■学問が交錯することで生まれる、新しい価値観に胸が躍りませんか?
Contents
■オススメ度
数学を取り扱った映画が好きな人(★★★)
脱北設定の映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.5.2(T・JOY京都)
■映画情報
原題:이상한 나라의 수학자(不思議の国の数学者)、英題:In Our Prime(私たちの青春、数学用語でPrimeは「素数」)
情報:2022年、韓国、117分、G
ジャンル:数学の落ちこぼれと冴えない用務員の交流を描いた青春映画
監督:パク・ドンフン
脚本:イ・ヨンジュ
キャスト:
チェ・ミンシク/최민식(イ・ハクソン:正体を隠して高校の用務員をしている脱北者)
(幼少期:コ・ギョンミン/고경민)
キム・ドンフィ/동휘(ハン・ジウ:ドンフン高等学校の落ちこぼれ)
パク・ヘジュン/박해준(アン・ギチョル:ハクソンを支援する脱北団体の代表)
パク・ビョンウン/박병은(キム・グノ:ドンフン高等学校の数学教師、ジウの担任)
チョ・ユンソ/조윤서(パク・ボラム:ジウのクラスメイト)
キム・ヒジュン/김희정(ボラムの母、裕福で過干渉のシングルマザー)
カン・マルグム/강말금(ジウの母、コールセンター勤務で多忙のシングルマザー)
キム・ソスク/김소숙(ドンフン高等学校の校長)
チェ・ジェソプ/최재섭(家庭科の先生)
チュ・イェリン/예린(国語の先生)
イ・ジュハン/이주한(道徳の先生)
チョン・スンギル/정승길(道徳の先生)
カン・ジュンギュ/강준규(ウィジュン:ジウに買い出しをさせるクラスメイト)
シン・ジェフィ/신재휘(ウィジュンの連れ)
キム・テフン/김태훈(ウィジュンの連れ)
イ・ヨンビン/용빈(ウィジュンの連れ)
チェ・ジェフン/최재훈(国家情報院の幹部)
リュ・ジフン/류지훈(国家情報員のエージェント)
ヨ・ヘリム/유혜림(ボラムの友人)
キム・スンテ/김승태(医師)
ファン・ジェスン/황재순(オイラー研究所の講師)
チャ・ボミ/차보미(オイラー研究所の生徒の親)
チェ・ヨヌ/최연우(オイラー研究所の生徒)
ウァー・ケヴィン・トーマス/Were Kevin Thomas(著名なドイツの数学研究者)
チュ・ジンモ/주진모(オ・ジョンナム教授:ハクソンの旧友)
(幼少期:イ・シウ/이시우)
キム・ウォンヘ /원해(パク・ピルジュ:ハクソンを慕うかつての門下生、脱北した経済学者)
タン・ジュンサン(탕준상(リ・テヨン:ハクソンの息子)
チャ・ヨンジュ/차영주(書店店員)
イ・ウンヒョン/이은형(報道番組のディベートアンカー)
キム・ヒョンソン/김현선(北朝鮮のニュースアンカー)
チョン・ソヨン/정소용(韓国のニュースアンカー)
イ・ジョンソプ/이정섭(ニュースキャスターの声)
キム・チョルホ/김철호(ジウとハクソンが鑑賞するチェリスト)
キム・シウ/김시우(ハクソンのピアノ演奏)
ミン・チェヒョン/민채현(ボラムのピアノ演奏)
パク・ジョンミン/박정민(ハクソンの数式板書)
■映画の舞台
韓国:ソウル
ドンフン高等学校
ドイツ:オーバーヴォルファッハ研究所/Mathematisches Forschungsinstitut Oberwolfach
https://maps.app.goo.gl/Zprx87GZzxX4w3WKA?g_st=ic
ロケ地:
韓国:ソウル
ソウル市立大学校(軽農館=科学館として登場)
https://maps.app.goo.gl/Up11YEPhZT7NfXaD8?g_st=ic
サンサン高等学校/상산고등학교(ドンフン高校)
https://maps.app.goo.gl/7z3YMnKbN6Q3hB8i8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
韓国のソウルにある進学校・ドンフン高校に通うハン・ジウは特例入学で入ったが、授業のレベルについていけずに落ちこぼれていた
特に数学が苦手な彼は、担任で数学教師であるグノから「転校」を勧められる
ある日、クラスメイトの飲酒騒動の矢面に立たされたジウは、仲間を庇ったことで1ヶ月の退寮を言い渡される
実家に戻るものの、母はドンフン高校に入ったことを誇りに思っていて、転校を勧められていることも言えずに学校へと戻った
行き場のない彼は、高校の離れにある旧校舎に出向くものの、そこで用務員に見つかってしまう
ジウは「あの時見逃してくれたら」と言い、用務員は仕方なく彼を用務員室に招いた
翌日、グノから出された宿題が何者かによって解かれていたことが判明する
ギウは用務員が解いたことを知り、そして彼に数学を教わろうと懇願する
そこで用務員は条件を提示し、秘密にすることなどのルールを定めた上で、彼に数学を教えることになったのである
テーマ:結果よりも過程が重要
裏テーマ:学問の自由
■ひとこと感想
職場の同僚の強いオススメでハードルを上げて鑑賞
期待値を上回る内容で、後半は「脱北設定」が存分に活かされるスリラー展開へと進展していきます
数学が苦手な私ですが、映画は丁寧に作られていて、数学がわからなくても大丈夫な内容になっています
とにかく「世界中で証明が急がれている仮説」があって、それを用務員が解いていたと言う流れになっていて、隠された過去が徐々に明かされていきます
ソウルの進学校に特例で入った悲哀を描いていて、グノが言うように「進学校のビリ」よりは、「一般校のトップ」の方が後々は良い結果をもたらすと思います
鶏口牛後で思い悩む中、母の期待に応えたいジウが努力し、そして天才数学者との邂逅によって「学問の楽しさ」に気づいていく
グノが結果至上主義者であることで対立構造を生み、「転校すべきかどうかを証明する」と言う内容になっていて、それはそのまま「学問の自由を証明する旅」にもなっていました
涙腺崩壊のシーンもたくさんあって、個人的には「πソング」のシーンが印象に残っていますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
数学があまり得意ではなく、思いっきり文系出身なので、出されている問題の難しさはわかりません
それでも、本作は学問の基礎が描かれているので、題材を他の学問に変えても通用すると言えます
ハクソンの脱北設定を活かすなら数学か物理、拡げても科学全般に留まりますが、危険思想と認定される文学でも引用することは可能でしょう
映画は、韓国の受験問題を取り扱い、南北による学問への向き合い方が示されています
ざっくりとした「戦争のための数学」と「受験のための数学」が描かれていて、それは数学の本質から外れているのではないかと提言しています
学問が何のために存在するかと言う命題を突きつけていて、ある仮説の立証が学問を学問たる地位に押し上げています
それは人間観にも似た部分があって、人生の総括は結果と過程のどちらか幸福感に繋がるのかと言うところに結びつきます
ハクソンの人生における選択と後悔の中で、彼が取るべき行動とは何か
それが凝縮されているスピーチは、とても意義深いものとして、多くの学生の心に響くのではないでしょうか
■リーマン仮説の証明について
劇中でハクソンが証明したとされる「リーマン仮説(Riemann Hypothesis)」は、「リーマンゼータ関数の零点が、負の偶数と、実部が1/2の複素数に限られる」という予想のことを言います
ドイツの数学者ベルンヘルト・リーマン(Georg Friendrich Bernard Riemann)が提唱され、その名前がつくことになりました
ゼータ関数=「ζ(S)(S=1/2+ix」はこのようなものだそうですが、数学がわからないので何が書いてあるかわかりません
ウィキの動く絵では、Re軸(横軸)の−1.5ぐらいのところから出た曲線が+0.5ぐらいのところを通過してくるくる回って、その点が最終的に0のところに戻ってきていますね
この図式は「ζ(0.5)+ix」で「x=0.5〜50」まで動いていく中で円が描かれているので、この式だと色んな円を描きつつも、最終的に「ζ(0.5)+i*50」が「0」ということになるのかなと思います(合っている自信がない)
リーマン予想は「ゼータ関数の解明の第一歩」のようなもので、これがわかると「素数の規則性がわかる」とされています
素数は「1より大きな自然数で、その数と1以外で割り切れないもの」で、「2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79、83、89、97」と100まででも25個あるものです
これらの並びに法則があるのかどうかがわかるらしいのですが、素人目に見ると「1の位は最初の2を除いて奇数なんだなあ」ぐらいしかわかりません
また、1の位には「0と5がない」んだなあってこともわかりますね
数字と数字の差も「2、2、2、4、2、4、2、4、6、2、6、4、2、4、6、6、2、6、4、2、6、4、6、6」という並びで、「とにかく2、4、6」の差なんだなあぐらいしかわかりません
この素数の並びの法則がわかれば、もっと大きな数字の素数がわかるらしいのですが、それが何の役に立つのかはわかりません
単純に「素数は奇数で、0と5を避ける」ということなので、次の素数(=末尾が3、7、9=二桁目から)に向かう時に「2、4、6」のいずれかの間隔を使って、「偶数と5を避ける」のでしょう
それに法則性があるか否かというところなのですが、元々「数字の偶数と奇数は人間が生み出したもの」なので、その原点において、「なぜ、奇数と偶数を生み出したのか」みたいなところに遡ることになるのかもしれません
■人生における「証明」とは何か
映画では、「証明」というものがキーワードになっていて、先のリーマン予想についても「証明されていない」ということが話題になっています
仮説と検証の繰り返しの中で証明が為されるわけで、それを言い換えると「試行錯誤」するということになります
これを人生に置き換えると、色んな経験を積んで、自分自身にしかないものを提示する、ということになるのだと思います
リーマン予想は、提唱者リーマンが40歳で早逝したために証明が困難になっていて、それは「彼の視点で物事を見られる人間がいなくなったから」と言えます
この視点の伝承というものはとても難しくて、人間は対話で感覚の埋め合わせをしていきますが、完全に一致したかは誰もわからないのですね
天才のひらめきの背景には「体験と思考によって生み出された独自の回路」というものがあって、それを伝えるために「文字」が発明され、今では「音や映像を残せる」ようになりました
それでも、同じ視点を持てるかは未知数で、それよりは「体験の共有がどれだけ重なるか」とか、「体験と感情の相関関係がどれだけ類似しているか」というところに繋がっていくと言えるでしょう
ハクソンの人生の心残りは、視点の継承ができなかったことで、彼の望みとしては息子シクが同じように数学を好きになって、一緒に研究をしたい、というものがありました
でも、息子にはその気がなければ、才能もなかったのでしょう
その上で、噛み合わない対話を続ける中で、父の落胆を感じるでしょうし、父は好きなことに没頭している
彼が北に戻ろうとしたのは普通の感覚で、それはハクソンはいわゆる上級国民だったというところもあると思います
これまでは不自由のない生活をしていたのに、数学のためにこれまでよりも劣悪な環境で過ごすことになる
ハクソンの視点を持てない息子として、彼が韓国で生きることを貫く意味はほとんどありません
でも、仮に北に戻ることができても、そこで過ごすことは韓国にいるよりも厳しいものになることは明白だったと言えます
もし、息子が同じ数学の道を進み、そこで同じ目線で問題に取り組んでいたら、暮らしが辛くてもやって行けたでしょう
もしもの世界が消えたハクソンにとって、数学のそばで過ごすことは執着のようなもので、進学校の用務員をしているのは、時間が取れて資料の閲覧が容易という利点がありました
そんな中、数学の落ちこぼれであるジウとの出会いは、ハクソンの人生のやり直しをさせるために訪れたギフトのようなものだったと言えます
人生における証明とは、何かを成したということだけではなく、証明の過程を未来にも繋げるという意味があります
単に功績を残しただけでは後進を育てることはできません
後進のそれぞれの証明の過程と寄り添うことで、自分が通った道、自分が通らなかった道、自分が思いもしなかった道というものが見えてきます
でも、その中で最も大切なのは、「証明の過程こそ学問の真髄であることを体感してもらうこと」であり、その必要性と素晴らしさと繋げていくことなのだと言えるのでしょう
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作で個人的に好きなシーンは「πピアノのシーン」で、数字と音階を組み合わせて曲を奏でていました
おそらくは1=C、2=c+みたいな感じだと思いますが、実際にあんな感じになるのかはわかりません
白鍵は7つ、黒鍵は5つなので、1〜0では2音足りないのですね
なので、何かしらの音を抜いた状態で曲を構成していることになります
3.14はメロディラインになっていたので、うまくコードを合わせていけば曲として成立すると思います
何よりも、3.14を楽譜にしようという発想が面白いなあと感じました
上記のように、1〜0の数字では鍵盤の数と合わないので、そこで辞めてしまう人の方が多いと思います
でも、1オクターブ12音というこだわりを捨てて、3.14に別の意味を持たせることで、学問というものが横のつながりを持っていることを示しています
数学が繋がりそうな学問と言えば、物理学とか科学になると思うのですが、そこにあえて音楽を持ってくる
このアプローチは絵画などにも使えたりします
任意の色を10個して、ドット絵のように色を置いて行くこともできます
言語をあてがうことは難しいかもしれませんが、マス目に配置して、縦横に単語がないかを探すゲームのようなことも可能でしょう
学問は単一で見ると得手不得手が出ると思いますが、遊びの感覚で応用できないかを考えることは非常に有意義なことだと思います
3.14は円周率の意味ではあるものの、それを遊びに使うことで、本来の意味とは違う創造が生まれてくるのですね
映画の楽曲を「素数」で作るなら、「13を1と3に分解して並べれば」「素数に使われる数字(10の位などで0と5も登場する)」で音楽を奏でることも可能でしょう
ちなみに、音楽では「47抜き」という手法もあり、全ての音を使わなければ楽曲は作れないという思い込みをすでに打破しているのですね
なので、劇中の3.14の楽曲だと、例えば「1〜5」と「6〜0」で2オクターブの47抜きの楽譜にすることは可能なのですね
「C、D、E、G、A」と1オクターブ上の「C、D、E、G、A」
これらを使って楽曲を作る中で、「3.14」の数字の列を使う
そうすることによって、思いもつかないメロディに辿り着くかもしれません
また、考え方を変えれば、「1=C、2=D、3=E」のように数字と音階を規則的に考えることもできれば、「1=G、2=C、3=A」のようにランダムに設定することもできます
さらに、楽節ごとに規則性を変えることもできますし、一つずつズラすということもありだと思います
実際に打ち込みなどで打ち込んでみると色んな発見があるかもしれませんね
もし、手元にソフトがあるならば、試してみるのも面白いかもしれません
これまでにない世界が別の学問の法則で生まれるとしたら、こんなに素晴らしいことはないと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/387047/review/6e15c986-b4b9-49f3-83c5-f2301dbdc870/
公式HP:
https://klockworx-asia.com/fushigi/