春画の中に描かれる承認欲求とは、どういった世界線にあるものだろうか


■オススメ度

 

春画に興味のある人(★★★)

偏愛映画に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.10.17(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報2023年、日本、114分、R15+

ジャンル:春画に魅入られた女性と研究家との偏愛を描いたアブノーマル恋愛映画

 

監督&脚本塩田明彦

 

キャスト:

内野聖陽(芳賀一郎/春画先生:変わり者の春画研究者)

北香那(春野弓子:芳賀から春画を教わる女性、カフェ店員)

 

柄本佑(辻村俊介:「春画大全」の編集者、一郎の弟子)

 

白川和子(本郷絹代:一郎の家政婦)

 

安達祐実(藤村伊都:一郎の亡き妻)

安達祐実(藤村一葉:伊都の姉)

 

福室莉音(生田仁美:弓子の同僚、カフェ店員)

柳美稀(水沢芳香:弓子の同僚、カフェ店員)

 

泉拓磨(ホテルマン)

須藤蓮(大学の図書館司書)

 

田山涼成(春画展覧会の無礼な客)

 

MIU(一葉の邸宅のメイド)

荒川琴(展示会の出演者)

 


■映画の舞台

 

都内某所

 

ロケ地:

静岡県:御殿場市

二岡神社

https://maps.app.goo.gl/YNctAN719VnALv6Q9?g_st=ic

 

長野県:飯山市

飯山市弓道場

https://maps.app.goo.gl/gxMD6gVb5CvHdAic6?g_st=ic

 

東京都:新宿区

喫茶ロマン

https://maps.app.goo.gl/8F1w5t12hP9B2Jgb9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

喫茶店で働いている弓子は、ある勤務中に客が読んでいた春画集を凝視してしまう

彼は「春画先生」と呼ばれる研究者・芳賀一郎で、芳賀は弓子に名刺を渡し、学びたければ明日にでも訪れるが良いと言って去っていった

 

翌日、弓子は名刺を頼りに芳賀の邸宅に向かうと、家政婦の絹代が居間へと案内してくれた

芳賀は矢継ぎ早に春画を見せ、その干渉の仕方というものを教えていく

そして、週に二度、家政婦をするという条件で、弓子は彼の家に通うことになった

 

ある日、芳賀は亡き妻の話をして、彼女のドレスを弓子に着させた

そして、春画ファンが集まる会合に参加させる

悪態をつく参加者もいる中、芳賀はさらりとその場を交わし、弓子は一抹の不安を抱えたまま、芳賀に想いを寄せるようになっていた

 

そんな折、春画集の編集者である辻村が芳賀の元を訪れ、彼女を芳賀が勤めていた大学へと連れていく

そして2人はそのままバーへ行き、辻村は芳賀と妻・伊都についての話を聞かせることになったのである

 

テーマ:純愛と偏愛

裏テーマ:隠された資質

 


■ひとこと感想

 

春画というものをまともに見たことがなく、本作は無修正でスクリーンに登場する最初の映画というふれ込みがありました

いわゆるエロい浮世絵のことで、それに魅了した研究者と、彼に恋をする女性の恋愛模様を描いていきます

 

春画についてのあれこれは前半で語られますが、後半は一転して「偏愛」と「アブノーマル」の祭典という感じになっていますね

これを受容できるかは何とも言えませんが、すごいものを見せられたなあという感覚にはなりますね

 

映画は、基本的には恋愛映画なのですが、その障壁は「自分自分」であるという不思議な映画になっていました

いわゆる「トリガー」というものを取り払う中で、性的な本質に目覚めるというもので、その予兆というのは、前半からも滲み出ているものだったように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

前半は春画教室のような感じになっていて、本当かどうかわからないけど、ある料亭で「回転寿司のように流れてくる春画」という、笑って良いのか悩む展開を迎えていきます

その場に現れたのが、芳賀の亡き妻・伊都の姉・一葉なのですが、このキャラがかなりぶっ飛んでいるキャラになっていました

 

妖艶さと暴力性、そして慈悲

それに呼応するかのように、弓子が覚醒し、とんでもない結末へと向かいます

内容的にはほぼ「R18+」ですが、よく「R15+」で済んだなあと思ってしまいます

春画自体のレーティングということなのですが、後半はそこまで春画が絡んで来なかったのは残念だったように思います

 

とは言え、体を張った演技が評価されていますが、それよりも多彩な表情が魅力的でしたね

瞬間的な表情をきちんと抜くカメラワークも素晴らしくて、思いの丈を台詞で喋る系ではあるものの、言葉にしていない感情表現の方が豊かで、雄弁だったように思いました

 


春画とは何か

 

春画とは、浮世絵の一種で、笑い絵や枕絵、秘画、ワ印友呼ばれる絵画のことを言います

写実的ではなく、性器が誇張されて描かれることが多いとされています

春画の歴史としては、古代文明から存在し、紀元前30世紀頃のシュメール文化のあたりから見つかっています

日本では、中学の医学書とともに伝わった「房中術」の解説図だと言われています

 

その後、平安時代に「偃息図(えんそくず)」と呼ばれる性的題材の絵画があり、この言葉自体が中国から来たものでした

「偃息」とは、横に寝転んで休むと言う意味があり、男女が添い寝する意味を持っています

これらが庶民に広がったのが室町時代から江戸時代にかけてでした

また、武士が鎧の下に入れて、「厄除け」のお守りとして使っていたと言う話もあります

 

春画の絵師の走りは「菱川師宣」で、井原西鶴の浮世草子、好色一代男などが大流行し、「光色物」と言うジャンルが生まれます

本作内で登場しているのは、

喜多川歌麿の「歌まくら(お尻を見て体が紙の色と気づくシーン)」

鳥居清長「色道十二番(喫茶店でガン見する絵)」

淫斎英泉「古能手佳志話(海の向こうに意味を感じる絵)」

葛飾北斎「喜能会之故真通(品評会で見るタコの絵)」

鈴木晴信「風流艶色真似ゑもん(小人が性交を見上げている絵)」

勝川春潮「好色図会十二候(辻村のスマホに送られてきた絵)」

でした

それぞれリンクを貼っているので、詳しいことはウィキってくださいまし

 


トリガー解放について

 

本作では、春画先生と関わった人は男女問わず解放されて、辻村が耳元で息を吹きかけるだけで「落ちる」と言う設定がありました

それによって辻村はおこぼれを貰いまくるのですが、弓子の時だけは「声を聞かせろ」と条件がついていました

いわゆる「性的なトリガーが外れた状態」と言うことなのですが、ぶっちゃけると「欲情して禁欲状態になっている」と言うことなのですね

なので、目の前で「その状態を受け入れてくれる相手がいる」と言う時点で、行為に及ぶためのハードルが無くなっていると言う感じになっています

 

性的トリガーというのは個体差がありますが、性的な情報が目に入るだけではダメで、脳内物質のテストステロンの産生から「ドーパミン」の分泌が必要になってきます

ドーパミンは快楽ホルモンと呼ばれていて、性欲低下障害に有効な薬物などがアメリカでは承認されていたりします

このテストステロンは男性ホルモンではありますが、これは女性にもあるとされていて、性欲障害に対する「テストステロン療法」と言うものが不妊治療に使われたりします

テストステロンは男性の胎生期には男性内生殖器の発達に関係し、思春期は二次性徴を促します

また、筋肉量の増加を促し、性欲や性衝動を引き起こす作用があります

男性を100とした場合、女性にも5〜10%ほど存在していて、最も自然な媚薬と言われています

 

この性衝動を抑圧している状態がトリガーが効いていると言えるのですが、これが何らかの理由で解除される瞬間があるのですね

男性の解放と違って、女性の解放には色んな条件が必要とされると言われていますが、分かりやすいのは「状況の肯定」であると思います

また、性的興奮の高まった状態で、相手の心理作用を利用すると言う方法もあって、辻村の場合はこの手を使っているのかなと考えられます

お酒が入っていたこともあるのですが、春画を見た際に感じたものが共有されているので、それゆえに性行動へのハードル自体が下がっているとも言えます

本作では、伊都の存在によって弓子の欲望は抑圧されていて、それが禁欲的な効能を持ち、さらにこの情報に関しても辻村と共有できているために、さらにハードルが下がることになったのだと推測できます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、春画が未修正でスクリーンに登場した最初の作品とされていて、エンタメとして春画自体がクローズアップされるのは珍しいことだと思います

劇中の芳賀の言葉にもあるように、かつては大っぴらだった性的なものが西洋文化、とりわけキリスト教的な教義の拡大によって、秘匿なものとされてきました

今を生きる人たちは生まれた時からその状態で、でも青春期には性的なものに興味を持ち始め、上の世代からの知恵を借りて、様々な情報にふれていきます

現代では、スマホひとつで何でも閲覧できる世の中になっていて、私の青春期の頃以上に性的な情報にふれる可能性は高まっています

 

キリスト教的な思想によるものを差し置いたとして、性的なものがおおらかであるべきか、秘匿であるべきかと言うのは難しい問題であると思います

個人的には、秘匿であるが故に、日本の性的エンタメは発展したと言う印象がありますね

かつて勤めていた企業で、性的商品を取り扱っていた時期があり、それによってアダルト製品の飛躍というものを目の前で見てきました

ちょうど働き始めの頃にDMMが登場し、そこからTENGAが登場し、配信の時代がやってきました

玩具の発展も凄まじく、ローションをはじめとして、様々なものが店頭に並び、それが飛ぶように売れていきます

中には女性のお客さんもいて、普通に買っていくのですが、店のカウンターはお客さんの手元しか見えないように工夫されていました

もし、性的なものがオープンだったら、普通のコンビニの棚に陳列されていたのかは分かりません

 

子どもの頃は「裏本」というものが流行っていて、手を伸ばせば買えるエロ本(ビニ本=ビニールに包まれていたから)とは違って、無修正のものがありました

同じ世代なら「金閣寺」とはこっちのことや!という男性がいるかもしれません

ざっと調べたら、「金閣寺」は1980年代に登場していたので、まんま世代になっていますね

実物は見たことがありませんが、街の寂れた本屋の前に「夜になると中が見える本の自販機」というものがあって、わざわざ隣町まで買いに走るということをしていました

町内にあっても、バレるのを恐れて、わざわざ隣町まで行くのですね

この辺りに秘匿だった故の行動原理というものが見え隠れしています

 

性的なものを秘匿とした結果、性行為そのものへと向かう合意の難しさと性玩具による安易な欲望の完結というものが生まれています

少子化というものの根幹がここにあるような気がして、性衝動を異性で行う必要がなくなったことも原因の一つだと思います

かと言って、そう言ったものを禁止することも難しく、今後はこのような動きがVRの登場によって、さらに広まっていくと思います

それぐらい異性との関わりに煩わしさというものを感じているというのが、現代の若者の本音なのかもしれません

 

男女の関わりや攻略に楽しさがあった時代とは違い、個の時代と権利の通念性というものが発展してきたので、恋愛=リスクと感じている世代も少なくはありません

そう言ったところからのパラダイムシフトと言うのは難しくて、これは人類を含めた文明の辿る道のようにも思えます

文明の発展を一言で言えば、根幹欲求の進化であり、性欲はマズローの分別によれば「生理的欲求」に属します

この欲求はこれまで性交か自慰によって満たされ、自慰は自己完結で虚無感というものがありました

これは、性交=承認欲求であるという構図があって、自慰=承認欲求ではあり得ないからです

 

この流れだった過去も、今は承認欲求を違う形で満たすことができ、性衝動そのものを「処理」という方向に向かわせていきます

そうした先にあるのが現代の性事情だと考えられるので、そう言った進化(退化とも言える)は必然なのかなと思います

よほどの環境が変わらない限り、このようなパラダイムシフトは起こらないものなので、どのような対策を取っても効果がなく、生存欲求が脅かされる時まで動かないのかなと感じます

そうして、先の文明も終わっていったのかもしれませんね

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://happinet-phantom.com/shunga-movie/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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