■邦題をつけた人と一緒になったら、生き残る確率は減りそうな気がしますね


■オススメ度

 

閉鎖空間パニックホラーが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.8.20(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:No Way Up(上には行けない)

情報:2024年、イギリス、91分、G

ジャンル:海に墜落した飛行機に取り残された人々を描いたパニックホラー

 

監督:クラウディオ・ファエ

脚本:アンディ・メイソン

 

キャスト:

ソーフィー・マッキントッシュ/Sophie McIntosh(エヴァ/Ava:州知事の娘)

 

ジェレミアス・アムーア/Jeremias Amoore(ジェド/Jed:エヴァの恋人)

ウィル・アッテンボロー/Will Attenborough(カイル/Kyle:ジェドの友人)

 

コルム・ミーニー/Colm Meaney(ブランドン/Brandon:エヴァのボディーガード)

 

フィリス・ローガン/Phyllis Logan(ナナ/マーディ/Mardy ‘Nana’:元陸軍看護師、ローザの祖母)

ジェームズ・キャロル・ジョーダン/James Carroll Jordan(ハンク/Hank:マーディの夫)

グレース・ネトル/Grace Nettle(ローザ/Rosa:祖父母と旅行に来た少女)

 

マヌエル・パシフィック/Manuel Pacific(ダニーロ/Danilo:客室乗務員)

Peppijna Dalli(マディソン/Madison:客室乗務員)

 

Carlos Agualusa(空港のチェックイン担当官/Check-In Officer)

 

David Samartin(イーライ/Eli:救護ヘリのパイロット)

Scott Coker(リアム/Liam:救護ヘリのパイロット)

 

David J Biscoe(飛行機の乗客)

Lee Byford(飛行機の乗客)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ロサンゼルス

ロサンゼルス国際空港沖の海中

 

ロケ地:

イギリス:ロンドン

 


■簡単なあらすじ

 

州知事の娘エヴァは、恋人のジェドとその友人カイルと共に、メキシコのバハカリフォルニアに向かおうとしていた

彼女の旅にはボディーガードのブランドンも参加することになっていて、当初は行ったフリをするつもりだったが、エヴァの「嫌な予感がする」という言葉に付き添うことになった

 

飛行機は順調にフライトしていたが、突然バードストライクに遭遇し、エンジンから炎が立ち上がってしまう

そして、飛行機はそのままロス沖に着水することになり、機体に穴が空いた状態で大陸棚へと沈んでしまった

 

エヴァとジェド、カイル、ブランドンは無事に生き延び、同乗していたローザとその祖母マーディ、客室乗務員のダニーロの六人だけがエアロックと呼ばれる空間に取り残されることになった

ブランドンは救助を待つようにみんなを宥めるものの、様子を見に行ったその先でサメに喰われて死んでしまう

 

空気の残量も少なく、機体は今にも海溝に落ちる可能性があり、余談を許さない中、ブランドンの言葉を信じるか、自力で脱出するかを迫られることになった

 

テーマ:自己判断

裏テーマ:奇跡は行動が起こす

 


■ひとこと感想

 

閉鎖空間パニックというもので、大陸棚あたりに墜落した飛行機の中から脱出するという内容になっていました

それ以上でもそれ以下でもない感じで、どうやって脱出するかというのも限定的な感じになっています

死に間際に独白をするあるあるもあって、それぞれの境遇を語りだすのですが、実際にあんな状況になったら語っているヒマなどないでしょう

 

映画は、州知事の娘が主人公という変わった内容になっていて、それでも大規模な捜索が行われるわけではないというのはビックリしましたね

ヘリ一機であの海域を捜索できるわけもないのですが、海兵隊を動かすまではできないという微妙な匙加減になっていました

 

密室を作り出すのが海底とサメという「いつの時代の映画なの?」という感じになっていますが、そこから真新しい展開があるのかな、と期待していました

映画は、最後まで緊張感を保ってはいるものの、やはり自分語りが始まるとテンポが削がれる感じになっていましたね

あの状況で何分耐えられるのかは分かりませんが、いっそのことリアルタイムベースで、ドラマ部分はカットしても良かったように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

自分語りがフラグになっていて、最後まで語らないキャラが助かるという妙な展開になっていました

役に立たず口も出さないダニーロとカイルが生き残り、少女補正と主人公補正で女性陣が生き残ることになっています

 

早々に有能なブランドンを沈めて、そこから素人だけが知恵を絞るという感じになっていますが、この素人右往左往と専門家が知恵を駆使するのとどっちが面白くなるのかな、とか余計なことを考えてしまいました

もし、ブランドンが生き残る側だとして、彼の経験則と判断力を状況が上回ってしまうのか、という流れもスリリングなものになったように思います

 

映画は、記憶力が抜群の素人が機内にあるものを駆使して脱出を試みますが、あれで助かったのは運が良かっただけのように思います

深海から海上に出る際に必要な知識とかあるのですかねえ

そう言ったものを持ち合わせていないはずなのに何も後遺症がないあたりに作り込みの弱さを感じてしまいます

パンフレットは「映画の真似はしないでね」という感じに、本当に遭遇したらどうするか知識が掲載されていたのは笑ってしまいました

 


エアロックとは何か

 

映画のタイトルに使われている「エアロック」ですが、これは通常は「気圧の異なる場所を移動する際に隣り合う室内の圧力差を調節する機能を持った部屋」のことを言います

これらは、潜水作業員やダイバーが潜水艦から出る際とか、宇宙飛行士が宇宙船外に出る場合に入る場所のことですね

ちなみに、映画のような水没した飛行機の中で空気が残っている場所を「エアポケット(Airpocket)」と言います

エアポケットには、晴天乱気流という意味もあり、不安定な気団の衝突によって起きるとされています

 

あの空間がどれぐらいのスペースかは分かりませんが、成人男性の最大酸素摂取量は18歳から39歳で11.0メッツ(39ml/kg/分)とされていて、加齢ごとに減っていきます

同年齢の女性の場合は9.6メッツ(33ml/kg/分)となっていて、男性よりも若干少なくなっています

このメッツ(METs)は、運動時エネルギー消費量÷安静時エネルギー消費量という式で計算されていて、1METsで3.5ml/kg/分の酸素摂取量になっています

一般的な酸素ボンベは500lほどで、使用流量0.5で10時間、3lで1時間40分ほど使用可能となっています

 

通常の大気の成分における酸素の比率は21%で、酸欠が起こる酸素濃度は18%を下回った時になります

その場所にどれぐらいの空気があるかによりますが、みんなが安静にしていても、0.5ml×人数分が減っていくことになります

残り時間を正確に測るのはほぼ不可能ですが、酸素濃度16%を下回ると呼吸数増加、脈拍数増加、頭痛、吐き気などが起こります

さらに12%まで下がるとめまい、体温上昇が起こり、10%を下回ると顔面蒼白、チアノーゼ、意識不明となります

そして、8%を下回ると昏睡、6%を下回ると痙攣から呼吸停止に至ります

ブランドンは人を観察することで酸素濃度を観察しているのですが、何の機械も無く計算もできない場所だと、これが一番最適解のように思えます

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は、分かりやすい閉鎖空間パニック映画なのですが、ただでさえ酸素がヤバいという状況なのに、そこはサメの居る海域だったという流れになっていました

この海域のことを知り尽くしているはずの救助隊があっさりとサメの餌食になるのはギャグにしか思えず、それが想定外だったという説明もなかったりします

酸素ボンベを持っている乗客がいたから拝借しようという流れになりますが、それを取りに行く障害として、サメは登場していたことになります

 

空気の残量がヤバいというパニックとサメに襲われるかもしれないという恐怖を天秤にかけることになるのですが、サメなどのアクシデントの登場があまりにも物語上の都合で動いているところが気になりました

また、あのメンバーで一番有能だったはずのブランドンは「状況説明であっさり退場」し、知恵の無いメンバーで凌ぐことになりますが、このような場合には客室乗務員のダニーロの判断に従うことになると思います

でも、あのメンバーの中で唯一と言って良いほどに何もしないのがダニーロで、荷物の保管場所を教えるぐらいしか役に立っていませんでした

パニックを増長させる方法として、使えるものを徐々に無くしていくというものがありますが、その剥がし方がとても下手なように思います

 

最後までハラハラさせれば良いというものではなく、空気の残量を気にする場面だと「会話は御法度」だと思うのですね

でも、そんな中で自分語りを始め出して、それが終わると退場するという流れを汲んでいきます

実際に起こったら、そんな余裕はなく、自分語りをするならば「万策尽きて諦めた時」だと思うのですね

でも、空気が無くなるという状況で諦めるという心情になるとしたら、耐えられない人から昏睡になって静かに死んでいって、最後に残った二人が語るぐらいが自然のように思います

 

映画では、フラグ的な感じで自分語りが入るのですが、諦めた人が生き残りたい人の足を引っ張って死んでいく、という感じになっていましたね

このあたりをもう少しリアルに描くとか、サメの出現に関するリスクを承知で救助に行くしかないという説明が必要になってきます

さらに都知事の娘という設定ですが、それは言葉だけでは意味がなかったように思います

救助が難航し、サメの海域だから無理だと言っても、都知事が娘ファーストで暴走するという流れがあった方がしっくり来たでしょうね

それによって再選に黄色信号が灯るのですが、それは一部の人しか知らないまま、メディアの馬鹿騒ぎが起こる方がよりリアルテイストなのかな、と感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、閉鎖空間パニックの王道作品で、酸素不足とサメ襲来という分かりやすいものを扱っていました

それでも、酸素欠如で身体的な危機が起こる描写は甘めで、呼吸停止で死んだ人は表現されていません

サメの被害の方が甚大で、取り残されることを決意した人も酸素不足で死んだのか、水圧に耐えられずに死んだのかよくわからなかったりします

最終的に助かる人々も、海面への急上昇の際に訪れる身体的影響は描かれないし、救助シーンですらほぼカットのようになっていました

 

困難なシーンでの描写も甘く、医学的に起こる人体への影響の描写も甘く、サバイバル映画のカタルシスもありません

州知事の娘の救出劇としてもスケールはなく、設定と予算が見合っていないようにも思います

潤沢な予算があれば描けたのかもしれませんが、そもそもそう言った外的要因も加味してシナリオを作る必要があると思うのですね

本作は、その部分もとても甘く、低予算で作り上げた単なるパニック映画になっていたのは残念だと思います

 

この手の「人類の知恵で攻略する系のパニック映画」は、その制作すらも知恵に委ねられると思います

低予算をアイデアで乗り切るというメタ的な構造が、映画内のキャラクターの行動にも現れることで、一種のパラダイムシフトのようなことが起こるのですね

そう言った要素があれば、この映画から学べることもあると思うのですが、残念ながらそういったものもありませんでした

本作と同じ状況に追い込まれるケースは稀だと思いますが、このような状況になった時に何が必要だったのかを知ることで、飛行機に乗る際に気にかけておくべきことというのがわかると思います

冒頭では、CAの説明をちゃんと聞かないキャラクターなどもいましたが、そう言った注意喚起をおざなりにしたことが、最後の信頼関係につながるなどの展開に結びつくという因果すらも無いのは残念だなあと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101968/review/04159408/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/airlock/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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