■いざという時に自分を助けてくれるのは、過去の自分の行いだったりするのですね
Contents
■オススメ度
救急医療に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.22(京都シネマ)
■映画情報
情報:2024年、日本、95分、G
ジャンル:名古屋掖済会病院のERを描いたドキュメンタリー映画
監督:足立拓朗
編集:高見順
出演:
名古屋掖済会病院の皆様
蜂矢康二(救急医)
北川喜己(センター長)
櫻木佑(研修医)
■映画の舞台
愛知県:名古屋市
名古屋掖済会病院
https://maps.app.goo.gl/RkP6fJviYzmqTmpc9?g_st=ic
ロケ地:
上に同じ
■簡単なあらすじ
名古屋にある掖済会病院は「救急を断らない」をモットーにして、日々の救急業務にあたっていた
その中で働く救急医・蜂矢康二医師は、ギリギリの中で診療にあたり、常に笑顔で患者さんと接している
診療所時代から「断らない救急」を掲げてきて、それは150人のスタッフで支えられていた
コロナ禍の直撃を受けても最後の最後まで救急を取るという姿勢は崩さず、時には別の地区からの搬送も受け入れる
それでも逼迫する病床に「先に他をあたってくれないか」と言わざるを得ない状況が生まれていた
映画は、ERの実情をそのまま映し出し、そこで働くスタッフたちの一部始終を切り取っていく
主に救急医・蜂矢Dr、ERセンター長・北川Dr、研修医・櫻木Drが撮影スタッフとの対話を通じ、働いている理由、やりがい、志望動機などを紡いでいく
テーマ:救急とは何か
裏テーマ:救急医の環境
■ひとこと感想
普段、あまりドキュメンタリーは観ないのですが、働いている環境に近いところを切り取っているので迷わずに鑑賞
ERほどではありませんが、「ほぼ断らない病院」に勤務しているので、激務の程はよくわかります
私のポジションは救急受付事務員なので、実際の医療現場に入ることは少ないのですが、人の少ない時間帯だと、事務員でもできることを手伝うということは多々あります
ここまでERとして確立していると越境することはありませんが、基本的に普通の「二次救急」は医師一人、看護師一人の当直体制なので、救急が重なると、医療行為ではないところの手助けをすることがあります
その病院も最近ERっぽいものを作り始めていて、救命士も当直するようになってきて、掖済会ほどではないですが、3000件ぐらいは受けているようですね
それでも応需率は90%に届かないのですが、それは設備とか人材だけの話ではなかったりするのですね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
この仕事を始めてもう15年ぐらいになるのですが、事務員には医療知識を勉強する場はほとんどなく、医療事務では「計算の仕方を教わる」だけだったりします
このERのように救急電話を医師が受ける病院もあれば、事務が受ける病院もあって、そう言った場合に救急隊が何を言っているかを理解するだけの知識は必要になってきたりします
当初はCPAすら知らない状態で現場に放り込まれましたが、今では救急隊が言っていることはほぼわかるし、先生の癖に合わせて事前に聞いておくことは聞く、ということもできるようになりました
その「知識だけはある」視点から観ると、いろんなところに張り出されてあるものとか、カルテ上に記載されていること、何気ない会話で飛び交う専門用語がわかったりするので、そう言った意味ではとても楽しい時間でした
救急はドラマなどで花形のように扱われてますが、救急医と専門医の力関係ってのは、思った以上に根深いのですね
ある病院では「入院させて良いかを伺う」なんてこともこともあったりして、現場が受けるプレッシャーには様々なものがあったりします
確かに救急は振り分けの現場ではありますが、それゆえに様々な症例と向き合うことになるのも事実ですね
自家用車で来るのをウォークインと言うのですが、稀に「救急車で来ないとだめ」と言うものを無理やり連れてきたりすることがあるので、患者側にも「救急の利用に関する教育」と言うものは必要になってきているように思えます
■救急現場のリアル
救命センターでの勤務はまだありませんが、いわゆる二次救急病院での経験はあります
二次救急は基本的に「入院になるかどうか」という救急患者の受け入れをしている病院ですが、近郊に一次救急(軽傷対応)の病院がないと、入院の不要な患者もコンビニ感覚で訪れることがあります
救急に力を入れている病院だと、救急車の患者が優先になり、軽症患者はひたすら待たされるというのが一般的だと思います
時間内診療だと待たされるからという理由で時間外に来る患者も多く、結局は大した専門的な検査や処置をされることもなく、時間とお金だけはかかるという感じになっています
救急病院は、管轄する地域の救急隊からの救急要請を受けるのが仕事ですが、病院のキャパシティによって受けられるものと受けられないものがあります
「緊急オペ(虫垂炎や開頭手術など)」「緊急カテーテル(血栓回収)」は対応できる体制がないと受けようがないですし、これらの緊急疾患の場合には専門のドクターの待機システムなどが存在します
とは言え、手術に至るまでの病気かどうかは検査してみないとわからない疾患もあり、例えば虫垂炎などは救急要請の段階ではっきりとわかることはマレだったりします
心臓関連だと、救急車内に心電図(2誘導、4誘導)などがあって、その段階で「不整脈、ST変化などの異変」を読み取る場合があり、その段階で救急隊は循環器内科の対応できる病院を探します
脳外科関連だと、患者の訴えや観察などから、明らかな麻痺、共同偏視、構音障害、体が自然に一定方向に傾くなどがあれば、脳外科対応の病院に搬送します
私が働いている病院は3つあって、脳外科オペ、緊急カテに対応している二次救急もあれば、オペ要だと転送(他の病院に転院搬送すること)となる二次救急もあります
これまでにも多くの二次救急で働いてきましたが、入院させる部屋があるかどうかが課題になっていて、特に「感染症のために個室に入れる」というのが「いつでもOK」という訳にはいかないのがコロナ禍でした
今では、インフルエンザと同様の扱いになっていますが、それでも感染症がわかっている場合に大部屋に入れる訳にはいかないので、運よく部屋が空いていればOKということが多かったように思います
救急の流れは、患者もしくは患者家族、そばにいた人から119番に電話をすると、救急隊本部から「火事ですか? 救急ですか?」という問いかけがあります
そこで聞かれるのは「病気の状態、経緯、既往歴」などで、それらの情報を取りまとめたものと、救急隊が現着した時に観察した内容、バイタルサインなどが救急要請の骨子となっています
基本的には近いところを優先に搬送依頼が入りますが、遠くてもかかりつけ医を優先したり、内容によっては疾病内容に対して対応可能な病院への搬送を優先する場合もあります
救急病院には救急応需端末というものと、救急専用回線(映画だと固定電話、京都市だとPHS)があり、救急応需情報(空床数、対応科、対応処置内容)への入力というものを救急病院が行うようになっています
当直医の専門科だけを応需にしている病院もあれば、初期対応できる科を挙げている病院もあり、救急安心センターなどに電話をすれば、その情報を見て病院を紹介されたりもします
救急病院が一番困るのは、「翌朝でも問題のない軽症」「電話もせずに来院」というもので、緊急性の有無は正直なところ「本人、家族の感覚」に委ねられるところがあります
映画でもありましたが、「患者が救急だと思えば救急」というように、実際に電話の段階で軽症っぽいものが実は重症とか、稀に病院に着いた途端に悪化して卒倒するなんてことも多くあります
逆に病院に来たことで安心して症状が改善され、診察だけで終わるなんてこともあるのですが、私が子どもの頃よりは「緊急だと思う」という幅がかなり緩くなっているように思えます
これまでに経験した軽症搬送だと「目にゴミが入った(着いたら取れてて即終了)」というものや、「救急隊からの情報と違う症状を言い出す」というものもあり、十人十色で予測できないことの方が多いですね
■救急から見たコロナ禍について
コロナ禍に入ってから、一番困ったのは「熱があると入院させられる部屋がない」という状況が「延々と続いたこと」だったと思います
出勤して真っ先に確認するのが「熱部屋の有無」で、しかも「院内に入れられない」という状況も重なって、駐車場のテント小屋で診察&検査をして帰ってもらうという状況になったこともありました
発熱外来の設置とともに、慢性疾患と急性疾患が明確に分けられるようになり、急速に発熱外来に割くソースというものが不足がちになっていました
医師、看護師、受付事務などを個別に用意する必要があり、しかも勤務者が罹患したら1週間勤務できない、という状況でキャパが限界に来ている病院もありました
京都市の場合だと、コロナ疑いは自由に病院に行けない状況があり、軽症・中等症・重症の「患者と病院の理解の幅」というものが如実に現れていたと思います
39度の熱が3日続こうが、医療としては軽症なので自宅待機が原則
酸素飽和度が下がって、自発呼吸ができないなどに至ると中等症で入院になりますが、人工呼吸器のある部屋とない部屋がある病院などでは、受け入れられるキャパも変わっています
基本的に、全部屋個室という病院の方が稀で、個室、二人部屋、四人部屋などのように、管理体制を考えた病室の配置というものがされています
なので、個室が空いていても、ナースステーションから遠い部屋には入れられないなどの問題が出てきます
また、大変だったのは「防護服の着用」で、一度着たら脱げないとか、その部屋から出てはダメなどの制約が多く、感染拡大の初期は「未知のウイルスなので」ということで頑張ってきても、現場の感覚だと「あれ? ほとんど軽症じゃね?」という感じになってきていましたね
それが緩みとなって、医療従事者が感染するというパターンもあったように思います
この「軽症ばかり」という状況なのに、政府の動きが死ぬほど重くて、「未知だから」を言い続けた結果、いまだに発熱外来以外では熱の患者は見ないなんていう病院もあったりします
不思議なことに、ガッチリとガードをしている病院ほど院内感染が多いという状況になっていて、3つの病院では「面会制限になるほどの感染拡大になったのは、患者家族を一切病棟に入れない病院だった」のですね
どうしてこうなっているのかは分かりませんが、それだけ新型コロナが緊張感を有するほど深刻に思えなかった、という現場の感覚があったからだと考えられます
感染力は強いけど軽症ということもあって、しかも無症状キャリアなどもいて、出勤前にPCR検査を全員にやっても無理という状況になっていました
連日のようにコロナの罹患者数をワイドショーなどで報じたり、コロナに罹れば保険金が降りるということもあって、不必要な検査のための診察なども増えた時期がありました
陽性だったとしても、カロナール20錠渡して終わりという現実があり、でも、職場などの要請で受診しないとダメな状況になっている人がたくさんいました
中には「コロナではない」という診断書を書いてほしいなんて問い合わせがあったりしましたが、どこの病院でもそれを書いているところはなかったですね
あくまでも「検査した瞬間はセーフ」というもので、偽陰性かもしれないし、検査に来たことで罹っている人からもらったかもしれないし、病院への往復で罹っている場合などもあります
巷では「検査を安めに設定して、診断書でぼったくる」という検査ブースが乱立していて、タピオカブームよりも瞬間的に消えていったような感覚がありました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、救命センターの実情を追ったもので、それでも軽症と思われる患者の来院は多かったように見受けられます
映画で描かれているもので全てを判断することはできませんが、二次も三次も同じような問題を抱えているのだなあと思いました
研修医の仕事は飯の手配からというほのぼのしたものもあれば、入院させる部屋がないので他を当たってもらうしかないという状況まであったりします
救命センターは最後の砦という部分があるので、そのために必要なリソースを残しておかなければなりません
救急病院では、当直医の意欲というものが如実に反映される傾向があって、「取りまくったるわ!」という医師もいれば、「明らかに寝に来ていて色々と断る理由を探す」という医師もいます
その病院の医師が当直している場合もあれば、派遣されてくる医師もいるし、医師同士のつながりで勤務している人もいます
基本的なことはできても、専門性となると数をこなしている方が正確というのは確かですね
なんでも受けられる病院はバックアップもしっかりしていて、ある程度の診断をつけて患者さんを任せることになりますが、答え合わせ状態になっていたりします
映画でも、「様々な疾患を診られること」にやりがいを感じている医師や、「社会貢献を肌で感じる」というところにやりがいを感じている医師もいます
また、呼ばれた専門医の何気ない一言も重要で「うちらには後ろがおらんから」という趣旨の言葉が印象的でしたね
専門だからこそ見逃しては行けないし、治せると思われている重圧があります
実際に救急医が行うのは「入院適用かどうかの振り分け」「精査する場合の専門科のアドバイス」「現在出ている症状への対処」というものが多くを占めます
時には「救急でしなければならない処置」もありますが、それでも「その処置が終われば専門医に託す」という流れになるので、行うことのレベルの違いはありますが、救急で治癒まで持っていくということは基本的にはありません
たまたま行った病院に専門医がいたとしても、夜間ではできないこともあったりして、結局は時間内診療に来るように促されることも多々あります
患者の中には「病院に行けば治る」と思い込んでいる人もいるのですが、救急でできることって「症状の緩和とアドバイス」だと思うのですね
結局のところ、病気の治癒というものに瞬間芸はなく、長期的な生活改善や投薬などの治療によってコントロールする部分が多いので、それを踏まえた上で救急に相談するのが良いと思います
それでも、緊急性の高い救急を利用すべき症状というのはあるので、下記のサイトを参考にして、「迷わずに119コールする」ということも躊躇わないようにしてほしいですね
↓厚生労働省「上手な医療のかかり方.jp」URL
https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/urgency.html
また、救急車を呼ぶのが恥ずかしいとか、近くだからという理由で無理やりタクシーや家族が車で連れていくという人もいますが、あまりオススメできるものではありません
119コールをすると様々な情報がまとめられ、それが受け入れ先の病院に伝わった段階から診察が始まっていると言えます
症状に応じて使う薬剤、検査などのルート構築が受け入れた段階から始まるので、救急車で運ばれるまでの5分は結構貴重だったりします
事前連絡のない受診をすると、カルテ作成、登録、主訴の伝達などに支障が出ることがあるので、結局は救急車の方が対応が速くなる、ということが頻繁に起きています
なので、上記の厚生労働省のHPに該当するときは、迷わずに呼ぶことをオススメします
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100633/review/03516248/
公式HP: