■カフタンがシュラウドに使われる意味は深い


■オススメ度

 

モロッコ映画に興味のある人(★★★)

LGBTQ+関連の三角関係に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.6.22(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題: Le Bleu du caftan、英題:The Blue Caftan

情報:2022年、モロッコ&フランス&ベルギー&デンマーク、118分、G

ジャンル:カフタンの仕立て屋夫妻と新入りを巡るヒューマンドラマ

 

監督:マリヤム・トゥザニ

脚本:マリヤム・トゥザニ&ナビール・アユーシュ

 

キャスト:

ルブナ・アザバル/Lubna Azabal(病弱なハリムの妻)

サーレフ・バクリ/Saleh Bakri(ハリム:カフタンの仕立て屋、ミナの夫)

 

アイユーブ・ミシウィ/Ayoub Missoui(ユーセフ:ミナとハリムの元を訪れる若い職人)

 

Mounia Lamkimel(区長の妻)

Fatima Hilal(青いカフタンの注文主)

Mariam Laouaz(客)

Kholoud El Ouehabi(客)

Amira Tiouli(客)

Hanaa Laidi(客)

Aymane El Orrari(客の子ども)

Ilyass El Ouahdari(客の子ども)

Fouzia Ejjawi(ファトナ:古い刺繍を持ってくるおばあちゃん)

 

Abdelhamid Zoughi(医師)

Zakaria Atifi(生地屋)

 

Mohamed Naimane(公衆浴場の受付)

Abdellah Lebkiric(公衆浴場の男)

Driss Diouri(公衆浴場の男)

 

Mohamed Tahri Joutey Hassani(尋問する警官)

 

Abdelrhafor Essolh(みかん売り)

Nourredine Aimみかん売り

Hassan Boudour(モハメド:爆音で音楽を鳴らす老人)

 


■映画の舞台

 

モロッコ:サレ

 

ロケ地:

モロッコ:サレ

https://maps.app.goo.gl/bYwZe9CYEzAYQU8t8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

モロッコのサレでカフタンの仕立て屋を営んでいるハリムとミナの夫婦は、人手不足から若い職人のユーセフを雇うことになった

ユーセフは手先の器用な男だったが、ミナはすぐに辞めるのではと疑っていた

 

ミナはあまり体調が良くなかったが、店を手伝って無茶を言う傲慢な客の相手をしている

ユーセフは苛立つミナに逆らうことなく、ハリムを手伝っていたが、彼はある想いを秘めていた

 

ハリムもそれに気づいていて、自分が同類だと言うこともわかっている

だが、病弱の妻の前でそれを曝け出すことはできず、ユーセフに想いを打ち明けられたハリムは彼を拒むことになった

 

ミナは日に日に病気が進行し、ハリムも店を休んで看病にあたる日々が増える

注文も滞っている中、ハリムは仕事よりもミナに寄り添うことを優先していくのである

 

テーマ:カフタンに秘められた本音

裏テーマ:慣習を超える愛

 


■ひとこと感想

 

仕立て屋夫婦を手伝う若者と言う情報だけで観に行ったので、若者が男性だと知って、「また、そっち系?」と思ってしまいました

夫婦の揺れ動く愛というよりは、愛の継承と言う感じになっていて、妻ミナの病状がかなり悪いことが早い段階で示されています

 

ハリムも同性愛者であることは早々にわかる仕様になっていて、公衆浴場の個室のダメな使い方をはっきりと描いていましたね

いわゆるハッテン場と言うことなのですが、間接的に描かれることで秘匿感が増していましたね

 

物語はヨーセフ登場によって奇妙な三角関係が始まり、それぞれが相手の心情を察しながらも、抑えきれないものを露出させていきます

青いカフタンが意外な使われ方をされますが、フラグがビンビンに立っていたので、「ああ、やっちゃったかあ」という感じになっていましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

カフタンが何かを知らずに見ていましたが、どうやら高級ドレスという認識でOKのようですね

母から娘へと使われていく伝統のようなもので、それがラストで死装束になるところに本作のテーマが込められています

 

ミナは敬虔なイスラム教徒ですが、その祈りは通じることなく、あの世へ旅立ったように思えます

彼女が何を祈っていたのかは明言されませんが、「病気の治癒」でないことは明白だと思います

 

ミナは乳がんの切除手術を受けたけど寛解せずに肺転移を起こしているのですが、その時が近づくに連れて、達観していくように見えてしまうところが切なかったですね

医師も「ミナは良く戦った」というように、彼女の頑張りは知る人ぞ知るという感じになっていました

 

ユーセフが来たことでハリムを支える人物が現れたのですが、妻としては複雑な心境があったのだと思います

でも、死後に夫を縛り付けることはできないので、自然と悟っていったのだとでしょう

その心の折り合いをつけるために「ユーセフを息子だと思うこと」が彼女の中で起こったのかなと感じました

 


カフタンとは何か

 

カフタンKaftan)とは、ローブまたはチュニックの変形した衣装で、アジア発祥の服とされています

素材は、ウール、カシミア、シルク、コットンなどで、帯をつけて着用することもあります

オスマン帝国時代には、細部まで精巧にデザインされた衣服は神殿に来る来客などに贈呈されていました

 

その後、カフタンは多くの地域に受け継がれ、ロシア、北アジア、東ヨーロッパ、南西アジア、北アフリカなどに広がっていきます

各地域の文化によって使われ方は違いますが、コートもしくはオーバードレスとして着用されることが多く、温暖な地域でもゆったりとした衣服として着用されてきました

 

映画の舞台はモロッコで、カフタンはオスマン帝国の影響によって、バーバリー諸国に導入され、その流行がモロッコまで広がることで根付くことになりました

その時代のモロッコの統治者がオスマン帝国の衣装を取り入れ、それによって模倣されて広がったという説があるようですね

現在のモロッコでは、「ワンピースの伝統的な仮装」を意味するのが一般的のようです

いわゆる普段着ではなく、特別な日に着るドレスという意味合いになると言えます

 

モロッコの伝統衣装と言えば、カフタンとジュラバで、ジュバラは日常服として使用されています

ウールやコットンが主なる素材で、購入価格は1000円前後で買えるとされています

高いものでも10000円前後であることが多いですね

 

カフタンの場合は、あらゆる刺繍が施されていて、結婚式、洗礼、宗教祭などのイベントで着るフォーマルな服装とされています

カフたんの刺繍のデザインはさまざまで、各都市によって刺繍のスタイルが異なるそうです

主なものは「Chameli」「Fassi」「Meknessi」「R‘bati」の4つで、カットに関しては「Fez(フロントの切れ目が真っ直ぐに下まで切れているもの)」「Tetouan(胸元ぐらいで止まっているもの)」のモデルがあります

カフタンとジュラバの見た目はよく似ていますが、刺繍が凝っているのがカフタンと考えて良いのだと思います

 


ラストの選択について

 

映画では、ミナの死装束に青いカフタンに着替えさせるというシークエンスがあります

いわゆる罰当たりな感じになっていて、それが誰にも理解されないという感じになっていました

 

モロッコはイスラム教圏なので、イスラム式の葬式になります

遺体はお湯で清められ、顔以外は真っ白な布で包まれます

その後、遺体はモスクに運ばれ、埋葬の礼拝をした後、お墓に移動し埋葬されます

ミナを着替えさせたのはモスクの中で、そこから埋葬場所に行くまでは多くの人が雄叫びを上げるなどの儀式がおこなれていきます

 

イスラムにおける葬送はイスラム共同体における共同の責務という考えがあり、葬儀に礼拝するのは「故人に対して神の許しを乞い、慈悲を願う」という意味合いがあります

ちなみに「白い布=カファン」は「シュラウド(Shroud=聖骸布)」と呼びます

故人の尊厳とプライバシーを守るという意味合いがあり、この「聖骸布」はシンプルであることが求められています

 

本作の場合は、「聖骸布」に青いカフタンを使用するというもので、明らかに慣習からは逸れている行為と言えます

また、映画内で「母から娘に譲られるもの」という言葉があったように、生きている人に受け継がれるもの、という意味合いがあります

ミナにカフタンを着せることは、従来のイスラムの慣習を無視すること、生きている人が着るものを使用すること、血縁を結ぶものを埋葬すること、の「3つの反抗」に該当するのですね

それゆえに、誰もがその行動に賛同せず、ハリムとユーセフだけが、墓地まで行くことになっていました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、淡々とした夫婦の物語なのですが、ユーセフがいることで緊張感のある絵作りになっていました

それは、ユーセフに対するミナの態度に現れていて、「今までの人のようにすぐ辞める」という突き放した反応の先に、ある感情が渦まいていました

ハリムはバイセクシャルですが、現在は妻との性交よりは、大衆浴場での男色の方に転んでいました

この行為のどこまでをミナが知っていたのかはわかりませんが、ユーセフへの反応を見る限り「知っていた」と考えるのが自然だと思います

 

ミナの当初の反応は「嫉妬」のようなもので、ユーセフが来るまでの夫婦の営みがどんなものかは描かれていませんが、来てからはミナの方が積極的だったように描かれています

ハリムの戸惑いが「病気の身でするから」なのか、「久しく燃えているから」なのかはわかりませんが、なんとかミナに応えていきます

それでも、ハリムは男色に走っているので、ミナとの性交では得られない快楽というものを求めていたのでしょう

それがユーセフで果たされるのかはわかりませんが、若さを考えれば可能なのかもしれません

 

ハリムはミナ存命の間はユーセフを拒絶しますが、これはミナへの義理のようなものが強いからなのかなと思いました

性欲処理はするけれど、愛情のある関係にはならない

これがハリムが決めていたことのように思え、相思相愛に見える愛情も拒絶の方向に向かいました

 

去ることを決めたユーセフですが、ハリムへの想いは捨てきれず、ミナとの諍いも徐々に穏やかになっていきます

ミナから敵対心が消えたのは、おそらく寿命を覚悟したからであり、残されたハリムへの心配というものが募ってきたからだと考えられます

後半の3人の食事のシーンなどは、どこか家族のように見えて、ユーセフは二人の息子のように感じられます

ミナはユーセフとの和解を経て関わり方を変えるのですが、彼女の中で「ユーセフにハリムを託す」という腹が決まったからなのだと思います

 

それでも、恋人関係として奪われることはミナの心をそば立ててしまうので、それを許容するよりは、ユーセフを息子だと思うという感じに転換して、そのように思い込んでいるのかなと思いました

二人の間には子どもがいないのですが、その原因は明確ではありません

ミナのシュラウドに「母から娘への伝統」を使用し、それを埋葬するというハリムの行動を考えると、ある種の神様への抵抗のように思えます

 

ミナにシュラウドを着せることを決めたのはハリムで、その行為にユーセフは戸惑っていました

ここからは勝手な想像になりますが、ミナはユーセフを息子のように思っているということへのハリムなりの返答なのかなと感じました

あのカフタンは親から子どもへ渡されるものですが、それを埋葬する(=否定する)ということは、親子関係への否定のようにも思えます

なので、ミナのユーセフへの想いを否定して、ハリムはユーセフを伴侶として見ているということを示唆しているのかな、と感じました

正解はわかりませんが、そう言った意味がハリムの行動には秘められているのかもしれません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/389069/review/ca41882d-924c-49ed-8407-9a5f66ac9eaf/

 

公式HP:

https://longride.jp/bluecaftan/index.html

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投稿者 Hiroshi_Takata

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