■お手軽なテレビ用の映画なので、俳優のファン以外は映画館に行く必要はないでしょう
Contents
■オススメ度
山本幡男さんの人生に興味がある人(★★★)
戦争を扱った映画に興味がある人(★★)
収容所の生活に興味のある人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.12.9(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2022年、日本、134分、G
ジャンル:訳もなくシベリアの収容所に入れられた抑留者たちが山本幡男という人物に影響を受けていく様子を描いたヒューマンドラマ
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
原作:辺見じゅん『収容所(ラーゲリ)から来た遺書(1898年、文藝春秋)』
キャスト:
二宮和也(山本幡男:スパイ容疑でラーゲリに収容される希望を捨てない抑留者)
北川景子(山本モジミ:日本で帰りを待つ幡男の妻)
市毛良枝(山本マサト:幡男の母)
寺尾聰(山本顕一:山本家の長男、老齢期)
(幼児期:小松夢生)
(幼少期:城戸俊嶺)
(青年期:奥智哉)
前出燿志(山本厚生:山本家の次男、青年期)
(幼少期:塚尾桜雅)
佐藤優太郎(山本誠之:山本家の三男、青年期)
(幼少期:阿久津将真)
尾崎丹子(山本はるか:山本家の長女、少女期)
(幼少期:長尾柚乃)
松坂桃李(松田研三:自分を卑怯者と罵る抑留者)
朝加真由美(松田静子:研三の母)
中島健人(新谷健雄:生まれつき足が不自由な青年)
桐谷健太(相沢光男:人を名前で呼ばない元軍曹)
安田顕(原幸彦:幡男の同郷の先輩)
奥野瑛太(鈴木伸二:ハバロフスクでアクチブになる抑留者)
金井勇太(高橋良太:ハバロフスクでアクチブになる抑留者)
中島歩(竹下勝:ハバロフスクで抑留者をアクチブに変えようとする日本兵)
佐久本宝(西野浩:スヴェルドブスクで幡男から勉強を教わる青年)
山時聡真(後藤実:スヴェルドブスクで非業の死を遂げるハーモニカの青年)
三浦誠己(佐々木:ロシア兵に媚を売って通訳になる元中尉)
渡辺真起子(モジミの復職を助ける隠岐島の女性)
鈴木かつき(モジミの生徒)
飯田正(モジミの生徒)
山中崇(片山:ハルビンの結婚式の酔っ払い)
酒向芳(引揚船「興安丸」の船長)
田辺桃子(由美:山本顕一の孫)
猪征大(大貴:由美の婚約者)
イゴール・T(ハバロフスク収容所の所長)
クロスケ&ダイキチ(クロ:抑留者を支えた愛犬)
■映画の舞台
第二次世界大戦後
ソ連:
スヴェルドロフスク州
https://maps.app.goo.gl/1Hjcme57K4BfDGkb8?g_st=ic
ハバロフスク
https://maps.app.goo.gl/uQ2qzpbq42Hzi2H8A?g_st=ic
満州国:ハルビン
日本:
島根県:舞鶴市
島根県:壱岐島
ロケ地:
千葉県:南房総市
埼玉県;入間市
西洋館
https://maps.app.goo.gl/iAecGKKzRkp8D7wV9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1945年、満州国ハルビンにて終戦を迎えた山本幡男は、妻子と離れ離れになってシベリアの強制収容所に入れられることになった
妻モジミと交わした約束を胸に日々を耐えていくものの、そこに希望があるとは思えなかった
シベリアのスウェルドロフスクからの解放が決まった幡男たちだったが、一部の抑留者だけがハバロフスクで下されてしまう
そこで行われた無意味な裁判にて、幡男はスパイ容疑で25年の刑を言い渡されてしまう
そこでは共産主義者の巣窟になっていて、その思想者になれば優先的に母国に帰られると言う
そんな中、幡男はそこで晒し者になっている元上官・原と再会する
原は「私には近づくな」と言い、心の距離を絶望的に広げてしまう秘密があったのである
そんな中でも幡男は信念を貫き、徐々に彼を慕う抑留者が溢れてくる
だが、そんな彼にある異変が起こりつつあったのである
テーマ:信念の伝え方
裏テーマ:希望と絶望の境目
■ひとこと感想
戦後のシベリア抑留を描いているジャニーズ映画なので、スイーツ向けのあっさりしたものなんだろうなあと思いながら鑑賞
原作本のタイトルでほぼネタバレになっていましたが、映画のタイトルの改変はアリかなと思います
映画としては可もなく不可もなしといった感じで、感動するとかそういった心の動きはほとんどなかったですね
なんというか、丁寧に作られた「綺麗すぎる再現VTR」と言えばしっくりくるのでしょうか
山本幡男という人物が人々を感化させていくのですが、その信念の波及というものがうまく描かれているとは思えません
また、最後の遺書の件は創作っぽさが強すぎて、本当に「事実に基づく」のかは微妙な感じに思えました
もし、この顛末が事実なら、見せ方が悪いとしか言えませんが、「事実に着想を得た」というレベルに思えてしまうのは力量不足なのかなと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
山本幡男が亡くなることは原作のタイトルで分かりますが、託された遺書をどう届けるのかなというところは感動的だったと思います
母を亡くした松田に母への手紙、妻を亡くした相沢に妻への手紙という、相沢が意図的にそう仕向けたのかは微妙な感じに思えてしまいましたね
創作に徹するなら、その分割を幡男が相沢に指示していた、までやってもOKでしょうが、流石に「事実に基づく」とまで言い切っているので、そこまでの改変は難しかったのかなと思いました
映画全体のビジュアルが美しく、幻想的な雰囲気もありますし、整いすぎた顔のお手入れなど昭和中期のものには思えません
もっとも、北川景子さんの美しさを堪能したい人には問題ないですが、ほぼ化粧品のポスターなみにきっちりしすぎていて、それはそれでどうなのかと思ってしまいます
■収容所(ラーゲリ)の実態
映画のタイトルである「ラーゲリ(Лагерь)」とは、ロシア語で「収容所」の意味がありますが、本来は「キャンプ場」という意味があったそうです
ロシアではロマノフ王朝時代から「シベリア送り」という刑は存在していて、主に政治犯が収容されてきました
1917年に起きた「10月革命」の時、レーニンが率いた左派「ボリシェヴィキ(большевики́)」によって強制収容所が開設されることになりました
映画で描かれているのは第二次世界大戦後の「シベリア抑留」で、日本人の他にもドイツ人が200万人いたとされています
他にも枢軸国であったイタリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランドや、大戦初期にロシアに併合されたバルト三国やポーランド東部などからも多くの捕虜や政治犯が強制労働に従事させられていました
日本人は約60万にほどいたとされていて、シベリア以外にもモンゴルの奥地などに送られていました
その始まりは、1945年8月8日にソ連が日本に宣戦布告を行ったところからとされています
翌日の9日の朝に満洲国などに侵攻し、激しい闘争の後、停戦が合意されました
その際にソ連軍に投降した日本兵や一部の民間人は「帰国(ダモイ(Дамой)」と言われて列車に乗せられ、日本への送還ではなくシベリアなどに連行されたと言われています
パンフレットによれば、「ドイツとの戦闘で多くの人民を失ったこと」「アメリカを中心とした資本主義との対立」「極東方面の開発人員、戦後復興の人員の必要性」などの理由で強制労働に従事させたと書かれています
これらの命令を下したのがヨシフ・スターリンで、「日本軍捕虜50万人をシベリアに移送せよ」というものがありました
幡男たちがいた満洲国のハルビンは、現在のソウルの北側にあり、東に行けばソ連のウラジオストックがある場所になります
彼らが移送されたスヴェルドロフスクはモスクワ寄りになっていて、その後収容されたハバロフスクはかなり日本海に近い位置になっています
ちなみに映画で劇的な演出として登場する「クロが船を追いかけるシーン」は実際にあった出来事で、興安丸の引揚の際に船に乗せられる瞬間の写真があったりします
このあたりの詳細はパンフレットを購入されるか、舞鶴引揚記念館などを訪ねられると、より一層深みを知ることができると思います
↓舞鶴引揚記念館のホームページリンク
■人が生きるとはどういうことか
映画では「人が生きるとはどういうことか」を描いていて、わかりやすく「希望を持とう」という感じに描かれています
幡男は絶望下にあっても希望の火を灯し続けますが、それによって感化される者、反発する者などが描かれていました
幡男は妻との約束を胸に耐え抜き、現場を笑顔に変えていきます
そんな輪からはみ出しているのが相沢と松田で、二人はそれぞれの思いを胸に「絶望」を突きつけられてしまいます
それでも幡男は二人に「希望を持て」と言いますが、相沢と松田は日本に帰国する意味を失っていました
その後、病床に臥した幡男に対して、相沢が言葉をかけますが、その時初めて幡男は自分のしてきたことを「相手がどう受け止めたか」を知ることになります
絶望した人に希望を持てということの意味
それは残酷ではあるものの、それでも生きていくのが人間だから、という意味合い以外には答えが見つかりません
映画では、亡くなった幡男の遺書を届けるという使命があり、相沢も松田も生きて日本に帰る意味を見つけることになりました
幡男は絶望の中にある希望を掴むことはできませんでしたが、二人を日本に帰すことができて、それぞれが最愛の人の死に向き合うことができたので、彼の死にも意味はあったと言えるのではないでしょうか
このラストの遺書を読み上げるシーンでは、母を亡くした松田に母宛の遺書が託され、妻を亡くした相沢に妻宛の遺書が託されます
映画的には感動的なシーンなのですが、「事実に基づく」とあったので、この配分には意図的なものを感じてしまいます
それが遺書を渡した原の思惑なのか、分散のことを知った幡男が指示したのかはわかりません
偶然そうなったということなのかもしれませんが、見せ方の問題なのかわかりませんが、このシーンだけ思いっきり「フィクション感が増したなあ」と感じてしまいました
あくまでも個人的な感想で、事実そうだったということなのかもしれませんが、そうだとしたら「事実のように見せるのは下手だった」という感覚が拭えません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は「原作のタイトルでネタバレ」という稀有なパターンになっていて、幡男が死ぬことはデフォ状態になっていました
「収容所から来た遺書」というタイトルなので、「どんな内容の遺書なんだろう」と思っていましたが、まさかの「遺書の伝え方が独特」というものになっていました
前半で「頭にあるものは奪えない」という壮大な前ふりがあったので、ライト層向けの説明過多の演出になっていましたね
映画は本当にライト層向けで全てをセリフで説明するという映画なので、観なくても内容がわかるほどになっています
その映像も背景のCGの出来がイマイチで「俳優さんが浮いて見える」という謎のクオリティになっていました
また、方々で指摘されている「抑留者にしては清潔すぎる」という点と、「北川景子さんが4人の経産婦&女手一人で4人を育てているお母さんに見えない」というのはツッコむだけ野暮なのかなと思ってしまいます
ある意味、リアルさは追求せず、感動秘話で一本作りましたみたいなノリになっているので、単なるベストセラーの映像化というところから一歩も出ていないのは潔いかなと思います
基本的にジャニーズ映画でファンの人向けの内容かつ主演がまだ若年でもあるのでリアル路線で行くとファン層の若さからして引いてしまうと思います
なので、そのあたりを加味した上での本作のクオリティになるのですが、それで一定の収益が出るところに問題があるのだと思います
ある程度の見込みのあるハズレの少ない送りバントのような作品なので、1時間後には全て忘れるくらいに内容が薄かったですね
このあたりの諸事情が邦画のレベルを押し下げているのですが、これは今に始まったことではないでしょう
本作の企画がいつ決まったかはわかりませんが、世界情勢的に公開時期が悪いなあと思ってしまいます
連日のウクライナ侵攻のニュースの方が激しく思えて、当時のソ連の暴挙(負けるとわかった途端に条約破棄して侵攻)の描き方も甘すぎて引きます
戦後の復興のために使い捨てられた命に対して、この置かれている状況を「日本の目線ではっきりと描かない」のは「逃げ」以外の何者でもありません
映画はその辺りをさらっとナレーションで済ませているのですが、満州にいればソ連の不穏な動きは察知していたはずです
このあたりの侵攻までの描写が残念すぎて、本当の理不尽を描ききれていないのも微妙なところだと言えます
そして、前半のナレーションは松田役の松坂桃李さんなのですが、遺書のメインは相沢役の桐谷健太さんになっているので、回想録的な結びもおかしなことになっています
さらに最後には現代パートがあって、いきなり「幡男のひ孫の結婚式」で息子の顕一が語るのですが、これが蛇足中の蛇足になっていましたね
コロナ禍の観客に向けてのメッセージにもなっておらず、なんのために現代パートがあるのかはわかりません
この構成ならば、ナレーションは顕一役(老齢期)の寺尾聰さんがするべきで、それをしない理由が見当たりません
とにかく、随所にアラの多い作品になっていて、このクオリティで公開に至る意味はほとんどないでしょう
テレビドラマでも今時ここまで酷いものはないと思うので、俳優さんをスクリーンで観たい以外に鑑賞理由は必要ないと思います
この史実に関して感銘を覚えるのなら、原作本を読むか、別のドキュメンタリー作品を観ることを推奨いたします
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382116/review/a05dabc0-2312-4219-8b56-126f087afc2f/
公式HP:
https://lageri-movie.jp/
