■勢いで持っていく後半は面白いが、リアリティの往復ビンタで疲れてしまいます
Contents
■オススメ度
料理が人間関係に寄与する映画が好きな人(★★★)
フランス移民問題に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.5.11(アップリンク京都)
■映画情報
原題:La Brigade(レストランで働く役割分担が決められたチームのこと)、英題:The Kictchen Brigade
情報:2022年、フランス、97分、G
ジャンル:高級レストランのシェフが施設で働く中で変化する様子を描いたヒューマンドラマ
監督:ルイ=ジュリアン・プティ
脚本:ルイ=ジュリアン・プティ&リザ・ベンギーギ=デュケンヌ&ソフィー・ベンサドゥン&トマ・プジョル
キャスト:
オドレイ・ラミー/Audrey Lamy(カティ・マリー/Cathy Marie:人付き合いが苦手なシェフ、モデルはカトリーヌ・グロージャン/Catherine Grosjean)
フランソワ・クリュゼ/François Cluzet(ロレンゾ・カルディ:施設長)
シャンタル・ヌービル/Chantal Neuwirth(サビーヌ:施設の職員)
Antoine Gourlier(アントニー:施設の職員、ドライバー)
ファトゥ・キャバ/Fatou mata Kaba(ファトゥ:女優志望のカティの親友)
ヤニック・カロンボ/Yannick Kalombo(ギュスギュス:夢はシェフの少年)
アマドゥ・バー/Amadou Bah(ママドゥ・バー:母と仲良しの青年)
ママドゥ・コイタ/Mamadou Koita(ジブリル:夢はサッカー選手の青年)
アルファ・バリー/Alpha Barry(アルファ・バリー:赤いバンダナのコートジボワール出身の青年)
ヤダフ・アウェル/Yadaf Awel(ヤダフ・アウェル:エチオピアから来た優秀な元学生)
ブバカール・バルデ/Boubacar Balde(ブバガール:説明上手なドレッドヘアの青年)
Mohamat Hamit Moussa(モハメド:ハーブ刻み担当の青年)
Irakli Maisaia(イラクリ:ハーブ刻み担当の青年)
Demba Guiro(デンバ:施設の移民)
Sayed Farid Hossini(サイード:施設の移民)
Saikat Barua(サイカット:施設の移民)
Amadi Diallo(アマディ:施設の移民)
Charlotte Léo(アン=マリー:福祉担当の役所の職員)
Chloe Astor(リナ・デリト:カティと喧嘩する料理長)
Christophe Aironi(リナ・デリトの店のマネージャー)
Adele Galloy(アデーレ:TVのレポーター)
Enzo Scaramuzzio(エンゾ:カティの対戦相手、決勝)
Stéphane Brel(ミカエル:「ザ・コック」のホスト)
Aiham Deeb(エイヒム:「ザ・コック」のディレクター)
Marvin Dubart(番組スタッフ)
Jeremy Charvet(番組スタッフ)
Tshinshiku Kamba(ママドゥの母)
Arnaud Cassand(サッカー・ユースのコーチ)
Elisabeth Tissot-Guerraz(サッカーの優勝カップのオーガナイザー)
■映画の舞台
フランス:ダンケルク
ダンケルク
https://maps.app.goo.gl/9LuewE9dgLFrRiLH6?g_st=ic
ロケ地:
不明
■簡単なあらすじ
高級レストランで働くシェフのカティは、自分のレシピをアレンジされたことに腹を立て、オーナーシェフのリナ・デレナと喧嘩になって飛び出してしまう
色んなところに電話を掛けまくっても働き口は見つからず、ようやく見つけた場所は、移民を保護している施設だった
不本意な職場でも自己流を貫くカティは、施設長のロレンゾと衝突しながらも、少年たちに本物の料理を提供しようとする
だが、人手が足りないことは明白で、そこでロレンゾのアイデアに乗せられて、少年たちを助手にすることに決めた
言葉もロクに知らない料理素人たちだったが、施設職員のサビーヌややる気のあるギュスギュスたちの手を借りる中で料理教室を始めていく
そして、有志を選出してチームを結成し、コース料理の一部を作ることに成功する
だが、移民の少年たちは成人すると母国に強制送還されることが決まっていて、そこでカティはある目論見を持って、招待されていた料理番組に出演することになったのである
テーマ:こだわりを貫く目的意識
裏テーマ:移民問題に対するアンチテーゼ
■ひとこと感想
フランスの移民問題と頑固なシェフと言う組み合わせで、料理素人に教えると言うテイストになっていました
見た目はコメディですが、結構移民問題を深掘りしているので、社会派っぽさも感じます
物語は予定調和に見えますが、後半はややファンタジーに感じる部分がありました
実在する人物カトリーヌ・グローシャンさんのエピソードから着想を得たものですが、施設で料理を教えていき、就職のための技能学校を作ったと言うところが現実パートかなと思います
後半のテレビ番組のシーンが唐突で無茶な流れになっていますが、実に映画的でカティの過去を考えるとアリなのかなと思います
移民問題を解決に導くために何をするかということはありますが、職を手につけることさえできれば、強制送還されたとしても何らかの手立てが生まれたのかなと思わせてくれます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
前半と後半でテイストがガラリと変わる印象があって、TVへの出演の経緯は理解できますが、「そのオファーは前の店にいたから来たのでは?」と思わざると得ません
なので、施設に移っても番組に出れるあたりの流れが釈然とせず、唐突感がありました
移民の少年たちに料理を教えていくパートはすごく丁寧で、施設と言えども食を大切にする意義を感じます
また、それぞれの適性から配置を決めていく中で、レストランの内情が描かれていくのは良かったですね
後半のテレビ番組ジャックは結構無茶な印象はありますが、出演の経緯がめちゃくちゃなので、もう少し現実に即した流れがあってもよかったように思います
実際にグロージャンさんに教わった生徒たちが出演したりしていたので、もう少しリアリティに寄せた方が訴求効果があったように思えました
■モデルになった施設について
フランスのドキュメンタリー番組「Les cuisiniers de Treignac 」にて有名になったカトリーヌ・グロージャンさんは、コレーズ(ボルドーの東側)県トレニャックにある未成年移民に料理を教えている女性です
ドキュメンタリーはソフィー・ベンサドゥン監督によって2018年に制作されていて、彼女が生徒たちに料理を教えている様子が映し出されています
トレニャックのホテルスクールはクロード・ポンピドゥ財団(Fondation Claude-Pompidou)が管理していて、14歳から18歳までの移民を受け入れています(ドキュメンタリー映画の時点では72人)
ちなみにこの財団はフランスにある慈善団体で、さまざまな奉仕活動を行っています
この映画に登場する施設の他にも、児童施設、障害者施設など現時点で18の施設を設立し運営しています
さすがにキャサリンさんの情報はネット上にはあまりなく、ドキュメンタリーを観るのが一番早いのですが、どこでどうやったら観れるのかググっても出てきませんねえ
ドキュメンタリー番組を紹介した記事はチラホラ出てきて、カトリーヌさんがどんな感じの人かはわかるかと思います
フランスでは、総人口のうちの10.3%が移民(2021年のフランスの統計)となっていて、2021年の時点で700万人ほどいるとされています
なんとかフランス国内に入っても、野宿を強いられるケースが多く、国境なき医師団がパリとマルセイユにて宿泊施設を緊急提供したというニュースがありました
フランスでは出生率の低下が激しくなった19世紀半ばから移民の受け入れに積極的になっています
第一次世界大戦後にそれが顕著になっていて、それが転機を迎えたのが1974年のオイルショックだとされています
経済不況を契機に移民の受け入れを中止、1976年には「帰国奨励政策」も実施されましたが、ほとんど効果がなかったのですね
この流れの中、2000年代に入ると再び労働者不足が深刻化し、再び積極的に受け入れるようになりました
これによって、移民二世が増えてきて、移民一世と合わせた数は1600万人と推定されています
その後、「ライシテ(laïcité)」と呼ばれる政策を取っていて、流入するイスラム教徒との共存を図るために、「公共の場に宗教を持ち込まない代わりに信仰の自由を保障する」というものになっています
これによって、アフリカ地域からのイスラム教徒の流入が起こり、さらに拗れて反イスラムの動きが活発化しています
コロナ禍以前から移民の失業率は増加し、社会不安を増長させているのですね
様々な問題がある中、2020年のマクロン政権にて、「不法移民の管理強化」の方向に向かっています
これが映画の後半で描かれていた「未成年かどうかを調べる」というようなものへと向かっているとされています
■職能技能の必要性
移民は特殊技能を有しないことから、単純労働に従事させられてきました
不法入国でなくてもできる仕事は限られていて、建設業で27%、警備業で28%という移民占有率になっています
フランスでは就労ビザが必要になるのですが、EU内、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドを含む「欧州経済領域(EEA)」では要りません
その他の地域の人が働くためには必要で、映画の若者たちは「主にアフリカから来ている」という状況があって、なければ強制送還されてしまいます
ビザにもいくつか種類があって、短期ビザ(visa de court sejour)、長期滞在ビザ(visa de long sejour)、企業幹部用のビザ、フランスの子会社で働くための「企業内転勤カード」、「EUブルーカード」と呼ばれる「第三世界諸国の高度な資格を有する人向け」のものまであります
就労ビザを所得するために、「宿泊施設の証明する書類」「パスポート原本あるいは渡航文書」というものが必要になってきます
これらを揃えた上で、雇用主との契約書を交わし、雇用主は労働局に申請し、承認されると「フランス・移民同化局」からフランス領事館に情報が行き、ようやくビザを所得することができます
カティが働いている場所は「ホテル・スクール」と言って、居住証明ができるのと、職能訓練を受けることができる施設ということになります
それでも、全てがうまく行くわけではないというところにリアルさがあったと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、この就労ビザを所得するための職能訓練ぐらいまではリアリティを感じるのですが、「ザ・シェフ」に出演するあたりからファンタジーの世界に入ってしまいます
番組ジャックをして、現状を訴えるという方策に出ていて、それに対してテレビ局がノリノリになるのですね
また、番組への出演依頼が来ていましたが、それはリナ・デレナの店にいた時のもので、番組も有名料理店のシェフという肩書きを欲しがっていました
彼女の料理の腕前は確かで、勝ち上がっていくところは問題ないのですが、彼女が施設勤務のシェフの状態で出演できた経緯というものが謎でした
おそらくは「リナ・デレナのシェフ」という肩書きのまま番組に出演しているのですが、まだ勤務しているかを確認せずに出演させるあたりがグダグダで、準決勝から決勝へとステージが変わって他ので、収録と放送時間にはある程度のタイムラグと期間が生じていることになります
リナ・デレナがそれを知らないままというのが不思議で、彼女のキャラだとレストラン名を騙っていることに対する反応が皆無というのは不思議なことだと思います
これらのおかしなところを完全スルーして、勢いだけでエンディングまで持っていくのですが、それよりは「出演の意向を伝えた時に施設シェフだから断られる」という流れがあった方が自然だったでしょう
「今はあの店にいないが出ることはできるのか?」という問い合わせは普通のことで、そこで番組プロデューサーがどう考えるかというシークエンスが必要になります
あの番組のプロデューサーは「移民の訴えをそのまま流す」という思想信条があったので、カティの現在を知るとそれでも出演させそうな気がします
そして、問題提起を前面に押し出した社会的な放送回を作り上げることも可能だったように思えました
そうした流れの中、施設シェフとして台頭し、その放送を見ていたリナ・デレナが悔しがるというテンプレートの方がもっとコメディ寄りになったと思います
また演出次第では、映画を観ている人にも問題を考えてもらうきっかけになるように思えました
後半が「放送事故レベル」の演出で興味を引きつけることになるのですが、それがフランスのテレビ業界でOKなのかはわかりません
日本だとスポンサーガーなので無理でしょうが、あの放送事故を流せるのなら、正規のルートでもワンチャンありなのかなと思ってしまいます
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/388529/review/ec288aa0-1e8d-402d-84aa-e5f969d1f0fd/
公式HP: