■明日を生きるためにできることが、こんなにも残酷な選択へと向かってしまう
Contents
■オススメ度
壮絶な過去を持つ人物の物語に興味がある人(★★★)
杉咲花さんの快演を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.12(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、125分、G
ジャンル:幸せの絶頂で姿を消した女性の過去に迫るヒューマンドラマ
監督:戸田彬弘
脚本:上村奈帆&戸田彬弘
原作:戸田彬弘主宰の舞台『川辺市子のために』
キャスト:(子役自信なし)
杉咲花(川辺市子:プロポーズ直後に失踪する女性)
(幼少期:奥野比美)
若葉竜也(長谷川義則:市子の失踪前の恋人)
森永悠希(北秀和:市子の高校時代の同級生)
倉悠貴(田中宗介:市子の高校時代の恋人)
逢坂真(宗介の友人)
清水学(宗介の友人?)
中田青渚(吉田キキ:パティシエを夢見る市子の親友)
石川瑠華(北見冬子:市子と接触しがる女性)
大浦千佳(山本さつき:市子の幼馴染、同じ団地の子)
(幼少期:網本唯舞葵)
長三伊乃(さつきの娘)
村角ダイチ(さつきの父?)
小林咲花(さつきの小学校時代の友達)
徳綱まゆ(さつきの小学校時代の友達?)
中村ゆり(川辺なつみ:市子の母)
駒板なみ(月子:市子の妹)
渡辺大知(小泉雅雄:なつみの元恋人、ソーシャルワーカー)
竹下かおり(スナックのママ)
宇野祥平(後藤修治:市子の行方を探す刑事)
岡陽毱(幸田梢:市子の中学時代の友達)
吹越ともみ(梢の母)
西川諄(梢を揶揄うクラスメイト)
梅田脩平(市子の父?)
池畑暢平(刑事)
橋本佳奈(浴衣カップル)
加田晶子(アナウンサー)
倉窪莉沙(アナウンサー)
飯島順子(渡辺:?)
みやなおこ(井出陽子:無戸籍支援の会「アカシ」の代表)
■映画の舞台
和歌山
東大阪
徳島
ロケ地:
和歌山県:和歌山市
スナック優
https://maps.app.goo.gl/jSqxK5pFtfSyKb1h8?g_st=ic
燐々亭
https://maps.app.goo.gl/R4ieDGM1PVcvz88j8?g_st=ic
大阪府:東大阪市
東大阪大学柏原高等学校
https://maps.app.goo.gl/DTSpppB2bcb6pKjk8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
同棲して3年が経とうとしていた長谷川と市子は、長谷川の決意と共に、その関係を終わらせることになった
その前日、長谷川は意を決して市子に結婚を申し込み、彼女は涙を流してそれを受けた
なのに、翌日仕事から戻ると、彼女は荷造りをした鞄を置いて、どこかに消えてしまっていたのである
市子を探すにも手掛かりがなかった長谷川の元に、東大阪の事件絡みで後藤という刑事がやってきた
彼は市子が事件に関係あると仄めかすものの、その実態はわからない
一通り知っていることを話すものの、それ以上に疑問が深まるだけだった
後藤は、長谷川に対して、市子の過去について語り始める
その話を聞いた長谷川は、彼女の荷物を片っ端から調べ、1枚の写真を見つけた
そして、その写真の裏には「あること」が書かれていたのである
テーマ:因果応報
裏テーマ:行き場のない人生
■ひとこと感想
本作の根底にあるテーマを書いてしまうとネタバレっぽくなってしまうので前半では控えますが、その因果が巡って、市子はある決断をすることを迫られます
彼女がその決断に至った理由を追っていくというものになりますが、その壮絶な過去の先に、彼女の未来というものが待っていました
映画は、キャラクターの名前が章立てになっていて、いくつかの時代を行ったり来たりします
混乱することはなく、各キャラクターごとに「市子との関わり」をまとめていく構成になっていました
ブログを作る際にキャストを調べるのですが、こと子役に関してはネット上にある写真と撮影当時の成長度合いで変わっているものが多く、あまり自信がありません
この年代の数ヶ月はガラッと変わっていくのですが、パンフレットにあるキャストの順番などから推察しましたが、間違っている場合もあるので、あまり拡散しないでくださいね
もし、確定だという情報をお持ちの方は、ツイッターなどにリプしていただけるとアップデートいたします
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、無戸籍児だった市子が、福山型筋ジストロフィーを患っていた妹の月子の人生になりすますというもので、それでも市子として生きていきたいためにバレてしまうという物語になっていました
東大阪で発見された遺体が月子のもので、彼女の病気が特定の決め手になっていて、あとは証拠集めをしている段階になっています
長谷川は唯一「普通の人」目線になっていて、彼が市子の過去を知っていくという構成になります
はじめは刑事からの情報、次にその情報をもとにした捜索、最後は彼女の持ち物からの発見という感じになっています
最低な大人ばかり登場し、子どもたちはそれに翻弄されているのですが、小学校パートと大人パートのキャラが違いすぎて困惑してしまいますね
本作は、SNSでの出演情報も大人以外はほとんどなく、出演していることしかわからないキャラが多いですね
頑張って記憶とネットを紐付けしていますが、ネット上に上がっているのもプロフィール写真しかなかったりするので、現在の姿との比較ができないのが難点でした
子ども時代の映像も多いのに、パンフレットは子ども時代の写真が皆無でしたね
出演することを隠す必要があるのか、色々と権利関係が難しいのかはわかりませんが、もう少し情報が出てこないと拡散のしようもないのかなと思いました
■月子の病気について
月子の病気は「福山型筋ジストロフィー」という病気で、常染色体劣勢遺伝性疾患の一つとされています
重度の筋ジストロフィーと神経細胞遊走障害による脳奇形の眼合併症が特徴とされています
脳の形成異常を伴うので、知能に障害が見られ、熱性痙攣を合併することもあります
運動機能の他にも、呼吸機能、心機能、消化管機能にも問題が生じるとされています
映画の月子は呼吸器をつけていないとダメな状況で、後半にて市子がそれを外すシーンがありました
機器のアラームが鳴り続けていて、月子のバイタルサインに異常が出ていることを示しています
母は限界だと感じていたようですが、あの時の市子の様子だと、「あなたの代わりに生きる」という意思があったように思えます
彼女が無戸籍であることをどの段階で知ったのかはわかりませんが、無いことによる生きづらさというものは感じていたのでしょう
ちなみに筋ジストロフィーにはいくつかの種類があり、デュシエンヌ型(主に男性、10万人あたり4.8人)、ベッカー型(主に男性、10万人あたり1.5人)、先天性型(福山型など、男女ともに、10万人あたり0.4〜0.8人)、肢帯型(男女とも、10万人あたり1.5〜2.0人)となっています
月子の病気は非常に稀な病気になりますが、平均寿命は10歳代後半から20歳代前半となっています
あの時点の月子は10歳前後なので、平均だけを考えると、あと10年くらいは同じ生活が続いていたのだと推測されます
ちなみに指定難病(113)なので医療助成の対象となりますが、この制度は平成27年(2015年)の7月から始まっています
なので、月子の治療費に関しては、それまでは助成の対象となっていなかったのだと推測されます
費用がどれぐらいだったのかは想像つきませんが、水商売で一人を学校に行かせて、一人を家で面倒見ていたというのが奇跡的なことだったと思います
■市子の状況について
市子は無戸籍児として生まれていて、これは「300日問題」に直面する状況での出産だったからでした
戸籍上は、「離婚後300日以内に子どもを出産した場合は、民法上元夫の子と推定されるため、元夫を父とする出生届を出さなければいけない」というルールがあります
これによって「無戸籍状態」になる可能性があるのですが、現在では「嫡出推定制度」というものが令和4年の法改正によって手続きが可能となっています
映画の時期でも「就籍」という手続きを取ることで可能という表現があり、それは多くの人が挫折をしてしまう制度と紹介されていました
就籍とは、日本人でありながら戸籍に記載されていない方について、家庭裁判所の許可を得て、新たに戸籍に記載するための届出が必要な制度のことを言います
日本人である証明をするために、「申立人(本籍を有しない者)の身分を明らかにする「住民票、母の戸籍」」、「母子関係を明らかにする「出生証明、在学証明、卒業証書、保険証、母子が一緒に写った写真、陳述書」」、「就籍を必要とする理由を証明する資料」というものが必要になります
さらに司法書士に頼むと16万5千円程度かかり、この他にも鑑定費用などが必要となる場合があります
市子の場合はどれもが難しく、学校にも月子の代わりに通っていたので、あるとしたら「一緒に写っている写真」ぐらいのものだと思います
現在では法改正で市子の状況でも可能だと思われますが、映画当時は不可能に近い印象があると感じます
結局のところ、市子は月子になりすますことが不可能になったため、戸籍を譲って死にたいという女性を探すことになりました
2008年頃のことで、募集はネットの掲示板ということになっていました
2ちゃんねるが1999年にはできているので、そういったことが熟成されていった時期になるのかなと思います
戸籍売買なんてものが流行った時期もありますが、戸籍の相場は100万円前後なんてことがありましたので、市子には手が出せない世界だったのでしょう
北見冬子のようなケースは稀と言えるので、現実味があるのかは何とも言えないところがありましたね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、市子のことを何も知らない長谷川が、多くの人の証言を得て、本当の市子像に迫るという内容になっています
彼は本当に市子のことを愛していて、彼なりに何かしてあげたいと考えている
でも、ラストでは、市子は長谷川の手の届かない領域に行ってしまったことが示唆されていて、愛情ではどうにもならない問題があることを突きつけています
映画のラストにて、ニュース映像で「20代男女二人の遺体が上がった」という報道があり、市子は一人鼻歌を歌いながら歩いていく様子が描かれます
「男女」なので、北と北見であると推測され、北が市子のヒーローになったような印象を仄めかしています
実際の描写がないので想像上の話になりますが、おそらくは北見の願いを叶え、市子が戸籍をもらうという流れになったのだと推測されます
映画では何度か鼻歌が聞こえてきて、この曲は童謡の『にじ(作詞:新沢としひこ、作曲:中川ひろたか)』でしたね
冒頭で市子が口ずさみ、劇中で母が口ずさんでいた曲で、映画のテーマソングと言えるものでした
月子の部屋の壁にも虹が描かれていて、これは市子が書いたものだと推測されます
明日に希望を持ちながらも、どうにもならない人生があって、そんな中でも希望を持ち続けるために何をするのか
それが劇中で出した市子の答えだと言えます
参考として、YouTubeで再生の多いものを掲載しておきますので、本作の余韻になれば幸いかと思います
※歌詞の掲載に関して著作権違反との指摘がありましたので、削除要請に従い削除いたしました
※著作者の方、ならびに関係者の方々にご迷惑をおかけいたしましたこと、心より謝罪いたします
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/