■実質的には、事件を受けての著者の選択だけど、妥当に思えるところが業の深さなのかなと思ってしまいます
Contents
■オススメ度
女性の話をじっくりと聞ける男(★★★)
コミュニティ内の女性の生き方について考えたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.6(京都シネマ)
■映画情報
原題:Women Talking
情報:2022年、アメリカ、105分、G
ジャンル:ある宗教コミュニティにて、男性の暴力に対する議論をする女性たちを描いた社会派ヒューマンドラマ
監督&脚本:サラ・ポーリー
原作:ミリアム・トウズ/Miriam Toews『Women Talking(2018年)』
キャスト:
ルーニー・マーラ/Rooney Mara(オーナ・フリーセン:「話を整理しましょう」妊婦、40歳、オーガストの想い人)
クレア・フォイ/Claire Foy(サロメ・フリーセン: オーナの妹、「絶対殺す」被害者、35歳)
Emily Mitchell(ミップ:サロメの娘、3歳)
Nathaniel McParland(アーロン:サロメの息子、15歳)
ジュディス・アイビ/Judith Ivey(アガタ:オーナとサロメの母、「信仰」一筋、70歳)
リブ・マクニール/Liv McNeil(ナイチャ:サロメの姪、「若い男を見た!」、投票の絵を描く15歳)
ベン・ウィショー/Ben Whishaw(オーガスト・エップ:書記の男、教師、密かにオーナを想っている青年)
フランシス・マクドーマンド/Frances McDormand(スカーフェイス・ヤンツ:「何もしない」、沈黙の50歳)
キーラ・グロイオン/Kira Guloien(アナ:スカーフェイスの娘、30歳)
シャイラ・ブラウン/Shayla Brown(ヘレナ:アナの娘、16歳)
シーラ・マッカーシー/Sheila McCarthy(グレタ:馬を愛する60歳、「ルースとシェリルの譬え話」をする)
ミシェル・マクラウド/Michelle McLeod(メジャル:グレタの娘、「戦う→去る」に意見を変える33歳)
ジェシー・バックリー/Jessie Buckley(マリチェ・ローウェン:グレタの娘、サロメに反対する29歳、ヘビースモーカー)
ケイト・ハレット/Kate Hallett(オウチャ:マリチェの娘、16歳)
Lochlan Ray Miller(ジュリアス:マリチェの息子、5歳)
Eli Ham(クラース:マリチェの暴力的な夫)
オーガスト・ウィンター/August Winter(メルヴィン:町のトランスジェンダーの青年、子どもたちの遊び相手、25歳)
Vivien Endicott Douglas(クララ:出ていくことを教えられる町民の女性)
Marcus Craig(コーネリアス:町の子ども)
Emily Drake(黒髪の町の女性)
Caroline Gillis(町の女性)
Stephen Leupolt(ピーターズ:メノナイトの司教)
Will Bowes(国勢調査の男)
■映画の舞台
2010年、
自給自足の生活するキリスト教一派の住むとある村
モデルは2005年〜2009年に起きたボリビアの事件
マニトバの植民地、メノナイトのコミュニティ
ロケ地:
カナダ:オンタリオ州
トロント
Enercare Centre
https://maps.app.goo.gl/5VTAhSVZgCTShndX9?g_st=ic
Pikering/ピカリング
https://maps.app.goo.gl/tTRpw67HuL8CJJF67?g_st=ic
■簡単なあらすじ
2010年、あるメノナイトの宗教コミュニティでは、思想信条に反した男性たちの蛮行が繰り返されていた
それは、馬の鎮静剤を女性に使用し、不覚のうちに犯すと言うもので、多くの女性が性被害に遭って、子どもを身籠るなどをしていた
ある日、サロメの家に若い男が押し入り、それをサロメの姪のネイチャが目撃し、それによって、男たちは捕えられた
男たちは保釈金を求めて町を留守にすることになり、この2日間を使って、女性たちは「今後どうするか」を議論することになった
ヤンツ家のスカーフェイスは何もしないと議論を放棄し、被害者のサロメは激昂し「殺す!」と昂る
レイプによって身籠ったオーナは、この町のシステムが男たちにそうさせているのでは?と冷静な議論を呼びかける
「去るか戦うか」で論調が分かれる中、それぞれが抱えてきた闇が暴露されていく
テーマ:信仰と感情
裏テーマ:信仰がつくる風土
■ひとこと感想
ある宗教コミュニティにて実際に起こった事件で、2010年の事件だと言われると時代錯誤感というものを感じさせます
元の事件は南米のボリビアで起きたものなので、それをモチーフにしている
カナダのマニトバ州から逃亡した原理主義者のメノナイトによって設立されたコミュニティが舞台となっていて、このあたりの宗教的な背景がわからないと何を議論しているのか分かりにくい部分がありました
映画は、「戦うVS去る」の議論を延々としていて、冒頭から「システムの欠陥」などに言及され、ほとんど話は進みません
彼女たちの感情が全部露わになってから始まる感じになっていて、それぞれが胸の内に色んなものを抱えているので、それが議論の妨げになっているように思えました
女性の脈絡のない話をじっと聞ける人向けの映画になっていて、試される映画と言う感じですね
女性は人ごとではないので共感できそうですが、どの派に属するかで物議を醸しそうな気がしないでもないですね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
カナダ人の作家の原作になっていて、ボリビアにあるマニトバ居住区で起きた事件がネタ元なのですが、小説も映画も「架空の宗教コミュニティ」と言うことになっていました
カナダから南米に移住したメノナイトのコミュニティなので白人社会なのは理解できますが、ある程度の知識がないと「背景」が全くわかりません
一応は「レイプ犯を赦すかどうか」なのですが、女性たちだけでは生きていけないと考える容認派と、「絶対殺すマン!」と、「去る以外にあり得ない派」の議論になっていましたね
個人の中でどうするか決まっていて、コミニュティ全体でどうするかを「3つの家族」が代表して議論するのですが、この設定自体が無茶だなあと思って見ていました
内容は退屈極まりないのですが、それは背景の説明を省略して架空にしているために起こっているように思います
メノナイトの原理主義を背景にした、男尊女卑と暴力を信仰的にどうするかという話にもなっているので、それを濁す意味はあまりないように思えました
■実際に事件についてあれこれ
原作小説はカナダ人作家のミリアム・トゥーズさんで、彼女自身が「実際の出来事に対する想像上の反応」と語っています
ガスを使ったレイプが起きたのは、ボリビアの人里離れたリバ・パラシオスにあるメノナイトのコミュニティで起こりました
2005年から2009年の間に、100人以上の少女と女性が被害に遭っていて、目覚めた時にアザなどがあって発覚しています
当初は否定されていましたが、動物用の麻酔剤を噴霧して意識を失わせたことが明らかになったとされています
2011年に地域住民の男性8人が裁判にかけられ、有罪判決を受けています
被告人のうち7人は加重強姦で有罪判決で25年の判決を受けています
獣医師のピーター・ウィーブ・ウォールは、牛の麻酔に使用する鎮静スプレーを作る材料を提供し、12年半の懲役刑を言い渡されています
小説は、この事件にインスピレーションを受けたもので、女性の生き方についての論議の舞台として引用しています
■メノナイトとは何か
メノナイト(Mennonites)とは、再洗礼派として知られるキリスト教会のコミュニティの一つのことを言います
運動の創始者であるメノ・シモンズ(Menno Simons)が由来となっていて、急進的な宗教改革の改革派キリスト教についての書籍「The Complete Works of Mennonite Simons/The Reason Why Mennonite Simons Dose Not Cease Teaching and Writing(メノ・シモンズが教育と執筆をやめない理由(シモンズ全集に所収)」を執筆し、その教えを形式化した人物とされています(1536年頃にシモンズは教会を去り、再洗礼運動の指導者となっています)
その後、1632年にオランドのドレドレヒトの会議にて、オランダ人メノナイトの指導者による「宗教的信念の声明」がなされました
18ヶ条にも及ぶ内容は、「信者のみの洗礼、奉仕の象徴として足を洗うこと、教会の規律、破門された者の忌避、宣誓をしないこと」などが盛り込まれています
いわゆる「真のキリスト教」をより強調することによって、他の宗派からの迫害されることになってしまいました
「再洗礼派」というのは、幼児洗礼を拒否していて、ローマ・カトリックなどで幼児洗礼を受けた人が再度自分の意思で洗礼を行う、ということに由来しています
この考え方の根本には、「生まれながらに教会の会員であることに対する義務化」に反対していて、個人のイエスへの信仰は本人が公に認める場合によるものだ、というものがあります
また、新約聖書と矛盾するという考えからもたらされていて、また政教分離を強く唱えることで、反発を生んできたとされています
オランダで派生したメノナイトは、その後迫害の歴史を辿り、17世紀頃にはドイツの東へと追いやられます
その後、1683年頃にアメリカのペンシルバニア州ジャーマンタウンにドイツ系移民として定住し始めます
18世紀に入り、10万人ほどのドイツ人がこのペンシルバニアに移住、1812年から1860年頃に西のオハイオ州、インディアナ州などへと移り住みます
その中にカナダへ移住したメノナイトもいて、オンタリオ州などに定住地というものがありました
カナダのメノナイトの本部はマニトバ州ウィニペグにあります
インスパイア元の事件は、カナダからボリビアに移住したメノナイトのコミュニティで起こった事件となっていて、ボリビアのメノナイトの99%はカナダから移民となっています
ややこしいのですが、このボリビアの中にあるマニトバという居住区があるのですね
ちなみにマニトバ居住区の場所は↓になります
https://maps.app.goo.gl/PnC6V9RXBecJZLEP8?g_st=ic
メノナイトは質素な生活を重んじていて、自動車の使用は禁止、トラクターのタイヤは鉄製のみ、ゴム・タイヤの使用は外界との接触を容易にするために重大な罪とされています
男性は髭を生やすのを禁止され、女性は決まったデザインのドレスを着用しています
これらの生活が「救いの道であり、魂の拠り所である」と信じていて、ここの住民たちは忠実に規律を守っているコミュニティであるとされています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、これらの事件の背景からインスパイアされたものですが、会話の背景や内容などからは濃い宗教色を感じてしまいます
何もしない派は「メノナイトの教義に殉ずる」という考え方ですし、去る派は「教義に殉じないコミュニティにはいられない」という考え方になります
根底に「性暴力自体への反発と教義に対する冒涜が重なっている」ように思えるので、行くも止まるも戦うも、それらの価値観に付随していると言えます
なので、無神教の私などからすれば「自分たちを助けなかった神様にこだわる理由」がわからず、出ていく以外に選択肢があることの方が不思議に思えました
出ていく派としては、腐敗したコミュニティから離脱して、自分たちでちゃんとしたものを作ろうと考えているし、そこに残る子どもたちにちゃんとした教育を受けさせるためにオーガストを残すことになっています
コミニュティが堕落した要因が「システム=メノナイト」にあるのか、「赦す=受け入れる」と考えてしまう男性陣にあるのかは微妙なところでしょう
もしかしたら、あまりにも規律の厳しい宗派ゆえの、外界と通じている男性陣の憤懣というものがそうさせたとも言えます
このあたりの議論をしていくと、宗派の存在意義そのものの話になってしまうのですが、本作の前半でもこのような話題というのは登場していました
女性たちが男性から切り離されても生きていけるかどうかはわかりませんが、現代の話でもあるので、昔ほど無茶ではないと思います
でも、あらゆる文明的な発明の取り扱いに厳しい宗派でもあるので、その教義のまま女性だけで生活するというのは苦難が多いように思います
とは言うものの、生活水準をどこに持っていくかというところがあるので、多くを望まなければ適応していけるのかなとも考えられます
映画は、男性から暴力を受けて不信感が募った時、女性はどういう行動を起こすべきかという議論を行なっています
生活のために我慢するのか、精神が病むことを恐れて去るのか、前提条件を覆すために戦うのか
この3つの考え方は、それぞれにメリットとデメリットがあります
そんな中で最適解を考えていくのですが、答えを導き出すための前提条件として、「男性はこの事件を機に考えを改めるかどうか」というものがあるのですね
彼女たちの答えは「変わらない」というもので、戦う意味もないので去ることを選びます
残された女性たちは「さらなる虐待」に晒されることになるのですが、彼女たちは「赦す=受け入れる」と思われても、その土地で生きることを選んでいます
その後、どうなるかは描かれませんが、女性一人あたりの労働も増えますし、性被害がこれで収まる可能性はゼロでしょう
労働力の低下によって、男性の満足度も落ちることが考えられ、それによって抑圧はさらにひどくなると考えられます
女性が団結して戦って、そのコミュニティのパワーバランスを考えることが一番望ましいのですが、その未来をリアルに感じられないのが現実的でもありました
このあたりはその場にいる人々の感覚だと思いますが、事件の詳細を追っていくと、去るというのが一番の最適解に思えるので、著者もそう考えることになったのかな、と感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386100/review/6090c820-8a33-4a7c-9834-c9cab3af6e1e/
公式HP: