■大枠は大味で、細かなディテールはリアルという、実録系フィクションの鑑のような映画でした
Contents
■オススメ度
ジェラルド・バトラー映画が好きな人(★★★)
中東系の混沌映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.23(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Kandahar
情報:2023年、アメリカ、119分、G
ジャンル:CIAの極秘任務がバレて逃走するスパイを描くアクション&スリラー映画
監督:リック・ローマン・ウォー
脚本:ミッチェル・ラフォーチュン
原案:ミッチェル・ラフォーチュン/Mitchell LaFortune
キャスト:
ジェラルド・バトラー/Gerard Butler(トム・ハリス:CIAの秘密潜入捜査員)
ナヴィッド・ネガーマン/Navid Negahban(モー/ムハンマド・ダウド:巻き込まれるアフガニスタン系アメリカ人の通訳)
Reem AlHabib(アデラ・ダウド:モーの妻)
アリ・ファザル/Ali Fazal(カヒル・ナシル:トムを追うパキスタン情報局ISIのエージェント)
ラヴィ・アウジラ/Ravi Aujla(シラージ・アガ:ISI幹部、カヒルの上司)
Najia Khaan(ナハイ・ホセイニ:カヒルの恋人?)
バハドール・フォラディ/Bahador Foladi(ファルザド・アサディ:イラン治安部隊の責任者、大佐)
ヴァシリス・コウカラニ/Vassilis Koukalani(バシャール・ハマダニ:イラン政府の高官、ファルザドの上司)
ニーナ・トゥーサン=ホワイト/Nina Toussaint-White(ルナ・クジャイ:イラン政府に監視されているイギリス人ジャーナリスト)
エルナーズ・ノルージ/Elnaaz Norouzi(シナ・アサディ:ファルザドの妻)
タラヴィス・フィメル/Travis Fimmel(ローマン・チャーマーズ:CIAのハンドラー、トムを支援するドバイ在住のCIA)
マーク・アーノルド/Mark Arnold(マーク・ロウ:CIA幹部、作戦の責任者)
コーリー・ジョンソン/Corey Johnson(クリス・ホイト:CIA幹部)
トム・リス・ハリーズ/Tom Rhys Harries(オリバー・アルトマン:トムの相棒の潜入捜査員)
レイ・ハラティアン/Ray Haratian(イスマイル・ラバニ:金で動く軍閥、ヘラートをビジネスで攻撃した男)
ハキーム・ジョマー/Hakeem Jomah(ラソール:カヒルと手を組むタリバンの幹部)
Fahim Fazli(タリバンの司令官)
Fouad Hakeem(クエッタ:タリバンの長老)
オリヴィア=マイ・バレット/Olivia-Mai Barrett(アイダ・ハリス:トムの娘、17歳)
レベッカ・カルダー/Rebecca Calder(コリーヌ・ハリス:トムの妻)
Ammaar Mohammed Sabbah(砂漠の少年)
Moayad Abdulrahman Sabah(砂漠の少年)
■映画の舞台
イラン:テヘラン
イラン:コム
https://maps.app.goo.gl/27gg8wAKbtHqWzMV7?g_st=ic
アフガニスタン:カンダハール
Kandahar
https://maps.app.goo.gl/mQgo2Av1AfjqmgFE6?g_st=ic
アフガニスタン:
ヘルマンド州/Helmand
https://maps.app.goo.gl/SxCwgyriCTm7ZA1s9?g_st=ic
ヘラート/Herat
https://maps.app.goo.gl/PyUiBZbDrQUnSPLs9?g_st=ic
デララーム/Delaram
https://maps.app.goo.gl/fPeaKceU5QjizVDp7?g_st=ic
ドバイ
ロケ地:
サウジアラビア
ウラー/Al-‘Ula
https://maps.app.goo.gl/nikjML7LgnvXAVHv8?g_st=ic
ジェッダ/Jeddah
https://maps.app.goo.gl/WZ78tEFxUbKMnBb46?g_st=ic
■簡単なあらすじ
イランのコムに潜入している秘密捜査員のトムとオリバーは、電気業者を装いながら、配線にある機械を取り付けていた
それは、コムにある核施設をモニタリングできるもので、CIAは遠隔操作にてメルトダウンを起こそうと考えていた
怪しまれる中でも任務を完遂した2人だったが、CIAの潜入がマスコミにリークされて追われる身となってしまう
トムは依頼人のローマンを頼りながら、カンダハルに向かうことになり、現地の通訳モーと合流することになる
モーは事情を知らされぬまま同行させられるものの、トムたちを頼らざるを得なかった
トムには莫大な賞金が掛けられ、パキスタンのISI、イラン政府に加えて、軍閥やタリバンなども彼を追う
カンダハルに輸送機が到着するのは30時間後
トムは週末に行われる娘アイダの卒業式にどうしても参加しなければならない理由を抱えていた
テーマ:アフガニスタンが一つになれない理由
裏テーマ:恨みの連鎖
■ひとこと感想
ジェラルド・バトラーが潜入捜査官という、死ぬ可能性が限りなく低い案件となっていました
実録に脚色を加えたものですが、事実の部分がどこにあるのかわからないくらいに荒唐無稽な物語になっていました
イラクのコムにある核施設を遠隔でメルトダウンさせるとか、どこからどう見ても虚構にか見えないのですが、その後の逃走劇がむしろ事実ベースなのかなと思ってしまいます
巻き込まれた通訳は可哀想ですが、その先に待っていた展開も本当ならば凄い偶然だなと思います
映画では、アフガニスタンが一つになれない理由に言及されていて、誰もが自分自身のために裏切りを繰り返しているという構図がありました
それでいて、目には目をという連鎖が行われるので、その流れが途切れることはないでしょう
映画的には希望が描かれますが、それを見事に踏み躙っているあたりも事実なのかどうか勘繰ってしまいますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
てっきり実録系かと思っていたのですが、開始早々かなりの脚色がなされているように思えました
潜入捜査はリアルでも、核施設遠隔爆発あたりで嘘っぽさが満開になっていましたね
このあたりは後々ゆっくりと調べていきたいと思います
映画では、同行するモーの悲哀を中心に描き、彼の街をビジネスで爆撃した張本人と対面することになります
そこで彼は赦すという選択をするのですが、その後の展開で「撃つべきだった」という後悔が紡がれます
映画のオチは結構無茶苦茶ですが、越権行為でCIAの指揮官がどうなったのかはわかりません
と言うよりも、あの行為で戦争が始まっても不思議ではないので、あまりにもファンタジックな終わりになっていたように感じました
■元ネタについて
本作の元ネタは脚本を務めたミッチェル・ラフォーチュン(Mitchell Lafortune)の体験ということで、彼は元アメリカ国防省の局長として、中東に何度も派遣された人物で、元イギリス軍の少佐でもありました
その過去2回のアフガニスタン、パキスタンの派遣を元に描かれていて、国防情報局(DIA)の上級政策立案者とイランの悪影響について取り組みをしていました
現在は、アメリカの外交政策と中東の複雑な現実を、正確に映画に反映させようと取り組んでいます
また、9.11以降の暴力や過激化、退役軍人に対する戦争の影響などを調査するプログラムに参加されています
トム・ハリスのモデルは彼が見てきた何人かの人にインスピレーションを受けたもので、愛国心がありながら、危険やアドレナリンを求め、責任感と正義感にあふれた人物として描写されています
本作では、家族を母国に残して危険な前線にいるトムを描き、それは誇張でもなく、同じような人はたくさんいるのですね
また、監督のインタビューでは、モー役のナヴィド・ネガーバンを含めた多くの人々は、実生活で遭遇したことが反映されていると書かれています
それゆえに、完全なる虚構とは言い難い部分があって、それだけで緊張感というものが生まれる下地があると言えます
これらの内容を完全フィクションで再現することは難しく、リサーチを重ねても細かな描写までは辿り着けません
一見すると事実ベースなのかと思うぐらいにリアリティがあるのは、2回の中東派遣で得た体験というものが反映されているからでしょう
また、本作では「アフガニスタンの変わらない理由」を自国民の言葉で訴えるというシーンがあり、それは同時にアメリカを含む多くの国の介入によって起こっていることだと仄めかされています
■映画の背景について
映画の発端の舞台となるイランは、1970年にNPTに加入し、1974年にはIAEA(国際原子力機関)との間で、包括的保障措置協定を締結しています
ロシアの協力によって、プシュールに100万キロワット級の軽水炉の建設を始め、2002年にはナタンズとアラクにある大規模原子力施設の建設が明るみになっています
これによって、IAEAはイランの核開発に関する問題が表面化することになりました
イランは核開発ではないと主張し、全ての原子力活動は平和目的であると主張し、2003年にIAEAに対して申告書を提出し、同年12月には追加議定書に署名するなどの行動を起こしています
ですが、発覚までに長期間にわたってウラン濃縮やプルトニウム分離などを無申告で行なっていたために、かなりの問題になっていました
これらは外務省のホームページに詳細が記載されているので、URLを引用しておきます
↓外務省HP「外交政策>軍縮・不拡散>イラン核問題」のページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iran_kaku.html
イランは北朝鮮同様に核開発の疑惑が拭えない国で、その真意は不明となっています
映画では、その施設を特定し、遠隔操作でメルトダウンさせるというファンタジー要素がありましたが、その話にリアリティを持たれるだけの背景があったりします
とは言え、ケーブルに装置を設置して、PCをハッキングして、コントロール下においてメルトダウンを起こせるのかは何とも言えません
これが実現可能なら、世界の多くの各施設は丸裸ということになり、核兵器は施設のない首都向けに配備されるものとなります
実際の各施設が都市部にない理由はこのような危険性のためではありませんが、自国の原子力発電所にミサイルを撃ち込まれるよりも実現可能性の高さは群を抜いていると思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、史実ベースではなく、体験ベースのフィクションということで、そのディテールの細かさを楽しむ内容になっています
でも、フィクションであることを強調するかのように、各施設を遠隔メルトダウンとか、CIAの越権行為でタリバンを空爆というシークエンスが紡がれていました
脚本家は現地に出向いた軍人ではありますが、今回のトムのような任務に就いていたわけではなく、「彼のような人はたくさんいた」というテイストで物語を紡いでいました
むしろ、ローマンの立ち位置が一番近いのかなと思ったりもします
映画は、アフガニスタン内の情勢に関して綿密で、テロ行為によって犠牲となった人物としてモーが登場しています
彼は妻の姉を探すためにアフガニスタンに戻ってきた人物で、現在のアフガニスタンには見切りをつけている人物ということになります
彼の目線では、「裏切りの連鎖が商売になっているから国がひとつになれない」と見えていて、その主たる要因は金で動く軍閥の存在だと感じていました
軍閥(ウォーロード、Worlord)とは、中央の権威なしに民事・軍事を支配した指導者のことで、内乱期の施政者のことを意味します
日本だと、戦国大名などが軍閥にあたるとされています
アフガニスタンの政権とは別に軍閥が多数存在し、それは国益のために動いているわけではありません
映画では「イデオロギーなき金の亡者」という立ち位置ですが、政権に頼れない今回のような任務には最適の存在であると言えます
彼らは組織を維持するために金を欲していて、その為の手段は選びません
モーの故郷ヘラートを攻撃したのもその一環で、それは誰かの依頼の遂行だったというふうにも読み取れます
ある特定地域を支配しているという構図は、国として一体化していないことを意味し、それゆえに渡航するのは危険な地域であると言えます
同週にに鑑賞した韓国映画『極限境界線 救出までの18日間』でも、渡航制限のあるアフガニスタンで誘拐された民間人を描いていましたが、どのような目的や意図があったとしても行ってはならない地域だと思います
今回のトムは特殊任務ですが、MI6から借りたCIAのコーディネイトによる特殊工作員なので、どの機関からの保障も受けていません
ラストでCIAが動いたのはメンツの問題で、実際には見殺しにされるのがオチなんだと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://klockworx.com/movies/kandahar