■窓ぎわだからこそ、見えた景色があるのかもしれません
Contents
■オススメ度
黒柳徹子に興味のある人(★★★)
原作のファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.13(イオンシネマ高の原)
■映画情報
情報:2023年の日本映画(114分、G)
ジャンル:戦前戦中を舞台に画期的な教育法を受けた子どもたちを描く青春映画
監督:八鍬新之介
脚本:八鍬新之介&鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
アニメーション制作:シンエイ動画
原作:黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん(1981年、講談社)』
キャスト:
大野りりあな(トットちゃん/黒柳徹子:自由奔放な少女)
小栗旬(黒柳守綱:トットちゃんのパパ、ヴァイオリニスト)
杏(黒柳朝:トットちゃんのママ)
役所広司(小林宗作:トモエ學園の校長)
松岡あつこ(小林先生の妻)
滝沢カレン(大石先生:トモエ學園の先生)
松野晃士(泰明ちゃん/山本泰明:トモエ學園の生徒、小児麻痺)
加納千秋(泰明ちゃんの母)
三浦あかり(ミヨちゃん/小林みよ:小林先生の娘、三女)
三田一颯(高橋くん:尾てい骨に特徴のあるすばしっこい男の子)
小野桜介(泰ちゃん/山内泰二:物理を学びたい少年)
山田忠輝(右田くん/右田昭一:田舎から葬式饅頭持ってきたい男の子)
斎藤潤(大栄くん/大栄國雄:わんぱく小僧の巨漢の男の子)
織田碧葉(天寺くん:動物大好きの男の子)
西光星咲(サッコちゃん/松山朔子:英語で挨拶したいオシャレ好きの女の子)
弘山真菜(税所さん/税所愛子:お嬢様、東郷平八郎の曾孫)
落井実結子(青木さん/青木恵子:泣き虫の女の子)
ダニエル・ケルン(ヨーゼフ・ローゼンシュトニック/Josef Rosenstock:楽団の指導者、指揮者)
駒田航(斎藤秀雄:チェリスト)
園崎未恵(トットちゃんにサジを投げる赤松小学校の先生)
石川浩司(自由が丘駅の駅員)
菊池通武(チンドン屋)
小玉雄大(チンドン屋)
青木崇(チンドン屋)
■映画の舞台
昭和15年〜昭和18年
東京都目黒区自由ヶ丘
トモエ學園(グーグルマップはトモエ学園があった場所)
https://maps.app.goo.gl/4Gd6zpEXyCEHnptM7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
昭和15年、トットちゃんこと黒柳徹子は、赤松小学校から転校を命じられ、自由が丘にある「トモエ學園」に入学することになった
校長の小林先生とお話をしたトットちゃんは入学を認められて、學園の一員になった
彼女の父はオーケストラのバイオリニストで、裕福な家の出だったが、落ち着きがなく、普通の小学校に通うのは無理だと判断されていた
學園は小児麻痺を患っている泰明ちゃんをはじめとして、背が伸びない高橋くんや、その他にも訳ありの子どもたちが集っていた
小林先生は生徒のやりたいことを自由にさせる方針で、授業ではそれぞれが好きな科目を優先的に習い、リトミックを取り入れた独自の授業を行なっていた
トットちゃんはいつも1人でいる泰明ちゃんを気にかけ、一緒に木に登ったり、出かけたりするようになっていく
だが、戦争は本格化し、東京にも空襲が迫ってきて、彼らは疎開をしなければならなくなる
また、戦中の不景気から父は仕事がなくなり、質素な配給にて、お腹を満たさなければならなくなってきたのである
テーマ:教育の大切さ
裏テーマ:教育の無力さ
■ひとこと感想
原作は未読、黒柳徹子の自伝ということは知っていました
かなり昔の本で、幼少期の頃を回想していることは知っていましたが、どの時期のことなのかはあまり知らないまま鑑賞することになりました
時代背景は調べる必要もなく、戦前の裕福な家庭に育ちながらも、一般の小学校では持て余すという感じだったのですね
自由奔放なキャラというのは彼女の番組を見ているとわかりますが、想像以上におてんばだったのだなあと思いました
映画は、実在する小林先生に学んでいた時期を中心として、泰明ちゃんとの関わりを描いていきます
オープニングで「当時の時代背景を重視」とあり、赤裸々に描いていたのは新鮮だと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
戦前の「かすかに感じる戦争の雰囲気」が背景にあって、それが徐々に迫ってくる感じがありましたね
観ていて危なっかしい雰囲気が常に表現されていて、造形や動きはリアルだったように思います
表現としては結構攻めている部類で、何にでも噛み付く団体なら噛み付いてきそうな案件でもありました
映画では、小林先生による特別な教育法が登場し、今で言う学級崩壊のような状況でもちゃんと教育が行われていました
全てを型に嵌めるような教育が行われていた時代でもあり、かなり反感を買ったのではないかと推測できます
教育に関して、どこかが横槍を入れると言うことはありませんでしたが、ある意味で見放されていた學園だったのかなとも思ってしまいます
物語は、命の大切さを解く背景で戦争があると言うもので、今よりも死と言うものが身近にあった時代だと思います
そんな中で、悲しむことがわかっていても、瞬間的にでも愛情を注ぐことの意味は彼女に対する情操教育としては必要だったのでしょう
トモエ學園が戦火に包まれる中、仁王立ちして狂気を見せる小林先生の姿は印象的で、ある種のこだわりを感じさせました
■小林宗作について
映画に登場する小林先生は実在する教育家で、小林宗作(こばやしそうさく)と言い、リトミック教育の研究者でもありました
群馬県吾妻郡出身で、東京音楽学校乙種師範科を経て、幼児教育の研究家として活躍した人物でした
大正自由教育運動の中で、就学前・初等教育の段階にある子どもたちに、より自由で芸術的な音楽教育を受けさせることをモットーにして、小学校の教員をしながら、ヨーロッパに二度留学し、幼児教育・音楽リズムの関係・音楽と体操の結合について研究し、その成果を日本の教育界に紹介した人物となっています
1937年、自分の理想をもとに「リトミックを教育基盤に置いた学校」として、「幼少一貫校」の「トモエ學園」を設立し、運営することとなりました
東京大空襲にて校舎は消失し、小学校は廃止されてしまいます
戦後は、幼稚園の経営と国立音楽大学にて、初等教員養成と附属学校の整備に力を注ぎました
本名は金子宗作で、これは長姉が嫁いだ金子家の婿嗣子となったためで、仕事ではずっと旧姓の「小林」を使っていました
教え子には劇中で登場する黒柳徹子、山内泰三(物理学)の他にも井上園子(ピアニスト)、池内敦子(女優)、津島恵子(女優)、美輪明宏(歌手)などがいます
映画内では三女のミヨも学校で教育を受けていました
■リトミック教育について
リトミック(Rythmique)とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、新教育運動の絶頂期に、スイスの音楽家エミール・ジャック=ダルクローズ(Émile Jacques-Dalcroze)が開発したものでした
この考えは、オルフ・シュルヴェルク(Orff Schulwerk)の教育論に影響を与え、全米の音楽教育で使用されています
オルフ・シュルヴェルクは、音楽、動き、演劇、スピーチを組み合わせて、子どもの遊びににたレッスンを確立させた教育のことで、1920年代のドイツにて、作曲家カール・オルフ(Carl Orff)とグルニド・キートマン(Gunild Keetman)によって開発されました
内容としては、「ソルフェージュ(声と動きの音感教育)」「リズミックムーブメント(身体運動を伴うリズム・表現教育)」「インプロヴィゼイション(即興演奏・即興表現による表現教育)」が三つの柱となっています
身体の動きと即時反応が主体となり、映画でも伴奏に合わせて動き、リズムを何度も変えて、それに対応できるリズム感を養うシーンがありました
日本では、小林宗作と天野蝶が先駆者として、のちに山田耕作もダルクローズを訪ねて取り入れています
「ソルフェージュ」とは、西洋音楽の教育において「楽譜を読むことを中心とした基礎教育」のことで、リトミックの場合だと体の動きと音を結びつけたリズム中心の訓練のことを言います
「リズミックムーブメント」は、リズムに合わせて体を動かすというもので、映画内で描かれていた訓練になります
「インプロヴィゼイション」は、型にとらわれずに自由に思うままに作り上げる演奏とか動きのことを言い、アドリブとは区別されるものとされています
これらの訓練を組み合わせたものがリトミック教育というもので、現在でも一部で行われています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、黒柳徹子の超有名な自伝で、先日「単独執筆」による発行部数でギネス認定されていました
映画が関与したのかはわかりませんが、興味を持って読もうと思った人も多かったかもしれません
タイトルは『窓ぎわのトットちゃん』で、窓ぎわは「チンドン屋を呼ぶために教室の窓ぎわに座ったこと」が由来となっています
表紙はいわさきちひろで、シリーズの挿絵なども担当されています
世界35カ国で翻訳され、ポーランドの文学賞「ヤヌシュ・コルニャック賞」を受賞していて、2023年の12月14日に「2511万3892部」を突破し、ギネス認定されることになりました
日本国内で800万部、中国で1000万部も発行されたとのこと
また、1981年に黒柳徹子はこの本の印税の全額を寄付し、社会福祉法人トット基金を設立しています
ちなみに、続編にあたる『続 窓ぎわのトットちゃん』では、青森に疎開した後、女学校入学、音楽学校を経て、NHKの専属女優となり、ニューヨークに留学するまでが書かれています
映画では、教育のあり方について描いていて、自由に得意な科目を勉強させたりする小林先生の方針とは真逆に、右へ倣えの軍隊や同調圧力が登場します
軍国主義、贅沢は敵だと誰もが個を奪われていく中で描かれる物語は、その自由さが際立つように見えてしまいます
この対比構造によって、教育というものがいかに人間を作るかを描いていて、時代の渦を作った教育とは何かということが思い知らされるようでもありました
戦争に向かうのは結果論なのかもしれませんが、有事における統率性を内包した教育制度の是非というものが問われているのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: