■憐れみを感じるのは神の視点だけど、渦中にいたら何を感じていたのだろうか
Contents
■オススメ度
ヨルゴス・ランティモス作品のファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.10.1(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Kinds of Kindness(思いやりの一種)
情報:2024年、アイルランド&イギリス&アメリカ、165分、R15+
ジャンル:不条理な強制に晒される人々を描いたヒューマンドラマ
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス&エフティミス・フィリップ
キャスト:
【第1話 R.M.F.の死(The Death of R.M.F.)】
ジェシー・プレモンス/Jesse Plemons(ロバート・フレッチャー/Robert:レイモンドの言いなりの男)
ホン・チャウ/Hong Chau(サラ/Sarah:ロバートの妻)
ウィレム・デフォー/Willem Dafoe(レイモンド/Raymond:ロバートの上司)
マーガレット・クアリー/Margaret Qualley(ヴィヴィアン/Vivian:レイモンドの同棲中の恋人)
エマ・ストーン/Emma Stone(リタ/Rita:ロバートとバーで会う女性)
ママドゥ・アティエ/Mamoudou Athie(ウィル/Will:サラの同僚、水泳コーチ)
Tessa Bourgeois(ルイーズ/Louise:レイモンドの秘書)
ジョー・アルウィン/Joe Alwyn(収集品鑑定人)
Thaddeus Burbank(収集品鑑定士)
Yorgos Stefanakos(R.M.F.:BMWの運転手)
Kencil Mejia(「Cheval Bar」のバーテンダー)
Jerskin Fendrix(「Cheval Bar」のピアノ奏者)
Nikki Chamberlin(「Cheval Bar」利用客の女性)
Fadeke Adeola(救急救命士)
Suzanna Stone(スミス氏の秘書)
Christian M. Letellier(襲われる男性看護師)
【第2話 R.M.F.は飛ぶ(R.M.F. Is Flying)】
エマ・ストーン/Emma Stone(リズ/Liz:ダニエルの妻、海洋生物学者)
ジェシー・プレモンス/Jesse Plemons(ダニエル/Daniel:警官)
ウィレム・デフォー/Willem Dafoe(ジョージ/George:リズの父)
ママドゥ・アティエ/Mamoudou Athie(ニール/Neil:ダニエルの親友、同僚)
Margaret Qualley(マーサ/Martha:ニールの妻)
Ja’Quan Monroe-Henderson(ジョナサン/Jonathan:シャロンの妻、リズの仕事仲間)
ホン・チャウ/Hong Chau(シャロン/Sharon:ジョナサンの妻)
Yorgos Stefanakos(R.M.F.:ヘリのパイロット)
Lawrence Johnson(署長)
Lindsey G. Smith(女性警官)
Kevin Guillot(リズに似ている容疑者)
Ivy Ray(銀行窓口係)
Susan Elle(スピード違反の若い女性ドライバー)
ジョー・アルウィン/Joe Alwyn(ジェリー:ドライバーの連れ)
Nathan Mulligan(エヴァンス医師/Dr. Evans:ダニエルの主治医)
Dominique Shy(フリカ:リズの婦人科医)
Tremayne Cole(セレモニー出席者)
Lance Michael Weller(セレモニーのゲスト)
【第3話 R.M.F. サンドイッチを食べる(R.M.F. Eats a Sandwich)】
エマ・ストーン/Emma Stone(エミリー/Emily:セックスカルトのメンバー)
ジョー・アルウィン/Joe Alwyn(ジョセフ/Joseph:エミリーの元夫)
Merah Benoit(エミリーの娘)
ジェシー・プレモンス/Jesse Plemons(アンドリュー/Andrew:セックスカルトのメンバー)
ウィレム・デフォー/Willem Dafoe(オミ/Omi:カルト教団の教祖)
ホン・チャウ/Hong Chau(アカ/Aka:オミの妻)
Kien Michael Spiller(ジャック/Jack:オミの息子)
マーガレット・クアリー/Margaret Qualley(ルース・キング/Ruth:レベッカの双子の姉、獣医)
マーガレット・クアリー/Margaret Qualley(レベッカ・キング/Rebecca:ルースの双子の妹)
ママドゥ・アティエ/Mamoudou Athie(死体安置所の看護師)
Yorgos Stefanakos(R.M.F.:死体)
Krystal Alayne Chambers(スーザン/Susan:オミの信者)
Hunter Schafer(アナ/Anna:カルト教団の候補者)
Harold Gervais(ハロルド:アナの父)
Buddy Jones(「Lakehouse」のコック)
Jeffrey Riseden(ウェーバー/Weber:双子の父)
【不明】
Julianne Binard(レイチェル/Rachel:?)
Emily Brady(クレミ/Clemi:?)
■映画の舞台
アメリカのどこかの都市
ロケ地:
アメリカ:ルイジアナ州
ニューオーリンズ
■簡単なあらすじ
【第1話 R.M.F.の死】
高圧的な上司レイモンドに従う部下のロバートは、ある日、交差点である車にぶつかるように指示される
指示通りに事故を起こすものの、衝突は不十分で大したものにはならなかった
翌日、レイモンドの元に向かったロバートは、人の命の責任は負えないと命令を拒む
だが、それによってレイモンドはロバートを解放し、さらに妻のサラも行方不明になってしまった
【第2話 R.M.F.は飛ぶ】
警察官のダニエルは、仕事で海外に行ったきりで行方不明の妻リズのことで頭が一杯だった
親友で同僚のニールとその妻マーサが宥めるものの、ダニエルは徐々に情緒不安になっていった
ある日、リズが見つかったという知らせが入り、彼女が収容されている病院へと向かう
無事に回復して自宅に戻るものの、ダニエルはその女性がリズの偽物ではないかと疑い始める
【第3話 R.M.F. サンドイッチを食べる】
セックスカルトのメンバーであるエミリーとアンドリューは、ある候補者を探していた
それは死体を復活させられる能力の持ち主で、テストをするものの、該当する人物は見つからなかった
エミリーには別れた夫がいて、娘は夫が育てていた
夫はいまだにエミリーに執着を持っていて、ある日のこと、夫は飲み物に睡眠薬を混ぜて彼女を犯した
そのことが教祖にバレてしまい、エミリーは汚れたとして、追放処分を受けてしまう
テーマ:自由意志の存在定義
裏テーマ:自我を構築するもの
■ひとこと感想
これまでの監督作を観てきたので、かなりヤバい内容なんだろうなあと思って鑑賞
オムニバス作品で、主要キャストが同じ人物が演じるという構成になっていました
繋がっているかどうか何とも言えない作品で、監督自らが演じる「R.M.F.」という人物だけが共通していたように思います
もし繋がっているとするならば、「ヘリの操縦士」「BMWの轢かれる男」「蘇生される死体」という順番になるのでしょうか
このあたりはあまり深く考える内容でもないと思います
何を見せられているのかわからない作品ですが、主人公にあたるロバート、ダニエル、エミリーは「他人の干渉によって自我を失っている状態」という感じに見えています
自分で考えられない男であるとか、帰ってきた妻に惑う夫とか、教祖に気に入られたくて何でもしてしまう女などが登場していました
気味の悪さというものがありますが、それをスリラーっぽくもなく、どちらかと言えばコメディのように撮っている印象がありますね
とは言え、1話約60分の3時間コースはさすがにしんどいなあと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作のネタバレと言えば、それぞれのエピソードの締めになる部分で、ゾッとするような展開を迎えていきます
ロバートの物語では「約束をした瞬間のリタの表情」から、約束の日の不在がわかる瞬間にやってきます
ダニエルの物語では「ダニエルが持っているはずのリズのアクセサリー」が助かった彼女の持ち物の中にあったことでしょう
エミリーの物語では「双子のレベッカと3度目に会うところ」で、競泳水着を着てプールにダイブする瞬間でした
これから何かが起こるという不穏さがあって、そこからタイムラグが生じて、やはりの展開になっていきました
映画全体としてはテーマがあると思いますが、非常にわかりにくいもののように思います
不条理劇のようにも見えますが、因果応報的なものもあるし、何かに囚われて、ちゃんと現実を見れていない人々が登場しているようにも思います
当初は『R.M.F.』というタイトルだったそうですが、紆余曲折を経て『Kinds Of Kindness』というものになっています
直訳すると「優しさの一種」みたいな意味になりますが、もっと深いものがあるのかな、と感じました
■アンナ・カレニーナについて
「第1話 R.M.F.の死」の章にて、上司レイモンドに勧められる本として、「アンナ・カレニーナ(Анна Каренина)」が登場していました
この
小説は、帝政ロシア時代の作家レフ・トルストイの長編小説で、「戦争と平和」と並ぶ代表作となっています
物語の舞台は、1870年代のロシアで、政府高官のカレーニンの妻であるアンナが主人公となっていて、彼女が若い貴族の将校ヴロンスキーと出会って恋に落ちると言う内容になっています
また、地主のリューヴィンがアンナの兄嫁の妹であるキティに求婚しますが、キティはヴロンスキーに恋していて、リューヴィンからのプロポーズを断ってしまいます
キティがヴロンスキーにアプローチをしても無視されてしまい、それによって彼女は病を患ってしまいます
アンナにはカレーニンとの間に一人息子を授かっていて、息子のいるペテルブルクに帰京しますが、ヴロンスキーはアンナを追って来てしまいます
それによって関係性が深まってしまいますが、夫カレーニンは世間体を理由に離婚には応じません
やがてアンナはヴロンスキーとの子どもを出産し、それによって重篤な状態になってしまいます
カレーニンはアンナを許し、その様子を見たヴロンスキーは絶望のあまり自殺未遂をする、と言う内容になっています
一方で、キティを思い続けたリョーヴィンは病気が癒えたキティと結婚し、領地の農村で新婚生活を始めていきます
その後、キティは兄を亡くし、人生の意義について悩んでいくようになります
その後、帰国したアンナとヴロンスキーは不貞行為が世間にバレて社交界から締め出されてしまいます
離婚も進まず、アンナとヴロンスキーの気持ちも次第に離れていきます
そして、ついに事件が起こる、と言う内容になっています(以下、重要なネタバレになるので割愛致します)
物語は、不倫に身を投じることになったアンナとヴロンスキーの人生と、相手を思い遣って夫婦になったリョーヴィンとキティの人生が対になっています
人生の幸せとは何かを描いていて、愛と道徳がテーマになっていると言えます
この小説をレイモンドがロバートに薦めた理由は不明ですが、「自分の思いよりももっと優先するのものがあるだろう」という脅しのようにも思えます
レイモンドとロバートは主従関係にあり、彼への服従を成すことが愛なのですね
そんな中で、リタという女性は自分以上の献身をレイモンドに捧げることになっていて、それがロバート目線の人生観の変化に繋がっているように思えます
■タイトルの意味
映画のタイトルは『Kinds of Kindness』で、邦題では「憐れみの3章」と訳されています
直訳すると「優しさの一種」という意味になっていて、3章それぞれの「Kind」というものが示されていると言えます
第1章では、レイモンドの命令に従えないロバートと従うリタが描かれていて、その行為とレイモンドの優しさの種類を描いています
ロバートは「命令されないと動けない人間(指示待ち人間)」なので、これまではレイモンドに全ての判断を委ねて来ました
そんな中で「できないこと」が目の前に提示されるのですが、その境界線は「自分が苦しむことは耐えられても他人を巻き込めない」というものでした
それによって、レイモンドはロバートを突き放し、さらにリタの存在によって、自分がレイモンドの一番であることを証明しようとしています
これが指示待ち人間に対するレイモンドの優しさとも考えられますが、傍から見ていると歪で、ロバートの行為は憐れに思えると思います
第2章では、ダニエルの妻リズが行方不明になる話で、戻って来たけど何か違うという流れになっていました
ダニエルと慰めるために友人のニールとマーサが手を尽くしますが、この4人はスワッピング仲間だったということがわかるという前半があり、後半は戻ってきたリズに困惑するダニエルが描かれていきました
ダニエルは精神的におかしくなり、彼に尽くすリズに無理難題を押し付けていきます
最初は指を食べたいと言い、それを提供すると激昂するという奇妙な対応をします
やがて、肝臓を食べたいと言い出し、リズがそれを取り出して死んでいることがわかります
そして、そこにもう一人のリズが帰ってくる、という帰結になっていました
リズはダニエルへの献身を見せますが、精神的におかしくなっているのと、彼女をリズだと思っていないので追い出そうとしていました
でも、自分の想定よりも無茶なことに応じたために引き返せなくなっています
最後に帰って来たのが本当のリズなのかはわかりませんが、この章で描かれる優しさとは無垢な献身がもたらす哀れみのように思えます
最後の第3章では、セックスカルト集団が登場し、夫のセックスによって汚れたと判断された信者エミリーが追い出されるという内容になっていました
その後、教祖の信頼を得るために教団が探している女性を探すことになり、双子のルースとレベッカを見つけます
探している女性は片方が死んでいるという条件だったために、それを満たすためにレベッカが自殺をして、エミリーにルースを提供する流れになっています
ルースは教団が探していた能力を有するもので、これで教団に戻れると思った矢先に事故を起こしてしまい、ルースが死んでしまうという物語になっていました
この物語も、教団に対する信奉を実現しようとしている信者が描かれていて、他人に人生をコントロールされていましたね
第1章と第3章は似たような話になっていて、その生き様が相手への優しさに見えるとも言えるし、その命令を出すことで施しを与えているようにも見える、という構図になっていました
どの優しさも滑稽であり、表現する愛、達成しようとする目的も歪なもので、それを第三者的に見ると「憐れ」という表現になるのでしょう
なので、この邦題は意外と芯を突いているのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、3部構成になっていて、それぞれ同じテーマで別のシチュエーションを用意しているというタイプの物語になっています
原題の示す通り「Kindness」の3つのパターンなのですが、明確な答えを用意しているようには思えません
あくまでも3つのパターンを提示して、こういうのどう?みたいな感じになっていました
好みと即するかはわかりませんが、各章ごとに好き嫌いがはっきり分かれるように思えます
劇中で「アンナ・カレリーナ」が登場したように、その本(映画)を読んでどう感じるかは自由というところがあって、それでもある種の制約的なものは監督の中にあるのですね
それが主題となる「優しさの正体」であり、かなり異質な優しさというものを取り上げていました
指示待ち人間にはその人のポテンシャルを超える指示を出すことで一皮剥けるとか、懐疑的な人には優しさは最後まで伝わらないとか、一度切れた関係を修復するのは難しい、などの哲学的な部分があったように思います
第1章と第3章は、敬愛すべき人への奉仕という部分では同じですが、レイモンドは見捨てていないけど、オミとアカは見限っていたように思います
エミリーが彼らにルースを届けたとしても、エミリーが彼らの信頼を得られたかは別の話で、自分の行為が相手に受け入れられるという根拠のない自信があったように思います
結果として、届けられたらどうなったのかというのはわかりませんが、あそこで事故が起きたというのは偶然ではないのでしょう
映画なので、そこには監督の意図が介在していて、それを神がこの行為を許さないと捉えることもできるし、人生はそんなに甘くないというメッセージのようにも思えます
とは言え、結果としては、起こっているエピソードに翻弄されるというところがこの作品の肝だと思うので、踊らされた方が面白くて、色んな考えを巡らせることに意味があるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101506/review/04318478/
公式HP:
https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness