■恋愛は喪失に向かうけど、友情はいつまでの心を温め続けてくれるもの
Contents
■オススメ度
90年代の渋谷っぽさを体感したい人(★★★)
キレイなお姉さんと可愛い女の子を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.7.18(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
情報:2023年、日本、103分、G
ジャンル:アイスクリームショップを巡る、前を向こうとする女性たちの群像劇
監督:千原徹也
脚本:清水匡
原案:川上未映子『愛とか夢とか』所収「アイスクリーム熱」
キャスト:
吉岡里帆(常田菜摘:美大卒のアイスクリームショップ「SHIBUYA MILLION ICECREAM」の店員)
モトーラ世理奈(橋本佐保:常連客の作家)
詩羽(桑島貴子:菜摘のバイト仲間)
MEGUMI(荒川直子:アイスクリーム店のオーナー)
安達祐実(高嶋愛:アイスクリーム店の近くに住んでいた女性)
南琴奈(高嶋美和:父親探しに渋谷に来る愛の娘)
松本まりか(高嶋優:美和の突然の訪問に困惑する愛の妹)
後藤淳平(古川イズミ:美和の父、愛の元夫)
はっとり(中谷清也:アイスクリーム店の近くに引っ越す青年)
コムアイ(薫:菜摘のデザイン会社時代の上司)
新井郁(安藤ほのか:優の会社の後輩)
もも(双子の赤ちゃんのママ、アイスクリーム店の常連客)
藤原麻里菜(マリ:優の行きつけの銭湯の番台)
片桐はいり(晴恵:優の行きつけの銭湯の店主)
ナツ・サマー(卓球場の店員)
大和(強面の男)
鶴ヶ﨑好昭(お豆田)
土路生優里(カフェの店員)
吉澤嘉代子(佐保のお隣さん)
■映画の舞台
東京都:渋谷周辺
ロケ地:
東京都:渋谷区
猿田彦珈琲 恵比寿本店
https://maps.app.goo.gl/QT7Atc9keCxfBf2K8?g_st=ic
れもんらいふ
https://maps.app.goo.gl/ke7dn1QgtidN8qTR8?g_st=ic
快晴堂
https://maps.app.goo.gl/pBqnxXzf7S4apk8LA?g_st=ic
東京都:杉並区
小杉湯
https://maps.app.goo.gl/CACGDM6ZE27XoHLt5?g_st=ic
東京都:港区
赤い部屋
https://maps.app.goo.gl/eFGweFHUKn3TJEuQ9?g_st=ic
岡山県:岡山市
両備システムズ(優のオフィス)
https://maps.app.goo.gl/jbrCuBT2xRrjKBoNA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
美大を卒業し、デザイン会社に就職した菜摘は、そこで壁にぶち当たり、今では都内のアイスクリームショップ「SHIBUYA MILLION ICE CREAM」のアルバイトをしていた
同僚の貴子都ともに時に羽目を外しながら、オーナーの直子の指示に従ってショップを経営していた
ある日、彼女の店に作家の佐保がやってきた
菜摘は作家とは知らなかったが、彼女の持つ独特の雰囲気に惹かれていく
そんな街では、疎遠だった姉・愛の娘・美和の突然の訪問に困惑する優がいた
あることをきっかけに愛との関係を断ち切っていたのだが、美和はこの街にいると思われる失踪した父を探しにきたという
そこで優は「風呂掃除をする」という条件の元、彼女を住まわせて、一緒に父親探しをすることになったのである
テーマ:過去を流す方法
裏テーマ:流せない過去になる方法
■ひとこと感想
事前情報はタイトルが読めないファッショナブルな映画チラシのみで、今流行りの若い女の子たちがたくさん出てくる映画だと思っていました
2つの物語が同時進行し、それぞれの悲哀が描かれていくのですが、甘いものが人生を癒すという感じで、アイスクリームやパフェなどが登場していました
ファッショナブルで危うい女性たちのあれこれを楽しむ映画になっていて、吉澤嘉代子さんの楽曲のPVみたいな事になっていますね
総じてクズっぽい男性が登場しますが、この男が姉妹のアレとは無茶な配役だなあと思ってしまいます
映像に特化した作品で、物語はさほど印象に残りませんが、2つの物語の構造もさほど重要には感じません
それがネタバレになるのかわかりませんが、気づかなくても大枠としては問題ないように思えてしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
2つの物語が、実は約1年ほどのズレがあるという感じになっていて、優は姉に恋人を取られたという設定になっていました
物語としては、こちらがメインのような感じで、菜摘と佐保の恋愛は突風のような表現になっていましたね
また、バスに乗っている菜摘が優と美和がアイスクリームを食べながら戯れあっているのを見るシーンがあり、このシーンで1年のズレがあることがわかります
姉の葬式でアイスクリームを食べた優と美和を見た菜摘は、佐保の喪失に心を奪われていて、その1年後に美和が優を電撃訪問するという流れになっています
その頃には、店長となった菜摘が独自の展開をしている頃で、貴子も店を辞めてしまった後になりますね
菜摘の喪失が埋まったのかはわかりませんが、仲良くアイスクリームを買いにくる優と美和を見ると、複雑な想いが再燃してしまうのかもしれません
映画は、ともかくファッション雑誌の切り抜きのようなビジュアライズがあって、それを堪能する映画になっています
全編を通じて、吉澤嘉代子さんの歌が流れていてもおかしくない感じになっていましたね
それにしても、安達祐実さんが松本まりかさんの恋人を奪うという展開なのですが、その相手が「あの人」というのはギャグにしかなっていないですねえ
さらに新しい恋人も連れていたようでしたが、モテる要素は顔ではない(失礼!)ということを言いたかったのかはよくわかりませんでした
はっとりさんがそのポジションなら何となく整合性がつきそうな、いやすいません、ここら辺でやめておきます
■時系列シャッフルの必要性
本作は、おおまかに分けると2つ、細かく分けると3つの時間軸があります
時系列順に並べると、
菜摘と貴子がアイスクリーム店で働いている
佐保に一目惚れした菜摘が店を放っぽり出して彼女を追いかける
オーナーの直子に叱られる(菜摘は店長補佐かバイトリーダーのポジション)
街角で佐保を見つける菜摘、声をかけて「アイスクリーム作れる」発言
佐保の家に菜摘が来るも、アイスクリーム失敗
翌朝、佐保は姿を消す
バスに乗っている菜摘、窓の外で二人の女性(優と美和、愛の葬式で再会)がアイスクリームを食べているのを見る
佐保は引っ越し、その部屋に優が住み始める
優のお仕事パート、近所の銭湯で疲れを癒す
葬式から1年後、突然、美和が優の部屋にやってくる
美和は渋谷にいると思われる蒸発した父イズミを探しに来ていた
イズミは優の元カレで、愛に奪われた末に結婚し美和が生まれている
銭湯、閉店の知らせ
優、銭湯を買い取ることを考える
カフェで新しい女と一緒にいるイズミと再会、美和は気づいていない様子
優、銭湯を買い取り、部屋を引き払う
その部屋に中谷が引っ越してくる
部屋の外には、佐保を探している菜摘がいる
中谷、佐保の本を持って、菜摘の店にやってくる
こんな感じでしたね
冒頭が中谷の引っ越しのシーンで、そこからは菜摘と優のシーンが何度か入れ替わるようになっていて、最後の方で「バスから見かけるシーン」で、1年ほどのズレがあったことがわかる、と言う感じになっていました
印象的な感じで「ベランダの花の絵」と言うものが変わり、最初は菜摘が花を描き、優が枝葉を描き加えて、中谷が消すと言う感じになっていました
このシーンによって、時系列の並びがわかるように配置されていました
この構成にした理由はわかりませんが、菜摘の佐保への執着は1年以上続いていることがわかり、優は1年余りで引っ越すことになっています
菜摘は何度もあの部屋に佐保を探しに来ていると思うのですが、優たちを見ると言うシーンはなぜかなかったように思えました
あと、うろ覚えですが、中谷の彼女が美和だったような、そうでないようなと言う感じになっていました(はっきりと写っていないけど、聞き覚えのある声だったように感じました)
■アイスクリームは何のメタファー?
映画の主役はアイスクリーム!と言ってしまうとアレなのですが、結構存在感のあるアイテムとして登場していました
菜摘にとっては、仕事であり、佐保とのつながりを示すもので、優にとっては、美和との関係を深めるものになっています
ラストの中谷にとっては何かはわかりませんが、これから始まる彼女との生活に根付いていくためのアイテムになる予感がします
菜摘は手作りアイスを作ったことがないのに、佐保との関係性を深めるために嘘をつきます
優は菜摘のアイスを何度か食べていて、それを美和に進めています
中谷は初めて買うので、それがどのように作用するかはわかりません
これらは、その人物にとっての近しき人、大切な人との距離感を詰めるアイテムになっていました
タイトルは「アイスクリーム・フィーバー」で、「フィーバー」は熱と言う意味があります
熱があるとアイスは溶けてしまうのですが、この溶けると言うのは、人間関係が溶けると言う意味合いになっています
溶けて消える縁が菜摘と佐保の縁で、溶けて繋がるのが優と美和の縁なのですね
なので、この二つの対象的な物語が交差するのには意味があるのでしょう
どちらも、関係性を溶かすためにアイスが使われているけど、結果は真逆になっている
それは、佐保の性格もありますが、嘘が混じることでアイスの粘度というものが消えてしまうのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、まるでフォトブックのような美しさが描かれていて、90年代っぽさと言うものが感じられました
渋谷を舞台にして、エンディングがオザケンと言うだけでそれっぽくなってしまうのですが、随所に登場するファッションやアイテムが妙な懐かしさと言うものを連想させます
この年代を生きた人にとっては、なんとなく琴線にふれる雰囲気というものを表現すると「懐古」と言うことになるのかもしれません
アイスクリームというものを年に数回も食べないのですが、なんとなく青春期に食べるもの、と言うイメージがありますね
また、なんとなく性的なものをイメージさせる気がするのですが、これは特殊な性壁がバレてしまう発言になってしまうかもしれません
でも、アイスクリームを食べている女性って、ちょっとだけエッチな感じがするのですね
これ以上書くと怒られそうなので控えますが、何かしらのメタファーというものがあるように思えてきます
この映画では、同性愛、友情、異性愛と3つの関係性が登場しています
この中で特殊だなあと思うのが「友情」を描いていた優と美和の関係性で、この距離感はとても不思議なものがありました
まるで親子ほどの歳の差があるのに「ゆうちゃん、みわちゃん呼び」というところも不思議で、これを言い出したのが優というところに意味があるのかなと思います
本当の親子関係だと、子どもの方が母親を「ちゃん呼び」していくイメージがありますが、そうでない場合は距離感があるので、子どもの方から「ちゃん呼び」すると大抵は怒られます
でも、優としては「母娘で起こる不思議な友達感覚」を感じていたいと思っていて、それを美和に強要するような感じになっています
この「ちゃん呼び」が二人のぎこちない関係性を解消していて、それは1年前のアイスと同じような効能を持っているように思えました
本作は、2つの物語が交錯しているのですが、印象に残るのは優と美和の関係になっていて、それは「日常にある不思議な関係性が生まれる流れ」を描いているからなのかなと思いました
恋愛ドラマは見飽きたし、LGBTQ+関連も食傷気味になっているので、純粋に「恋愛ではない関係性の構築」というのは新鮮に映るのですね
これは単なる個人的な感覚なのかもしれませんが、この映画は「バディもの」の派生になっていて、物語の関係性が恋愛に向かうことに辟易している人々にとっての癒しになるのかな、思いました
菜摘と佐保の関係性の成就はどうでもよくても、優と美和が打ち解けていく方に感情が動かされてしまう
もしかしたら、ものすごく難しくて奇跡的な関係性だからこそ、輝いて見えるのかもしれません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386184/review/765bdfb8-0937-4df4-a615-2a1c979c06ff/
公式HP: