■ラストマイル
Contents
■オススメ度
関連TV作品のシリーズを観てきた人(★★★)
物流関係のドラマに興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.8.23(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、129分、G
ジャンル:配達物爆発事件を巡る物流センター長の顛末を描いたミステリー映画
監督:塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
キャスト:
満島ひかり(舟渡エレナ:「デイリーファスト」の配送部門「関東センター」のセンター長)
岡田将生(梨本孔:エレナの部下、チームマネージャー)
ディーン・フジオカ(五十嵐道元:エレナの上司、日本支社の統括本部長)
大倉孝二(毛利忠治:西武蔵署の刑事)
酒向芳(刈谷貴教:毛利の相棒刑事、捜査一課)
丸山智己(小田島:警視庁警備部、爆発物処理班の班長)
阿部サダヲ(八木竜平:運送会社「羊急便」の関東局の局長)
水澤紳吾(熊田恭二:八木の部下)
岩谷健司(犬岡純也:「羊急便」荒川支局長)
火野正平(佐野昭:「羊急便」の委託ドライバー)
宇野祥平(佐野亘:昭の息子、配達員見習い)
望月歩(白井一馬:バイク便のドライバー)
安藤玉恵(松本里帆:二人の子どもを抱えるシングルマザー)
根本真陽(松本海空:里帆の娘、長女)
磯村アメリ(松本七海:里帆の娘、次女)
中村倫也(山崎佑:「関東センター」の元チームマネージャー)
仁村紗和(筧まりか:佑の恋人)
Sarah Macdonald(サラ・グリフィン:「デイリーファスト」のアメリカ本部の幹部)
宮崎叶夢(爆発物取扱者?)
川島潤哉(ネット広告の受注会社)
【アンナチュラル】
石原さとみ(三澄ミコト:不自然死究明研究所(UDIラボ)の法医解剖医)
井浦新(中堂系:UDIラボの法医解剖医)
窪田正孝(久部六郎:UDIラボのアルバイト→東央医大の研修医)
市川実日子(東海林夕子:UDIラボ所属、三澄班の臨床検査技師)
飯尾和樹(坂本誠:UDIラボの中堂班の臨床検査技師)
松重豊(神倉保夫:UDIラボの所長)
竜星涼(大林南雲:フォレスト葬儀社の社員、UDIラボに遺体を運ぶ業者)
吉田ウーロン太(向島進:西武蔵署の刑事、毛利の元相棒)
薬師丸ひろ子(三澄夏代:ミコトの義理の母、弁護士)
【MIU404】
綾野剛(伊吹藍:警視庁刑事部、第4機動隊の隊長)
星野源(志摩一未:第4機動隊の隊員)
橋本じゅん(陣馬耕平:第4機動隊の班長)
金井勇太(糸巻貴志:第1機動隊のスパイダー班の班長)
永岡卓也(田島雄介:警視庁捜査一課の刑事、刈谷の元相棒)
前田旺志郎(勝俣奏太:高校時代に虚偽通報事件を起こした男→刑事)
麻生久美子(桔梗ゆずる:西武蔵野署の署長)
■映画の舞台
日本:関東郊外
西武蔵野市(架空)
ロケ地:
群馬県:高崎市
Gメッセ群馬
https://maps.app.goo.gl/xLwTUTA5L6rwobRX9?g_st=ic
高崎アリーナ
https://maps.app.goo.gl/gYe7sdR47b4paMi58?g_st=ic
神奈川県:横浜市
横浜労災病院
https://maps.app.goo.gl/3ToN6KDK9F3gGVR58?g_st=ic
■簡単なあらすじ
地方の配送センターから都内の関東センターに移動になったセンター長のエレナは、ブラックフライデーを迎えた繁盛期にセンターの対応にあたることになった
だが、その1日目にセンター発の荷物が届け先で爆発してしまう
センター内か、配送途中かがわからないまま、2つ目の荷物が爆発し、死傷者が多数出てしまう
警視庁から派遣された毛利と刈谷はセンターに出向いて令状を見せるものの、夥しい数の荷物を押収できるはずもなく、センター内で荷物の整理を行うことになった
センターには社員が数名しかおらず、他は派遣社員ばかりで、作業員を合わせると数百人規模のセンター
入退場は厳重にチェックされ、爆弾を運び込む隙間などなかった
それでも、次々と別の場所で爆発が起こり、エレナはセンターに泊まり込んで、事態の収拾にあたることになったのである
テーマ:物流の定め
裏テーマ:物流の止め方
■ひとこと感想
TVドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と世界観が同じというふれ込みで、新たなドラマが展開されるという内容になっていました
どちらのドラマも観てはいませんが、事件の捜査をドラマの刑事がして、その解析をドラマの研究所が行うというもので、観ていなくても支障がありません
ドラマファンとしては、各所で登場するキャラがご褒美のような感じで、それぞれに見せ場を作っていた、という印象になります
ぶっちゃけると、どのドラマでもOKで、科捜研とタカ&ユージでも問題ないという感じで、TBSの過去のドラマのキャラを用いても成立する、ということになります
ある意味、今後の可能性を提示したという点では面白いと思いますが、映画館で観る意味があるのかと聞かれればNOと答えるしかないように思います
ドラマでは使えない予算で規模が大きい部分はありますが、爆発のCGなどはとてもチープなものでしたね
物語としてはミスリードの多い作品で、犯人は誰かを追わせる物語としては、次の話に繋げるための強引な引きの連続のように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画にはシークレットキャストがいて、パンフレットでも彼らのインタビューは袋綴じになっていました
配役のことを考えると何かあるなと思われるので、これは隠しておいて正解でしょうか
とは言っても、SNS時代なので、それが通用するのも初日だけのように思います
邦画が俳優のファンありきの構造になっていて、物語が二の次になってしまうとところが否めないのですが、今回のシークレットゲストが興収に寄与する割合はほぼないと思います
事件を解決するミステリーとして特質すべきものはなく、社会風刺の側面も少し弱い気がしました
物流のあり方を考えた時、コストの闇を暴くには至っていないし、唐突に挿入されるシングルマザーの内情もノイズのように思います
犯人の動機はわかるものの、犯人が自分の犯行を見届けずに狼煙になる展開も不思議なものがありました
復讐を果たすなら、無差別に人を巻き込むのではなく、代行で紛れた荷物を時限式にして、倉庫を木っ端微塵に壊した邦画早いですからね
何をしたかったのかわからないし、劇物や起爆装置をどのように作ったのかなど、不明な点が多いまま終わってしまったようにも思えました
■物流の行末
映画は、Amazonをはじめとしたネット販売(ECサイト)の影響を受けている配送業の今を切り取っている内容になっていました
社会的な問題提起をしているところもありますが、犯人の動機と行動が無茶苦茶なので、ネット販売側も被害者になってしまっています
物流に関しては、ドライバーの働き方改革などの余波が出ている状況ですが、送料込みとか送料無料という謳い文句で商品を買わせる側にも問題があると言えます
必要な対価をサービスに落とし込んで、それを目的に購入させるということは、感覚的には「送料が無料でなければ必要のないものを買っている」ということになります
この購買構造が根付いている状況だと、商品の価値よりも配達料の有無の方が優先されている状況になっています
それを販売側もわかっているため、既に高騰した配達料を織り込んで「込み」という表記にしているか、配達料を値下げさせる圧力を加えて、価格の上昇を抑え込んでいるかのどちらかになります
配達料は「大きさ」によって価格が決まり、コンパクトサイズ、60、80というようにサイズが大きくなるにつれて、価格も上がっていきます
また、運ぶ距離によっても変わり、ある一定の重さを超えてくると付加される金額というものがあります
経済産業省による「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」のページによれば、宅配便の取り扱い単位は2010年で32億個だったものが、2021年で50億個手前まで増加していて、近5年で約10億個の増加となっています
また、物販におけるEC市場の拡大も急速で、物販系のEC化率は2021年で8.78%と10年前に比べれば倍増の状況になっています
さらに、再配達率の推移というデータもあり、元々15%程度で推移していたものが、コロナ禍で8.5%に減り、その後宅配ボックスの普及に伴って、11%前後で推移しています
2024年は「物流の2024年問題」とされていて、これは「2024年度からトラックドライバーの時間外労働の上限規制」が適用されたことに由来します
ただでさえ人が少ないところに、稼働時間が減るので、その皺寄せは消費者の方に現れていきます
この2024年問題はメディアでもそれなりに報道されていますが、全体の認知度は50%前後で、さらに燃料価格の高騰問題がのしかかっています
これらを総合的に踏まえると「ECサイトで買った商品がすぐには届かずに配達料も上がる」ということが予測され、モノによっては配送料の方が高いという商品も登場すると考えられます
今では、販売側がコストをかけて「自動配達(ドローンとか)」であるとか、公共的な宅配ボックスの普及というものを行なっています
自動配達はさすがに難易度が高いと思うのですが、公共的な宅配ボックスよりは個人宅の宅配ボックス普及の方が早いと思うのですね
ピンからキリまでいろんな宅配ボックスがありますが、個人的には「ルスネコボックス」をかなり前に購入して重宝しています
上からも入れられるし、大きいものだと前扉からも入れられます
配達業者さんが入れた後にダイヤルを回せば施錠されるし、施錠された状態でも小さいものなら上の投函口から入れられます
宅配ボックス自体の盗難の方が怖かったのですが、バイクの地球ロック状態(バイク用チェーンロックをガスの配管に絡めている)にしているので、切断するのは骨が折れるんじゃないかなと思います
参考までにAmazon Link 貼って起きますね
→ https://amzn.to/47DMUzV(ルスネコボックス)
チェーンロックは昔バイクで使っていたABUSの高いのを使っていますが、そこまでゴツくなくても良いと思います
■勝手にスクリプトドクター
本作は、犯人の恋人が流通センターで働いていたけど、病んだので自殺したという思い込みがあり、その報復的な措置を取っていた、という内容になっています
恋人の死の真相は俯瞰的に見ればなんとなくわかりますが、恋人が本当のことを知っているのかは何とも言えません
でも、日常的な会話やSNSなどのやり取りから、彼が苦しんでいたことを知っていたのだと考えられます(これは仕事だけとは限らない)
誰が書いたのかはわかりませんが、ロッカールームに謎の数式があって、それを見つけたことで、実践へと結びついたように描かれていました
結局のところ、人が死んでもベルトコンベアは止まらないのですが、これは当然のことだと思います
工場自体を爆破でもしない限り、流通というものは止めようがなく、一箇所の停滞が多くの人の損失になります
企業はそれがわかっているので、個人の思惑や事故で止めることはなく、ここで停止した損失は、巡り巡って消費者や利用者、関係者に皺寄せが来ることになります
犯人がセンターの隠蔽体質を暴露したいという目的があるならば、爆弾を工場内で爆発させれば良いのですが、そうではなく無関係な一般人を巻き込むテロ行為を行なっていました
これでは、恋人がどのような死に方をしていても同情されることもなく、ただの猟奇的でサイコパスな殺人鬼になってしまっています
しかも、ちゃんと爆発するかどうかわからない爆弾を自分の自殺に利用して、後のことは知らんというスタンスなので、これでは問題提起どころの騒ぎではないのですね
単に狂ったサイコパスがテロ行為を計画して自殺した、というものになっていて、それでいて恋人の死がどうこうなるということはありません
映画の絵的には面白く見えるかもしれないのですが、せっかく社会問題に一歩踏み込んでいるのに、その上辺すら攫っていないのは稚拙のように思います
運送業界としても、下請けに配達を発注して費用を浮かせているし、マージンを取っているから末端が安い金額で配達している
それをあたかも、大元が安い金額で無理やり配達させている、という構図にしているのですが、そのような印象操作をするなら、センターがいくらで羊急便に依頼して、配達人はいくらで運んでいるのかを「取材を通してリアルに」描く必要があると思います
ラストでは、運送会社が結託して配送料交渉をして幾らかの金額の上乗せになっていますが、20円上がってもマージン10円取られたら、配達員は10円しか増えないのですね
このあたりの「委託」に関する闇を完全スルーにしている状態では、何も描いていないのと同じでしょう
また、センターも非正規雇用がほとんどという構造になっていましたが、それによって正規雇用の業務にどのような影響があるのか、などの細かなところも完全スルーなのですね
センターと言えども、非正規雇用者の管理の他にも膨大な仕事があるはずなのですが、それら全てを外注しているとか、そこも非正規で行なっているというのは無茶な話だと思います
映画だと、エレナと孔以外の正規社員が登場せず、あのセンターがどのようにして成り立っているのかは描かれません
あくまでも某ECサイトの倉庫ってこんな感じだよねえというイメージで作られているように思え、このあたりのリアリティのなさというのが、無駄に社会問題を取り扱ったことによって、反発を生む結果になっていたように感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、アメリカから派遣されたエレナが工場に就任し、そこはテロ予告がされていた工場となっていました
本国では、犯人からの予告のようなものが届いていて、「念の為」にエレナを派遣するに至っています
しかも、そのことは本人には隠しておいて、到着したらある人物の情報を消せという指示がありました
このあたりの流れも不自然なことが多く、エレナも犯人も本来ならば「そこにある問題を露呈させて解決させる」ためのキャラだったように思います
でも、エレナは問題解決をスルーして孔に託して去っていくし、彼女自身は「テロ対策のために招聘された」という自覚もありません
なので、映画として、主人公をどのように変化させたいのか、というところがまったく見えなかったように感じました
原則として、映画は「もっとも変化した人物」が主人公であるという基本があり、物語の始まりの状態と終わりの状態では、何かしらを得ているか、何かしらを失っている、という構造があります
エレナの物語の始まりの状態は、後半で明かされる「精神的に苦しいところから立ち治りつつある状態」というもので、これが起点であるならば、その回復もしくは実地における精神の安定ということになります
でも、映画では「エレナの変化要因」はほとんど取り扱われず、彼女が今後どうやって生きていくのかなどは明示されません
エレナが変化しない人であるならば、ストーリー的に必要なキャラ要素は「問題解決人」ということになりますが、映画では「巻き込まれ人」というもので、完全に事件を解決した人物にはなっていませんでした
変化もせず、問題解決もしないので、映画を俯瞰して見ると「羊急便の八木」と「配達員親子」が実質的な主人公であるように見えます
八木は本社と取引先と発注先に板挟みになっている状態で、末端で働く二人は「働くことの意味」を考えるというキャラになっていました
この構図を考えると、エレナという人物は本当に必要だったのか?というところに行き着いてしまうのですね
もし、エレナがいなければということを考えると、不本意にセンター長を務めることになった孔が主人公で、ロッカーの謎を解く解決人ということになります
主人公がいてもいなくても成立してしまうというのは設定上の欠陥のようなもので、唯一の存在意義は「犯人と接触していた可能性があった」というものでした
でも、これも孔でもOKだったりします
さらに映画は、二つのドラマの主要キャラを劇中で登場させますが、これも彼らでないとダメという要素はありません
刑事が右京さんで、科捜研が出てきても同じ映画ができると思うのですが、右京さんだとますますエレナが不要もしくは「実は犯人でした」というふうにならないと成立しないように思えます
「実はエレナが」という路線でミスリードをしていく場面もあったのですが、これまた意味不明に不要な要素でしたね
それよりは孔が山崎佑の友人で、その恋人から依頼を受けて仕組んだという方が面白みを感じます
本作は、二つのドラマのキャラが「事件を解決してはいけない」けど、ある程度の活躍は必要というテイストで作られていました
この構成自体が無茶で、あの程度の登場でお茶を濁しつつ、ドラマのファンを惹き入れて興行収入を伸ばそうという魂胆はどうなのかな、と思います
ドラマファンがどこまで好意的に受け入れたのかはわかりませんが、この映画が成功すると何でもありの状態になってしまう懸念があります
ある種のドラマの同窓会映画というものがコラボという形で実現することになるのですが、それはTVの中だけでやってよね、と言いたくなります
映画館に人を呼び込むのが目的だとしても、最終話だけとか、スペシャルコラボだけを映画で、などの使い方をされるのはドラマファンとしてもキツいものがあると思います
ビジネスとしてはアリなのかもしれませんが、作品に対する愛情はほとんど感じられないので、そこはきちんと分けておくべきラインなのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100881/review/04169358/
公式HP: