渇いた先にある人間の心理変化を描いていれば、その解決も描けたのかなと思った


■オススメ度

 

人間らしい生活と公共サポートについて考えたい人(★★★)

子役が上手い映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.6.8(TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

情報:2023年、日本、100分、PG12

ジャンル:給水制限下の地方都市にて、水道料金滞納者に停止執行する水道局員を描いたヒューマンドラマ

 

監督:高橋正弥

脚本:及川章太郎

原作:河林満『渇水(1990年)』

 

キャスト:

生田斗真(岩切俊作:低水執行を行う水道局の職員)

   (少年期:小山蒼海?)

 

門脇麦(小出有希:行方不明になる姉妹の母)

山崎七海(小出恵子:家に残された幼い姉、しっかり者)

柚穂(小出久美子:恵子の妹、天真爛漫)

篠原篤(大林:有希の「今度の人」)

篠原悠伸(有希のマッチング相手)

 

磯村勇斗(木田拓次:俊作の同僚)

佐藤美希(木田の恋人)

 

池田成志(佐々木:水道局料金課の課長)

薬丸翔(村田:局員)

荒谷清水(局員)

青柳弘太(局員)

水間ロン(高岡駿太:局員)

前迫莉亜(姉妹のメッセージ渡す局員)

 

宮藤官九郎(伏見:故意に滞納する中年)

宮世琉弥(今西:故意に滞納する若者)

永瀬未智(今西の彼女)

吉澤健(坂上:傘が売れずに愚痴る滞納者)

竜のり子(坂上の家内)

 

柴田理恵(竹内:小出家の近隣住民)

森下能幸(石川:熱帯魚店の店長)

田中要次(細川:スーパーマーケットの店長)

松村邦洋(姉妹に水を盗まれる住人)

大鶴義丹(加東:岩切の担当刑事)

中村克洋(ニュースキャスター)

千葉雅子(児童相談所の職員)

 

早瀬愛(女子高生?)

早川あひる(女子高生?)

きなこ(女子高生?)

 

尾野真千子(岩切和美:俊作の妻)

吉岡弘樹(岩切崇:俊作の息子)

 


■映画の舞台

 

群馬県:前橋市

 

ロケ地:

群馬県:前橋市

セキネ洋傘店

https://maps.app.goo.gl/pYiaNGW4i8oogFCs7?g_st=ic

 

水族館レインボー

https://maps.app.goo.gl/9uB3coASnGJsmjDNA?g_st=ic

 

群馬県:高崎市

今万人珈琲

https://maps.app.goo.gl/xaZunn9kihoEHhHN7?g_st=ic

 

群馬県:みどり市

双葉食堂

https://maps.app.goo.gl/u1sq6Fwt7dczJqQ77?g_st=ic

 

栃木県:宇都宮市

オリオン通り商店街

https://maps.app.goo.gl/G1eizq9vhEdBFck56?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

群馬県前橋市の水道局に勤める岩切俊作は、料金滞納者に「停止執行」をする日々を過ごしていた

同僚の木田とともに、滞納者の自宅を訪れる岩切は、妻子と別居状態になっていて、私生活もうまくいっていない

 

ある日、母子家庭の家に出向いた岩切は、態度の悪い母親から悪態を吐かれる

だが、停止執行をしようとしたその時、彼女の娘二人が帰宅し、岩切は「1週間待つ」と猶予を与えることになった

 

姉妹は学校にも行かず、付近の川辺で遊んだりしていて、母からもらうわずかなお金でやりくりをしていた

だが、ある日を境に母は家に帰らなくなり、やむを得ずに停止執行もされてしまう

 

近隣住民も気にかけるものの、母を信じて疑わない姉妹は、行政を含む全ての大人を信用していなかったのである

 

テーマ:人として生活する最低限のこと

裏テーマ:不幸の連鎖

 


■ひとこと感想

 

水道局員が主人公と言う変わった作品で、内容が「料金滞納者への停止執行」と言うトラブル前提に興味を持ちました

地味な作品ではありますが、親子関係で悩む岩切と姉妹の構図になっていて、あまり水の必要性を感じなかったと言うのは正直なところでしょうか

 

ライフラインの水は最後の最後に止まるのですが、それを知ってて後に回す人もいれば、悪態をついて払えばいいんだろスタンスで喧嘩を売る人もたくさんいます

そもそも、劇中で比較される「太陽と空気」は「人の手によって人間が使えるものに変えない」と言う性質があるので、飲める水として届き、下水道を整備する費用ということを考えると、払って当たり前の世界でしょう

なので、水道を故意に滞納する意味がわからず、バカを相手にする職業は辛いなあと思ってしまいます

 

映画は、姉妹と関わりを持つことになった岩切が、親子関係の一歩を踏み出そうとするもので、それが「水」とあまり関係なかったのは残念でしたね

てっきり、停止執行の逆恨みのとばっちりを家族が受けて疎遠とか、それらしい関連性があるのかと思っていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

原作は未読ですが、物議を醸したラストになっていて、本作はそれをマイルドに仕上げたように思います

ラストシーンのプール遊びをどう捉えるかですが、そこそこの深さがあったので溺死しないか心配になってしまいます

 

映画は、岩切が「自分に似てきた子どもとどう接したら良いかわからない」という意味不明な状況で妻子と疎遠になっていることがわかります

彼自身が親から虐待を受けていて、同じことをしてしまうのではと考えているのですが、それ以前に関わりを持たないことで起こる弊害というものを軽く見ているように思えます

 

それは、水道料金をわざと滞納する人々のマインドにも似ていて、軽く考えていることが結構重要な意味を持つという共通点があります

後半では、何かを思い立った岩切が奮闘するのですが、あの行動で変わったものがあるとしたら、姉妹の虐待が明るみになったことぐらいなのかなと思ってしまいますね

 


停止執行(給水停止)について

 

水道局には各自治体ごとに「停止執行」をする基準が設けられていて、ググって一番最初に出てきた「三重県亀山市」のものでは、平成17年の1月11日に発令された基準というものがあります

水道課の告示によると、「停止の対象者」は「3月以上滞納している者」となっていて、「停水予告書」というものを送達することになっています

予告書に記載された執行予定日までに滞納額の納付が確認できなかった者に対して執行が行われます

他にも「停水執行の訪問時に家人が不在でも執行する」となっていて、「停水したことを明示する」のですね

 

一応は猶予期間というものがあって、誓約すれば最大30日までは認められるとされています

停水の方法は、映画のような止水栓によるものと、メーターの撤去というものがあるそうですね

また、敷地内での停水を拒否しても「公道」で停水を執行するので免れる方法はありません

 

この他にも東京都、大阪府などの水道局のホームページには「停水(給水停止)」に関するQ&Aが載っています

大阪市では「水道事業給水条例」が法的根拠になっていて、っこれは各自治体にあるものですね

夜中に支払ってもダメで、時間内(だいたい月曜日〜金曜日の9時〜17時30分)になっていますね

ちなみに電気の場合は「支払い期日の翌日から20日目(検針日から50日目」を超えた場合止まるとのこと

ガスも同様で、検針日から50日目となっています

 


勝手にスクリプトドクター

 

映画は、困窮姉妹と子育てブルーお父さんの邂逅になっているのですが、この組み合わせがあまり効果的には思えません

仕事上知り合った姉妹に対して、子育てブルーお父さんが肩入れしてしまう流れが不可思議で、停止執行のプロが毎回幼女に肩入れしていたら話になりません

ここで、岩切の子どもが娘とかならまだわかるのですが、息子なので微妙な感じになっています

 

姉妹はセーフティネットから遠ざけられていたという内容になっていて、これは母親だけのせいでもなかったりします

児童虐待を理解していない大人が多いことと、公務員である岩切ですら通報義務について疎いというものがありました

病院勤務なので、稀に児童虐待の可能性が高い事案にあたることがあるのですが、「通報義務」があることは知っているので、本人の了承なしで通告することがあります

その際に、親族から引き離すことになり、児童相談所から「措置入院」を求められることがあります

 

ちょっと話が逸れましたが、この児童虐待問題がクローズアップされているせいで、岩切の家族問題はあまり深刻に見えてこないのですね

理由も「自分に似てきたからどうしたら良いかわからない」というもので、それに業を煮やした妻が勝手に子どもを連れて出て行っていて、これも一つ間違えば「誘拐」にあたってしまいます

このあたりの細かなところを解消するためには、岩切の子どもを年頃の娘にすることでしょう

別居している設定を無くして、関係が最悪な娘がいるという設定にすれば、幼少期の子育てが間違っていたのか問題と絡めることは可能かと思います

 

停止執行の相手もテンプレートなものが多く、停止執行の実態を描いているという感じはしないのですね

あくまでも岩切の仕事は大変という感じに色分けされていて、彼が病まずに耐えてきていることがあまり反映されていません

このあたりをわかりやすくするためには、「停止執行された人が娘の近しい人」という感じの絡ませ方で、「娘が父の仕事に対して嫌悪感を持つ」というところでしょう

でも、そこまで描くと尺が足りなくなるので、停止執行中の父を見た娘が舌打ちをするぐらいで理解はされると思います

 

映画は、困窮問題を解決していないし、取水制限下での未納という「水道局の運営方針に対する利用者の声」というものもありません

一人ぐらいは「取水制限しているのに金額は同じ(基本料金)」などの言いがかりで払わない人がいても不思議ではなかったりします

日照りによる渇水状態は急な雨で解消されたかのように誤解を与えますが、一時的に降っても何も解消されません

 

何かしらの着地点があったとしたら、岩切が息子と向き合えるようになったということなのですが、この親子間の葛藤が「妻の説明のみ」になっているのが微妙なのですね

妻が夫(父)のことを息子にどう説明しているのかというものもなく、「今じゃないでしょ」という言葉の意図も不明瞭だったりします

妻を納得させるために必要だった岩切の覚悟の種類もわからないので、親子問題の前に夫婦問題が解決しないと、あの家族はダメなんじゃないかなと思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、社会問題を真っ向から取り扱っている感じがする前半と、後半になっていきなり岩切の家庭問題が浮上して、テイストが変わったような印象を受けました

水道料金未納、取水制限による社会問題、ネグレイト、セーフティネットに無頓着で行動しない大人など、てんこ盛りの社会ドラマになっています

空気と太陽と同じように水道もタダで良いという考え自体がナンセンスで、それを戒めるようなこともないのですね

そのまま吸える空気、そのまま浴びることができる太陽と違って、水はそのままでは飲めないし、上下水道の設備やメンテナンスにはかなりのお金が発生しています

 

東京都水道局のQ&Aでは、一人あたり一日にどれくらいの水を使うかという質問があって、そこには平均214リットルと書かれています(トイレの大きい方を流すと6〜8リットル=二人世帯で一日3回流したら40リットル、浴槽貯めると200リットル)

2リットルのペットボトル107本分が1日の使用量なので、単純に1ヶ月で3000本強のペットボトルが必要になります

ちなみにAmazonで1ヶ月分の水(ミネラルウォーター)を買うと、18リットル(2リットル*9本入り)で1000円くらいなので、35万6000円くらいになってしまいますね

さすがに風呂の水や食器を洗う水がミネラルウォーターということはありませんが、月3000円はそこまで高い金額ではなかったりします

 

諸外国と比べると、「家庭用最小口径で10㎡/月の料金比較(上水道のみ)」だと、アメリカのサンティエゴは37ドル(日本は14ドル)、ニューヨークは14ドル、ロンドンは21ドルなどとなっています

このあたりの水道料金と設備関連の詳細に踏み込むのかと思っていたらそうでもなく、それぞれの滞納者に対して「言ったもん勝ち」になっているのは微妙かなと思いました

せめて、引き下がった新人に課長が喝を入れるみたいなシーンで登場するかと思ったら、そんなことはなかったですね

利用者に言い返すとリアリティがなくなりますが、局内で一波乱あって、水道滞納者(予備軍含めて)に対して、ガツンと言った方が良かったように思えます

 

この水道問題が一番のメインにはなっているはずですが、本作の印象だと「親子問題」「親の義務と役割」について時間を割いているように思います

義務を果たさずに声かけられた男にホイホイついていく母とか、妻の申し出に対して頑なに拒否をした挙句に出ていかれる夫とかが描かれていて、どっちも追った結果、微妙な感じになっていると思いました

映画のテイストだと、「親の義務」ということになり、それは児童虐待を含めた扶養義務に対する警鐘を鳴らしているのですね

なので、それをこのケースではどう変えていくかという中で、岩切が自分のケースに結びつけるということが必要になっています

 

彼が起こしたのは単なる公務妨害に留まっていて、水があれば人間関係はうまくいくというテイストになっています

この考え方は間違っていなくて、乾燥がもたらす精神的な負担が「潜在的な問題を浮き彫りにしていく」と考えられます

水田が干からびて生命が死に、そして乾いた土が露出するように、人の心もオブラート(=優しさ)が引き剥がされて、それによって通常は隠しているものが露出する、と言った具合でしょう

でも、そう言った内面の渇きというものも、どのキャラからも感じられず、唯一「母親という水が消えた姉妹」だけが、世界に対する絶望を感じていくという流れになっています

この解決が岩切の公務妨害になるのですが、それで何が変わったかと言えば、「姉妹の中にあった大人への嫌悪感」が揺らいだというぐらいのものでしょう

 

エンディングでは、水で満たされたプールにダイブする二人が描かれますが、施設に行く前に無断で消えるとするよりは、施設に行った先でプールに飛び込むという方が良かったように思えます

原作の絶望よりは希望に満ちていて良いとは思いますが、色々と投げっぱなしになったものが多いなあという印象があって、前半は現実的、後半はファンタジーになっていたのも微妙かなあと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/380197/review/c7672ada-4c36-4593-a011-8668da481d70/

 

公式HP:

https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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