■80歳まで生きた人の想起&妄想なので、終わる人生は想像しなかったのかもしれません
Contents
■オススメ度
パラレルワールド系の映画が好きな人(★★★)
人生讃歌の映画が好きな人(★★★)
人生の中で「もしも」を考えたことがある人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.5.11(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Le tourbillon de la vie(人生の旋風)、英題:Julia(s)
情報:2022年、フランス、120分、PG12
ジャンル:偶然起こる人生の分岐点を追うヒューマンドラマ
監督:オリビエ・トレイナー
脚本:オリビエ・トレイナー&カミーユ・トレイナー
キャスト:
ルー・ドゥ・ラージュ/Lou de Laâge(ジュリア・フェインマン:ピアニストとして大成することを期待される娘)
(2歳時:Carmen Trainer)
イザベル・カレ/Isabelle Carré(アンナ・フェインマン:ジュリアの母)
グレゴリー・ガドゥボワ/Grégory Gadebois(ピエール・フェインマン:ジュリアの父、ピアノ工房を経営)
マルクス・グラーザー/Markus Glaser(マルクス・スコンバーグ:ベルリンで出会う男性)
Camille Claris(クレイル・スコンバーグ:マーカスの娘)
Aliocha Schneider(ナタン・ジェラルド:ジュリアの幼馴染)
エステール・ガレル/Esther Garrel(エミリー:ジュリアの友人)
Lou Noérie(カサンドラ:ジュリアの友人)
Shen Masquida(ダリウス:ジュリアの友人)
Halim Akitar(カリム:ジュリアの友人)
ラファエル・ペルソナス/Raphaël Personnaz(ポール・ソレル:ジュリアと本屋で出会う物理学の学生)
Iris Monzini(カミーユ:4歳時、ジュリアとポールの娘)
(10歳時:Sienna Morel)
(16歳時:Léa Jousset)
Hugo Treiner(ラファエル:6歳時、ジュリアとポールの息子)
(12歳時:Milo Mazé)
Kalo Rakotomalala(ポールの後妻)
Denis Podalydés(ヴィクトル・マスネ:ジュリアのピアノに惚れ込むマリアのマネージャー、コンクールの審査員)
Kudritskaya Natacha(マリア・オノニエフ:傲慢なピアニスト)
セバスチャン・プードル/SébastienPouderoux(ガブリエル・トウロヌール:マドレーヌの父、母の主治医)
Natacha Krief(マドレーヌ・トウロヌール:ジュリアの生徒)
Dylan Raffin(ベン:マドレーヌの恋人)
Sam Chemoul(テオ・ヴァティーヌ:16歳時、絶対音感を持つジュリアの生徒)
(46歳時:Gaspard Brécount)
【その他】
Caroline Bourg(ジュリアの無断外出を見つけるアムステルダムの音楽教師)
Charlie Fargialla(ジュリアとぶつかるパリの書店の従業員)
Suel Lee(コンクールの候補者、ジュリアと勝ち負けを競うピアニスト)
Marc De Panda(コンクールの主催者)
Mathieu Cepitelli(コンクールの審査員)
Lucie Moreau(コンクールの審査員)
Hubert Krivine(コンクールの審査員)
Isabelle Fournier(精神科医)
Alban Guyon(救急医)
Karine Texier(FIVの医者)
Anne-Valérie Payet(看護師)
Philippe Maymat(レストラン「ブラッスリー」のチーフ)
Romain Thunin(レストラン「ブラッスリー」のウェイター)
Céline Le Coustumer(ポールの弁護士)
Swann Dupont(ベルリンのバーのウェイトレス)
Claire Romain(若い女性ミュージシャン、ナタンの友人)
Thomas Alglave(バーのドラマー、ナタンの友人)
Raphaél Treiner(バーのギタリスト、ナタンの友人)
Morgan Baudry(バーのカウンターアシスタント)
Alizé Léhon(ブラームスの指揮者)
Alexander Briger(シューマン管弦楽団指揮者)
■映画の舞台
1989年〜2052年
オランダ:アムステルダム
ドイツ:ベルリン
フランス:パリ
日本:東京
ロケ地:
フランス:セーヌ=サン=ドニ
https://maps.app.goo.gl/daXoWJLnoYao6qe99?g_st=ic
フランス:パリ14区
国際大学都市(オランダ館)
https://maps.app.goo.gl/T9chjayFDV2TzZbj6?g_st=ic
フランス:パリ
Cafe Cave La Bourgogne
https://maps.app.goo.gl/Uwo1PqiBhjCAtFDy7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
オランダにあるアムステルダム音楽学校に通う17歳のジュリアは、友人たちとともにベルリンの壁の崩壊を見に行こうと盛り上がっていた
寄宿舎を抜け出そうとするジュリアとエミリーだったが、バスに乗る寸前にパスポートを部屋に忘れていたことに気づく
取りに戻ったジュリアだったが、そこで教師に見つかってしまい、ベルリンに行けなくなってしまった
一方、ジュリアのパスポートが落ちているのに気づいたエミリーはそれを拾い、ジュリアはベルリンに行くことができた
ベルリンの壁の崩壊に感動したジュリアは、そこで屋外のピアノ演奏をして、それが新聞記事になってしまう
その記事を見た父は激怒し、ジュリアと喧嘩になってしまう
ジュリアは家を飛び出し、ベルリンへと向かう
そして、そこで知り合ったマルクスと恋に落ちていく
一方、ベルリンに行けなかったジュリアは本屋に向かい、そこでポールと会う
意気投合したジュリアはポールと恋仲になり、コンクールにも優勝し、両親公認の仲を深めていった
一方、同じくベルリンに行けなかったジュリアは、本屋で誰と出会うこともなくコンクールに出場する
だが、思うような演奏ができずに敗退し、ピアニストの付き人として働くことになった
それぞれの分岐点で「偶然」が重なったジュリアが、それぞれの方向で人生を深めていく
一体、どの人生が彼女の人生だったのか?
1989年から、80歳になる2052年までのいくつものジュリアを同時進行で描いていく
テーマ:偶然の先にある運命
裏テーマ:もしもの先にある幸福
■ひとこと感想
パラレルワールドを同時進行させると言う、脚本と編集が地獄だっただろうなあと言う作品
大きく分けて4つの人生を同時に描き、その分岐点が明確になっています
あらすじだけ聞くとややこしそうですが、映像的にはビジュアルを変化させているので、そこまで混乱はしません
とは言え、さすがに3つに分岐するパリの人生の後半はとてつもなくわかりにくいかなと思いました
映画は、80歳まで生きたジュリアが過去を回想する物語ですが、ひとつの人生が本物で、残りの人生は妄想と言うことになります
なぜ、この分岐の先を彼女が妄想したかまでは描かれませんが、そこは映画的なお約束と言う感じになっています
基本的には髪型で見分けるしかないのですね
金髪ボブ、金髪ロング、ブラウンロング、ブラウンパーマみたいな感じなので、そこまで明確に見分けられるかは何とも言えない感じになっていますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人生の分岐が「劇的なことではない」と言うスタンスの作品で、人生の分岐点が「パスポートを誰が見つけたか」「書店で店員とぶつかった香どうか」「コインの裏表」と言う感じになっています
ベルリンへ行けた世界線は「エミリーがパスポートを見つけた」世界線で、この人生はそのままベルリンで両親と疎遠になり、母を看取れない人生に続きました
書店で店員とぶつかった世界線は、ポールと会うことなくコンクールで負けて、ピアニストの付き人になった末に、ヴィクトルと恋仲になって復帰し、ナタンと再会する流れになっています
書店で店員とぶつからなかった世界線では、ポールと出逢い恋仲になりますが、バイクの運転をどっちがしたかで運命が変わっていきます
事故でピアノが弾けなくなった世界線は、流産後の不妊治療が実らずにポールと離婚、母の主治医であるガブリエルと恋仲になります
事故を回避した世界線では、妊娠によってツアーを断念し、ピアニストへの復帰はならず、自殺未遂などを起こします
これらの4つの世界線を同時に描いているのですが、そこまで混乱することはないと思います
とは言え、分岐を分けるアイテムが「髪型」「ネックレス」「ドレス」ぐらいしかないので、リアルタイムで全てを把握するのは難しいのではないかと感じました
■パラレルワールドを夢想する理由
本作は、80歳になったジュリアが「自分の人生を振り返る」のですが、その際に「選ばなかった人生」を一緒に想像していることになります
いわゆる「想起と妄想」が混同しているのですが、それをうまく編集で繋げて、混乱しないように作られていました
主に「髪型と子どもの有無」が人生を分けるものになっていて、ベルリンで住むパートはわかりやすいくらいに「グレたブロンド」になっていました
ベルリンに行かなかった世界線では、ポールに会ったかどうかというところと、事故を回避できたかどうかという分岐点がありました
最終的には、「ベルリンに行かず、ポールに会ってコンクールに優勝するものの、事故に遭って流産する世界線」を生きていました
映画の冒頭にて、人生の分岐点は偶然起こった出来事として語られ、「パスポートを拾ったのは誰か」「落とした本を拾ったのは誰か」「コインの裏表の意味を決めたのは誰か」という感じになっていました
でも、ジュリアの中では「ベルリンに行けなかったこと」「ポールと出会ったこと」「事故を起こしたこと」が人生の分岐点になっていて、それを起点に「パラレルワールド」というものが生まれています
これは、ジュリアの人生の想起に於いて、「あの時」を選択していると考えていたからなのですね
出来事は偶然の産物ではありますが、その偶然がもたらした決定や事象というものが、人生に作用したと考えている、と言えます
誰しも、人生のあの時を思い起こし、違う選択をしていたら、と思いがちで、それは「うまくいっていない人生」ほど、強烈な妄想を生んでいきます
映画でも、ジュリアがこれらの物語を想起した瞬間は、2052年の80歳の時点で、祝福を受ける直前になっています
この時点のジュリアは、「行きたかったベルリンに行けない」「事故に遭って流産し、ポールと別れる」「ガブリエルとの秘匿の恋」の流れの中にいました
子どもを授かることはできなかったけど、マドレーヌの子どもを抱いたことで、擬似的な出産をイメージすることはできました
でも、マドレーヌは娘ではないので、孫という感覚は少しばかり薄いように思えます
そうした先にあった「祝福」というものは、これまでのジュリアのこだわりを壊し、人生とは何たるかを示していると思います
■偶然が分ける人生の道
前述のように、劇的な選択として「ベルリン行き=父との確執」「ポールに会わない=コンクールの結果」「事故=子どもの有無」というふうに描かれています
でも、その劇的な選択を細かく見ていくと、「落としたパスポートに気づかなかった」「書店で本を落とした時にそばにいた人物が違った」「コインには意思はなかった」という感じになっています
それぞれの事象はまさしく偶然がもたらしたもので、ベルリン行きに関しては、浮かれ気分が荷物のチェックを怠らせたと言えるし、書店では自分の本の積み方とか、バランスを崩す場所などが影響していました
これらの些細なことの後に出来事があって、ベルリンでは教師の制止を振り切ることもできたけどしなかったし、書店でポールと会話をする時も好みでなければ無視をしていたかもしれません
そう言った意味に於いて、きっかけは偶然で、選択は必然という感じになっていて、その時点の自分ならば「その選択(行動)しかなかったと言えるのですね
教師を振り切ってベルリンに向かう勇気がないジュリアは、憧憬の自分として「父に反発する自分」というものを想起していました
ポールと出会わない世界線では、ピアニストの付き人になっているのですが、これは「父親もしくはピアノの先生(=音楽学校の先生)をイメージしたもの」で、服従の先にある希望を感じていたのだと思います
ポールと出会う世界線では、子どもを授かった人生の方が悲惨なことになっていて、それは両親と自分との関係性を引用してしまうからかなと感じました
実際に子育てをすると想像とは違うところに行き着くのですが、この時点のジュリアには「親に反発する自分」とか、「親の期待を裏切らない自分」のようなものが渦巻いていて、如実だったのが「キャリアと子育ての優先順位」というところになっていました
彼女の想像の中で「親になる自分」を優先したのは、これまでの人生の中で「ピアノとの関わり方」というものが受動的だったからだと思います
でも、育児が一段落すると、自分にできることがピアノしかないことに気づくのですね
そうして、両立の道を探さなかったことが悲劇的な結末へと進ませているように思えました
彼女の想起&妄想で面白いのは、事故が起ころうが起こらなかろうが「ピアノを断念する瞬間が訪れること」なのですね
これは潜在的に「ピアノから離れたい自分」というものがあって、それを深掘りしていくと「誰かの期待に応える人生」を否定的に捉えていたことになるのだと思います
そうした思考の先にあったのが生徒テオとの関わりになっていて、彼の特性に気づいたジュリアは「自発的に音楽に関わること」を念頭において動いていました
ここである程度主体性を持って音楽に関わらせるという行動は、かつてのピアノ人生から紡がれた教訓のようなものだったのかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の面白いところは、パラレルワールドの並行表記のうまさで、メインビジュアルとアイテムなどを駆使して、ほぼ同じ時系列で起こっていることを併記しているところでしょうか
1989年のアムステルダムを始まりとして、20歳になった時に「ベルリンでマルクスと出会う」、25歳くらいで「付き人としてヴィクトルに出会う」「バイクの事故」などが起こっています
その後、母の肺がんが発覚する時には「子ども」についての4者4様という感じになっていました
ベルリンでは母は病気のことを隠し、付き人路線では母のために演奏をしていました
事故回避路線ではポールと不仲になり、肺がんを患っている母に迷惑をかけていて、事故路線では母の病気と連れそう中でガブリエルに会うという人生になっていました
それぞれの物語の終わりは「父との和解」「母のためのコンサート」という両親との関係性と、「教え子を育てる」「娘の不調を最優先する」という子どもとの関係性になっていました
この二つがポールとの出会いで分かれていて、彼との出会いは「子どもとの関わりを考える人生」の始まりだったことがわかります
このあたりの4つの人生の起承転結の並びに意図されたものがあって、それが綺麗に分かれているのですね
なので、それぞれの物語にも深みがありながら、3つの妄想を起こすという必然性にも寄与していると言えます
映画は、4つの物語を作った上で再構築したとのことで、それぞれの人生には描きたいテーマがあったのだと思います
それらをうまく演出できていたとは思うのですが、やはり事故で分岐するパートのビジュアルが似ていたので混乱する場面はありましたね
髪型もナチュラルロングになっていて、見た目で分からなくて「子どもがいるとこっち」というふうに、ジュリア単体でわからなかったのは厳しいかなと思いました
子育てしている世界線なら髪をバッサリ切っているとか、常に髪の毛を結んでいるなどの工夫があれば、もっとわかりやすかったように思えました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/388850/review/71b3ad59-9dbe-421a-b74d-bcffa97482de/
公式HP:
https://klockworx.com/movies/13045/