■ブラック・デーモンが登場する理由を掘り下げていけば、もっと面白くなったかもしれません
Contents
■オススメ度
環境保護訴求映画が好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.5(MOVIX京都)
■映画情報
原題:The Black Demon
情報:2023年、アメリカ、101分、G
ジャンル:廃墟寸前の油田に出向させられたエンジニア一家が取り残され、巨大生物に襲われるパニックムービー
監督:エイドリアン・グランバーグ
脚本:ボイセ・エスケラ
キャスト:
ジョシュ・ルーカス/Josh Lucas(ポール・スタージェス:油田開発会社「ニクソン石油」のエンジニア)
フェルナンダ・ウレホラ/Fernanda Urrejola(イネス:ポールの妻)
ビーナス・アリエル/Venus Ariel(アンドレイ:ポールの娘、15歳)
カルルス・ソロルサーノ/Carlos Solórzano(トミー:ポールの幼い息子)
フリオ・セサール・セディージョ/Julio Cesar Cedillo(チャト:石油リグ「ディアマンテ」に取り残されていた作業員)
ホルヘ・A・ヒメネス/Jorge A. Jimenez(ジュニア:チャトの10年来の同僚)
ラウル・メンデス/Raúl Méndez(エル・レイ:現地の住民のリーダー格の男)
Arturo DuvergEl(エル・レイの手下)
Luis del Valle(バーテンダー)
Omar Patin(桟橋の操舵手)
Emilio Vásquez(漁師)
エクトル・ヒメネス/Héctor Jiménez(チョコラティート:現地のボートの操舵手)
エドガー・フローレス/Edgar Flores(クレイジー・アイズ:現地民)
オマール・チャパーロ/Omar Chaparro(ナチョ:タイマーをセットする海中作業員)
Bolivar Sanchez(海中作業員)
■映画の舞台
メキシコ北西部
バハカリフォルニア沖合の石油プラント「ディアマンテ」
https://maps.app.goo.gl/PmizJGKQUAhhAoVp7?g_st=ic
ロケ地:
ドミニカ共和国
■簡単なあらすじ
会社から石油リグ「ディアマンテ」のメンテナンスを任されたエンジニアのポールは、家族を連れてバカンスのついでに現地を訪れた
そこは妻イネスの生まれた場所でもあり、想い出がたくさん詰まっていた
だが、到着すると、泊まったことのあるホテルは廃墟で、寂れた田舎の港町と化していた
ポールはさっさと仕事を済ませようと、単身でリグへと向かう
操舵手のチョコはリグまで行かず、途中からはボートで向かえという
なんとかリグにたどり着いたポールだったが、そこにはチャトとジュニアの二人の現地作業員しかおらず、周囲は原油が湧出し、環境汚染が進んでいた
一方その頃、現地のバーでポールを待っていたイネスだったが、そこに現地民が執拗に声をかけてくる
危険を感じたイネスは子どもたちを連れて沖合に逃げ出す
そして、あろうことにリグに上陸してしまうのである
テーマ:環境汚染が呼び起こしたもの
裏テーマ:サバイバルはみんなの力で
■ひとこと感想
海洋系パニック映画だと思っていましたが、まさかの環境保護ムービーとは思いませんでしたね
サメ(メガロドンという太古の生物らしい)の登場はほとんどなく、ボートを粉砕するだけが見どころになっていました
物語は、バカンスついでにかつて開発した石油リグのメンテナンスをするというもので、きちんとハメられて取り残されてしまいます
しかも、何を考えているのか、逃げ場のない海に家族もやってきて、「バカが足を引っ張るパニック映画の様式美」を見せつけられることになりました
映画は、パニックでも、サバイバルでもなく、環境破壊が神様を怒らせた!という宗教チックな感じがして、助かるためには「ブラック・デーモンを仕留めるしかない」という強引な展開になっています
環境破壊の罰を受けているのに、根本解決をせずに、神様は送った刺客を殺すのですが、それは却って神様を怒らせてしまうのではないかと思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
誰かが犠牲になって助かる系なので、キャラ配置を見れば「父、ジュニアはごめんなさい」「妻、娘、息子はセーフ」になるのは目に見えていましたね
しっかりと、トミーが海に浮かべた小舟から父と思わせるポジションの人形が不自然に海に落ちていましたね
映画は、環境破壊が古のブラックデーモンを甦らせたというもので、もっと復活することになった詳細が「科学的」に描かれるのかと思っていましたが、全くそんなことはなかったですね
通常なら、石油リグの放置によって、生態系に歪みが出たとか、原油の吸い上げによる地殻変動が起きたとか、もっともらしい理由が出てくるのですが、本作ではそういった言及はありません
基本的には「神様怒られた系」なので、その怒りをどう鎮めるのかということになりますが、その方法がブラックデーモンを殺すというのは意味がわかりません
ブラックデーモンはどちらかと言えば海の守り神のようなものなので、それを倒す対象にするのはナンセンスのように思います
映画のラストでは、小舟が雨で転覆するので、おそらくは嵐が来て全員が海に投げ出されてENDだと思いますが、映画はそこまでは描いていませんでした
■トラロック神について
トラロック(Tlaloc)とは、アステカ神話の雨の神様のことで、地上の豊穣と水の神様とも言われています
雹、雷、稲妻、雨を支配する神様で、洞窟や泉、山などに関連づけられています
アステカ神話では、宇宙の四隅は「4つのトラロック」によってマークされていて、上下は天地、左右は時間経過というふうに考えられています
トラロックの語源は「ナワトル語の地球」とされていて、「地下の道」「長い洞窟」「土でできたもの」などの意味があると言われています
トラロック山というものがメキシコのシエラ・デ・リオ・フリオにあり、その山頂で「ヒューイ・トゾトリ(Huey Tozoztli)の饗宴」という儀式が行われます
ちなみにアステカ神話(Aztec Religion)は、アステカ帝国時代にできた宗教で、多神教とされています
先住民のメソ・アメリカ文明の頃に発展し、アステカ暦というものが採択されています
アステカ暦はメキシコ暦とも呼ばれ、サン・ストーンによるカレンダー・ストーンを使い、365日の周期観測と、260日の儀式周期を組み合わせたものになっています
52年で1世紀となっていて、これでライフサイクルが終わると考えられています
260日を20日で分割し、13日を「週」とカウントしています
■環境問題を全面に出した結果
本作は、メキシコの伝承と神話を元にしたパニック映画なのですが、内容は環境問題を重視した構成になっています
ブラック・デーモンも登場しますが、ほぼチョイ役で「主人公たちが閉鎖空間にいる」という状況のために存在しています
アメリカの石油会社がメキシコにやってきて、そこで油田を採掘する中で「アメリカ国外」なので規制がなく、自分たちで基準を定めることができたと説明されていました
その影響で石油リグの不具合が生じ、それが長年放置されていたという内容になっていました
油による海洋汚染は日本の近海でも年間に300〜400件程度起こっているという海上保安庁のデータがあります
「海上保安庁 海洋汚染の現状について」でググると、各年度ごとにまとめられたデータを見ることができます
これが世界規模になると計り知れなくて、石油リグ(プラットフォーム)からの環境汚染の最たるものは、リグから石油タンカーへの移動時やリグ内の漏洩などがあります
また、石油を地上に持って来る際に「Produced Water」というものが生成され、これは塩分濃度が高く、溶解または分離されていない炭化水素が含まれているとされています
この中には重金属や微量の天然放射性物質(NORM=Naturally Occurring Radioactive Materials)が含まれていて、時間の経過ととおに放射性のレベルが上がってきます
重金属には亜鉛、鉛、マンガン、鉄、バリウムなどがあります
映画では、単に地表に漂っている油の問題とか、弁が完全に止まっていないなどの問題を取り扱っていますが、石油リグが通常稼働している時に起こっている環境問題には言及していません
単に老朽化したとか、基準値を超える状態で運用していたなどがあって、それによって海洋汚染が進んで、地元の漁業が立ち行かなくなったというところにとどまっています
彼らが到着した瞬間に廃墟の街になっていましたが、本来なら回想シーンなどを含めて、この地に石油リグが建てられる経緯やニクソン石油内での動きなどの説明を入れるべきでしょう
本作は、単純な閉鎖パニックとして「爆発するリグ」と「海域に潜むブラック・デーモン」を演出に使っているだけで、環境問題を全面に押し出していても、それがかなりふわっとしたものになっています
なので、環境汚染が流出する油の映像という、これまでに誰もが見たことあるけど、その影響力をあまり知らないというビジュアルだけに留まっていて、中途半端に利用しているだけのように思えます
最終的にリグは崩壊するのですが、それによってさらに環境汚染が広がる恐れがあって、脱出できたからOKという物語でもないでしょう
このあたりの雑さが目につくので、環境汚染訴求映画としても最悪の部類に入ると思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、アステカ神話のトラロックの怒りによって、ブラック・デーモンが召喚された、みたいな因果になっていました
現実的な側面だと、原油を採掘する過程で海底に異変が生じ、普段は深海にいたブラック・デーモンが海面近くにまで浮上したという感じになりますね
ブラック・デーモンが海面近くに来たことによって、その海域の魚類などが逃げ出したとか、食べ尽くされて漁業が立ち行かなくなったという問題もあります
あとは、海洋汚染によって、観光業が壊滅的な打撃を受けた可能性はあります
石油リグで生計を立てていた地元民もブラック・デーモンの餌食になることで逃げ出してしまったり、物理的に数が減ったりするのですが、これら一連の出来事は「神様の怒りにふれた人間が受けることになった罰」であると言えます
なので、神様の怒りを鎮めることが最優先のはずなのですが、そのためにどうしたら良いかを地元民が考えないのは不思議でしたね
怒りはリグの解体によって緩和されるとしたら、ニクソン石油が行う爆発は正解になりますが、それよりは進んでいく海洋汚染を止める方向が最適解のような気がします
なので、最適解を探すためにポールたちが動き、ブラック・デーモンの動きを観察することによって、それを知るという流れがあっても良いのかなと思いました
ブラック・デーモンは神の化身なのか、神様が封印していた悪魔なのかははっきりとしませんが、神話的な印象だと「解放された悪魔」になるのだと思います
悪魔は「人間の所業を戒める」よりは、「増長させる」という印象があって、その目的は「ブラック・デーモンにとって棲みやすい環境を作る」ということに繋がります
このブラック・デーモンの思惑というものは、彼の知性がどれぐらいあるかによって変わるのですが、生命は基本的に生存欲求の充足のためには賢い生き物なので、あの海域をブラック・デーモンにとって棲みやすい環境に変えていくことになると思います
ブラック・デーモンが何を糧に生きているのかはわかりませんが、人間の肉を食べ残しているので捕食目的で襲っているわけではないと思います
となると、作業員がいなくなることで起こること、というものをブラック・デーモンが読んでいた、みたいなことになるのですね
作業員がいないことでリグの維持ができなくなり、それによって原油の流出と「Producted Water」の露出が起こる
このどちらかがブラック・デーモンの餌だったら、あの場所に彼が登場し続ける意味はあるのかな、とか考えてしまいます
実際には、単に暴れているだけとか、音がうるさいとかだと思うのですが、知的生命体の方向に持っていくのもありなのかなと思ってしまいました
映画は、ブラック・デーモンの登場が少ないし、伝説で片付けられるし、退治の仕方も雑なので、微妙な感じになっていましたね
そこら辺を突っ込む映画ではないとは思いますが、なんとなく物足りなさを感じてしまいます
これまでの水棲生物に襲われる系は「動物的な行動」ばかりだったので、新しい水棲動物映画を作るとしたら、このような見た目には想像もつかない正体がある、とかでしょうか
あまりにも出来が酷かったので色々と考えてみましたが、もしかしたら既出だったりするのかもしれません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/389172/review/d5020e94-e71e-4ecf-baff-df1f70b1076f/
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/blackdemon/