■嘘つきは言葉数が多くて、やがてボロが出てしまうのですね
Contents
■オススメ度
スロバキア映画に興味のある人(★★★)
裏切りの連鎖系の物語に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.4.20(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Malá Ríša(小さな帝国)、英題:Little Kingdom
情報:2020年、スロバキア&アイスランド、108分、R15+
ジャンル:脱走兵が妻の働く工場に紛れ込み、第二の人生を送ろうとするヒューマンドラマ
監督:ペテル・マガート
脚本:ユエン・グラス&ルツィア・ディッテ&ミハエラ・サボ
原案:Debris Companyの舞台『EPIC(1990年)』
キャスト:
アリシア・アグネソン/Alicia Agneson(エヴァ:戦地に行った夫を待つ妻、工場勤務)
ラクラン・ニーボア/Lachlan Nieboer(ジャック・コヴァーチ:戦地から脱走して妻の働く工場に潜り込む夫)
ブライアン・キャスプ/Brian Caspe(バール:エヴァの働く鉄加工工場の責任者)
クララ・ムッチ/Klara Mucci(キャット:バールと結婚させられる元娼婦、ハナーチェクの愛人)
ヤン・ヤツクリアク/Ján Jackuliak(ハナーチェク:現地を牛耳る役人)
アビゲイル・ライス/Abigail Rice(アルジェプタ:バールの秘書)
Amy Loughton(ジュリア:エヴァの友人、夫を戦地で亡くした妻)
Lucia Hurajová(マダム:エヴァの同僚)
Lucia Vráblicová(マルタ:エヴァの同僚)
Katarína Safaríková(フィオナ:エヴァの同僚)
クリスティーナ・カナートバー/Kristína Kanátová(フリーダ:困窮する妊婦)
Mark Fleischmann(ネメス:秘密警察のリーダー)
Marián Labuda(秘密警察)
Gregor Holoska(秘密警察)
Juraj Hrcka(運転手)
【ジャックが抜け出したスロバキアの隊】
Mark Parsons(隊長)
David Hartl(アンドレイ:おしゃべりな兵士)
Ondrej Kapralik(スカーマン:兵士)
Attila Vegh(ビショップ:兵士)
Juraj Vanovcan(兵士)
Vladimir Obselka(兵士)
Boris Dimov(兵士)
Filip Jurik(兵士)
【ジャックの隊を襲ったゲリラ】
Jaroslav Hodik
Frantisek Andrejkovic
Ján Tirpák
【ジャックたちが立ち寄った娼館の娼婦】
Dominika Bubenikova
Vanessa Skultetyova
Monika Siekelova
Tamara Timarova
Sarka Nohelova
Natalia Skupenova(町に住む子ども)
Veronika Miadokova(町に住む子ども)
Zuzana Zrubcova Makovnikova(町に住む子ども)
Leslie Hayler(ラジオの音声)
■映画の舞台
1944年、
スロバキア共和国
ロケ地:
不明
■簡単なあらすじ
1944年、スロバキアの郊外にて、兵士団の一行はある娼館を訪ねた
そこには煌びやかな娼婦がいて、兵士のジャックもある娼婦とペアを組むことになった
だが、ジャックは娼婦が部屋に入ったのを見計らって、娼館から脱走する
それと同時に銃声のような音が周囲に鳴り響いた
その後ジャックは、妻エヴァの元へと辿り着く
エヴァは近くの工場で働いていて、そこの責任者バールに夫も働かせてほしいと掛け合う
ジャックは戦地で負傷したことになっていて、足を引き摺る素振りを見せていた
工場に馴染んだある日、地域を仕切る役人のハナーチェクがやってきた
彼が連れてきたのは愛人のキャットで、彼女は娼館におけるジャックの相手を務める予定だった女だった
キャットもジャックのことを覚えていたが、ハナーチェクは彼女をバールと結婚させる
それからジャックとキャットはともに秘密を隠しながら日常を過ごすことになる
ラジオからはナチス・ドイツに抗う義勇兵のニュースも流れ、生殺与奪が予期できない時代に突入しつつあった
テーマ:嘘の種類
裏テーマ:裏切りの先にある未来
■ひとこと感想
スロバキアの映画ということで、少し古いものですが、気になったので鑑賞
裏切りというよりは「保身による嘘」「妬みによる嘘」など、多くの感情に支配されたものが交錯していました
戦時下のフィクションということで、少しリアリティが欠ける面は否めませんが、当時のスロバキアに実際にあったドイツ系の工場と舞台「EPIC」に着想を得たものになっています
原作はコンテンポラリーダンスということで、目指している作風は全く違いますね
また、各種映画情報サイトの情報が怪しくて、色々と掘り起こすのに苦労しましたが、概ね合っていると思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
時代背景は「世界大戦後期」ということで、どっちに転ぶかはほぼ見えている時代かと思います
でも、それは大局的な見方であって、当時のスロバキアの田舎町は「本営発表」以外の情報が入ってきません
そんな町に脱走してきたジャックは、妻との時間を取り戻しますが、ある嘘によって疑心暗鬼になってしまいます
このあたりがやや滑稽に見えて、この男の判断基準がブレブレのように見えます
メインはキャットとの心理戦なのですが、彼女がバールに殴られたあたりから一気に雲行きが変わっていきますね
彼女は役員のハナーチェクの愛人なので、彼の動きを見ていると、国がどうなっていくのかが想像できたのでしょう
そうして、バールの「帝国」が崩壊することを見込んで行動に出たのだと思いました
■時代背景あれこれ
スロバキアとは、ヨーロッパの内陸部に位置する共和国で、首都はブラチスラヴァになります
北西にチェコ、北にポーランド、東にウクライナがあり、南西はオーストリアと隣接しています
10世紀頃は「北ハンガリー」としてハンガリー王国の一部になっていました
その後、オスマン帝国のハンガリー侵攻を受けて、「王領ハンガリー」の一部として、「オーストリア大公国」の支配下に入ります
このオーストリア支配下にて、民族主義が起こり、北部ハンガリーに住んでいた人々が「スロバキアと名付け、自らをスロバキア人と呼び、スロバキア語を話す」と主張するようになります
それと同時に、勢力が大きかったマギャル人はチェコ人と主張し、チェコとスロバキアの連合が起こってきます
オーストリアとハンガリーによる二重帝国支配は、第一次世界大戦の終了とともに終わります
1918年、独立運動を掲げたトマーシュ・マサリク(Tomáš Garrigue Masaryk)はチェコ・スロバキア人国家の独立を宣言します
さらにハンガリーに侵入した彼は、北部ハンガリーのほとんどの地域をハンガリーから奪い返します
1938年に11月2日、第一次ウィーン裁定があり、南部スロバキアをハンガリーに割譲することが決まり、同月9日にスロバキアの自治政府が設立します
同年11月30日に「チェコ=スロバキア共和国」という名前になり、1939年にはナチス・ドイツの支援によって、「ヨゼフ・ティソ(Jozef Tiso)を国家元首としてチェコスロバキア併合が起こります
その後、スロバキア・ハンガリー戦争が起こり、ドイツの介入によって、南部スロバキア地域をハンガリーに割譲します(現在はウクライナ領ザガルパッチャ州になっています)
1939年9月1日、ポーランド侵攻に参加し、枢軸国として第二次世界大戦に参加します
1944年8月29日、スロバキア民衆蜂起(映画の中盤で描かれていた内乱=ラジオのニュース)
1945年4月4日にあ、首都のブラチスラヴァをソ連の赤軍が占領します(映画の後のこと)
戦後には、チェコスロバキア亡命政府が帰国し、共和国が再建されます
1960年には「チェコスロバキア社会主義共和国」に改称、1969年に「チェコスロバキア侵攻(「プラハの春」とソ連を含むワルシャワ条約機構5カ国による軍事介入)」が起こり、「スロバキア社会主義共和国」が発足されます
1989年、ビロード革命が起こり、翌年には「スロバキア共和国」となり、「ハイフン戦争」が勃発したのち「チェコおよびスロバキア連邦共和国」となります
そして、1993年1月1日、チェコとの連邦を解消し、スロバキア共和国となり、現在に至ります
ややこしい歴史がありますが、「ハンガリー占領、オーストリア大公国を経て、ナチス・ドイツによって独立し、第二次世界大戦後にソ連の支配下に入り社会主義化、その後ソ連崩壊も相まって共和国になって、チェコとの連邦を解消した」という感じになりますね
なので、映画の段階では「ナチス・ドイツ」の影響下にあって、第二次世界大戦のドイツの状況が生活を左右していました
民族蜂起があっても事態は変わらず、映画の後にはソ連による統治に入ってしまうという流れになっているのですね
■原案あれこれ
映画の原案にあたるのはDebris Companyが主宰する『EPIC』という舞台(コンテンポラリーダンス)になります
色々ググったんですがあまり情報がなかったので、YouTubeに上がっていた「フルバージョン(1時間18分)」と「トレイラー(3分30秒)」を載せておきます
↓YouTube『EPIC』By Debris Company(Full Version)
↓YouTube『EPIC』By Debris Dompay(Trailer)
時間がないのでトレイラーの方だけをサクッと観てみましたが、ぶっちゃけ表現方法が違いすぎてわかりません
パンフレットの監督のインタビューから色々と探してみましたが、 Debris CompanyのHPなどを色々と見ていくと、どうやらベルトルト・ブレヒト(Berthold Brecht)に行き着くのですが、そこから先が無理ゲーでしたね
EPICのDebris CompanyのHPからヒントを探りたい人用にURLを貼り付けておきますね
↓ Debris Company EPICのページURL
https://www.debriscompany.sk/epic.htm
とりあえずは「労働者階級」と「搾取者」の関係を重視していて、それは「ジャック&エヴァ」と「バール」の関係であると推測できます
社会の中の不平等性を切り取り、それをスロバキアの戦時中のシチュエーションに準えたのだと思います
パンフレットによると物語の骨子は変えていないとのことで、表現方法を映画的にしたと言及されていました
フルバージョンを観て、それが理解できれば、もう少しだけ深い考察ができるのかもしれません
試しに少しだけ観てみましたが、「ごめん、無理」だったのでご容赦くださいまし
YouTubeで字幕を表示させて、グーグルレンズで同時翻訳すれば、内容がさらっとわかるのかもしれませんが、フルバージョンの「字幕:利用できない」の時点で、あとは言語が聞き取れる人の世界なのかなと思います
拡声器を持ってしゃべっている人が語り部で、画面左側に登場するのがジャックとエヴァなんでしょうね(多分)
右側に出てくるセクシーな女がキャットで、語り部はバールを兼任しているように見えます
言葉わからなくても「コンテンポラリーダンス」なので、動きだけ見ていても見ていられる雰囲気はありますね
時間のある人はチャレンジして見てくださいまし
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、内容だけを考えると「ドロドロ不倫劇とすれ違う嘘」ということになっていて、「日本の昼ドラなのか」と思わせる内容になっています
脱走兵として戻った夫が主人公で、自分が不在の間に妻が不貞を働いていたことを妻の友人から聞くという内容で、その不倫相手が自分の上司になっているといいパターンですね
それを突きつけられた妻が「何言ってんの、バカじゃないの?」と反論するあたりがテンプレで、昼ドラだと確実にやっているパターンに該当します
実際にどうかは描かれませんが、否定せずに客観証拠っぽいものだけが提示され、それによって「ジャックが悪い方向に勝手に考えていく」のですね
このあたりがエヴァに嫉妬心を燃やすジュリアの暗躍になっていて、ジャックもまた隙が多くて誤解されそうな行動を重ねていきました
本作の内容だと「労働者の搾取」的な社会問題よりも、男女のすれ違いの方がメインに思えてしまいます
バールが鉄鋼所の社長なのか、一部門のトップ(部長)なのかも微妙ですが、一応軍需産業の一環を担っていることはわかります
その取引相手が「ナチス・ドイツ」のようで、「戦争が終わると食いっぱぐれる」と激昂していました
ラジオから流れてくる断片的な情報に左右されるのですが、実際に何が起こっているのかは田舎ではわからないのですね
最終的に秘密警察がやってきてジャックが逮捕されるのですが、秘密警察は「ジャックに何かを吐かせよう」と尋問していましたね
それがバールと懇意のある役人ハナーチェクであることはわかりますが、ハナーチェクはその動きを察してか、あっという間に逃亡していました
おそらくはナチス・ドイツの敗戦と、その後のソ連による支配が見えていて、粛清されると考えたのでしょう
なので、亡命を図ったのですが、秘密警察は「情報が得られなくても、存在を知られたので殺す」という無茶な方策に出ます
それが村民の怒りを買って民族蜂起が起きるのですが、この民族蜂起に関しても秘密警察は揶揄しているのですね
「あんな武装蜂起で何が変わるのか」という上から目線でスロバキア人を見下していたので、それに対する無謀とも思える抵抗が最悪の事態を招いてしまいました
ラストシークエンスは、その場所から逃げ出すことに成功したエヴァとジュリアを描きますが、その会話の中で「ジュリアがジャックに余計なことを言ったこと」が知られてしまいます
知られたことにジュリアが気づいていないところがアレですが、その時のエヴァの復讐を誓う表情というのはなかなか凄かったと思います
あのシーンがあるだけで映画は何とか観られるものになっているので、あのシーンがなかったら「この映画は評価もされずに」日本に来ることはなかったのかな、と思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386917/review/05d241f5-943d-44da-85f1-77e7aa34b1e7/
公式HP: