■ポトフには「火にかけた鍋」という意味があるのでセーフ、というわけにはいかないですよねえ
Contents
■オススメ度
フランス料理が登場する映画に興味がある人(★★★)
美食家と料理人の不思議な関係に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.19(アップリンク京都)
■映画情報
原題:La Passion de Dodin Bouffant:The Pot-au-Feu(ドダン・ブーファンの情熱:ポトフ)、英題:The Taste of Things(作品を味わう)
情報:2023年、フランス、136分、G
ジャンル:美食家と料理人の不思議な関係を描く自伝的映画
監督&脚本:トラン・アン・ユン
原案:マルセル・ルーフ/Marcel Rouff『La Vie et Passion de Dodin-Bouffant(ドダン・ブーファンの生涯)』
キャスト:
ジュリエット・ビノシュ/Juliette Binoche(ウージェニー:ドダンが敬愛する天才料理人)
ブノワ・マジメル/Benoît Magimel(ドダン・ブーファン:ウージェニーを愛する美食家)
エマニュエル・サランジェ/Emmanuel Salinger(ラバス:ドダンの美食仲間)
パトリック・ダスンサオ/Patrick d’Assumçao(グリモー:ドダンの美食仲間)
ヤン・ハムスカー/Jan Hammenecker(マーゴット:ドダンの美食仲間)
フレデリック・フィスバック/Frédéric Fisbach(ボーボワ:ドダンの美食仲間)
ジャン=マルク・ルロ/Jean-Marc Roulot(オーギュスタン:ドダンたちの友人)
ガラテア・ベルージ/Galatea Bellugi(ヴァイオレット:ウージェニーのアシスタント)
ボニー・シャニョー=ラボワール/Bonnie Chagneau-Ravoire(ポーリーヌ:新しくアシスタントになる絶対味覚をもつ少女)
Michel Cherruault(ルイ:ドダンの農園管理者)
ヤニック・ランドライン/Yannik Landrein(ポーリーヌの父)
サラ・アドラー/Sarah Adler(ポーリーヌの母)
Mhamed Arezki(ユーラシア皇太子)
ピエール・ガニェール/Pierre Gagnaire(皇太子お抱えのシェフ)
Clément Hervieu-Léger(皇太子の大使)
Laurent Claret(医師)
Fleur Fitoussi(無断で厨房に立たされる若い女性)
Chloé Lambert(試される料理人)
Anouk Feral(試される料理人)
Sarah Viennot(試される料理人)
Cécile Bodson(試される料理人)
Celine Duraffourg(試される料理人)
Jean-Louis Dupont(司祭)
Louane Forest-Borreil(ポーリーヌのボディダブル)
Edouard Pommier(ドダンのボディダブル)
Claudie Erdeven(ウージェニーのボディダブル)
Patricia Boulogne(ウージェニーのボディダブル)
■映画の舞台
1885年、
フランス:アンジュー地方
https://maps.app.goo.gl/yU7mXJf5RUkMJ677A?g_st=ic
ロケ地:
フランス:
Château du Raguin
https://maps.app.goo.gl/q2JrP5ZhagWAtReLA?g_st=ic
シャゼ=シャル=アルゴ/Chazé-sur-Argos
https://maps.app.goo.gl/RxtyHuyBPm8had8z8?g_st=ic
メーヌ・エ・ロワール/Maine-et-Loire
https://maps.app.goo.gl/zVsCn8Dyh12xkaNaA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1885年、フランスの郊外に住む美食家のドダンと料理人のウージェニーは、数十年連れそう仲だったが、結婚には至っていなかった
ドダンの考えたレシピをウージェニーが料理に仕立て、彼らの料理は美食仲間の間でも評判の出来栄えだった
ある日、ユーラシア皇太子に献上する料理の話題になり、ドダンは「フランスの家庭料理」にて魅了しようと考える
だが、ウージェニーは体調を崩し、それどころではなくなってしまう
ドダンはウージェニーと籍を入れたいと思っていたが、彼女は料理人と美食家の関係でいたいと願っていた
そこでドダンは彼女のために料理を作り、彼女の心を開こうと考えるのである
テーマ:愛情と役割
裏テーマ:愛情の伝え方
■ひとこと感想
夫婦のような関係の美食家と料理人を描きますが、前半は「ガッツリと料理シーンが延々と続く」というドキュメンタリーのようなテイストになっていました
レシピがなくても見る人がいればわかるんじゃないかと言うぐらい詳細に、コース料理というものが作られていきます
映画は、冒頭のシーンも含めて、かなりスローテンポで展開し、体感時間が長めに思えてきます
この時代の美食家の存在がよくわからないのですが、ドダンはかなり裕福な家庭で、農園を経営しているのかなと思いました
美食家仲間との会食は料理こそ華やかなれど、そこまで贅沢三昧という感じではなかったですね
手に入る食材を丁寧に下ごしらえして調理していくのですが、肉を焼くにしても、味をつけてはオーブンに入れというものを繰り返していました
料理が趣味の人にとっては、これだけ本格的な料理シーンがあると勉強になるんじゃないかなと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
邦題に「ポトフ」とガッツリ登場するので、ユーラシア皇太子の舌を唸らせるポトフを作るのかと思っていましたが、結局作っていませんでしたね
物語のメインはウージェニーにプロポーズするシーンなのですが、その行為がフラグになっていたように思えます
映画では、二人の関係性はどのようなものだったのかを紐解いていて、夫婦になったあたりで体の関係は持っていたように思います
洋梨が出てきて、そのままベッドでみたいな展開になっても、決定的なシーンは描きません
ラストでは、ウージェニーの代わりになる料理人探しをするところで終わるのですが、絶対味覚をもつポーリーヌを本物の料理人の元で育てようと考えているのでしょう
美食家で、レシピを考案できるけれど料理は作れないという不思議な存在なのですが、ウージェニーの料理を見ていると、ドダンのレシピを料理にするための過程というものが複雑すぎて、普通の人には不可能なんだろうなあと思わされます
■時代背景について
映画の舞台は、1855年で歴史的にはナポレオンが死んでから30年後ぐらいの時代、フランスの7月革命から20年後、そして1853年から始まったクリミア戦争真っ只中と言うことになります
クリミア戦争は1853年から1856年の間に行われた戦争で、主にクリミア半島を舞台に行われていました
フランス帝国&イギリス&オスマン帝国&サルデーニャ王国とロシア帝国&ブルガリア義勇兵の間でおこなれています
指導者としてナポレオン3世、ヴィクトリア女王、ジョン・ラッセル卿などがいて、ロシア側はニコライ1世とアレクサンドル2世となっています
結果はフランスを含めた同盟軍の勝利で、パリ条約が締結することになりました
劇中で登場するユーラシア皇太子に関しては、色々ググった結果、ロシアと中央アジア一帯を示すようですが、戦争中のロシア帝国からとは思えないので、中央アジアのどこかの国なのかなと推測されます
ユーラシア主義ですら、1920年代に始まったもので、その前になりますね
見た目の格好だとアラブ系ですが、原作のウィキをなぞっても、それらしい供述はなかったので、原作本を読むか、ユーラシアに関する専門書を読破するより手がないのかなと思います
ロシアと交戦状態だけど、戦地は本国から離れているので影響がない
ロケ地はアンジュー地方ですが、原作のドダンはベレー(Belley)と言う土地に住んでいました
ベレーはフランスの東部に位置し、リヨンのさらに東側の奥地にあります
そこを起点として、いろんな国に出かけていたのがドダンと言う人物でした
■二人の関係は結局どんなものだったのか
映画では「ウージェニー」表記ですが、原作では「ウージェニー・シャターニュ」と言い、死因は脳卒中だったとされています
彼には4人の友人がいて、彼らはアデル・ピドゥと言う農民の女性を見つけてきました
また、劇中で登場するポーリーヌも登場していますね
ユーラシア皇太子にポトフを出したエピソードもあり、原作ではポトフを含めた4品目だけだったとのこと
ちゃんと作られていたので安心しちゃいました
ドダンは何十回とウージェニーにプロポーズをしていましたが、彼女は一度も首を縦に振りませんでした
でも、彼女の病床にてドダンが料理を振る舞い、それによって彼女は心を開きます
その後、病状は悪化するばかりでしたが、最期に彼女は「妻だったのか、料理人だったのか?」と問いかけました
これに対して、ドダンは「料理人だ」と答えています
ドダンの中では彼女を妻にしたいと言う欲求がありましたが、彼女の想いは「ドダンの脳内レシピを完全再現すること」に重きを置いていて、その功績というものを欲していたと思います
社会的で形式的な繋がりよりも、その瞬間にだけ存在し、二人の間でしか理解できないもの
この繋がりを肯定することがウージェニーの存在意義をドダンの中に落とし込むことになっています
より高い世界での精神性の繋がりを感じていたいウージェニーにとっては、社会的形式的な「妻」という言葉では表現できないのですね
おそらくは「ソウルメイト」という表現が一番しっくりくるのかなと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、本格的な料理映画で、ミシュラン3つ星ピエール・ガニェールが料理監修をしています(カメオで皇太子お抱えのシェフ役で出演していますね)
冒頭の数分はまるで料理番組を見ているようで、一般家庭の料理としては手が込みまくっている料理が登場していきます
この調理シーンをじっくりと見せていくので、前半のテンポはあまり良いとは言えず、好きな人なら細かな発見ができますが、そうでない人にはキツいシーンのように思えます
個人的には「そこそこ」料理をする方なので「これは」と唸るシーンがたくさんありました
料理をしなくても、料理漫画や映画、ドラマ、番組を好んで見る人なら、繊細なシーンに感動を覚えるかもしれません
パンフレットにはレシピが付いているのですが、さすがに再現しようという気にはなれません
香辛料を探すところか始まるので、一般家庭の貧弱なコレクションでは辛いものと思われます
映画は、ドダンのウージェニーへの情熱を描いていて、彼女の喪失は体が半分なくなったぐらいの衝撃になっていました
劇中では死因はわからないのですが、原作でははっきりと脳卒中と書かれているので、その死は突然のことだったように思えます
その後、仲間たちが「衰弱するドダン」を心配して、料理人を探すのですが、ウージェニーに匹敵する存在はなかなかいません
ドダンのテストもあまりにも高等なものが多く、レシピを読み上げただけで「それは無理です」という料理人もいました
最終的には、料理人を見つけるのですが、それはドダンのために料理人ではなく、ポーリーヌのための料理人でした
ドダンとポーリーヌがウージェニーとの関係になることはありませんが、ウージェニーが残したものを後世に残すには、ドダンのレシピだけでは難しいのですね
それを再現するために必要なニュアンスを言語化する必要があり、それを行えるのはポーリーヌだけではないかと思わせます
実際にウージェニーの料理を食べ、作っているシーンを見ている彼女なら、基礎さえ覚えて行けば、「あの時にウージェニーが行っていた作法の意味」というものが理解できて繋がる日が来るのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/