki Dixon(ダニーのセラピスト)
Bonnie Discepolo(服を脱ぎ出す女)
Evan Vines(ライル・テリー:記憶を無くした誘拐犯)
Patrick A. Grover(テレビのレポーター)
Jordan Hunter Jones(銀行の武装警備員)
Justin Hall(銀行の武装警備員)
Lawrence Varnado(銀行の支店長)
Natalie D. Garcia(銀行窓口係)
Carrick O’Quinn(銀行の警備員)
Derek Russo(タイニー:ダイアナの客)
Steve Brudniak(テキサスの保安官、ダイナーの客)
Camila Téllez(ルース:ダイナーのウェイトレス)
Dana Wing Lau(テレビのレポーター)
Jose Barajas(メキシコの国境警備隊)
■映画の舞台
アメリカ:テキサス州
オースティン/Austin
https://maps.app.goo.gl/TAqTHGkoWCWU7XAT9?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:テキサス州
オースティン/Austin
アメリカ:カリフォルニア
ロサンゼルス
■簡単なあらすじ
娘を誘拐された刑事のダニーは、娘の行方を探しながら、街で起きている不可解な事件を追っていた
何者かのリークによって銀行が襲われることを知ったダニーは、相棒のニックスとともに現場へと急行する
監視車から付近の様子を伺っていたダニーは、現場付近で不審な男を発見する
男が女から火を借りて何かを呟いた後、女は突然往来で服を脱ぎ出し、そのまま道路に出て事故を誘発してしまう
ダニーは男を追って銀行に行き、彼よりもひと足早く貸金庫からあるものを取り出す
そこにはダニーの娘ミニーの写真が入っていた
男の目的がわからぬまま後を追い、屋上で追い詰めるものの、同僚の捜査員は操られたかのように自分に銃を向けてくる
ダニーは男の能力に戸惑いながら、彼はスキをついて消えてしまったのである
その後、リーク元が判明し、ダニーは占い師のダイアナの元へと向かう
彼女は男の目的と能力を知っていて、そこにも男は現れてくるのであった
テーマ:本当の自由
裏テーマ:能力がしめす未来
■ひとこと感想
予告編で「冒頭5秒で騙される」みたいな壮大な釣りがありましたが、それってネタバレみたいなものでは?と思ってしまいます
映像的には『インセプション』を思わせるところがあり、夢の中か何かなのかなとバレてしまっています
この映画のどこに騙される様子があるのかわかりませんが、映画はミステリーという感じには思えませんでした
脳をハッキングしていたみたいな能力になっていますが、原題が示す通り「催眠術合戦」の様相を呈していました
この催眠術が有能すぎて、どのようなカラクリになっているのかすらわからないのですね
なんでもありの世界観になっていて、幻覚を見せたり、入れ替わったりと信じる以前に真実との境界線がほとんどわかりません
前半は世界観の説明で終わり、物語の牽引役である「なんでも知ってるダイアナ」がサクサクとステージを進めているので、ダニーが何かをしていると言う感じにはなっていません
中盤に追い込まれてから本領発揮になりますが、そこまでがものすごく長いのですね
一種のRPGのようなもどかしさのある内容になっていて、地道にレベル上げをする人向けの映画なのかなと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
一応はどんでん返し系ではあるものの、途中から「虚実の境目がない」ので、緊張感が削がれてしまいます
見えているものが真実かはわからないと言う感じではありますが、それすらもどっちでも良いように思えてしまいます
ともかく有能すぎるハッキング能力で、見えないバトルが延々と繰り広げられているのですが、ほぼにらめっこみたいな感じになっています
ダニーが覚醒するあたりも、そうなるように仕向けられているので、観ていて都合の良い方向に話が転がりすぎているように思えました
ドミノ計画は娘の名前が実は「ドミニクでした」と言う無茶なもので、こういう嘘はミステリー要素では最悪の展開であると思います
ヒントがほとんどない中で、物語は勝手に転がっていくので、それを面白いと思えるかは微妙な感じになっていました
■催眠術とは何か
催眠とは、「他人若しくは自分自身によって与えられた暗示により、精神的変化、肉体的変化が引き起こされている状態」のことを言います
催眠術とは、相手若しくは自分を上記のような状態に陥らせる手法のことを言いますが、本作の場合は「相手にかけていたように見えて自分にかけていたこと」が最終的に暴露されていきます
デルレーンが他の人間をコントロールしているシーンがたくさん登場しますが、それら全ては仕組まれたプログラムのようなものになっていました
そして、これらの状況を生み出してきたのが、ダニーが自分と妻にかけた催眠ということになっています
催眠には感受性というものがあり、近年の傾向では「小学生がピーク」で減少に転じるとされています
これらの測定は、スタンフォード催眠感受性尺度というものがあり、A型・B型・C型というバージョンが存在します
この中で最も有名なものがC型(SHCC:C)というもので、「手の下降」「味覚の幻覚」「腕の硬直」などを含めた12項目の尺度によって判定します
催眠は医療の分野でも応用されていて、乗り物酔いの克服、不安を取り除くなどに利用されてきました
過敏性腸症候群の患者に催眠を用いたという例も存在します
でも、科学的根拠が薄いものが多く、研究としての結論はまだ出ていない分野になっています
催眠に関することはほとんど解明されていない部分が多く、本作のようなSFにもたくさん登場します
フィクションとしては使い勝手の良い分野ではあるものの、論理が確立されていない分、ファンタジーに感じられる部分も多いように感じられます
■勝手にスクリプトドクター
本作は、前半が全てフェイクで、後半にネタバラシをする構成になっていますが、あまりにも行き当たりばったりのシナリオになっていました
前半のフェイクをフェイクと見破るヒントはほとんどないのですが、ダニーが「怪しい男を見ただけで隠し金庫の中身を確認する」という行動は不自然に思えます
また、デルレーンが貸金庫の中身を奪っても、その中身を確認することなく逃亡し、ダニーが写真を提示して、初めて中身がないことに気づくという流れも不自然には思えてきます
だからと言って、それらが全てプログラム上で起こっていることで、催眠によるものだと考えるのはほぼ不可能に近いのではないでしょうか
後半では、ある機関による研究から娘を助け出すために大掛かりな仕掛けを施したことが仄めかされますが、それが理論的に可能とは思えない部分が多かったですね
13回目にして成功した理由もわからず、単に娘が10歳になれば成功するようになっていたのかなども不明瞭な部分が多いですね
3年で13回だと、それぞれのケースは年間4回程度行われていたことになりますが、プログラム自体は2、3日の内容になっています
その準備に数ヶ月かかると考えられますが、ある程度のプログラムは既定路線に嵌め込まれているし、成功と失敗の線引きとなるシークエンスというものは明確ではありません
映画を見た感じだと、ダニーが記憶を取り戻していく仕掛けは「写真に書かれた文字」で、その内容を理解することで、養父母のいる場所へと向かうことになります
この養父母の存在というものが機関の認知外のことのように描かれていて、そのシークエンスに向かうことができたトリガーというものがどれだったのかははっきりとわかりませんでした
ダイアナとの出会い、共闘からのジェレマイアへの接触、リバーとの接触および娘の正体を知るという流れの、どこまでが既定路線なのでしょうか
おそらくは「娘の本名を検索する」という行為がトリガーになっていますが、それに至った理由というのはわからないのですね
ドミノの計画のことを知るまでは既定路線でも、そこから娘の本名がドミニクであると気づく流れは、どっちとも取れるような内容になっていました
この辺りの線引きと言うものが明確ではないゆえに、前半のフェイクから後半のリアルに移行する流れが読みにくくなっているのではないでしょうか
これらを解消するためには、前半の流れのほとんどに違和感を持たせることだと思います
前半の流れはほとんどダイアナが誘導しているので、ダニーとしては彼女について行っているだけになります
ダイアナへの引き継ぎもニックスのアドバイスになっているので、ダニーは誘導されるプレイヤーにしか見えません
次々と起こる「ゲームのミッションのような展開」にダニーが能動的である瞬間がないので、それゆえに違和感を生じさせる瞬間というものがほとんどありません
なので、ダニーが自発的に動くけれど、他のキャラがそれを阻害するとか、アクシデントによって誘発されるという展開がベターだったように思えます
ダニーが自分で考えて行動を起こすものの、その方向へ行くことを阻害する仕掛けが施される
これによって、無理やり誘導されていることが見えてくれば、一連の流れが「あるプログラムではないか」と懸念できると思います
そして、ダニーの自発的な行動によって、同じ場所に行く2回目があって、それによってプログラムが少しずつおかしな方向に向かっていって、そしてキーシクエンスへと繋がって、養父母への道が開けるということになるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、SFの部類に属し、いわゆる「起こっていたことは全部プログラムだった」という『マトリックス』の世界観に似ていると思います
そのビジュアルは『インセプション』を想起させるようになっていますが、これらの背景の歪みというものは、「プログラム内でダニーが起こしているプログラム外の行動が引き起こしているノイズ」ということになっていました
実際には豪華なセットの中で行われていたことがわかるのですが、このあたりのネタバラシはシュールなものがありました
映画は、親子愛が家族を救うという感じになっていて、その紆余曲折は無茶な流れだとしても、一応観られるものになっていました
でも、エンドロール後のワンカットは蛇足中の蛇足で、作品のクオリティを一段と下げる格好になっています
エンドロールが始まってすぐに帰った人の方がまだ満足感が残るというのは不思議なもので、「デルレーンが実は生きていた」という追加映像は愚策中の愚策のように思えます
ホラー映画でよく見られる「まだ解決していないよ」という演出に近いのですが、デルレーンがいつ養父と入れ替わったのかわからないし、養父の姿で仲間を次々と撃ち殺していたというのは意味がわからないと思います
映画は、終わりよければ全て良しになると思うのですが、本作は余計なワンシーンのために、高くない評価がさらに地に堕ちる格好になっています
このセンスはなんとも言えない部分があって、観客が観たいものと作り手が作りたいものの乖離というものが如実に現れているのかなと思ったりもします
個人的にも「生きてましたエンド」でため息が出ましたが、エンドロール後に映像が流れた瞬間に「多分、やるんだろうなあ」と思っていました
本国での評判も大概で、大赤字になっているそうですが、それを決定づけたのが、あのシーンだとしたら、蛇足の数分間が命取りになっていることになります
そういった意味において、本作は制作そのものがシュールコメディの一環で、自虐的なものだったのかなと思ってしまいました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://gaga.ne.jp/domino_movie/