■赤と緑に彩られた獅子は、彼らの未来を暗示していた


■オススメ度

 

獅子舞に興味がある人(★★★)

精巧な3DCG映画を堪能したい人(★★★)

少年漫画のようなノリが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

https://youtu.be/fTJj2zClW9Q

鑑賞日2023.6.1TJOY京都


■映画情報

 

原題少年、英題:I Am What I Am(ありのままの自分)

情報2021年、中国、104分、G

ジャンル:貧困に喘ぐ少年が、獅子舞を通じて成長する青春映画

 

監督ソン・ハイペン

脚本リー・ゼェーリン

 

キャスト:

リウ・ジャチェン/家娟少年阿娟/チュン:獅子舞にのめり込む少年)

   (幼少期:ダ・チュンツゥ/大澄子

 

シュウ・チュンラン/娟然少女阿娟/チュン:少年シュンに獅子舞を渡す少女)

 

リウ・フジン/阿猫/マオ:少年チュンの親友)

リウ・チュション/志雄阿狗/ワン公:少年チュンの親友、食いしん坊の太鼓担当)

 

シエ・グオジャン/国强/チアン:チュンたちに獅子舞を教える師匠、干物魚店の店主)

シュ・ホエチェン/徐慧珍阿珍/アジュン:チアンの妻)

 

サイ・チュアチュア/蔡壮壮壮成/チェン・チュアンチェン:獅子舞チーム「微笑」のリーダー)

ワン・ユアンイン/王元鹰(獅子舞チーム「無極」のリーダー)

 

マ・ユウフェイ/马语阿娟爸爸/チュンの父)

ション・チャンジエ/阿娟妈妈/チュンの母)

バヘ/巴赫阿娟爷爷/チュンの祖父)

 

フ・ボーウェン/付博文獅子舞大会の司会者)

 

ファンホ/黄河 ナレーション)

チャン・ユアンタオ/张远韬(獅子舞道具店の店主)

 

 

【日本語吹替】

花江夏樹(チュン:少年)

桜田ひより(チュン:少女)

山口勝平(マオ)

落合福嗣(ワン公)

山寺宏一(チアン)

甲斐田裕子(アジェン)

千葉繁(廓の老人/ナレーション)

増田俊樹(大会の司会者)

三宅健太(義:チュンたちの対戦相手)

山本高広(獅子舞道具店の店主)

 


■映画の舞台

 

中国:広東省

広州市

https://maps.app.goo.gl/WjTJqko8vSSj9etq6?g_st=ic

 

広州の農村部、チェンジェ村

 


■簡単なあらすじ

 

中国の農村部で貧しい生活をしている少年チュンは、獅子舞が大好きで、村の大会では選手よりも目立とうとする悪ガキだった

ある日、いじめっ子にお年玉を奪われたチュンだったが、颯爽と現れた獅子舞に助けられる

二人して追手から逃げ、木綿の森へとたどり着いた

 

チュンはそこで獅子舞を操っていたのが、同じ名前の少女チュンであることを知る

少女チュンは獅子舞を親から反対されていて、大会に出ることも許されなかった

彼女は少年チュンに獅子舞を上げ、大会に出るように促していく

 

そこでチュンは獅子舞の大会で勝つためにメンバーを募っていく

親友のマオとワン公に声をかけたチュンは、獅子舞を教えてくれる人を探す

村の老人は干物屋の店主チアンに教わるようにいうものの、どう見ても獅子舞の達人には見えない

だが、一度音楽が始まると、彼はリズミカルでダイナミックな踊りを披露する

 

練習に励み、獅子舞の面白さで満たされた頃、出稼ぎに都市部に行っていた父が怪我をして帰ってきてしまう

チュンは家計を支えるために都市部に出向き、父の代わりに建設作業員として働いていく

多忙を極める中、獅子舞の練習をする間もなく、大会の当日を迎えてしまうのであった

 

テーマ:現状を打破する勇気

裏テーマ:勝利よりも大切なもの

 


■ひとこと感想

 

中国の3DCGアニメで、ポスターを観た感じだと「実写と融合?」というくらいにクオリティが高い印象がありました

なんとかして字幕版を観たかったので、スケジュール優先で他府県まで出向きましたが、いやあなかなかの力作でしたね

 

前半の「底辺描写の連続」はキツいものがありますが、獅子舞の弟子入りするあたりからの「少年漫画のような熱さ」というのは胸熱展開へと続いていきます

特に後半の大会の演出がうまくて、想像の一つ先を見せてくれます

 

ほぼ吹替しかやっていない現状ですが、映像美が凄いので、観にいく以外の選択肢はない感じですね

ほろ苦ビターテイストもあるし、何よりエンドロールに入っていく流れが最高だったと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

貧困に喘ぐけど、夢を叶えたいという少年チュンが主人公で、縁があって同名の女の子(お姉さんって感じ)から獅子舞を譲り受けます

少女チュンは天才肌ですが、女性ゆえに獅子舞の道には進めない悲哀がありました

 

そんな彼女の想いを背負って、というほど重い話ではなく、幼少期に夢中になった獅子舞に憧れている少年が、なんとかして表舞台に立ちたいと奮闘します

いじめに遭っても耐え抜き、見返してやるという一心で仲間を集めていくところは、古き良き時代の熱さをいうものを感じさせます

 

映画は、ファンタジーっぽさも残しながら、現実的な問題もしっかりと描いていきます

獅子舞の大会で勝利すれば経済的に裕福になるということもなく、自信を深めて男として成長している、というところに好感が持てますね

 

何よりも、女性チュンが太鼓を叩き出してから、それが波及していくシーンは敵味方を超えたスポーツマンシップが見られて涙腺が崩壊してしまいます

ともかく、大きなスクリーンで観ないと勿体無い映画であることは間違いありません

 


中国獅子舞について

 

獅子舞とは、東アジア及び東南アジアで見られる伝統芸能の一つで、祭囃子にあわせて獅子が踊るものです

発祥には諸説あり、1世紀頃の後漢(中国)、唐王朝時代などがあり、日本では奈良時代ぐらいに中国から伝わったというのが一般的な流れになっています

中国では獅子舞のことを「舞獅」と呼び、英語圏のチャイナタウンでは「ライオン・ダンス」と呼んでいます

『漢書』の「礼楽志 巻22」にて、「象人 若今戲魚暇師子者也(象人は、今の魚暇・ 獅子を戲するがごとき者也)」という言葉があり、これが「獅子(師子)」が登場した最初の言葉ではないかとされています

 

舞獅は、旧正月や伝統行事などで上演されるもので、その他に何らかの「開業イベント」や、中国人コミュニティにおいて「特別なゲストを称えるため」に行われたりします

二人の踊り手によって演じられ、一人が頭、もう一人が獅子の後ろ側を操作します

基本的な動作は中国武術によるもので、激しい太鼓のリズムに合わせて動くことになります

 

中国の獅子舞には北獅子と南獅子の2つの形式があり、外観の違いが見られます

一人で踊る形式もあれば、文民スタイルと武士スタイルというものもあります

文民スタイルとは、獅子の性格や行動を模倣するスタイルで、武士スタイルはアクトバティックな動きを行うとされています

 

映画の獅子舞は「南獅子」と呼ばれるもので、広東省発祥で、「額に一本の角を持っている」という特徴があります

この角は「ニアン(獅子舞にはニアンを追い払うと言う意味もあるとか)」と呼ばれる伝説の怪物に由来するものです

獅子の頭はガーゼで覆われた張子と耐久性のある層になった毛皮で装飾されています

毛皮もきちんとトリミングされているのですね

基本的には「竹枠」ですが、現在ではアルミニウムなどを枠に使うこともあるとのこと

佛山スタイルと鶴山スタイルがあって、これが全体のデザインの違いになっています

 

ちなみに白い色の獅子は最年長を表し、黄金色は中間、黒色は最年少という意味があるそうです

決勝の対戦相手は「白色」だったので、ベテランという意味があるのでしょう

また、赤色は勇気、金色は活発さ、緑は友情という意味があります

チュンたちの獅子は赤色と緑色が使われていたので、「勇気と友情」というものが込められていると言えます

 


少年は何を見て、何を得たのか

 

チュンは父が出稼ぎに行っている家庭で、祖父と一緒に暮らしています

父が得た金銭で生活をしていますが、裕福ではないし、就学年齢だとは思いますが、学校に行っている様子はありません

場所が広州の郊外ということで、通常ならは「朝天小学」と呼ばれる公立小学校に入ることになると思います

中国の学校の多くは「6・3・3制」で、義務教育になっています

 

チュンが学校に行っていない理由はわかりませんが(映画内で描写がないだけかもしれません)、中国では「一人っ子政策の余波」で、「黒孩子(ブラックチルドレン)」というものが問題になっています

内陸部では把握できていないブラックチルドレンもたくさんいて、現在の中国ではその解決に向けて動いています

 

チュンは父が倒れたことによって働かざるを得なくて、広州の都市部にある「父が働いていた建設現場」に出向くことになりました

母は父の看病のために自宅にいるしかなく、治療費もどこまでかかるかわかりません

なので、「いくら必要かわからない状態」で、できる仕事は全てしているという感じになっています

広州の建設現場は薄給で、そこから移動して大きく稼ごうという動きも描かれていました

 

チュンは獅子舞の仕事どころの騒ぎではなかったのですが、日々酷使される肉体労働を経て、基本的な体力が身についていました

スタミナや筋力も見違えるようになり、また大会は途中参加だったこともあって、有利な状況になっていましたね

でも、足を痛めたことによって、競技の続行は危ぶまれていました

 

チュンが無理にでも決行したのは、もう獅子舞を舞える機会はないと考えていたからなのですね

この大会が終われば、もっと精力的に働いて、一家の主人にならなければならない

このことは都市部で女性チュンと出会い、彼女に恋人がいるという状況がその想いを強くさせたのだと思います

 

チュンは大会で勝利を収め、そして、日常に戻っていくのですが、そこには別人のようなチュンがいました

成功体験と自信が彼を一人前の男にした、とも言えますし、赤の獅子を天塔に掲げたことで、獅子として認められることにもなっています

その勇気を称え、獅子は奇跡を起こすことになりました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、3DCGという手法で作られ、獅子舞はまるで本物のようなビジュアルになっていて、毛並みすらも動かしていました

人に関しては、このような造形という感じになっていて、3DCG独特の質感に、中国人っぽいビジュアルになっていました

このあたりの好みは分かれると思いますが、日本の顔の4分の1くらいが目というビジュアルに慣れていると違和感があるかもしれません

 

物語は、王道を行く展開になっていて、いじめっ子にいじめられる、女の子にときめく、カッコ付けたくて頑張る、師匠は爪弾きのかつての天才などのように、どこかで観たことのあるものばかりだと思います

展開も、努力、挫折、開花を追っていて、その過程も非常にわかりやすいものになっていましたね

特に挫折の部分が、体力的なものではなく、社会的なハンデになっていることが象徴的でした

現実問題の方が大きくなりすぎて、理想がとても滑稽なものに見えてしまいます

でも、偶然会場の近くに行くことになって、心の中に燻っていたものが噴出することになりました

 

チュンが大会に参加したのは、獅子舞を演じたかったからではなく、マオたちが戦っていたからなのですね

チュンは困っている人を助けたいという思いやりに溢れ、負けず嫌いの面もありました

あの場所に義(いじめっ子)がいたこともあり、心の中に眠る獅子が彼をあの場所に解き放ったのだと思います

 

義はあっさりとやられてしまい、彼らの前には「極」というチームが立ちはだかります

彼らは「配達の時にいたチーム」で、いわゆる富裕層(一般層かも)として、獅子舞の練習を普通に行える財力と時間を持てる人々でした

広州の都市部では当たり前のことでも、その街を支えているのはチュンのような安い賃金で働かされる貧困層で、この対決には下剋上的な社会の構図というものがあったと思います

 

映画は、いわゆる「権力」「貧富の差」との戦いになっていて、それを打ち破っても、現実は変わらないことを突きつけてきます

でも、働く目的と心構えが変わると、そのポジションで疲弊するだけで人生は終わらないのですね

広州にいる富裕層も、生まれながらもいれば、成り上がった者もいる

燻り続け、文句を言うだけでは何も変わらないので、自分の行動に意味を持たせることが必要になります

 

チュンは明確な目標があるにもかかわらず、それが漠然としたものになっていて、闇雲に踠いているだけだったと思います

でも、父の状況を知り、制度と助成、仕事の仕組みなどを知っていくと、単なる消耗ではなくなっていきます

人は、意味のない作業に疲弊し、意味のある作業で充足を得ることができるので、目的意識を持つことは大切だと思います

仕事とは「目的のために自らが考えて行動すること」を意味し、「言われて行うことは作業である」と言えます

自分自身が今行っていることが「仕事」となっているのかを考えることで、視野が変わってくると言えるのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/382682/review/995e3ca1-203f-4c4a-b8bd-528b9acf1d0e/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/lionshonen/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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