■あの日の記憶と衝動、その裏側にあった醜い自分とは何か
Contents
■オススメ度
創作活動にシンパシーを感じる人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.8.19(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2024年、日本、58分、G
ジャンル:プライドの高い小学生が圧倒的画力の同級生と漫画家になる様子を描いた青春映画
監督&脚本:押山清高
原作:藤本タツキ『ルックバック(集英社)』
Amazon Link(原作:Kindle版)→ https://amzn.to/3SWgUkp
キャスト:
河合優実(藤野歩:学年新聞で4コマ漫画を連載する小学4年生)
吉田美月喜(京本:不登校の同級生)
斉藤洋一郎(藤野の小学時代の担任)
岡幸太(大学に来る男)
牧紅葉(藤野の姉)
古橋航也(編集者)
宮島岳史(ニュースキャスター)
高橋大輔(ニュースのアナウンサー)
伊東潤(藤野中学時代の先生)
竹内芳織(漫画を読む友だちの母)
平ますみ(漫画を読むおばあちゃん)
遠藤瑠菜(同級生)
宮岸泰成(同級生)
高浪実里(同級生)
徳留慎乃佑(同級生)
正垣那々花(同級生)
嶋陽大(同級生)
堤咲良(同級生)
伊奈聖嵐(実況アナ)
森川智之(4コマの男性キャラの声)
坂本真綾(4コマの女性キャラの声)
■映画の舞台
山形県のどこかの町
■簡単なあらすじ
小学4年生の藤野は、学校新聞に4コマ漫画を載せることで、クラスメイトの羨望の眼差しを一心に受けていた
ある日、担任の先生から、不登校の同級生・京本が漫画を描きたいとのことで、そのスペースを半分譲ることになった
起承転結がはっきりした藤野の漫画に対し、京本の漫画は風景だけで人物はおろかセリフすらなかった
だが、その画力は藤野を遥かに凌駕するもので、藤野は意地になって、画力を上げるために、作画にのめりこむことになった
そして、小学校の卒業式を終えた藤野は、担任から京本の家に卒業証書を届けてほしいと頼まれてしまう
渋々、京本の家に向かった藤野は、そこで廊下にうずたかく積みあがったスケッチブックを見つけて驚愕した
テーマ:創作を押す自尊心
裏テーマ:振り返ることの意味
■ひとこと感想
1時間未満の作品で、特別上映ということで、どうなんだろうなあと足踏みしていましたが、評価がかなり良かったので腹を括って鑑賞するに至りました
藤本タツキのことは知っていますが、代表作の『チェーンソーマン』のことは知らなかったので大丈夫かなあと思っていましたが、それは杞憂に終わりました
映画は、60分未満とは思えない濃密な内容で、小学校時代に出会ったふたりの顛末が描かれています
キャラデザと物語を描く藤野、背景を描く京本という役割分担があり、そのふたりが組んで、ストーリー漫画を作ることになりました
実話ベースなのか、完全フィクションなのかはわかりませんが、劇中では現実を彷彿させる出来事が登場します
このあたりのメタ構造と、その後の脚色をどのように捉えるかですが、個人的にはエモさと創作者の覚悟というものが見えるように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
タイトルの『ルックバック』は、映画内の意味を考えれば「背中を見ろ」という意味になりますが、個人的な感覚だと「初心に帰れ」という意味に思えました
大人になるにつれて、それぞれの生き方が変わっていくのですが、彼女たちが漫画を描くに至った起因というものがそこにあったと思います
藤野はプライドが邪魔をして強がってしまい、それによって漫画の道に戻ることになりました
また、圧倒的画力を誇る京本から褒められたことで天狗になっている部分があります
それでも、クラスメイトから突きつけられた現実を消してしまうには十分だったように思えました
映画は、京都アニメーションの事件を彷彿とさせ、「もしも自分が声をかけていなければ」という想像を張り巡らせます
そこから京本の返事が来るという流れはエモーショナルですが、実際には藤野の中で起きた正常バイアスっぽい心理で、彼女を立ち直らせるために見た幻影のように感じました
■継続を促す自尊心
本作は、おそらくは原作者の体験がベースになっていて、人よりも絵がうまくて調子に乗ったり、自分よりも上手いやつがいて嫉妬して努力を重ねたりする様子が描かれていました
藤野のモチベーションと京本のモチベーションは質が違い、それが継続の差にも現れていましたね
藤野は他者からの承認欲求が原点で、京本の場合は自己診断の承認欲求ということになります
チヤホヤされたくて続けてきた藤野は、それが途絶えた途端にモチベーションが下がり、描くことが煩わしくなっていきます
そんな彼女を漫画に引き戻したのは、京本から貰った褒賞であることは否めません
これに対して、京本のモチベーションは昨日の自分のようなもので、少しでもうまくなりたい、自分のイメージを絵として残したいという欲求がありました
他人に見せることで、その反応がモチベーションに有効に働きますが、彼女の場合は賛否ともに原動力になると言えます
藤野の性格を考えると、褒められて天狗になった方が良いのですが、それはある種のぬるま湯のようなもので、実力を底上げするには至りません
このような事象は、自分よりも上手いもしくは同等というもので揺れ動くものになっていて、その弱さは煽られて怠ってきた努力の代償のようにも思えてしまいます
人が何かを継続させる時、その継続をどう捉えるかによって、継続力というものが変わります
努力や必要なものだと思えば続かないし、その行為自体が楽しいと勝手に続きます
ある種、義務のようなものになった段階で、継続というものは輝きを失うのでしょう
夢中になれるというのは、その時間が止まっているようなものなので、それが継続だったのかは、未来になってようやくわかることなのではないでしょうか
■もしもの世界が自分を救う理由
本作にて、京本は京アニ事件を彷彿とさせる因果によって死んでしまうことになりました
藤野の脳内では、その悲劇が改変されるのですが、そんなものでは現実は変わりません
あくまでも藤野の中で折り合いがつくかもしれないという程度のもので、そうしないと彼女の精神のバランスがおかしくなってしまいます
人の頭は面白いもので、記憶を呼び起こして改変して植え直すという行為があるかと思えば、単純に忘却するということが起きることもあります
今回のような事件は忘れたくても忘れられないもので、こう言った場合には「記憶の改変」によって、自我を保とうとする働きが起きます
かつての凄惨な事件を「もしも」で描く作品はたくさんありますが、その世界が全て好意的に受け入れられるとは限りません
美化された記憶として根付いている人からすれば、その改変は虚しいものに映りますし、その改変によって記憶がかき乱されることがあります
あくまでも、個々の影響の範囲において、その人の中で完結するのはOKという段階なのですね
なので、その過去がどんなに酷いものだとしても、その事実を歪めることを良しとしない人はたくさんいると思います
とは言うものの、きちんと心に折り合いができている人の方が少なくて、あの時何かができたのでは?と思う人がいるのも当然なのですね
藤野の場合はそれが飛躍しすぎていましたが、実際には何らかの遠因を辿っていくと、そこに自分がいるような錯覚を覚えるのは事実でしょう
京本は藤野が知らない葛藤や思想を持っていて、それによって住む世界が変わっていくのですが、その時間によって培われたものというものは、さらに錯覚を生むものかもしれません
このように「相手の選択でたどり着いた未来ですら自分の責任のように感じる」というものがあります
これは自意識が過剰な状態ではありますが、これほど無意味な方向性も無いように思えてしまいます
それでも、自身が起こす微差よりは、相手の変化の方が圧倒的に力量が上なのですね
なので、相手の選択の中で自分が与えた影響が大きいと思いたいのですが、実際には罰を受けたい状況なのだと考えられます
それを考えると、藤野は自分を責めるために、自分にも原因があったと思い込みたかったのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、58分のショートストーリーで、映画館では特別興行として取り扱われていました
これは、料金体系が異なる上映作品のことで、旧作のリバイバル上映などがこれに当てはまります
この他にも、MOVIX系列で行われる松竹の歌舞伎、オペラ作品、コンサートなどのライブビューイングなどがあります
これらは通常料金が映画よりも高いのですが、本作は上映時間が短いためか、通常よりも安くなっていました
とは言え、各種割引が効かないので、いつも割引料金で観ている私からすれば「高かった」という作品になっています
映画の料金は今では通常料金2000円が主流で、各種サービスデーなどによって、1100〜1400円ぐらいになっていると思います
年間で300本以上観る私のような人は稀ですが、今年初めて「割引では無い料金で観たのが本作だった」というようなことになっています
映画館はメンバーズに入ると安かったり、株式優待なども利用できます
6回観たら1回無料というものもあったりして、基本的には一番安く観られるところをベースに予定を組み立てています
そんなセオリーを無視して鑑賞に至ったのが本作なのですが、個人的には良かったと感じています
普段は料金のことはあまり気にしませんが、コスパという概念だとどうなんだろうと考えることはあります
いわゆるハリウッドの予算を注ぎ込んだ大作と、テレビドラマレベルの作品が同一金額というのが不思議な世界で、こう言った料金体系になっているのって、映画ぐらいのような気がします
昔に比べて映画の料金も値上がりし、コンセッションの料金もかなり上がってきました
それでいて収入は下がる一方なので、無駄なものにはお金を払わなくなっていきます
友好費や娯楽費などは真っ先に削られる対象なので、今後も淘汰というものは起こってくるでしょう
そう言った時代で生き残るコンテンツというものは歴史的に名を残す可能性があります
本作もそう言った意味ではアニメ映画の歴史に名を残したと思うので、それにリアルタイムで参加できたというのは良かったと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101249/review/04156630/
公式HP: