■隠したい過去がある人ほど、その人生は面白いものなのかもしれません
Contents
■オススメ度
映画制作にまつわる映画が好きな人(★★★)
監督の自伝系の映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.26(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Chhello Show(最後のショー)、英題:Last Film Show
情報:2021年、インド、112分、G
ジャンル:映画に魅入られた少年が自分たちで映画上映をしようと奮闘する様子を描いた青春映画
監督&脚本:パン・ナリン
キャスト:
バビン・ラバリ/Bhavin Rabari(サマイ:映画にのめり込む9歳の少年)
バベーシュ・シュマリ/Bhavesh Shrimali(ファザル:ギャラクシー座の映写技師)
Rinkalben(ファザルの妻)
リチャー・ミーナー/Richa Meena(料理上手なサマイの母)
ディペン・ラバル/Dipen Raval(バラモン階層にこだわるサマイの父、チャイ店経営)
ViditaMetha(シリ:サマイの妹)
Paresh Mehta(映画館「ギャラクシー座」の支配人)
Kashyap Kapta(ギャラクシー座の案内係、券売人)
Vikas Bata(ナノ:サマイの友人、ヘルメット被っている子)
Rahul Koli(マヌ:サマイの友人、チップス売りの子)
Shoban Makwa(バドシャー:サマイの友人、天然パーマの子)
Kishan Parmar(ST:サマイの友人、駅長の息子)
Vijay Mer(ティク:サマイの友人、七三分の子)
Alpesh Tank(ダヴェ先生:サマイたちの小学校の先生)
Tia Sebastien(リーラ・ミラ:バンジャラのダンサー)
Rafig Vajyugada(シッディ・ダダ:列車の運転手)
Nareshkumar Mehta(駅長)
Ronak Goswami(警官)
Chetan Raval(工事の請負業者)
Surya Singh(デジタルプロジェクターの業者)
Divesh Patel(サイクルスタンドの店主)
Bansi Rinkal(サマイの映画で歌う少女)
Drishiti Rinkal(サマイの映画で歌う少女)
■映画の舞台
インド:サウラシュトラ地方
グジャラート州チャララ/Chalala(サマイの実家)
https://maps.app.goo.gl/JhufVzbENfAW4V918?g_st=ic
アムレーリ/Amreli(ギャラクシー座&学校)
https://maps.app.goo.gl/nn2to8pcRgtX7Pjb6?g_st=ic
ラージコート(フィルムが運ばれる町)
https://maps.app.goo.gl/zkzoVDbaRWDgzQpGA?g_st=ic
ヴァドーダラー(サマイが目指す町)
https://maps.app.goo.gl/mhWXbYrgPJLPCivP8?g_st=ic
ロケ地:
インド:サウラシュトラ地方
■簡単なあらすじ
インドのグシャラート州の田舎町チャララに住む9歳のサマイは、バラモン階級にこだわるチャイ売りの父と、料理上手な母のもとに生まれ、妹と一緒に暮らしていた
父は映画を低俗なものと嫌っていたが、カーリー神が出る映画だけは特別に許可し、家族みんなで観に行くことになる
父は「これが最後の映画だ」と言い、5年ぶりの映画体験をすることになった
サマイは映画の内容そのものよりも、映写機が放つ光に魅了され、映像が動く理由に興味を持つ
翌日、学校を抜け出して映画館に忍び込んだサマイだったが、数日後にはあっさりと見つかって追い出されてしまう
失意の中、途方に暮れていたサマイに、ある男が声をかけてきた
それは、映画館の映写技師ファザルで、彼はサマイの持参してきた弁当に興味を示す
ファザルは「取引」を持ちかけ、映画をタダで見せる代わりに、母の作った弁当を食べさせろというのである
テーマ:物語を生み出す光の魔術
裏テーマ:時代の終焉に生まれる物語
■ひとこと感想
少年が映画に没入して作り始める系だと思っていましたが、実際には「映写機を自作して盗んだフィルムを再生させる」というものでしたね
ネタバレになるのかは分かりませんが、原題の『Chhello Show(最後のショー)』の方がしっくり来るのではないかと思います
前半からして、ガッツリと違法行為が満載なのですが、フィルム盗んだというのは本当のようで、美化されているのが良いのかな微妙なところです
それでも、インドの地方都市のそのまた田舎の話なので、娯楽は贅沢という感じになっています
映画の舞台は2010年ですが、先進国が切り捨てたもので構成されているためか、もっと古い印象を持ってしまいます
それでも電車を乗り継いだり、高速道路のその先には大都市があったりして、ギャラクシー座にもようやくデジタル映写機が投入されるという転換期を迎えることになっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
邦題の意味が最後まで分からず、劇中でエンドロールを観るシーンすらないという、雰囲気だけでつけた感が凄かったですね
映画制作の話でもなく、盗んだフィルムの上映会をするというもので、劇中で描かれる「映画には物語が大事」とか「うまく騙すには」みたいな哲学も後半には活きていません
映画ファン(特にフィルム時代からのファン)にはショッキングな映像があって、それが再加工されていく「社会見学」は映画の魔法とはかけ離れているように思えます
一応は、廃れゆくフィルム時代の転換期にいたという原始体験が描かれているのですが、この体験によって監督がどんな物語性の映画を作ることになったのかまではよく分かりません
この映画で描かれていることがすべてではないと思いますが、映画に音楽や音、セリフを与えていくクライマックスが見どころがあって、父の心変わりがうまく表現されていたと思います
「英語を学んで、この街を出ろ」
この格言は都会に住む人々にも響く言葉だったではないでしょうか
■映画の歴史について
映画の誕生の歴史は1890年代に遡ります
先人たちの研究の末、1893年にトーマス・エジソンが映写機のキネトスコープを一般公開します
さらに、1895年にリュミエール兄弟がシネマトグラフ・リュミエールと呼ばれる「カメラと映写機とプリンターが一体になった複合機」をパリ開催の科学振興会にて発表しました
エジソンの開発したのは「箱を覗き込むと動画が見られる」というもので、リュミエール兄弟が開発したのは「スクリーンへの投射できるように改良したもの」でした
これによって、多くの人が同じ映像を同時に見られるようになりました
リュミエール兄弟が見せた映像は「駅のプラットフォームに蒸気機関車が入ってくる(『ラ・シオタ駅への列車の到着(L’arrivée d’un train en gare de La Ciotat)』)」というものや、「自分の経営する工場から従業員が出てくる姿(『工場の出口(La Sortie de l’usine Lumière à Lyon)』)というものでした
https://youtu.be/-e1u7Fgoocc
https://youtu.be/J1EdyZtkGXo
これらは「サイレント映画」と呼ばれる音声のないもので、1920年に「トーキー映画」が誕生するまでは映写機の音が鳴り響くという環境で映像が公開されていました
当時は、ピアノや足踏みオルガンなどを使って伴奏をつけるというのが一般的だったとされています
1902年、世界で初めて「物語構成を持つ映画」が公開され、ジョルジュ・メリエスによって『月世界旅行(Le Voyage dans la Lune)』が制作されます
その後、エドウィン・ポーター監督による『大列車強盗』が制作され、世界初のアニメーションは1906年のジェームズ・スチュアート・ブラックトン(James Stuart Blackton )によるものでした
1910年になってハリウッドが登場し、同時に戦争利用となるプロパガンダ映画も上映され始めます
1920年代にはチャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドらの登場によってコメディ映画が台頭、1927年にはSF映画『メトリポリス(フリッツ・ラング監督)』が制作されました
1927年になって、アメリカにて世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー(アラン・クロスランド監督)』が登場、1929年にはアメリカのアカデミー賞が誕生することになりました
このあたりまでが映画黎明期のざっくりした流れになります
■インドの映画事情について
インドに映画が登場したのは1896年のことで、リュミエール兄弟のパリ開催の7ヶ月後に、ムンバイー(昔はボンベイと呼ばれていた)にて在インド外国人向けに上映することになりました
インド制作の初めての映画はヒンドゥー神話をモチーフにした『ハリスチャンドラ王(Raja Harishchandra、1913年)』とされています
インドと言えば「ボリウッド」ですが、これはアメリカのハリウッドと「ボンベイのB」を組み合わせた造語で、1970年代後半から呼ばれるようになりました
インドは多言語国家なので、ヒンドゥー語はボリウッド、タミル語は「コリウッド」、テルグ語は「テルウッド」と呼ばれているそうですね
現在のインドは年間制作本数も映画館観客総数も世界一で、その背景にはインドのテレビの普及率の低さが挙げられています
インド映画は娯楽作品で、スターが登場する映画が多く、3時間前後になるのが普通のこと
物語がメインでも、いきなり踊り出すというスタイルになっていて、最近では「踊らないインド映画」というものも日本に入ってくるようになりました
これらを「マサラムービー(Masala Film)」と呼び、この由来は「複数のスパイスを混ぜ合わせたマサラ」なのですね
インドでは地域で言語が違い、ざっくりと言えば、北インドはヒンドゥー語で、南インドはタミル語、テルグ語、東インドにはベンガル語、西インドにはマラーティー語などがあります
それぞれの地域で映画が作られ、他地域での上映では吹き替えではなくリメイクになることもしばしばあり、それが制作本数の増加に繋がっていたりします
本作では「リュミエール兄弟」を筆頭に多くの映画人の名前が登場し、彼らがいるから今の私がいる、というテイストで謝辞が贈られています
また、ファザルが語るように、映画は物語を伝えるために存在していて、いわゆる「嘘をどのように信じ込ませるか」という技術の集大成でもあると思います
彼は映画の大半は暗闇を見ていると言いますが、映写技法の嘘とは別の次元の嘘というものが、映画の質に影響しているのはいうまでもありません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のレビューなどを書いていると、映画の面白さの根幹に当たる部分は「物語」であると評することが多いですね
これは通説のように思えますが、どうして「物語が最重要視されるのか」というところを深く考える機会は少ないと思います
映画は時間の芸術で、映像、演出、音楽、役者、美術など様々なものが組み合わさったコンテンツであると言えます
映画が写真と違うのは、そのコンテンツの中で「誰が物語を作るのか」というところだと思います
写真一枚にも多くの物語がありますが、単体で滲み出る物語を作っているのは観ている側であることが多いでしょう
無論、その一枚に撮り手と被写体の物語があって、それを瞬間的に切り取ったものであることは間違いありません
でも、撮り手や被写体から話を聞いて納得することよりも、その瞬間を観て何を感じ、どんな物語があるのかを想像することの方に集中することのほうが多いでしょう
パンフレットや写真の説明には、どことなく「受け手の解釈」という余白を持たせる印象が強く、これは絵画などの美術作品に通じるところがあるように思います
写真展などではある程度の通行方向があって、これがいわゆる時間の芸術になるのですが、そのスピードは観る側が決めていると言っても過言ではないでしょう
その点、映画(音楽も同じ意味がある)などは「時間の流れを制作側がコントロールしているコンテンツ」なので、その配分は意図的であると言えます
これまでに無意味にパッチワークされた映画というのを観たことがないのですが、そのパッチワークがあったとしても「ランダムに機械が次の映像を選ぶ仕掛け」がなければ、そこに意志があるのは明白でしょう
そして、この時間を使って、多くの映像を以て起承転結を生み出しているのが映画であると言えます
映画の多くは、「何も持っていない人が何か得る」か、「色々持っていた人がそれを失っていく」という二分化になっていて、「どうしてそうなった」という部分を語るのが物語の役割であると言えます
御伽話でも「桃太郎が鬼を退治した」という全体の流れの中で「どうやって、誰と、どんなふうに」という起から結に向かうまでに起こることに対して、観客は時間を預けているとも言えます
そうした観客側の貴重な時間を預かりながら、作り手は「自分が語りたいこと」を物語に盛り込み、そして様々な演出や技法を持って伝えていく
桃太郎の物語を伝える場合でも、「過程」に特化するコンテンツもあれば、「起因」に特化するコンテンツを作ることもできるし、「影響」に特化してものも然りでしょう
そう言ったところに特別な何かが宿って、それを高いレベルと制作サイドと受け手が理解しあった瞬間に、歴史に残る映画が生まれるのだと考えています
本作の場合は「フィルムの終焉によって、新しい物語が生まれた」という幼少期の体験の共有をメインに映画を作っています
映画のメインは「サマイがどうやって映画というものを学んだか」という物語になっていて、「起点としての初期衝動」「影響としての成長」があり、「起点から影響に移るまでの出来事」として、「フィルムの終焉」「フィルムの再現」「フィルムに命を与える意味の理解」というものが描かれていました
そう言った意味において、フィルムの盗難と少年院送致なども包み隠さないというところにこだわりを感じ、「流れていく自分の時間」に対して、「何の意味があるのかを体感していく姿」は良かったと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384765/review/cd22562c-88f9-44cf-8480-b34d591d9798/
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/endroll/
