■視界情報の遮断を共有させてこそ、ホラー映画の真髄であると思います
Contents
■オススメ度
古典的なホラー&サスペンスが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.7(京都みなみ会館)
■映画情報
原題:Occhiali neri(サングラス)、英題:Dark Glasses
情報:2022年、イタリア&フランス、90分、R12+
ジャンル:ある娼婦が事故によって盲目になった後も、何者かに執拗に追われる様子を描いたサスペンス映画
監督:ダリオ・アルジェント
脚本:ダリオ・アルジェント&フランコ・フェッリーニ&カルロ・ルカレッリ
キャスト:
イレニア・パストレッリ/Ilenia Pastorelli(ディアナ:事故で視力を失うコールガール)
アーシア・アルジェント/Asia Argento(リータ:ディアナを支える歩行訓練士)
アンドレア・ゲルペーリ/Andrea Gherpelli(マッテオ:ディアナの利用客)
Gianluca Giugliarelli(パルディ:ディアナの顧客)
Mario Pirrello(アレアルディ警部)
Maria Rosaria Russo(バイヤーニ警部補、アレアルディの部下)
Gennaro Iaccarino(バルダッシ警部補、捜査担当する女刑事)
Guglielmo Favilla(ジェリー:警官、バルダッシの相棒)
Xinyu Zhang(チン:ディアナの事故に巻き込まれる少年)
Cristiano Simone Iannone(神父)
Paola Sambo(孤児院の修道女)
Giusuppe Cometa(ゲームを奪う施設の子ども)
Viktorie Ignoto(冒頭のコールガール)
Maurizio Jiritano(冒頭のコールガールの利用客)
Gladys Robles(マリソル:ディアナのメイド)
Ivan Alovisio(眼科医)
Mario Scerbo(白いバンを目撃するホテルのポーター)
Fabrizio Eleuteri(ディアナの夢に出てくる殺人鬼)
Tiffany Zhou(フェン:チンのいとこ)
■映画の舞台
イタリア:ローマ
フィウミチーノ空港
https://maps.app.goo.gl/E9RAVQq1mHdcLMiG9?g_st=ic
ロケ地:
イタリア:ローマ
■簡単なあらすじ
ローマにて娼婦として生計を立てているディアナは、メイドを雇い、裕福な生活をするほどに顧客を囲っていた
ある日、利用者とトラブルになったディアナは、それから「何者かに付け狙われている危機感」を募らせていた
数日後、ダイアナは怪しげな白いバンに執拗に狙われ、交差点で大事故を起こしてしまう
交差点手前で後ろから追突されたディアナは、そのまま中国人家族が乗る乗用車に衝突し、それによって運転手は即死、助手席に乗っていた女性は昏睡状態になってしまう
唯一、後部座席に乗っていた少年チンは無事だったが、孤児院に送られることになった
この事故によって、ディアナも視力を失い、歩行訓練士哉盲導犬の助けを借りながら生活を続ける
また、チンを不憫に思った彼女は、孤児院を訪れて差し入れをしたりする
そして、抜け出してきた彼を匿うことになるのだが、追突犯の追跡は二人を恐怖のどん底に陥れていくのである
テーマ:執着と執念
裏テーマ:因果応報
■ひとこと感想
娼婦が次々と殺されていくホラー映画なのですが、一昔のテイストがすごくて、かなり古典の映画を見ている気分になりました
地元のミニシアターで上映されていたのですが、サービスデイにも関わらず貸切状態で、違う意味で心配になってしまいます
映画は、態度の悪い娼婦がサイコパスに付け狙われると言うもので、それ以上でもそれ以下でもありません
事故で視力を失った設定の割には、普通に逃げていくし、サイコパスの動機も弱すぎて驚いてしまいます
巻き込まれる人がかなりいるのですが、無防備に正面から轢かれたり、数人殺している相手に軽装備だったりと、なんだかなあと思うシーンもたくさんありましたね
後半は暗いシーンが多くて、何をやってるかわかりにくいのですが、そこまで複雑な映画ではないので、なんとなく想像で補完できてしまいます
面白いかどうかは微妙なところで、殺害の背景が軽すぎるので、正直なところあまりノレない映画でしたねえ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
冒頭の日食を見上げているシーンがあって、その夜に殺人事件が起こるのですが、あれだけ人通りの多い場所で犯行に及ぶのは大胆だなあと思いました
防犯カメラにも大した情報はなく、ホテルマンの目撃証言の方が役に立っていました
コールガールを狙っての連続殺人で、主人公のディアナが狙われるのは「臭い」とバカにしたからなのでしょう
それ以外の数人の犯行も同じ動機なのかはわかりませんが、盲目になった相手まで執拗に追いかけるのは相当な執着を持っていることになります
犯人はブリーダーなので犬の扱いには長けていますが、盲導犬の方が強いのは笑ってしまいます
犯人が仕込んだ薬によって凶暴化したのかはわかりませんが、作品内で一番残酷な殺し方をしたのが犬と言うところがおかしくもあります
■ホラー映画として足りないところ
ホラー映画は、基本的には「閉鎖空間で理不尽な仕打ちを受ける」という下地があって、状況を悪化させるのが「主人公の行動」というところがあります
いわゆる「バカな人がバカな行動をして追い詰められていく」というもので、このパターンは理不尽に見えても理不尽ではないという感じになります
本作の場合は、この派生になっていて、「客を臭いと言ったから狙われた」というもので、客に対する態度はバカな行為と言えるでしょう
でも、その後のつけ狙われるとこは「ディアナの行動によって派生したもの」よりも、もっと理不尽なものになっています
ホラー映画は、ディアナの発言のような起点が存在し、そのあとは「敵の暴力性」によって深みにハマっていくことになります
そのシチュエーションとして、「目が見えない」という状況をセッティングしているのですが、これがあまり効果的とは言えません
それは、観客が「目が見えるから」で、ディアナの恐怖を追体験することができないからなのですね
なので、自分に起こるかもという想定は皆無で、単純に目の前で起こっていることを第三者視点で眺めるという感じになっています
この俯瞰的なホラーの場合、前述のように「キャラクターのバカな行動の連鎖」を楽しむことになるのですが、本作の場合は盲目ゆえにバカな行動というものが起きません
なので、常にハンデがある状態で追い詰められていくのですが、犯人の追い詰め方があまり効果的ではないのですね
それゆえに、あまり怖さを感じることがなくて、犬のブリーダーなのに盲導犬(番犬)にやられて終わるという、犯人側がアホだったという内容になっています
本作の設定で怖いホラーを作るには、ディアナの恐怖の追体験をさせることなのですが、これは本人視点をいかに作るかにかかっています
いわゆる手持ちカメラのような感じで「ぼやけて音だけが見える世界」というものを随所に挿入するのですね
そして、彼女を助けるものを少しずつ奪っていくことになります
犯人はディアナが視えていないということがわかっているので、杖を奪う、盲導犬を除外するなどが効果的でしょう
そして、これを俯瞰的に見せるのではなく、ディアナ目線の暗闇の瞬間に行うことになります
映画的には画面が真っ暗になって、微かな光だけが蠢き、そして犬の叫び声だけが聞こえます
どうやら盲導犬が殺されたみたいだ、という演出をしておいて、その後の俯瞰映像からは盲導犬を除外し、狼狽えるディアナを映していく
杖を探そうとするディアナの先を行く犯人を見せ、杖が折られる音を聴かせる
そうして、少しずつ剥がされていく恐怖というものを演出する必要があるように思えました
■勝手にスクリプトドクター
上記のように、本作は盲目スリラーであるのにその怖さが体験できず、かと言って俯瞰的に見せてもスプラッター度合いは弱くなっています
冒頭の首切りはリアルでしたが、連続殺人犯なので、多くの殺しを見せていく必要があります
そう言った「情報=音」というものが本作の鍵になっていて、その音の根源をできるだけ見せないようにした方が良いと思うのですね
例えば、連続娼婦殺人事件のニュース映像が部屋のどこからともなく流れてくるけれど、それが突然消えてしまう
こう言ったシーンにすでに犯人が近くにいる、という演出に使うのですね
また、犯人はディアナの家を知っているので、家に乱入した際にメイドどのように殺すか、というのも必要になってきます
先ほどのテレビを消したのがメイドだと思っていたら違っていたというように、ディアナを映している映像の奥から「音だけ」が聞こえるのですね
観客は目が見えているので、その視界を奪うために「スクリーンの外側で色々起こっていることをディアナと同じだけの情報量に限定する」ということを行います
そうした積み重ねが、見せていないところで起こっている恐怖の演出になっていくのだと思います
どの場面で誰を殺すかというのは色々とありますが、道を歩いている時にディアナの目の前にいる女が突然殺されるとか、も面白いでしょうね
血飛沫がディアナに飛んでいるけど、彼女は視えないのでわからない
盲導犬だけはひたすら叫んでいる、みたいな状況を作り出すこともOKでしょう
このあたりを踏まえて、犯人が執拗にディアナに固執する理由を考えます
犯人はディアナに罵倒されたという前提はそのままにして、彼女をつけ狙って大怪我をさせます
人がたくさん来たのでとどめをさせず、でも、執拗にディアナを狙います
でも、病院、歩行訓練士などが常にそばにいる状態なので、手を出せません
そんな中、犯人は別の娼婦を買うものの、そこで罵倒されてしまい、その女を殺すことを考えます
その女の殺害現場に「目が見えないディアナ」が遭遇してしまう、という内容です
目の前で女が殺されて、血飛沫を浴びているのにわかっていないのを犯人が見て、錯乱して逃げ出してしまいます
盲導犬は犯人の匂いをそこで覚えます
後日、犯人は目撃者が以前に罵倒された女であると思い出し、そして口封じのために殺すことを決めます
犯人はディアナの家に来て、それに盲導犬が気付きますが、犯人は盲導犬を手懐けるふりをして殺します
その後、メイドを殺害し、ディアナに迫ります
ディアナは「音がしなくなったこと」で異変を感じます
あとは、リーナとチンをどのように絡めるかですが、犯人が侵入してくる時にリータとチンがどこかに行っているという設定にすればいいでしょう
そして、ディアナがもう少しで殺されるという瞬間に、自宅のチャイムが鳴り、チンが帰ってくるという流れを作ります
犯人は潜み、チンは異変に気付きます
なんとかディアナに合流したチンは、そこで通報し、犯人は一旦逃げることになります
二人は安全を求めてリータのところに逃げます
リータのところには訓練中の盲導犬がたくさんいて、以下は同じでもOKかなと感じます
盲導犬が犬の血の匂いを犯人から嗅ぎつけて、仇だと思って襲うというのもありかもしれません
リータが殺されるかどうかは難しいところですが、助かる方が良いかなと思います
サラッと考えてみましたが、本作で必要なのは「音と視界の演出だった」のではないかと思いました
また、犯人がディアナを執拗に襲う理由が弱かったので、目撃者にするというのがわかりやすい流れかなと考えました
以上、素人が即興で考えた「さいつよ」でした
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は古典的なホラーになっていて、無能な警察、有能な盲導犬、犯人は逆恨みという、かなり「主人公に近い領域」で物事が進んでいます
ディアナ自身の性格は最悪で、共感しづらいゆえに「職業的な貴賤感覚」が働き、「かわいそうな被害者」となるまでに時間を要します
このあたりの設定が勿体無くて、盲目と娼婦のどちらを主眼に置きたかったのかはなんとも言えません
犯人の動機を「恨み」にするために上から目線女にしたのでしょうが、これは娼婦でなくても、キャリアウーマンが路上で唾を吐くとかでも同じ効果になってしまいます
犯人側をもっと掘り下げるなら、某映画のパクリになるかもしれませんが「娼婦は社会の悪だから排除する」という方向性でしょうね
でも、本作は「盲目>娼婦」だと思うので、そのあたりの無駄な設定は必要ないと思います
映画の冒頭では「日食」がわざわざクローズアップされていたので、これが何かの取っ掛かりになるかと思いましたが、そんなことはなかったですね
もっともポピュラーな使い方は「犯人がディアナと同じように盲目になる」というもので、音に対して敏感な彼女が「暗闇を利して逆転する」というものでしょう
ラストで襲われるあたりで、殺されかけたリーナが家のブレーカーを落として真っ暗にするというのもありだと思います
「音」に敏感なディアナと、「匂い」に敏感な盲導犬がいて、この共闘によって犯人を倒すというのが自然な流れになるでしょう
映像的に面白くなるのかはわからないのですが、外を大雨で雷がなっている状況にすれば、瞬間的に部屋の様子が見えるとか、月明かりが差し込んでいるところで視覚情報が得られる、ということも考えられます
ホラー映画でもっとも大切なのは、グロい見た目でも、追い詰められている人を見るだけでもなく、いかにして没入させて「被害者と同じ恐怖」を体感させるかだと思います
本作の場合は「視覚情報の遮断」という共有しづらいものなので、色んなアイデアや演出方法が必要になってきます
何かの教訓を与える必要もなく、「目が見えるはずなのに、目が見えない怖がが理解できた」というところに昇華することが目的だと思うので、それがなかったのは残念だったと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/387136/review/b43068eb-72c2-49dd-8dbe-00c89773b970/
公式HP:
https://longride.jp/darkglass/index.html