■マンババランを知っていれば、映画はより一層面白く感じるかも知れません


■オススメ度

 

呪術系スリラーに興味がある人(★★★)

社会風刺系映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.12.29(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Nocebo(ネガティブを誘発する偽薬)

情報:2022年、アイルランド&イギリス&フィリピン&アメリカ、97分、G

ジャンル:突然現れた謎の家政婦によっておかしくなる家族を描いたスリラー映画

 

監督:ロルカン・フィネガン

脚本:ギャレット・シャンリー

 

キャスト:

エヴァ・グリーン/Eva Green(クリスティーン:謎の病気に罹る子供服のデザイナー)

マーク・ストロング/Mark Strong(フェリックス:クリスティーンの夫)

 

ビリー・ガストン/Billie Gadsdon(ボブス/ロバータ:クリスティーンの娘)

 

チャイ・フォナシエル/Chai Fonacier(ダイアナ:クリスティーンの家政婦)

   (幼少期:Lawrene Agoncillo

Jimson Buenagua(ダイアナの父)

Raqs Regalado(ダイアナの母)

 

アンソニー・ファルコン/Anthony Falcon(ジョマール:ダイアナの夫)

Sariah Reyes-Themistocleous(アニナ:ダイアナの娘)

 

Angie Ferro(オンゴ:ダイアナと関わりを持つ老婆)

 

Cathy Belton(リズ:クリスティーンのクライアント、子ども服ブランド「VESMODO」の担当者)

Emma Konchar(「VESMODO」の受付)

 

Niamh McAllister(クリスティーンのアシスタント)

DonKing Rongavilla(ユアン:クリスティーンの運転手)

 

Angelo Paragoso(裁縫工場監督者)

 


■映画の舞台

 

アイルランド:ダブリン

 

ロケ地:

アイルランド:

ダブリン/Dublin

https://maps.app.goo.gl/TQiGRaehcdNdbmd96?g_st=ic

 

フィリピン:

マニラ/Manila

https://maps.app.goo.gl/jEvTgzJnaa3RhaqV9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

子供服デザイナーとして世界展開をしているクリスティーンは、ある日クライアントとの電話の途中で不可思議な犬を見てしまう

犬は彼女の前でダニを撒き散らし消え、それから8年の月日が経った

 

クリスティーンには夫フェリックスとのボブズという娘がいて、夫婦は交代制で小学校への送り迎えをしていた

そんなある日、「クリスティーンの依頼でやってきた」というフィリピン人の家政婦ダイアナが姿を現した

クリスティーンには覚えがなく、夫も知らなかったが、多忙で心身に不調を来してるクリスティーンを心配した夫は一週間限定で使用契約をしようと提案した

 

ダイアナは普通に家政婦を始めていくものの、彼女は民間療法に必要な不思議な材料や娘との写真などを持ち込んで、祭壇のようなものを作っていく

そして、家にいたダニをマッチ箱に入れて、暖炉の灰を使って、何かしらの儀式のようなものを始めていくのであった

 

テーマ:罪悪感が見せる幻影

裏テーマ:搾取構造への反旗

 


■ひとこと感想

 

口に何かを咥えたビジュアルが印象的なポスターで、それ以上は何も調べずに鑑賞

タイトルの意味も劇中で明かされるものだと思っていましたが、映画全体を包むものがタイトルの意味になっていましたね

 

「プラセボ効果」の逆の意味になり、「呪い」という意味もあります

実際には何も作用していないけど、クリスティーンの中に潜むものが「悪い方向に展開する」というもので、ダイアナ自身にそのような力があるのかは何とも言えない感じになっていました

 

映画では、不可思議な家政婦が家族の中に取り入っていく様子を描きますが、警戒心で拒絶されていく中で、被験者クリスティーンを精神的に操っていくように見えます

そして、娘ボブズとの交流を経て、彼女の持つ力というものの正体が判明するような仕掛けになっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ポスターで口に咥えていたのはノミのようで、それが体に侵入したことによって、クリスティーンには不調が訪れていました

ダイアナがクリスティーンに恨みを持っていたことが後半で明かされ、先進国による搾取構造に対するアンチテーゼになっていたのは痛快だったと思います

あの時にクリスティーンが現地を信頼していれば事態も変わったと思いますが、常に自分以外を疑っている彼女なら、どこにでも敵を作ってきたことが容易に想像できますね

 

映画では、フィリピンの呪術っぽいものが登場し、民間療法士としてダイアナを重宝するダイアナが描かれていきます

無論、夫は懐疑的で、娘も何かを感じて距離を置くのですが、その排除と懐柔をうまく取り込んでいき、精神的に孤独な状態へと誘導して、そこに巧妙に入っていく様子が描かれていました

 

物語は、時折「ダイアナの回想」が挿入される構成で、それによって「彼女がどうしてクリスティーンの元に来たのか」が明かされる感じになっています

その段階がクリスティーンが理解するよりも早いテンポになっていて、観客が全てを理解した後に、クリスティーンがその裁きを受けるという結末へと突き進んでいきました

 


搾取構造と遺恨

 

映画は、アイルランドの「VESMODO」という子供服ブランドメイカーがあって、そこで発売される「Tykie」というシリーズをクリスティーンが手掛けているという内容になっていました

ざっくりとググったところ架空のメーカー&ブランドになっていますが、実在するブランド全般のイメージに近いものがあるように思えます

服飾ブランドは高級路線と低価格路線の二種類があって、クリスティーンのブランドはどちらかと言えば低価格路線(ファストファッション)のように思えます

工場はフィリピンにあって、そこの環境は劣悪で、いわゆる「裁縫技師たちの給料では買えない服を作らされている環境」ということになります

 

劇中でこの事件の起点となった出来事が描かれ、それは「現場を信用しないクリスティーンの一言」に凝縮されていました

無理な製作ノルマを課し、現場を信頼せずに盗人として疑い、工場を完全に閉鎖させてしまいます

あの環境で事故が起きない方が不思議で、扇風機の故障から来る漏電が大火災を引き起こすことになっています

しかも、クリスティーンの指示で施錠され、中にいた人は全員焼死するという、立証されればとてつもない国際問題に発展する案件でした

 

ファストファッションの行き過ぎた利益追求と、モノが溢れる状態を許容する社会において、この構造を知りつつ安価を求めるべきなのかが消費者に問われていると言えます

とは言え、この構造は消費者からは見えず、高級路線で売っているブランドも、実際には同じような工場で作られている場合もあります

国による貨幣の価値、物価などの影響で一概には言えないと思いますが、国内製造の際に従業員が得られる生活ベースを保証するぐらいの賃金は出すべきだと考えます

それで採算が成り立たないのなら、そのビジネスは搾取構造でしか利益を出せない業界ということになり、その工場が世界の果てまで行った時に終わりを告げると言えるのではないでしょうか

 

製作現場の環境改善は地元の管理者の仕事になりますが、実際の現場責任者と管理者や所有者が違う場合もあります

価格が上がっても現場にお金が行き渡らないという現実もあり、それがどの段階で搾取に変わっているのかはわからないところがあります

いわゆる中抜き構造が多重化し、それによって不労所得を受ける構造が完成しているのは、このような末端の工場だけではありません

日本でも多重下請け問題が噴出し、数十万の仕事が現場に渡る頃には数千円になっているなんて話も聞きます

法律では中間搾取が禁じられていますが、派遣労働が人件費にカウントされないという問題も含めて、この構造を正すことが命題であると思います

人の労働の機会を与えるという名目でピンハネをしている構造になっていますが、給与明細における「受注額と支払い金額の差異について全て記載」というルールが生まれないと、何も始まらないのではないでしょうか

 


NOCEBOとは何か

 

タイトルの「NOCEBO」とは、「反偽薬効果」という意味があり、「偽薬の投与によって、望まない有害な作用が現れること」という意味があります

いわゆる「プラセボ効果」のネガティブな作用が起きた状態を意味し、ダイアナの民間療法で与えられたものがクリスティーンの中で「ネガティブな効果」を生み出している状態を指します

ダイアナはいわゆるシャーマン的な存在で、オンゴから引き継いだ力を駆使し、自然界にあるものを媒介して、クリスティーンに術を施します

暖炉の灰をクリスティーンに飲ませることによって呪術は完成し、ノミを介して彼らを監視する様子なども描かれていました

 

ダイアナの行っていることは民間療法に見える呪術で、その効果を自由自在に操っているように見えます

クリスティーンの気分の抑揚をコントロールし、まるで効いているかのように見せかけていくのですが、これはクリスティーン自身がそう思い込んでいる結果であり、この時点では「プラセボ効果」に近い状態であると思います

彼女の病状の変化には、自身の仕事の状況が深く関わっていて、火災事故の責任逃れから今に至るまで、再起できるかどうかというものを常に頭に置いています

リズのOKが出たことで少し安心し、それがメンタルにも影響を与えますが、同時に施されたダイアナの施術が寄与していると思い込んでいきます

 

仕事の成果をどのように捉えるかは、その時の状態によって変化すると言えます

二人の会話を見る限り、クリスティーンのデザインが完全採用されているわけではなく、リズによる大幅な修正ありきで話が進んでいました

クリスティーンが仕事の絶頂期にいれば、あの条件で受け入れたかはわかりません

リズは彼女の足元を見る格好で動き、それはノミが血液を吸う行為に似ているようにも思えてきます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、ファストファッション業界で起きている闇の連鎖を背景に、シャーマンが報復を果たすという内容になっていました

オンゴからダイアナに受け継がれた力は、最終的にボブスに移ることになっています

パンフレットの監督のインタビューによると、フィリピンの民間伝承やシャーマンの研究のために「シキホール島」に行ったという記述がありました

この島は「黒魔術が使われる島」として有名で、それ以外にも2種類のシャーマンがいるとされています

 

シキホール島は、かつてカツガザン王国の本拠地でしたが、1565年にミゲル・ロペス・デ・レガスピというスペイン人によって発見さて、その後スペイン帝国に併合されて植民地になってしまいます

その後、米西戦争後のパリ条約によって、スペインはフィリピンをアメリカ合衆国に割譲し、アメリカの統治時代が始まります

さらに太平洋戦争の最中、大日本帝国の影響下に入り、紆余曲折を経て、フィリピンとして独立するようになりました

 

これらの時代を経ても残っているのがフィリピンのシャーマンで、「マンババラン(mambabarang)」「バラン(Barang)」と呼ばれています

「マンババラン」は、ビサヤの魔術師で、昆虫や精霊を使って憎む人の体に侵入します

被害者を拷問し、のちに体に昆虫を規制させて殺します

彼らは、相手の髪の毛を使用し、それを虫に結びつけたりします

また、その虫によって相手を刺し、それで操るということもできるそうです

 

「バラン」に関しては、甲虫類を使用し、相手の体に侵入させて胃を膨らまし、最終的には破裂させて殺すシャーマンのことを言います

映画におけるダイアナは「マンババラン」と呼ばれるシャーマンに分類され、彼らは遠く離れた場所からも邪悪な呪文をかけて、病気にさせたりすることができます

ダイアナはクリスティーンを見つけ出して、そしてダニを介してクリスティーンに呪術をかけ、そしてトドメを刺すために彼女の元を訪れたということになるのでしょう

 

映画はシャーマンホラーと呼ばれるジャンルになっていて、フィリピンのシャーマンに詳しいと面白みが増すかもしれません

私は鑑賞後にこれらの情報を知りましたが、詳しく知れば知るほど、実際に行われている方法に準じていることがわかります

映画のようにキチンとハマるのかどうかはわかりませんが、あの祭壇に登場したものは、ガチの取材に基づくリアルなものになっているようですね

フィリピンには他にもたくさんの不可思議なものがあるので、気になる方は調べてみて、行ってみても面白いかも知れません(ほとんどの人が惚れ薬を探しに行きそうではありますが)

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://klockworx-v.com/nocebo/

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投稿者 Hiroshi_Takata

“【映画感想】NOCEBO ノセボ【後半:ネタバレあり】” に1件のフィードバックがあります
  1. しかも、クリスティーンの指示で施錠され、中にいた人は全員焼死するという、立証されればとてつもない国際問題に発展する案件でした

    と書かれていますが、先進国だろうと新興国だろうと施錠は当然の対応で、この火事はたまたま起こった悲惨な事故では?そもそも娘は旦那に預ければ良いものを、職場に連れてきたのはダイアナの判断ですよ。

    つまり本件はダイアナの逆恨みでしかなく、クリスティーンは何一つ悪くないのに殺害されたという、新興国に悪い印象を植え付けるための映画ですよ。
    本映画の中では、ダイアナが100%悪いです。

    以上

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