■夢の実現に必要なのは、不屈の伝播とビジョンの可視化だと思います
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■オススメ度
ショービジネス映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.27(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Les Folies fermiéres(農場のバカ騒ぎ)、英題:Country Cabaret(農場キャバレー)
情報:2022年、フランス、109分、G
ジャンル:経営不振の農場がキャバレー営業に乗り出した実話ベースのヒューマンコメディ
監督:ジャン=ピエール・アメリス
脚本:ジャン=ピエール・アメリス&マイオン・ミショー&ジャン・リュック・ガジェ&ミュリエル・マジェラン
キャスト:
アルバン・イワノフ/Alban Ivanov(ダヴィッド・ル・クデール:経営不振の牧場主、モデルはDavid Caumette/ダヴィッド・コーメット)
サブリナ・ウアザニ/Sabrina Ouazani(ボニー・スターライト:キャバレーをクビになったポールダンサー)
ベランジェール・クリエフ/Bérengère Krief(レティシア:ダヴィッドの元妻、美容師)
ミシェル・ベルニエ/Michèle Bernier(ミレーユ:ダヴィッドの母)
ムーサ・マースクリ/Moussa Maaskri(ウアリ:ダヴィッドの父)
Guy Marchand(レオ:ダヴィッドの祖父)
Philippe Benhamou(ドミニク:トランスジェンダーの歌手)
Lise Laffont(リーヌ:姉妹ダンサーの妹、ジャグラー)
Elsa Godard(ロール:姉妹ダンサーの姉)
Ariana Rivoire(ガブリエル:難聴の手品師)
Alain Rimoux(ガボール:心臓悪い催眠術師)
Jean-Baptiste Heuet(レミ:ガブリエルの助手、ホームページ作成)
Ludovic Berthillot(フレッド:ダヴィッドの友人)
Eddie Chignara(トニオ:ボニーの元雇用主、キャバレーの支配人&司会者)
Stéphane Arnow(ステファン・アーノウ:キャバレーのマジシャン)
Deborah Durand(ウェンディ:ブロードウェイに行ったボニーの同僚ダンサー)
Gabrielle Chabot(キャバレーの受付)
Éric Verdin(判事)
Patrik Cottet-Moine(声真似するオーディション参加者)
Marie Blanche Costa(アネット:レティシアの顧客)
David Dubost(消防士)
■映画の舞台
フランス:ダルン県
ガリーク/Garrigues
https://maps.app.goo.gl/XvX8ALAoJSx9LG9q8?g_st=ic
ロケ地:
フランス:オーヴェルニュ
カンタル
https://maps.app.goo.gl/DXBWmGhgHccW5skk9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
フランスのタルン地方にて農場を営んでいるダヴィッドは、借金の返済ができぬまま、裁判所に差し押さえを言い渡されてしまう
なんとか交渉の末に2ヶ月の猶予をもらったものの、打開案は見つかっていなかった
銀行の帰り、偶然キャバレーに立ち寄ったダヴィッドは、そこでポールダンサーのボニーに魅了されてしまう
農場に帰ったダヴィッドは友人のフレッドと「納屋をキャバレーにする」というアイデアで盛り上がるものの、母ミレーユは呆れ返り、祖父レオは破廉恥なものを持ち込むなと大反対する
それでも、なんとかしないといけないと感じているダヴィッドは、ボニーの元を訪れて、交渉を行うことになった
彼がボニーのところに向かったその日、彼女はキャバレーの支配人トニオから解雇を言い渡されていて、行く先がないのならと「仕事」を提案する
それは、「舞台をプロデュースする」というもので、ダンサーのボニーはできないと断った
だが、ダヴィッドは「あなたならできる」と信じ、条件付きでボニーを中心としたキャバレー開発を始める事になったのである
テーマ:不屈
裏テーマ:アイデアの源泉
■ひとこと感想
実際にあった出来事をベースにした物語で、モデルとなった農場キャバレーは今も営業中となっています
パンフレットにはモデルになったダヴィッド氏のインタビューもあり、映画のエンドロールでは実際のキャバレーの映像などが登場していました
物語は、崖っぷち農場主の奮闘とキャバレーを追われたダンサーの邂逅になっていて、そこに恋愛感情がなかったのは良かったですね
あくまでもダンサーとしてのボニーに憧れを抱いていて、彼は元妻レティシアに今も惚れ込んでいました
後半になって、ダヴィッドが別れる事になった理由が明示されますが、これはかなり深い話になっていましたね
ボニーの存在がレティシアを動かしたことは事実ですが、フレッド&ミレーユの関係性と対比になっているところも良かったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
行き場を失った人々が再起をかけるものの、自分のことばかり考えてしまい、不和が生じてしまうというテンプレのような作品になっています
実話ベースですが、どこまでが実話かわからない感じになっていて、かなりエンタメ寄りになっていたように思いました
立ち行かなくなった牧場を継いでも、銀行には差し押さえられていて、売却目前で、友人の農地も奪われてしまいます
その後、その友人を雇うことになるのですが、まさかのダヴィッドの母に恋をしているというとんでも展開になっていました
彼の気持ちが催眠術で暴露されるというコミカルな部分もありながら、まんざらではない母親がいたり、別れているのに家に入り浸っている元嫁というわけのわからない家族構成になっていました
当初はミレーユの娘がレティシアなのかと思っていたし、存在感ゼロの父親はすでに死んでいるのかと思っていましたが、しれっと食卓に座っていたのは驚いてしまいました
■実話あれこれ
映画のモデルになったのは、ダヴィッド・コーメット氏(David Caumette)の牧場で、彼は学業を終えたのちに機械学の教師となり、やがては家族が経営する農場を引き継ぐことになっています
2007年には、肉の宅配による直販活動を開始、2010年には農場内に精肉店を建てるようになりました
ダヴィッドの妻レティシアは共同経営者となり、民宿事業などを手掛けるようになっています
2016年、精肉店と民宿は成長し、規模も大きくなっていきます
その頃に、レティシアが「本物のショーを好む」という発言をして、それにインスピレーションを受けたダヴィッドがキャバレーを始めることを思い付きます
2016年のオクシタニー地区の農業スタートアップに選出され、2019年には映画の原作に当たる『Les Folies Fermires』という本を出版することになりました
キャバレーを開くにあたり、両親は「気がふれたのでは」と心配し、祖父は劇中のセリフそのままに「農場では土地を耕して、動物の世話をするところであって、尻を見せる場所ではない」と憤っていたとのこと
パフォーマーたちも農場での寝泊まりは嫌だったようですが、農場生活を理解してもらう上で、寝泊まりをするようになったとされています
↓原作本のAmazon Link(フランス語版しかなさそうです)
■成功の秘訣
映画は、ダヴィッドの不屈の精神でみんなを牽引し、彼が折れそうになると、レティシアが支えるという流れになっていました
わかりやすく、「諦めなければ成功する」を貫くのですが、勝算がないものに固執しても、成功までは到達することができません
映画ではいきなりキャバレーを作っていますが、そこに至るまでに様々な工夫を成して、その上で生まれてきたアイデアだったとされています
キャバレーにするには認可が必要だったようですが、完成してからオープンではなく、徐々にショーを展開するという流れになっていました
パフォーマーを集って、地元住民を巻き込みながら、少しずつ形にしていくのですが、「本物」にこだわった結果、今の農場キャバレーというものがあると思います
ショービジネスにおいて、どれだけ顧客を募れるかは、そのショーを何度も観たいと思わせられるかどうかになっていて、それを成し得るのはクオリティであると言えます
映画で言うならば、ダヴィッドが感じた感動を再現できるかと言うものになっていて、それを誰に感じさせるかと言う問題がありました
映画では、祖父レオがダヴィッドの行動を止めるために納屋に火を放ちますが、彼をいかにして納得させるかと言うところが肝要だったということになります
ダヴィッドは祖父と向き合わず、彼自身の脳内にある完成図だけで突っ走っています
これは、ボニーとの間でも交わされていなかった未来地図で、ボニー自身もメンバーと共有していないものがありました
船頭が2人いて、その地図が共有されていないので、彼らの指導というものの奥底が見えていません
それ故に齟齬が生まれ、うまく流れに乗れない時間が募ることになりました
会社に例えると、社長が二人いて、何かを始めているけど「社員には全体像が見えない」という状態になります
これが個々の作業で済むものなら問題ありませんが、会社の方向性とかビジネスモデルということになると、全体像の説明なくしては到達がかなり遅れるし、無駄も多くなります
なので、社長一人で、「何を為すのか」を明確なビジョンにして、それを単純化する必要があります
そして、それによって「各人が各部署で何をすべきか」ということを考え、それが目的からズレていないかを調整する
そうやって、共同作業による夢が叶うと言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、実話ベースでたくさんの脚色が入っていて、どこまでがリアルなのかはわからない線引きになっています
モデルになったダヴィッド氏のインタビューを見るとかなり脚色が入っていることがわかります
祖父が反対していたことは記事にも載っていて、彼らのホームページにも沿革に関しては掲載されています
いくつかのインタビュー記事を確認した感じだと、結構な脚色が入っているように思えました
とは言え、本作は史実を映画化するというものではなく、経緯とマインドの再現を主軸に置いていて、それは映画の中に落とし込まれていると、本人のインタビュー内で書かれていました
夫婦の危機、納屋の火事、友人と母親の恋愛など、どこまでが本当なのかはわかりませんが、それぞれはコメディ部分としての役割と、ダヴィッドが抱える問題を浮き彫りにされていたと思います
夫婦の危機に関しては、笑顔でいることの重要性を説き、それはプロジェクトの渦中と夫婦関係における秘訣を体現しているように思えます
納屋の火事は祖父の抵抗を誇張化したもので、それによって不屈というものの力強さが滲み出ていたように感じました
友人と母親の恋愛についてはダヴィッド自身には直接関係ありませんが、思っていることをどう伝えるかという難しさというものを描いているように見えます
一見して不要に思えるエピソードですが、ダヴィッドの行動の揺らぎを正す意味があり、ダヴィッド自身がボニーや仲間との関係の中で、自分を見つめ直すのに必要なものだったと言えるでしょう
映画的な脚色で、物語を動かす意味もあり、かつパフォーマーの見せ場をも提供しているので、うまくまとまっているなあと思いました
悪人がほとんど出てこない映画で、結末もわかりきっているとは言え、その前提をうまく利用した演出と展開になっていて、安心して観られる作品になっていたと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://countrycabaret.ayapro.ne.jp/