鯨の骨が風化する時間と、デジタルタトゥーが消える時間は似ているのかもしれません


■オススメ度

 

ARとリアルが入り混じる世界観に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.10.18(アップリンク京都)


■映画情報

 

情報2023年、日本、88分、G

ジャンル:マッチングアプリで知り合った女性を探す青年を描いたリアルファンタジー映画

 

監督大江崇允

脚本菊池開人&大江崇允

 

キャスト:

落合モトキ(間宮:結婚式を間近に控えたサラリーマン、趣味は廃墟巡り)

あの(明日香:間宮のマッチングアプリの相手)

 

横田真悠(凛:間宮に明日香のことを教えるネットアイドル)

 

大西礼芳(由香理:婚約を一方的に破棄する間宮の恋人)

 

内村遥(松山雄司:間宮にマッチングアプリを紹介する職場の後輩)

戸田昌宏(間宮の上司)

 

松澤匠(竹内雅夫:凛のファン、明日香のアンチ)

中﨑絵梨奈(凛のファン?)

日影舘まい(凛のファン?)

松尾敢太郎(凛のファン?)

 

小日向雪(南綾波警察の警察官?)

中村祐志(南綾波警察の警察官)

猪股俊明(長山:公園の清掃員)

 

宇野祥平(しんさん:明日香を信奉するファン)

 


■映画の舞台

 

都内某所

 

ロケ地:

神奈川県:川崎市

喫茶まりも

https://maps.app.goo.gl/tqEU8MmqYSxr1F7a9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

恋人・由香理との結婚を考えていたサラリーマンの間宮は、式場まで選んだ寸前に他の男がいると告げられて別れを切り出されてしまう

心に穴が空いた間宮は、後輩から薦められたマッチングアプリに登録し、唯一返信をしてきた女性と会うことになった

 

間宮は不思議な雰囲気を持つ赤い服を着た女性と行動するものの、彼女が女子高生であることがわかる

女子高生は「気になる?」と聞くものの、間宮はそのまま彼女を自宅へと招いた

 

シャワーを浴びて戻ってくると、女子高生は薬を多量服用して自殺をしていて、間宮は慌てて救急に電話をするものの、女子高生との淫行がバレることを恐れる

そして、こともあろうに遺体を山に埋めようと考える

だが、穴を掘り終えてトランクを覗き見ると、そこには何もなかったのである

 

その後、間宮は彼女が口にしていた呉服公園のことを思い出しそこへと向かう

ベンチでコーヒーを飲んでいると、複数の若者たちがやってきて「新規さん?」と聞いてくる

間宮は意味がわからなかったが、その公園はARアプリ「ミミ」のインフルエンサーでもある凛という女性が仲間たちと過ごす公園だったのである

 

間宮は凛に誘われて、「ミミ」をダウンロードする

そして凛は、「ミミ」がムーブメントとなった「明日香」という女子高生の居場所へと連れていく

そして、そこにいたのは、間宮の部屋で自殺した女子高生だったのである

 

テーマ:現実とVRの境界線

裏テーマ:デジタルタトゥーの後始末

 


■ひとこと感想

 

あのちゃんが出ているということで、どんな世界観なのかと思っていましたが、まさかのAR世界との融合みたいなとんでもない展開になっていました

位置情報アプリの一種で、その場所に限定した投稿ができるというもので、バーチャルの空間に自分のデータが残るという設定になっていました

 

ポケモンGO全盛期のラプラスダッシュとか、そんな感じのレア度を探す感じで、当初の目的から承認欲求の溜まり場と化していましたね

ネットアイドル的な存在がいて、彼女の投稿を追いかけるのですが、彼女のように地域限定だとわかりやすいですが、明日香のように色んなところに痕跡を残すタイプだと厄介かなあと思います

 

映画は、自分の部屋で死んだはずの女子高生がそこら辺にマーキングしているというもので、彼女のファンらしき人間の暴走に巻き込まれてきます

また、承認欲求から金銭へとシフトして、あっさりアプリを乗り換えるアイドル的存在も時代を反映させているように思えました

 

難点なのは、夜のシーンが多いので、画面がひたすら暗いことですね

またエンドロールがなぜか縦書きでロールしないタイプかつ、背景の上に重なるので何が書いてあるかわかりません

特にキャスト欄は画面いっぱいに役名と役者の名前が連なっていましたが、2〜3秒しか映らないので記憶するのも無理な感じになっています

パンフにもエンドロールは載っていないので、SNSで掘れる情報ぐらいしか集まりそうにありません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

女子高生の名前は最後まで登場せず(明日香はハンドルネームのようなもの)、「赤い服の女子高生」と「塾講師をしている女性」は同一人物だったことはわかります

明日香の投稿を追っていく中で工場にたどり着くのですが、そこへ向かう過程がうまく表現されていました

 

映画は、AR世界にデジタルタトゥーを残す若者を描き、それに感化されてひとつの文化圏が生まれていきます

承認欲求だったものが金儲けに変わるところがSNSあるあるですが、ミミに課金制度があれば対抗できたのかもしれません

 

どこからがARの女子高生なのか微妙な感じになっていて、印象としては山に運んだところまでは本当なのかなと思います

その後も、意味ありげにベッドに座りもしない間宮を描き、あの毛布の中に誰かがいても不思議ではないように描写されていて、それは「あそこにいてほしい」という願望の現れ、もしくは「山には連れて行っていない」というミスリードのためにあるのかなと感じました

 

冒頭の付箋の消失のあたりから、間宮には幻覚が見えている感じになっていて、かと言って「明日香には会っていない」ところまでは行かない印象があります

出会いはあって、服薬自殺はフェイクで、間宮が自分をどうするのかを見極めるために策を講じたのだと感じました

 


ARがもたらす未来

 

ARとは、「拡張現実(Augmented Reality)」のことで、「現実世界に仮想世界を重ねて表示する技術」のことを言います

分かりやすい例だと、「ポケモンGO」「ドラクエウィーク」などの位置情報ゲームで、特定の場所(座標)に行くと特定のキャラクターと遭遇できるといったものになります

映画では、その座標に自分の投稿ができるというもので、動画や静止画に位置情報が組み込まれていて、その場所に行けば見ることができるというものになります

ちなみに、個人のスマホとかで撮影する写真には位置情報が記されていて、それをそのまま投稿するとバレるという危険性があります

 

本作の場合は、位置情報をONにしたまま撮った写真や動画がその場所だけで見られるというもので、アプリ「ミミ」をインストールしているユーザーのみが利用できるようになっていました

アプリのデータサーバーに記憶された情報は、アプリを持った人がその場所でソフトを開くと見られるというもので、画面内のサムネイルをクリックすると、そのデータを閲覧できるという仕組みになっています

 

ARは現実を拡張するもので、肉眼で見える世界に情報を重ねることができます

これを応用すると、SF映画などで特殊なゴーグルをつけた捜査員が「対象の個人情報をリアルタイムで重ねて見る」という応用もできるようになります

この場合は、リアルの座標に仮想現実やデータを組み合わせるもので、特定の機器にて重ねるという意味では近い技術になります

 

現実世界を透過できるディズプレイのほかに、スマホの画面のように映像を表示したものに組み合わせることもできます

これによって、現実上に存在しない情報やアイコンなどが画面上に付加することができます

今はゲームの分野で進化をしていますが、医療現場などにも取り入れられていて、診療所などの在宅医療にて使われ始めています

 

AR技術を利用した遠隔医療システムの場合、遠隔地にいる専門医と執刀医が同時に同じ映像を見ながら処置を施せるようになります

これらの技術配備のために必要なのが高速大容量通信システムで、環境が整い始めれば、諸外国で「遠隔ロボット手術」を取り組む国も出てきます

医療用のロボットの開発競争にも火がついていて、多くのメディカロイドというものが登場し、これらを専用の有線回線にて接続するという技術が確立しつつあると言われています

 


承認欲求と対価

 

映画では、「ミミ」で人気を博していた凛が、その後に別のアプリに移っていく様子が描かれていました

「ミミ」を始めたのも「バズっていた明日香」を模倣したもので、「自分の居場所を持てる」という欲求を満たしていました

でも、多くのファンができて、それによって活動が広がっていく中で「投げ銭」というものに行き着きます

「投げ銭」というのは、もとは大道芸人や路上シンガーに観客がお金を払うというもので、今ではネット上の活動にも「投げ銭」機能がついているアプリなどで可能となっています

 

YouTubeのスパチャ(スーパーチャット機能)をはじめとして、17LIVE、ツイキャスなどがあり、Facebook、Twitter、Instagram、Tiktokなどでも実装が始まっています

これがコンサートなどに波及すれば、チケット代以外の収益化というものが見込めます

チケット代の内訳ははっきりと分かりませんが、投げ銭なら手数料として、15〜30%ほどがプラットホームに引かれる計算になります

ライブ配信などの費用を加味して、集客をコンサート会場に限らないとなれば、ビジネスになり得る可能性はありますね

現場にいるという事実が必要派と、現場に行ってもモニターで見るなら遠隔地でカメラ映像でもOK派もいると思うので、主催者及びパフォーマーがどのように判断するかによって、今後の運営というものが変わっていくかもしれません

 

凛がそっちの世界に入ったというのは、ファンの獲得によってある程度の承認欲求が満たされ、特別扱いされたという事実ができたからだと思います

これまでも「直接的な現金の奉仕」などがあった可能性はありますが、やはり直接だと生臭い感じはします

これがアプリを通じての課金となるとハードルが下がってくるのと、スパチャの場合だと「コメントが上に表示される」「コメントの文字数が増える」などの「目にみえる差別化」というものが実感できます

これが「推し」の競争に火をつけるのですが、これによってパフォーマーの利益が増えるのと相対的に、求められるものが過激になっていく危険性はあります

これまでのコンサートとかだとチケット代の元を取れるかレベルですが、投げ銭は上限がないので「その見返りを求めるファンの願望」というのは、さらにひとつ上の段階のステージに足を突っ込んでいることになると言えるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作では、自分の部屋で自殺した女子高生が仮想空間で発見されるというもので、そこから彼女の痕跡を辿る物語になっていました

凛との出会い、明日香との遭遇は偶然によるものですが、いずれはしんさんあたりに「最後の投稿」ということで巻き込まれていたように思います

何も知らずに巻き込まれても、自分のアイドルが個人の部屋にいる、というのは許し難いことで、何かしらの危険な目に遭っていたかもしれません

 

映画の顛末をどう考えるかですが、リアルの明日香は大人の塾講師で、いわゆる「女子高生になりきって投稿していた」ということになるのですが、それは過去の自分を演じる必要性があった、ということなのだと思います

明日香が探していたのは、自分と一緒になってデジタルタトゥーを消してくれる人で、SNSなどに依存していない人だったのかもしれません

 

マッチングアプリの紹介文などがどんなものかはわからないのですが、明日香が彼を選んだのは、彼女の見立てに合うからであり、それがSNS依存ではないことがわかったからなのかなと思います

SNS依存だと明日香の存在を知っているし、その影響力というものも理解していて、純粋なものが削がれてしまう

明日香の手口はこれまでに同じような人間を生み出していて、間宮だけはこれまでの人間とは違う行動をしたのだと思います

これまでのトライアルがどんなものかは想像できませんが、トランクから抜け出すこと=ちょっと大変だったという感じに捉えていて、あの場所まで行ったことは事実なのかなと思いました

 

映画は、冒頭で鯨の骨についての言及があり、その死骸はデジタルタトゥーそのものを意味しているのだと思います

色んなものに消費されて朽ちていくまでに相当の年月が必要で、すべての人に忘れ去られる時間にも似ているのでしょう

凛は「自分の居場所を見つけた」と言い、それは精神的なセーフティネットであったように思います

明日香も同じようなものを求めていたように思いますが、彼女の出発地点が墓地だったことを考えると、明日香は安住の地を求めていたのかなと思いました

それが間宮であり、彼女にとっての安住とは、自分のリアルを探し出して、そして若気の至りを消してくれる存在だったのかもしれません

彼女が女子高生の姿に扮していたのは、インフルエンサーとしての明日香を認知しているかどうかのテストのようなもので、さらにその状態で自分をどうしようとするかを見ていたのかなと感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://www.culture-pub.jp/kujiranohone/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA