■ジェームズ=観客だと思えば、この映画の面白さをこじつけられるのかもしれません
Contents
■オススメ度
人間のエゴを描く映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.10(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Infinity Pool(プールの淵に手すりがなく、眼前の海と繋がって見えるプールのこと)
情報:2023年、カナダ&クロアチア&ハンガリー、118分、R18+
ジャンル:リゾート地にて奇妙な体験に巻き込まれるスランプの作家を描いたスリラー映画
監督&脚本:ブランドン・クローネンバーグ
キャスト:
アレクサンダー・スカルスガルド/Alexander Skarsgård(ジェームズ・フォスター:前作から6年近く書けていない作家)
クレオパトラ・コールマン/Cleopatra Coleman(エム・フォスター:ジェームズの妻、出版社社長の娘)
ミア・ゴス/Mia Goth(ガビ・バウアー:ジェームズのファンとして近づく女)
ジャリル・レスペール/Jalil Lespert(アルバン・バウアー:ガビの夫)
トーマス・クレッチマン/Thomas Kretschmann(イラル・スレッシュ:リゾート地の警察)
Zijad Gračić(ドロ・スレッシュ:イラルの叔父、ジェームズたちに車を貸すホテルの従業員)
Amanda Brugel(ジェニファー:ガビの知り合い)
Jeff Ricketts(チャーレス:ジェニファーの連れ)
John Ralston(ボブ・モーダン:ガビの知り合い)
Caroline Boulton(ベックス:ボブの連れ)
Ádám Boncz(ホテルのガイド)
Dunja Sepčić(アナ:衣類を干す現地民)
Amar Bukić(レゾート地の警官)
Alan Katić(警察署の警官)
Katalin Lábán(看護師長)
Kristóf Kovács(マイク・マイロンの息子、執行者)
Kamilla Fátyol(マイク・マイロンの妻)
Lena Juka Štambuk(マイク・マイロンの娘)
Romina Tonković(ホテルの受付係)
Gergely Trócsányi(ホテルのオーナー)
Hajnalka Zsigár(オーナーのメイド)
Anita Major(オーナーの愛人)
Géza Kovács(ホテルの警備員)
Roderick Hill(レストランエリアで怒る客)
Alexandra Tóth(青いドレスの女)
Oszkár Bócsik(バスの運転手)
■映画の舞台
リ・トルカ島(架空)
スパークルパール&プリンセス・リゾートホテル
ロケ地:
クロアチア:
シベニク/Sibenik
https://maps.app.goo.gl/2ENsZ9TcLqKPuR8dA
クロアチア:
Amadria Park Hotel(シベニクのホテル)
https://maps.app.goo.gl/KAV2Jaj56kGbFxRM9
ハンガリー:ブダペスト
ケレン・フェルド/Kelenföld
https://maps.app.goo.gl/vawLbLCafZd6Dqq28?g_st=ic
■簡単なあらすじ
南の島のリゾートを訪れたジェームズとエムは、海を一望できるインフィニティ・プールのある高級ホテルに泊まることになった
ジェームズは6年近く新作を書けていない作家で、気分転換をして、アイデアが降りてこないかと考えていた
初日の夜、ホテルのパーティにて、ジェームズを知るガビという女性が声をかけてきた
駄作と評されたジェームズの本を読んだということで、ガビの夫アルバンと一緒に4人で食事をすることになった
翌日、ガビの誘いにて、ホテルの敷地外に出ることになったジェームズたちは、美しい入江のビーチで1日を満喫することになった
だが、酔いが回り、借りた車のヘッドライトの不調も重なって、ジェームズは地元民を轢いてしまう
ガビは捕まると大変なことになると叫び、ジェームズとエムは彼女に従って、怪我人を放置して去ることになった
ジェームズたちは何とかホテルに戻り平静を装うものの、翌朝に警官がやってきて、彼らは警察署へ連行されてしまう
そこの管理人スレッシュは、この国にはお金を出せば自分のクローンを作り、そのクローンを身代わりにすることができるという
殺人は死刑であり、遺族が執行するという法律のもと、ジェームズは生き残るために、この国の掟に従うことになったのである
テーマ:分身に託すエゴ
裏テーマ:本体に残るエゴ
■ひとこと感想
監督の名前だけ見て「ああ、グロそう」と思っていましたが、案の定、エログロ満載で、トリップ映像は酔うかと思いました
タイトルを見て「血の海が無限と続くとか嫌やなあ」と思っていましたが、そこまでではなかったのでホッとしました
でも、あの液体なんだったんでしょうねえ
役者さん大変だなあと思ってしまいました
映画は、リゾート地で人格をぶっ壊される男を描いていて、それに見切りをつけた嫁が逃げて、さらに追い討ちをかけられる展開になっていました
パパが出版社の社長だから本が出せたみたいな感じになっていて、しかもその本が軒並み酷評という世界線を生き延びてきたのが主人公でした
メンタルは強めだと思いましたが、この揺らされ方では保たなかったのも無理はないですね
物語性はそこまでなく、この非日常の中に潜むメッセージをどう読み解くかという感じになっています
さほど重みはありませんが、クローンがいることで、その世界では自由になるというのは、なんとなくネットの世界に似ている感じがしますね
アバターやハンドルネームがやられても平気な人もいれば、自分がやられたと思う人もいる
そんな印象を持ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
売れない作家のジェームズが、リゾートで気分転換をして、それで新しいネタを探すと言っていましたが、ようやくネタができたのに島に残ってしまったのは意味がわかりませんでしたね
最終便のアナウンスが流れて、帰れなくなってホテルに戻ったようですが、そこで雨に打たれてエンドというのは投げっぱなしもエグいなあと思ってしまいます
彼が戻らなかったのは、単に来年来るための資金を用意できないというのもありますが、バスの中の他のメンバーのように「切り替えができなかったから」だと思います
3つのカップルを俯瞰で見て、そこで普通に戻っている人たちを見て、この人たちのようにはなれないと感じたのでしょう
クローンを身代わりにできることを「知る前と知った後で感覚が変わる」もので、すんなり受け入れられる人もいれば、無駄に同化して引き摺る人もいると思います
ジェームズは「嵌められた」のですが、嫁の存在が邪魔で、それを早々に退場させていたように思います
エムがいない世界線で、自由に生きられるとしたらという「もしも」を体験することになっていて、それでも抑圧からの解放に至らなかったのは、本当に中身のない人間だったということで、逆にクローンに侵食されていたようにも思えました
■タイトルの意味
映画のタイトル「Infinity Pool」は「プールの縁がなく、眼前の海などと続いて見えるプールのこと」で、「Infinity」は「境界線のない、無限の」と言う意味になります
リゾート地にもインフィニティ・プールはありましたが、建設途上で事故か何か起きて作られていない(工事中)と言うような会話があったように思います
彼らはリゾートのプールではなく、敷地外の海岸に行くのですが、ここにも「境界線がない」と言う状況を作り出しています
本作には、このように「あるべきはずの境界線を自由に行き来する」と言うシーンが多く見られました
その最たるものが「人間の境界線」と言うもので、クローンが登場し、犯罪と処罰の境界線も消えてしまいます
自分と自分でないものの区別もつかず、言ってしまえば「目の前にいるガビが本当の人間なのか、実はクローンなのかわからない」のですね
そして、いつしか自分自身もどっちなのかわからなくなってしまい、自分自身を処刑する状況に追い込まれてしまいます
無論、善悪の境界線も曖昧になって、最大の禁忌であるはずの自分殺しですら、平気で行うようになってしまいます
この映画では、何もかもが無限に続いているような錯覚を覚え、それが日常化していく様子を描いていきます
そして、ラストシーンでは「非日常から日常への切り替え」と言うものが行われるのですが、この時にジェームズは「切り替えができずに帰れなくなる」のですね
そして、途方に暮れることになるのですが、それを自覚するのが「バスの中で普通にしているガビたちを見ているシーン」になっていました
それぞれのカップルは普通に戻っていて、ジェームズはそこで呆然としながら、妻と顔を合わせて普通に過ごせるのかどうかに思いを馳せていました
結論として、彼は帰ることに恐怖を覚え、閉まっているリゾート地で翌年までを過ごすことになります
雨季に入っているので、ホテルは稼働しておらず、それによってテラスで雨に打たれているのですが、その方がマシだと思えたのでしょう
おそらくは意識と無意識の境界線と言うものも消えてしまっているので、彼の心の中は「変わらぬホテルの中」で過ごしているのかもしれません
■分身による代理処刑
本作の特徴的な設定は、「犯罪を犯してもクローンが身代わりになる」と言うもので、あの島では「誰かを殺したら死刑」と言う、罪と同じ罰が与えられると言う設定になっていました
刑の執行も「被害者の遺族」と言うもので、それがいない場合には代行されると言うニュアンスになっていました
一応は、国は処罰を決めるだけで、執行は「当事者」と言う流れになっていて、これはある種の風刺のようなものだと思います
現行の裁判と処罰の流れにおいて、目には目をと言う法律がある国もあるし、復讐を認めている法律があった時期もありました
それが「被害者と加害者の関係において」イーブンに見えるという意味合いがあるのですが、本作ではさらに踏み込んで「富裕層は罰を身代わりにできる」というものがありました
お金を払ってクローンを作り、そのクローンが処罰されるのですが、この際のお金というものが島の運営に使われることになっていて、ある意味Win-Winのようの構図を作り出しています
あくまでも「お金を持たない人々の不遇」というものを無視しているところがあって、金を払って自由にできる人々は「相手を選ぶ」という悪質性を持っています
映画の中では、更なる自由を求めて、管理者をターゲットにしていくのですが、これは資本主義が権力者を裏で引っ張る構図に似ているような気がしました
元々、このような法律ができたのも、富裕層の圧力のようなもので、それによって治安の維持というものが生まれているように思えてしまいます
ある意味、究極の資本主義の末路を描いているのですが、底辺の自爆というものはこの世界でも通用するのですね
なので、制度の恩恵を受けない層は、どんな世界でも治外法権のようなものなので、「武器を与えられる状況」が作られる怖さというものが、実は同居しているようにも思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、いわゆる悪趣味系の映画で、その世界に染まっている人と拒絶する人、馴染もうとして馴染めない人を描いていました
早々に退場するエムは映画館を出る人で、どっぷりと世界観に浸り込んで満足する人もいます
その中間にいるのが「とにかく面白さを探そうとして、本能が拒否するのに最後まで椅子に座っている観客」だと言えます
本作は、「最後まで椅子にしがみつく映画フリーク」を揶揄っている部分があって、そういった人たちが「この映画の面白さを無理やり言葉にしよう」という動きが生まれているように思えました
私もその一人で、バカバカしい設定だと思いながら、とにかく意味不明な流れの中で困惑し、それでもこの世界(映画)に馴染もうとしていましたね
最後のジェームズの放心は「それでも無理」という徒労感に包まれていて、日常に帰るための余白を生み出そうとしているようにも見えてきます
終わったんだけど、もう少しこの世界線にいたい
そのような感覚が「理解が追いつかないのでもう少し待って」という感じに思えました
ジェームズが乗る便はおそらくガビたちと同じ便だったと思うのですが、彼は彼女たちと同じ便には乗れなかったのですね
もし違う便なら乗れたのかなと思いますが、別の便に変える気力も失っていたように思えます
この辺りはうろ覚えな感じでしたが、わざわざ「便の時間」まで字幕表記していたので、そのような意味を強調したかったのかなと感じました
映画は、仮説的な内容になっていますが、現実的に起こりそうな可能性を感じてしまいます
クローンは作れなくても、「同じように見える人(影武者)」を用意して、本人は難を逃れるということは可能で、しかも時が経てば出来事は忘却の彼方に追いやられてしまいます
重大な犯罪を起こした金持ちが「表向きには死刑になって生きていても」一般人は誰も気づきません
影武者が死刑になって、本人が整形すれば問題ないわけで、それを可能にできる財力があれば、今でも可能だったりするのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/98871/review/03702081/
公式HP:
https://transformer.co.jp/m/infinitypool/