■父から姉に引き継がれる「絆」の正体とは何か
Contents
■オススメ度
蓮佛美紗子さんのファンの人(★★★)
失敗から這い上がる物語が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.18(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、117分、G
ジャンル:スキャンダルで落ちぶれた女優の家族との遺恨を描くヒューマンドラマ
監督&脚本:有働佳史
キャスト:
蓮佛美沙子(安藤梨花/園田梨枝:スキャンダルで落ちぶれた元アイドルの女優)
(幼少期:松田メイ)
伊藤万理華(瀬野咲:ドラマ部志望の若手ディレクター、イダテレの社員)
升毅(園田康夫:梨枝の父)
幸田尚子(園田枝美子:梨枝の母)
吉田仁人(園田勇治:梨枝の弟)
上川周作(猿渡拓郎:梨枝の同級生、タクシー運転手)
三倉茉奈(飯塚真希:梨枝の姉)
月成ゆの(飯塚千花:真希の娘)
青木ラブ(内田仁美:梨枝の同級生、ファミレスの店員)
宮崎美子(居酒屋の女将さん)
福山翔大(橋本:梨枝の同級生、女将さんの息子)
緋田康人(猪本則男:梨枝の事務所の社長)
浜野謙太(田所公平:咲の上司、プロデューサー)
山岸門人(スクープする芸能誌の記者)
ウラシマ(スクープする芸能誌のカメラマン)
土屋由美子(雑貨屋のおばちゃん)
中尾新吾(街のおじいちゃん)
木村心咲(看護師?)
東島愛海(梨花を見つける女子高生)
東島希海(梨花を見つける女子高生)
鈴木永遠(ファミレスのカップル)
三宅理沙(ファミレスのカップル)
のりを(アイドル番組のホスト?)
たく(アイドル番組のホスト?)
脇坂香凛(梨枝のアイドル時代のメンバー)
桃沢まち(梨枝のアイドル時代のメンバー)
光坂美南(梨枝のアイドル時代のメンバー)
■映画の舞台
熊本県:荒尾市
ロケ地:
熊本県:阿蘇市
大観峰
https://maps.app.goo.gl/wxTSn9FAmvbE8JBz6?g_st=ic
熊本県:菊池市
千畳河原河川公園
https://maps.app.goo.gl/NnvWnpnTDVHp45gL6?g_st=ic
熊本県:山鹿市
有明高校
https://maps.app.goo.gl/WdDeCUtF4tywbXtU9?g_st=ic
八千代座
https://maps.app.goo.gl/e3jEDc7kDZhNHEru7?g_st=ic
熊本県:荒尾市
駄菓子屋ももや
https://maps.app.goo.gl/1xd1zQLA3f3aiYbB9?g_st=ic
ジョイフル荒尾店
https://maps.app.goo.gl/q3a4EpUkr5KqUjv96?g_st=ic
■簡単なあらすじ
業界人とのスキャンダルにて落ちぶれた元アイドルの女優・安藤梨花こと園田梨枝は、再起を図るために、あるドキュメンタリーを地元で撮影することになった
ドキュメンタリーはテレビ局が制作するもので、若手のディレクター・瀬野咲が担当し、マネージャーもプロデューサーも現場には来なかった
宿泊場所も近場のラブホテルと言う待遇に業を煮やした梨枝は、自分で宿泊場所を探そうとタクシーを呼ぶものの、そこに来たのは同級生の猿渡だった
猿渡は「ホテルか旅館」と言うオーダーを無視して彼女の実家に連れて行ってしまい、彼女はやむを得ずにそこで泊まることになった
10年ぶりの帰省、父とは縁を切るような格好で飛び出してきた梨枝
姉との折り合いも悪く、帰ってきた弟・勇治に帰ってきていることを内緒にしてくれと頼み込む
父は病床に臥していて、余談の許さない状況だった
そんな中、再起をかけたドキュメンタリー番組の撮影が始まるものの、それはドキュメンタリーと呼べるような内容ではなく、瀬野は素人同然のディレクターだったのである
テーマ:確執と和解
裏テーマ:仕事観と熱量
■ひとこと感想
蓮佛美紗子主演ということで、予告編の時から気になっていたので鑑賞
パンフレットもシナリオ付きの方を購入し、堪能して参りました
映画レビューなどではやや酷評気味で心配しましたが、演出が古くて、少し前のホームドラマを観ているような感じになりましたね
展開もそこまで突飛なものではありませんので、及第点と言ったところでしょうか
物語は、家族と確執を持つ女優がやむを得ずに実家に戻ると言う内容で、疎遠だった家族との再会が確執をさらに拗らせる格好になっています
ドキュメンタリー撮影もグダグダで、彼女に気がある同級生が手伝う中、地元のマイナーなところを巡ると言う感じになっていましたね
のっけから熊本空港でくまモンのキャラボードが登場する以外は、県外の人には熊本ってのがわかりにくい感じになっていたように思います
郷土料理よりも、父との思い出の焼き飯が登場するくらいなので、もっと地元アピールをしても良いのかと感じました
ともかくは、蓮佛美紗子を堪能するならOKと言う感じで、それ以外だと評価があまり上がらないのは仕方ないかなと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
地元でドキュメンタリーを撮影するものの、家族には知られたくないと言う設定が少し無理があって、あんな派手な格好をしていたらバレない方がおかしいと言う導入になっていました
ドキュメンタリー論みたいなものも登場しますが、そこまで深いものではなく、さらっとした感じに仕上がっています
父が病気だけど、仕事のために帰省という、確執をさらに悪化させる行動になっていて、家族と敵対させると言う構図を優先させたように感じました
物語としてはベッタベタな内容で、幼少期の約束を胸に暴走する妹、実家に留まって普通の主婦になっている姉、それに挟まれる弟と言う感じになっていました
そこに旧友が絡んできて、元カレまで登場するのですが、方言慣れしていないと何を言っているかわからない感じになっていましたね
特に、元カレと二人きりの会話の内容がわからず、シナリオ付きパンプ買っといてよかったわあとなりました
田舎から東京に出て、地元のヒーローになったけど、スキャンダルで失墜
それを恥じる家族と、それでも頑張りに感化された旧友たちとの関係性がそこにありました
再起のためにしたくない仕事をするけれど、仕事を受けた以上はプロとしてやり切る
そう言った哲学が滲み出る作品になっていましたね
■崖っぷちの人生のやり直し方
本作では、スキャンダルによって失墜した女優が再起を図るために自分のドキュメンタリーを作るという内容になっていました
最終的にドキュメンタリーは作ることができませんでしたね
再起のためのドキュメンタリーが紆余曲折を経て、再起する様子を描いたドキュメンタリーに変わっていく
これは英断であると思います
当初の企画は「梨枝のイメージ戦略」になるのですが、映画監督との不倫問題を払拭するには弱すぎる企画でしたね
視聴率は取れるけど再起にはほぼ寄与しない計画で、テレビ局側の「視聴率が取れる消費企画」の一つにか過ぎません
ドキュメンタリー素人を使い、バラエティーの延長線上の「結論ありきドキュメンタリー」なので、撮れ高が上がろうと、イメージ回復には向かないでしょう
梨枝サイドとしては、表舞台に出られるならというつもりで仕事を受けていますが、ほぼ企画倒れに終わり、世間の反応も冷ややかなものになると思います
再起の際のイメージ戦略としては最悪の部類で、捏造でなくても「実はこんな人でした」というのは、感情的には正確には受け止められません
彼女の世間からの叩かれっぷりが映画で描かれないので分からないのですが、世間からのバッシングなら静観、業界内からのバッシングなら現実を受け止める、という方策になると思います
世間のスキャンダルへの反応というのは一過性で、それはイメージにすでに刷り込まれているものなので、それを覆そうとするイメージ戦略は失敗することが多いでしょう
業界のタブーにふれて干されている状態というのは、業界内のパラーバランスの変化を見極めることになり、落ちたイメージを芸の肥やしにするレベルの自虐に行くのか、イメージを無視して既定路線を進むのかのどちらかになると考えられます
今回の場合は、テレビ局の視聴率稼ぎの一環として、とりあえず出演できるならOKという仕事内容ではありましたが、それは今のイメージをさらに悪化させることを前提とした企画になっているので、この企画がうまく行く確率はゼロに近いと言えるのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
映画では、女優の再起と同様に家族内の確執を緩和させる必要性というものが紡がれていました
地元での仕事のために、やむを得ずに帰省することになり、本来は来ていることも隠し通して、東京に帰るつもりだったのだと思います
このシークレットが成功しても、メディアで「地元ロケ」が取り上げられると、家族内の軋轢はさらに悪くなっていたと考えられます
いわば、バレることを前提としたシナリオになっていて、家族内の不和をさらに増長させる展開として採択されたアイデアのように思えます
家族内不和を増長させるとするならば、家族それぞれの梨枝への想いを紐解かなければなりません
上京のシーンでは、父との軋轢はわかりますが、姉との関係はわからないし、弟もちょこっと顔を出している程度でした
幼少期の家族の関わりがほぼスルー(母との約束だけ)になっていて、家族をメインで描くなら「幼少期の姉(弟=生まれてなければ不要)とのシーン」と言うのは必要になってきます
また、最低限「上京に至るまでの姉妹弟の関係性」は必要で、姉弟が上京に関して肯定的か否定的か無関心なのかがはっきりとしていませんでした
取ってつけたような「姉との遺恨は結婚式に来なかった」と言うものになっていて、このエピソードも語って終わりと言う省略し過ぎな感じになっていました
映画として、最終的にどうなるのかと言うところから逆算してシーンを作る必要があって、本作の場合だと「姉が許す」と言うゴール地点があります
このために必要なエピソードが「姉が梨枝の仕事に打ち込む姿勢を理解する」と言うことと、「実は反対していた父親が応援していたことを知る」と言うことになります
梨枝は父の部屋でその痕跡を見ましたが、姉と弟があのテープに気づいているのかは分かりません
なので、姉が「家族を利用していると憤慨しているシーンのあと」で、姉自身が父との思い出を振り返りながら、自分が知らなかった父親の本音を知ると言うシーンがあった方が良いと思います
そして、キーポイントになるのが「父の思いを弟が知っていた」と言うことで、さらに姉の娘もそれに気づいていて、姉だけが知らなかったと言う状況がさらに彼女の感情を揺さぶっていきます
これによって、結婚式に来なかったことを理由にしているけれど、本当は「自分が父に愛されているのか」について不安視していたことがわかり、疎外によって絶望を味わうことになります
姉はどこかで「父は自分よりも妹を気にかけている」と感じていて、でもそれを認めたくない
その意固地な感情に色んなかさぶたが重なって今の姿がある
それを端的に表すなら、「姉娘のセリフで「お姉ちゃんが来てから、お母さんがさらに怖くなった」と言わせること」かなと思います
そんな姉が梨枝を許すことに繋がるのが、病室でのカメラ撮影であり、そこで「母との約束である」と姉に突きつけることだと言えます
これによって、父の死すらも利用して芸能界で生きていこうとする梨枝の覚悟が見えるのですね
そして、父の葬式に来ようとして、姉に「お前は来るな」と門前払いを食らう方が良いでしょう
電話で終わるのも良いとは思いますが、決別はやはり対面の方がグッとくると思います
それによって、物語はより感動的なものになったのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは『女優は泣かない』と言うもので、これはラストの彼女のセリフに因んでいます
とは言え、思いっきり「これやりたかったんや」と言うぐらいにワザとらしい感じになっていて、安いドラマを見ているような感覚になってしまいました
テレビ映画の範疇を出ないなあと思ったのがこのシーンで、このセリフを言わせるよりは、猿渡のその質問に対して「振り向いて梨枝が泣く」と言うシーンの方が良かったと思います
彼女は「泣けない女優」なのですが、その涙は封印されたものだったと言うことになります
カメラがあると泣けないと言うことを告げるよりは、猿渡に対してだけ涙を見せると言うのは、とても大きな意味を持ちます
この一連のシーンで梨枝の涙に気づいたのは、猿渡と咲だけになります
猿渡は「女の涙」として、梨枝の涙に想いを馳せ、勘違いをするかもしれません
咲は「女優の涙」として、この涙は本物かどうかを考えることになるでしょう
女優の涙には色んな意味がありますが、泣けることを明示してこそ、あのシーンで泣かなかった意味が強調されるのではないでしょうか
映画は、背水の陣の女優が再起を図る内容ではありますが、そこに向かうための儀式として、再度「家族と縁を切る」と言うものでもありました
縁を切っても想いや愛は消えないのですが、再出発のためには同じ儀式が必要になります
愛ある別離を促す役目は「父から姉に変わる」のですが、これを見ている弟には「姉妹ゆえの絆」と言うものに気づけません
弟と猿渡にはわからない絆と別離を描いてこそ、本作の締めにふさわしいのではないかと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.joyuwanakanai.com/