■この映画におけるホラー要素は、被り物のような分離された怖さであるように思います
Contents
■オススメ度
とりあえずホラー映画なら観る人(★★)
西畑大吾くんのファンの人(あまり活躍しません)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.20(イオンシネマ四條畷)
■映画情報
情報:2023年、日本、109分、G
ジャンル:VR研究班が島の呪いに巻き込まれるホラー映画
監督:清水崇
脚本:いながききよたか&清水崇
キャスト:
西畑大吾(片岡友彦:天才脳科学者、VR研究チーム「シンセカイ」の調査員)
生駒里奈(福澤未央:「シンセカイ」のプログラマー)
平岡祐太(山本春樹:「シンセカイ」のプログラマー、最年長)
水石亜飛夢(北島弘治:「シンセカイ」のエンジニア)
川添野愛(三浦葵:「シンセカイ」のプログラマー、衛星スキャン担当)
山本美月(園田環:父の死因を調べる娘)
大場泰正(園田哲夫:環の父、「シンセカイ」の被験者)
伊藤歩(井出文子:脳科学者)
當間あみ(金城リン:島の女子中学生)
國武綾(金城信子:リンの母)
笹野高史(新納シゲル:「シンセカイ」を島で世話する老人)
(幼少期:村上秋峨)
吉田妙子(南トキ:シャーマン、シゲルの友人)
なだぎ武(肥後:島の役場の職員)
大谷凛香(秋奈:肥後の妹)
祷キララ(赤い女/イマジョ)
福永武史(島の住人)
BBゴロー(島の住人)
和田光沙(島の住人)
■映画の舞台
日本のどこかにある島・忌怪島(架空)
ロケ地:
鹿児島県
奄美大島・加計呂麻島
https://goo.gl/maps/XHZ5iHSerSdm4Ewv7
蒲生神社
https://goo.gl/maps/HMK2E1UbndCn4ctVA
来々夏ハウス
https://goo.gl/maps/4wVm9QqTrXfdFjzU6
■簡単なあらすじ
VRの研究を行っている脳科学者の片岡友彦は、研究者仲間の井出文子のチームに参加するためにある島を訪れた
そこでは、VRによって島全体をスキャンしていて、仮想空間でそれを再現しようとしていた
片岡は独自のプログラムをリンクさせ、聴覚などのこれまでにない要素を反映させることに成功する
だが、井出文子は何らかの事故により死んでいたことが判明し、彼女の記録を再生すると妙な人影が映り込んでいることが判明する
また、井出の研究の被験者と思われる男性も同じ時刻に同じ死に方をしていることが判明し、片岡たちは真相の究明に向かうことになった
その頃、被験者・園田哲夫の娘・環が島を訪れ、片岡は彼女と行動を共にすることになった
島のシャーマンや世話係のシゲルの助けを借りていくうちに、島には「呪い」があることが発覚する
それは「イミジョ」と呼ばれる女の幽霊で、かつて島民からいたぶられて怨霊と化したことがわかるのであった
テーマ:連鎖する呪い
裏テーマ:VRの先に入り込んだもの
■ひとこと感想
VRの世界に幽霊が登場という新しいタイプのホラーなのですが、ホラーというよりはミステリーに近い印象がありました
片岡は研究仲間の井出からの誘いを受けて島に上陸しますが、上陸するまで彼女が死んだことを知らなかったりします
このあたりの入り口がかなりざっくりしていて、なぜか隠キャのようなコミュ障設定が必要だったのかはよくわかりません
島の住民は過疎化してほとんどいないのですが、このあたりから神隠しなのか、島が外部に漏らしてはいけない秘密があるのか、などが想像できてしまいます
様々なキャラが登場しますが、ネームバリューのある人物が登場してしまうと「何かある感」は拭えないのですね
案の定、主人公が誰だったかわからないくらいに濃いキャラが後半で登場しまくっていて、ジャニ映画なのにどこにいたのかわからない内容になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
島に行ったら不思議な出来事に遭遇する系ですが、この手の内容は「ほぼ呪い」になっていて、過去の風習や蛮行が起因になっているのは否めない感じになっています
本作でも、呪いの先に「イミジョ」がいて、彼女には壮絶な過去があるのですが、狂って男を手籠にしたという見方もあれば、男の慰み者になったという見方も同居します
呪いが発生している段階で恨みを買う行動があるので、好意の起因がどうであれ、イミジョはそう捉えたから呪いになっているということになります
本作は、VRの世界に幽霊が紛れ込むというもので、幽霊はデータとして存在するのですね
新しいといえばそれまでなのですが、人間自体もデータのようなものなので、実態のない幽霊がそこに入り込む余地はあるように思えます
物語は、巻き込まれ系主人公を描いていて、彼の機転によって事態が収拾に向かう方向性を示すものの、効果的なことは一切できなかった、という感じに思えます
イミジョを母に持つ(で合ってる?)シゲルが島のみんなに復讐をするというもので、片岡たちはそれに巻き込まれながら止めることはできませんでした
ラストは考察マニアが参戦しそうな意味深な終わり方をしていましたが、考察をする意味があるのかはわからない感じになっていましたね
■VRと幽霊
映画では、VR「シンセカイ」にイマジョが紛れ込み、データの世界に幽霊が登場した、という設定になっています
データのバグに思われたものが霊的な存在で、「シンセカイ」の中でイマジョに襲われると、現実世界でも襲われている、という構図になっています
実際には、現実世界の方で見えない力によって襲われていて、それがVRで可視化されているという感じになっていて、VRの世界に幽霊が現れたのではないと考えられます
幽霊の可視化が起こっているのは、被験者の脳内信号をVRのプログラムが拾っているからで、これは将来可能な技術かもしれません
視えている人にしかわからないものの可視化は、その「視えている人の脳内で起こっている電気信号を他者の脳内で再現すること」にて可能なのでしょう
普段、私たちそれぞれが見ている世界というものも、共通の言語で定義づけて可視化できているように思いますが、実際には「完全な共有化」というものは行われていません
目の前にあるものを同時に見ても、同じように情報処理がされていることを証明できないので、科学的に「同じ信号が送られていること」を確認する検証によって、同じものを見ていると定義しているだけだと思います
幽霊が見える人と見えない人がいるのは、目の前にある霊的な情報を視覚情報で処理できる人とできない人がいるからで、見えないけど「居る」と思うなどのような、視覚情報以外の感覚で捉える人もいます
匂い、空気を伝う触覚、空気の揺れを感じる聴覚、そして科学的に証明されていない別の感覚(第六感)などがあります
これらの感覚の全ては、電気信号で脳に送られ、それが処理できる脳と処理できない脳がある
でも、その電気信号を外部媒体で再現することができれば、視えていない人が、視えている人の映像を体感することができるのですね
それが可能になっているのがVR「シンセカイ」の世界であると考えられます
■呪い以外にホラーはないのか
ジャパンホラーは「幽霊」「呪い」「地域慣習」などがメインで、そのほかには「生きた人間が怖い」というものがあります
基本的に「呪い」に代表される「人間の怨念=感情」が恐怖の対象になっていて、それ以外のものはほとんどありません
この感情というものが発露される「行動」が作品によって違い、霊的な能力で死に至らしめるものから、物理的に斧などの武器で襲われるものがあります
日本の映画では、圧倒的に「霊的な能力」が多くて、アメリカだと暴力装置(斧、銃器、チェーンソー)などが使われるイメージがあります
日本でも暴力装置が登場しても良さそうですが、あっても「日本刀」ぐらいしか出てこないのですね
これは、日本で恐怖の対象となる暴力装置が身近にないことが原因になっていると考えられます
自宅を見回して、命を奪うに至りそうなものを考えた時、あっても包丁とかナイフ、ハサミぐらいなのですね
これが農家などに行くと、鎌があったり、ナタがあったりするので、そう言った「暴力装置」が一般家庭よりも増えてしまいます
こういった物理的なものよりも、「怨念」に代表されるような念能力というものが暴力装置になっているのが日本で、物理的に体を切断するよりも、何らかの力で首を絞める、水に沈めるというものが多かったりします
こういった手法が多いのは、日本の刑罰の歴史に起因するのかなと思います
武士などは切腹をしてきましたが、平民は石打、首吊り、市中引き回しなどの方法で刑罰が課されてきた歴史があります
そういった刑罰を「道具を使わずに行う場合」、霊的な力というものがメジャーになっていったのだと推測されます
このあたりは民俗学などの専門分野の過程になると思いますが、地獄絵図に描かれてきたものが霊的な力によって起こることが恐怖だと捉えられてきたので、それが一般化して身近に感じられるのではないでしょうか
そして、そういったものの「起こり」というものが「何者かは抱えてきた感情」であり、その感情というものが「この世のものではないもの」を呼び起こすに至るのだと考えられます
なので、日本の映画で「チェーンソーを振り回すジェイソン」のようなホラーが作られないのは、そのシチュエーションにリアリティがないからなのですね
日本のような怨念系は海外のエクソシストのような悪魔系に変わりますが、海外の暴力装置系が日本で引用される場合、呪われた侍とか、妖刀などのようなものに置き換わります
でも、それが有る場所が一般的ではない、というところにハードルがあるのかなと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、いつもの「閉鎖空間に足を踏み入れて、土着の呪い系に晒される」というもので、日本にはこのようなものがありそうな場所が多かったりします
「村」「島」などの閉鎖空間コミュニティが豊富なのと、多くの奇祭や風習があることも、その要因であると思います
これが海外だと、「宗教コロニー」などのように宗教が絡んでくるものが多く、大体がキリスト教絡みになってしまいます
そんな中で、『ミッドサマー』という作品は、日本の閉鎖コミュニティーで行われる奇祭に近い印象がありました
『ミッドサマー』のネタバレをするのはアレですが、閉鎖空間コミュニティに足を踏み入れた人間が「どうするか」」という視点では面白い作品になっていましたね
本作も、「忌怪島」という閉鎖空間コミュニティに足を踏み入れて、そこで起こっている奇妙な出来事に遭遇しますが、主人公たちの「そこでどうするか」という行動が抜け落ちていましたね
主人公たちはただイマジョから逃げるだけで、刻々と進行している「シゲルの計画」に対しては無力なままでした
その計画を暴露し、止めるなどの行動があればホラー映画としては面白いのですが、本作の場合は最後まで翻弄されるだけで、身近な仲間を救うぐらいのところしかしないのですね
これでは、物語も広がりませんし、主人公たちの魅力というものも損なわれてしまいます
片岡は文子に引き寄せられて島に来ましたが、彼が島を来訪したのが「自分の能力の発露」だったのか、文子との関係があるのかが不明瞭でした
結局のところ、文子と片岡の間にどんな縁があったのかもわからず、文子が園田の父・哲夫を被験者にした理由もほとんどわかりません
文子と哲夫の間にどのような関係があって、彼女の研究に参加することになったのかは結構重要で、また文子と片岡の関係もそれと同じぐらい重要な項目であると思います
このあたりはノベライズなどで補完できるのかもしれませんが、それでは映画としては不完全なものとしか言いようがありません
自然な思考をするならば、片岡が文子に何らかの気持ちを抱いているということと、哲夫と文子の関係には大人の関係があるというところでしょう
哲夫にVR「シンセカイ」のことを話して協力者になってもらったのだと思いますが、彼がそれを行う理由は「文子による誘惑」か、島で生活する中で芽生えた何かというのが一番しっくりするように思えます
シゲルが彼らの世話をしているのは、島で起こっていることの暴露と、それを見届ける外部の人間が欲しかったということかもしれませんが、そもそも彼が生きている人間なのかはわからないのですね
このあたりはリンが用意していた弁当にヤドカリがいるというあたりがヒントになっていて、おそらくはリンもシゲルもこの世の人ではないのでしょう
それが「シンセカイ」のメンバーに見える理由はわかりませんが、心と体が別物であるということは考えられます
リンがシゲルに弁当を持って行く世界は霊的な世界で、世話人として存在する世界は現実世界だと思われますが、そのあたりを担保できる描写はなかったように思います(映像的に少しテイストが違うとは思いましたが)
シゲルは島で起こった不始末を正すために計画を立て、それを実行に移すのですが、そのタイミングが「今」である理由はわかりません
「シンセカイ」のチームが来たから急いだのか、そもそも関係なく行うことだったのか、などがわからず、気がついたら鶴をぶちまけて投身自殺のような描写になっていました
とりあえず怖いでしょ?みたいな感じになっていますが、キャラの行動原理が伝わらないと、その行為の怖さというものがわかりません
本作の場合は、キャラの心情とか、どうしたいかなどがほとんど省かれていて、それは「感情が見えない」というところに繋がっています
ホラー映画の醍醐味は「感情」であり、その発露がどのように起こり、どのような影響を与えるのか、というところに行き着きます
なので、本作が怖くないのは、この根幹部分が無視されているからではないでしょうか
唐突に登場、音で驚かす、見た目の怖さ以外にホラーの要素がなく、それらは怖さの本質を描いた上で必要な装飾でしょう
なので、その下地がしっかりと作り込まれていないと、せっかくの装飾も浮いた化粧のようになってしまうのだと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385563/review/1fbb8312-b49f-4c36-855b-2ef8aa41e4aa/
公式HP:
https://kikaijima-movie2023.jp/