■人生の手札が有限だと知っている人ほど、切り札の切り場所を悟っているのかもしれません


■オススメ度

 

戦争のトラウマ系映画に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.6.22(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:The Card Counter

情報:2021年、アメリカ、112分、R15+

ジャンル:イラク戦争にて不本意な服役をした元受刑者を描くヒューマンドラマ

 

監督&脚本:ポール・シュレイダー

 

キャスト:

オスカー・アイザック/Oscar Isaac(ウィリアム・テル:イラク戦争に出征した元軍人)

ティファニー・ハーディッシュ/Tiffany Haddish(ラ・リンダ:ギャンブルブローカー)

 

タイ・シェリダン/Tye Sheridan(カーク:テルの過去を知る青年)

Britton Webb(ロジャー・ボウフォート:カークの父)

Amye Gousset(ジュディ・ボウフォート:カークの母)

 

ウィレム・デフォー/Willem Dafoe(ジョン・ゴード:テルの因縁の男、ISCのゲスト講師)

Dylan Flasher(ホーキンス軍曹:テルのかつての上役)

Olivia Peck(女性兵士)

 

Alexander Bebara(Mr.USA:BJのプレイヤー)

Billy Slaugher(Mr.USAの取り巻き)

Shane LeCorcq(Mr.USAの取り巻き)

Lucky Belcamino(Mr.USAの取り巻き)

 

Bobby C. King(スリッピー・ジョー:テルのギャンブル仲間)

Bryan Troung(ミネソタ:ラ・リンダの友人、BJのプレイヤー)

 

Joel Michealy(ロニー:カジノのプレイヤー)

April Alsbury(カジノのプレイヤー)

Wiliam Buster Benefield(カジノのプレイヤー)

Fran Robertson(カジノのプレイヤー)

Mike Aston(ディーラー)

Exaterina Baker(サラ:ディーラー)

 

Rob Eubanks(トーナメントのプレイヤー)

Amia Edwards(トーナメント・クリーク)

 

Rachel Michiko Whitney(ナンシー:モーテルのクリーク)

 

Joseph Singletary(クレイ:テルと食堂で喧嘩になる受刑者)

Kirill Sheynerman(看守)

Brittney Souyher(女性看守)

 

Dior Choi(地方新聞の記者)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ニュージャージー州

アトランティック・シティ

https://maps.app.goo.gl/2WeyjD8ggruJcCMi9?g_st=ic

 

パナマ共和国(トーナメント会場)

https://maps.app.goo.gl/dXzAgQgdEe9y82uQ8?g_st=ic

 

イラク:アブグレイブ(刑務所)

https://maps.app.goo.gl/K4JEk524SVzdjw3i6?g_st=ic

 

ロケ地:

アメリカ:ミシシッピー州

ビロクシ/Boloxi

https://maps.app.goo.gl/9DsSeuoM3FWtB1LX8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

イラク戦争に従軍していたウィリアム・テルは、あることが原因で不当な服役を強いられていた

8年間の刑務所暮らしでカウンティングを覚えたテルは、目立たずに少しだけ勝つをモットーに、様々なカジノを渡り歩いていた

 

ある日、カジノのホテルにて講演会に興味を示したテルは、そこで「自分の服役の原因となった男」を見つける

男は民間のコンサルタントとして、イラク戦争の拷問のアドバイザーをしていた男で、民間人ということで服役を免れていた

テルは、その時の録画が原因で罪を被せられていて、彼は終わったことだと考えていた

 

だが、その講演会に参加していた若者カークとの出会いが、テルの運命を変えていく

カークの父ロジャーはテルと同じくイラク戦争に従軍していて、それが原因でおかしくなり、両親は離婚していた

カークはその男への復讐の機会を目論んでいて、その計画にテルを巻き込んでいく

また、カジノで出会ったブローカーのラ・リンダとの関係も発展していき、テルはどう生きるかの選択を迫られるのである

 

テーマ:過去の清算

裏テーマ:トラウマからの脱し方

 


■ひとこと感想

 

タイトルと雰囲気から「ポーカー」か何かで財産築く系かと思っていましたが、まさかの「イラク戦争退役軍人の苦悩」系とは思いもしませんでした

独白から始まるパターンで、嫌な予感はしていましたが、予感的中といった感じでしたね

 

映画は、不当な服役中に技を覚えた主人公がひっそりと暮らしていたのに、若者の復讐に巻き込まれるという感じになっています

因果が巡って、乗り越えなければならない過去が襲ってくるというもので、それをどうクリアすべきかという命題がありました

 

前半はカジノでブラックジャック、後半は全国大会のようなところで戦っていましたね

「USA」連呼のよくわからないプレイヤーもいましたが、カウンティングは反則ではないのかなど、余計なことを考えてしまいましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は若者カークに振り回される系ではありますが、彼がBJとは無縁でプレイもしないので、効果的な配役なのかは微妙な感じになっていました

一応は、過去をすでに切り離せているウィリアムと、いまだに囚われ続けているカークという構図になっています

 

映画は緊張感のある雰囲気系という感じて、ラブロマンスもあったりします

ラ・リンダとの新しい生活が始まろうとする矢先に起こる悲劇によって、テルの人生は過去に引きずり戻されるのですが、その選択は納得いくものだったのかもしれません

 

ラストシーンは美しいシーンではありますが、なるべくしてなったのか、避けることができたのかは微妙な感じに思えますね

モーテルの椅子などをシーツで包む理由はよくわかりませんでしたが、ある種の強迫観念のようなものがあったのかなと思いました

 


Marucus Aurelius『Meditations』について

 

劇中で一瞬だけ登場するマルクス・アウレリウスMarucus Aurelius)の『自省録(Meditations)』は、全編ギリシア語で書かれた哲学書で、古代ギリシアの時代になります

内容は自分宛に書き綴った短い散文の集まりで、一貫性がなく、同じテーマが何度も登場するとされています

いわゆる日記のようなもので、他人が読むことを想定していないと言われています

 

第1巻は神々や周囲の人々への感謝を示したもので、第2巻と第3巻には「書かれた状況」というものが記されています

全部で12巻になっていて、中身は年代別に並んでいるということはありません

かつて『瞑想録』と訳されたこともある同書ですが、その内容は「自分自身と他者に対する自分の判断を分析し、宇宙的な視点を養うこと」とされています

ざっくり言うと、主観を客観的に分析し、それを習慣づけると言うことになると思います

 

本作が引用されているのは、ウィリアムが「獄中で過去を振り返って内省している」という物語の構造があるからだと思います

冒頭からウィリアムのモノローグで綴られ、最初は「今の生活をしている背景」「カウンティング」などの「状況説明」になっているので、この構成は『自省録』に近い印象があります

その後はストーリー仕立てになっていますが、再度刑務所に入るまでを語っているように思えてきます

 

この映画でウィリアムが自省したことと言えば、ジョン・ゴードへの復讐心を隠して生きてきたこと、であり、それを覆すに至ったのがカークの顛末であるといえます

もし、ウィリアムがカークよりも先に動く、もしくはカークの思惑に気づいていれば、若い命を奪うことはなかったでしょう

最後に彼が未来を捨てて落とし前をつけるのは、カークへの弔いであるように思えます

 


アブグレイブ刑務所について

 

主人公のウィリアムは、イラクにあるアブグレイブ刑務所にて、囚人の拷問などに携わっていました

この刑務所は実際にある刑務所で、そこで行われていた非人道的行為も実際に起きた事件として記録されています

この刑務所は、バグダッドの西にある施設で、サダム・フセイン政権時代は、反政府勢力の収容所として機能し、拷問や処刑が行われていた場所でした

その後、イラク戦争が勃発し、そこに収容されていたイラク兵に対して、アメリカの軍関係者が非人道的な行為をしているところが写真に収められ、それがマスコミを通じて世に出ることになりました

 

2004年に発覚したこの捕虜虐待は、発覚後に7人の軍人が軍法会議で有罪となっています

袋を被せて長時間もの間、箱の上に立たせるとか、男性捕虜を裸にしてピラミッドにして記念写真を撮るとか、犬による威嚇で床に伏せるように命令されるなど、多くの非人道的行為が行われています

(アブグレイブ刑務所の虐待事件のウィキにはそれらの写真が収められていますが、閲覧は自己責任でお願いいたします)

 

事件は陸軍の兵長ジョセフ・ダービーによる内部告発で、それ以前から様々な媒体で指摘されていました

内部調査の開始が行われたものの、世間を騒がせるようになったのは「CBSにおける『60 Minutes Ⅱ』と言う番組」が契機となっています

その後、アメリカの雑誌「ザ・ニューヨーカー」にて内部調査報告書がリークされ、オンラインでの公開がなされます

この記事を書いたシーモア・ハーシュさんは不名誉除隊になったイヴァン・フレデリック軍曹の談話を載せていて、そこではCIAの職員、軍事企業の社員、軍情報チームによる支配的な空間であった、と書かれています

 

最終的には、アントニオ・M・タグバ少将による内部調査「タグバ報告書」にまとめられ、米議会上院軍事委員会の公聴会にて証言がなされています

報道されていたものを以外にも、1800点に及ぶ証拠写真があり、上記の「60Minutes Ⅱ」で公開されたビデオ日記にも、刑務所内で死亡したイラク人2名に対する非人道的な行為が記録されていたと言います

 

映画では、ウィリアムはこの拷問の映像に映り込んでいて、そのために首謀者扱いになって、8年もの禁固刑になったとされています

ジョン・ゴードは民間だったと言う設定があるので、上記にある軍事関連の会社の役員がモデルになるのかもしれません

収容所内でのパワーバランスは、下士官だったウィリアムには避けられない状況だったと思います

また、映画内の描写だと、拷問などのアイデアや方法を実験する場だったように見えました

なので、ウィリアムたちももしかしたら被験者(拷問の実行者としての研究)にあたるのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、刑務所内でカードカウンティングを覚えた主人公が、かつての因縁の相手と再会すると言うもので、それだけでは行動に移すことはなかったと思います

カークの登場によって、自分や軍部以外にも及んでいる影響を知り、トラウマの再燃のようなことが起こっていました

収容所時代の拷問の数々が脳裏をよぎり、それでもジョン・ゴードを始末しようとは考えていません

 

ウィリアムは「目立たずに勝つ」と言うことを実践していて、その実力はラ・リンダが見抜いていました

彼女はギャンブルブローカーで、金主から資金を借りて、ギャンブラーに賭けさせて、中抜きをするのが仕事で、勝てるギャンブラーを見つけなければなりません

そんな彼女が世界大会への打診を行うのは、ウィリアムを金主に認知させて、それで金を引き出そうと考えていたからだと思います

 

予選か何かで(別のカジノだったかも)Mr.USAに負けたウィリアムは、本選にてリベンジの場を与えられますが、そのゲームの途中でカークの顛末を知ることになります

そのまま大会を終えてからでも問題なかったと思いますが、ウィリアムはそれをしなかった

それは理性を失ったプレイヤーに勝ち目はないことを知っていたからだと思います

 

ウィリアムとカークの別れは、収容所時代に培った技術が使われていて、それが彼を動かした要因であると思います

そして、カークの死を受けて、ウィリアムはジョン・ゴードに対して、収容所時代の拷問を使用して殺すことになりました

どんな拷問だったかは描かれませんが、返り血や叫び声などから想像するには正視に耐えないのは言うまでもありません

 

ラストシーンでは、刑務所内にてラ・リンダと再会することになりますが、彼女からウィリアムへの想いが消えていなかったのは幸運なことだと思います

彼女がウィリアムを捨てなかった理由はわかりませんが、彼が起こしたことが「自分との未来を引き換えにするほどのものだったと理解したこと」と、「過去の後始末をそのままにしておけば、いずれは破綻した可能性があったことを悟ったから」かもしれません

このあたりはご想像にお任せしますと言う感じになっていますが、なんとなく受容できそうな懐の深さがあるように見るのが本作の救いの部分であるように思えました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/387137/review/6c47e0c5-9d5b-421f-a9ce-936c3ab266c7/

 

公式HP:

https://transformer.co.jp/m/cardcounter/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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