■プロバガンダを破壊して、プロパガンダを構築する、みたいな
Contents
■オススメ度
B級映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.7.27(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Mad Heidi
情報:2022年、スイス、92分、R18+
ジャンル:恋人を殺されたハイジが政府に挑む様子を描いたバイオレンスコメディ
監督:ヨハネス・ハートマン&サンドロ・クロプフシュタイン
脚本:サンドロ・クロプフシュタイン&ヨハネス・ハートマン&グレゴリー・ヴィトマー&トレント・ハーガ
原案:ヨハンナ・ジュピリ『アルプスの少女ハイジ』
キャスト:
アリス・ルーシー/Alice Lucy(ハイジ:政府に恋人を殺されて投獄される女性)
マックス・ルドリンガー/Max Rüdlinge(クノール:政府の司令官)
キャスパー・ヴァン・ディーン/Casper Van Dien(マイリ:大統領、チーズ製造会社の社長)
デヴィッド・スコフィールド/David Schofield(アルムおんじ/アルペヒ:ハイジの祖父、元軍人)
ケル・マツェナ/Kel Matsena(ペーター:ハイジの恋人、ヤギ飼い、非合法チーズの売人)
Leon Herbert(アイザック:ペーターの父)
Frowin Holdener(ハイジの父)
Grazia Pergoletti(ハイジの母)
アルマル・G・佐藤/Almar G.Sato(クララ:ハイジと一緒に捕まる女性)
Flurina Schlegel(乳糖不耐症の囚人)
Julia Föry(フローラ:マッチョの囚人)
Jasqueline Fuchs(ロージ:マッチョの囚人)
パスカル・ウリ/Pascal Ulli(シュヴィッツゲーベル博士:特製チーズの研究者)
Kaspar Weiss(ガッツヴァイラー大臣:マイリ大統領の腹心)
Gerhard Göbel(殺される大臣)
Katja Kolm(フロイライン・ロットワイラー:冷酷な看守)
Rebecca Dyson-Simth(ルッツ:ロットワイラーの部下)
Patti Basler(刑務所のキッチンのおばちゃん)
Milo Moire(メイリのサーヴァント、裸のメイド)
Werner Biermeier(カリ:チーズマスター)
Matto Kämpf(鎧の戦士)
Andrea Fischer-Schulthess(ヘルベティア:ハイジに道を授ける女神)
Fabienne Hardon(ヘルベティアの声)
Martina Momo Kunz(ヘルベティアの修道女)
Jamine Decaro(ヘルベティアの修道女)
Dominique Jann(ペーターと取引するチーズディーラー)
Pascal Holzer(アシスタント・チーズディーラー/ナレーション)
Pierre Dubey(フランス使節団)
Philippe Schuler(フランス使節団)
【モルゲンシュテルンの兵士】
Dennis Schwabenland(ボールキック)
Tanguy Guinchard(トリガーフィンガー)
Patrick Slanzi(スニッチ)
Jeremias Kangas(スローウィング・スター)
Yves Wüthrich(ヨーデラー)
Matthias Koch(スプリット)
Thomas Schott(ミュージシャン)
【アルペンブリックの兵士】
Noa Quinn Kleeberg(シャワー)
Tanja Lipak(ライツ・アウト)
Romina Hanini(ヴァンガード)
Spanice Bösiger(ハンキー)
Naomie Margot(エマージェンシー)
■映画の舞台
スイス:
アルプス山脈の麓
ロケ地:
スイス:
Burgdolf/ブルクドルフ
https://maps.app.goo.gl/hHSkCCtFkTbKYRF6A?g_st=ic
Engstligenalp/エングストリーゲンアルプ
https://maps.app.goo.gl/mAHxhMrmME6FsVBb7?g_st=ic
Swiss Open-Air Museum Ballenberg/バレンブルク野外博物館
https://maps.app.goo.gl/J6WZRR9xe3bHTsfE6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
スイスの山奥に住むハイジは、恋人ペーターと愛を交わしあう日々を過ごし、アルムおんじと生活をしていた
この国では、チーズ工場を営んでいるマイリが大統領になっていて、とうとう彼の経営するチーズ以外の製造・販売が禁止されてしまう
デモが起きても武力で鎮圧し、やりたい放題で誰も止める術はなかった
ある日、ペーターの闇チーズ販売がバレて、彼は民衆の前で殺されてしまう
ハイジも軍に捕まり、そこで看守や他の囚人から暴行を受けていく
そんな折、一瞬の隙をついて監獄長ロッテンマイヤーを倒したハイジは、そこでヘルべティアの幽体に出会う
ヘルべティアとその修道女から特訓を受けることになったハイジは技を磨き、そしてマイリ率いるスイス軍へと戦いを挑むことになったのである
テーマ:快楽と独占
裏テーマ:復讐と報復
■ひとこと感想
『アルプスの少女ハイジ』の20年後を描いている本作は、スイスがチーズ大統領に統治されているとか、ペーターが闇チーズの売人であるとか、いろんな設定が組み込まれたとんでもない作品になっています
立って動けるクララが登場しますが、最後は立てなくなっていたみたいで、色々と無茶な流れを汲んでいましたね
物語はあってないようなもので、恋人とおんじを殺されたハイジが逆襲する中で、監獄の責苦に耐え、メンターとなるベルベティアと出会って力を得ていく流れを汲みます
とは言え、アクション全くダメっぽい女優さんがメインになっていて、動きに関してはど素人に近い印象があります
修行シーンはどう見ても『スターウォーズ』ですが、さまざまなパロディがふんだんに盛り込まれていましたね
バイオレンスコメディで、グロもゴアもたくさんありますが、ほとんどがギャグになっていました
とにかく下品の一言に尽きますので、興味のある人は公開している間に観に行くしか方法がなくなってしまうような感じがしますね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
恋人を殺されて復讐するという物語で、メンターと出会い、仲間を得ていく流れは王道の冒険ファンタジーになっています
戦う相手は独裁者で、その狂気じみた行動も、チーズフォンデェで拷問とか、なかなかシュールすぎる内容になっています
対して、ハイジの逆襲は結構えげつなくて、尻の穴からチーズを機械で送り込んで、脳みそ爆発させるなどのゴア描写が目立っていました
物語性は皆無に近く、原案の設定とキャラを借りているけど、ハイジっぽさを感じる部分はほとんどありません
小ネタとして「クララ、立って」とか、ロッテンマイヤーさんなどが出てきますが、ほとんど出オチに近い感じになっていますね
映画としての完成度がかなり低いですが、ネタ映画として見る分には『プー あくまのくまさん』よりはマシな感じになっていますね
その違いを語るのは別作品のネタバレになってしまうので避けますが、本作にはほとんどのキャラづけがうまく機能していて、それでいて復讐の仕方にも工夫があると思います
とは言え、思いっきりハードルを下げないと大変な出来で、この内容でパンフが「展示品しか残っていなかったこと」の方が驚いてしまいました
■原案はこんなお話
映画は、『アルプスの少女ハイジ』の20年後となっていて、原作というよりは原案のようなものになっています
原作にあたる『Heidi, Girl of the Alps』は、ハイジが主人公で、彼女は孤児という設定になっています
唯一の親戚であるアルムの山に住むおんじ(アルムおんじ)で、彼はハイジの父方の祖父にあたります
彼女の恋人であるペーターはヤギ飼いの少年で、原作でも後に恋人関係になっていきます
映画の扱いがかなり雑だったクララ・ゼーゼマンは、裕福なワイン商人の12歳の娘で、原因不明の足の麻痺によって車椅子生活をしています
クララの家庭教師がロッテンマイヤーで映画では「ロットワイラー」という名前に改変されていました
物語は、両親を無くしたハイジを育ててきた叔母のデーデが、孤児のハイジを恐ろしい祖父のもとに連れていくところから始まります
祖父のアルムは人を殺したという噂が立っていて、村人からは距離を置かれている人物でした
ハイジはペーターの祖母と会うのが楽しみで、彼女が持っている詩篇を読んでもらうことを夢見ていました
でも、人嫌いのアルムのせいで学校に行けず、ペーターとともに文盲になってしまいます
一方のクララは、父親がクララのお婿さん候補を探していて、フランクフルトに来たハイジと出会うことになります
そこで仲良くなった二人ですが、クララは自由なハイジを見て、アルプスに憧れを抱くことになりました
クララの父はいつも多忙で、使用人とペットのカナリアぐらいしかいなかったからです
クララから読み書きを教わるハイジですが、家庭教師のロッテンマイヤーはハイジの学習能力の高さに驚いていました
その後、クララの父に見つかったハイジは、彼女が強いホームシックにかかっていることを見抜きます
クララの父は彼女を山に戻そうと考え、クララもついていくことになりました
そして、クララの執事セバスチャンが同行し、ハイジたちはアルプスに帰ってきました
ハイジの帰宅によって、本を読むことの楽しさを覚えたアルムおんじは、村の廃墟を手直しして、そこに引っ越すことによって、ハイジとペーターを学校に通わせることになります
ハイジたちは徐々に村人たちと仲良くなっていき、ペーターもスキーのレースで活躍したりします
フランクフルトに戻ったクララは、ハイジと再会することを強く望み、ロッテンマイヤー先生とともにアルプスにやってきます
ロッテンマイヤー先生はこの場所をお気に召さなかったようですが、クララの祖母もそこにやってきて、クララの状態が良くなっていることを確信します
そして、とうとうクララは立つことができるようになり、アルムおんじはクララのリハビリを始めます
クララは努力の甲斐もあって、一人で歩けるようになり、そして来年また会う約束を交わして、フランクフルトに戻っていきました
原作のあらすじはざっくりとこんな感じになっていますね
かなり昔にアニメで観たぐらいでしたが、「クララが立った!」のシーンは名場面集でよく流れていたので鮮明に覚えていますね
■B級として突き抜ける要素
本作は、いわゆるB級作品で、出オチのネタ映画となっています
本作がカルト化(展示品を譲ってもらった映画館に再入荷してた!)しているのは、突き抜けた娯楽性があったからだと思います
スイスにおけるハイジは国民的キャラクターのようなもので、それを18禁にしてしまうという暴挙がウケていました
クラウドファンデディングで約2億円9000万円(2000ユーロ)近くの制作費を集めることに成功していて、制作段階からもスイスでの期待値が上がっていました
本作では、原案に登場しないキャラが多数出ていて、しかもペーターと父アイザックは人種まで変わっていたりします
ペーターが民族衣装を着て登場するシーンはコミカルで、その存在感が際立っていました
また、多くの映画のオマージュが散りばめられていて、マイリ役を演じたキャスパー・ヴァン・ディーンさんの主演作『スターシップ・トゥルーパーズ』のセリフが引用されていたり、特訓シーンは『スターウォーズ』だし、決闘シーンは『グラディエーター』が引用されていました
ハイジが大ヒットした日本絡みもあって、ハイジが特訓で日本刀を使ったり、手裏剣をマスターしたりしていました
ちなみにヘルべティア(Helvetia)は、スイスの硬貨のデザインにも使われる古い寓話の登場人物となっています
剣と盾を持ち、三つ編みを結っている女性で、ローマに征服される前にスイス高原に住んでいたガリア人部族の民族名「Helvetii」が由来となっています
スイス連邦を「女性の寓話で描く」ということが17世紀頃に流行り、そこから定着することになりました
国民(国家)を女性で擬人化するという動きは各国に遭って、日本だと「アマテラス」「神武天皇」がそれにあたります
これらは政治漫画やプロパガンダに使用されることが多く、女性が登場することが多かったりします
「国民の擬人化」でググるとたくさんの資料があるので、興味のある人は覗いてみてください
ハイジはヘルベティアの修行を受け、その後の姿はヘルベティアそのものに変わっていきます
三つ編みにして盾を取り、ハルバートと呼ばれる武器を持って戦いに臨みます
このハルバード(斧と剣が一体化した武器)は、15世紀のヨーロッパで使用されていたもので、スイスにはハルバード兵というものが存在していました
この武器の由来は6世紀頃のスイスで、現在ではバチカンのスイス衛兵はハルバードを使用していたとされています
本作は、本当にいろんなオマージュ&スイス関連の歴史が詰まっていて、それが人気を博した理由であると言えます
大幅な改変になっていて、牧歌的なイメージを刷新してしまうものですが、最近はこの手のイメージ刷新を利用した作品が生まれつつあったりしますね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の物語の骨子は「独裁国家に抵抗する」というもので、スイスを牛耳るマイリは、企業の経営者でもありました
法律を変えて独占を合法化し、ライバルを蹴落としていくのですが、そこにはプロパガンダ的な側面と、国民を洗脳するための施策というものがありました
チーズ研究家に依存性の高いチーズを開発させ、最終的には食べる(浴びる)と無敵の兵士が出来上がるという構図になっています
ペーターとアルムおんじを殺された復讐は、やがて国家の闇を暴露し、それを倒す方向へと向かっていきます
スイスはナポレオン時代から永世中立国として認められてきた歴史があり、二度の世界大戦には積極的な参加はしていません
その後も唯一の国民投票による国際連合加盟であるとか、いまだにEUには属していないなど、特徴的な存在を維持していると言えます
第二次世界大戦時にスイス侵攻作戦(タンネンバウム作戦)が計画されていて、中立違反と言われながらも、ドイツと妥協しなければならない事態に追い込まれていました
大戦中には、いわゆるスイス銀行がナチスの資産の隠し場所だったことが発覚し、表と裏の顔があると非難された歴史があります
映画では、これらの歴史が加味されているのかわかりませんが、政府による暗躍というものが国民を裏切っていた構図が採択されているのですね
自由経済を無視し、独占によってチーズを生産し、しかもそのチーズは純粋なものではない
このあたりにスイス人から見た政府像というものが盛り込まれているのかな、と勘繰ってしまいます
国家が仕掛けるプロパガンダや誘導、隠れた支配に対抗するのがハイジなのですが、ハイジ自身はそんなことは知ったこっちゃないという感覚になっているのが面白いのですね
冒頭の処刑シーンでハイジの両親が殺されていて、それをアルムおんじはハイジに内緒にしていたし、ハイジが国の歴史を学んでいく中で、国が国民にしてきたことというものが浮き彫りになっていきます
この構図がかつてのスイスの嘘を彷彿させていて、見えない支配からの解放になっているところがウケたのかもしれません
ちなみに最後にハイジが戦う相手の役名は「Pre-Neutranlizer」という名前で、「昔からある中立」みたいな意味になっています
なので、ハイジが戦っている相手は「中立するスイス」みたいな構図になっているのですね
このあたりの遊び心も繊細で、ある種のメッセージ性が込められているのかなあと勘繰ったりもできますね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/389081/review/811459b2-0bb8-4da4-82c9-4cf130d1dd69/
公式HP: