■恵麻はいつまで、蓮の香りを憶えているのだろうか
Contents
■オススメ度
美魔女を体感したい人(★★★)
社会の不条理に晒された戦う女性たち(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.20(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
情報:2023年、日本、120分、G
ジャンル:ある香水商との出会によって人生を切り開く女性を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:宮武由衣
キャスト:
黒木瞳(白石弥生/魔女さん:ミステリアスな香水商、モデルは杉山榮子『ドリームハウス香水マリソル』)
桜井日奈子(若林恵麻:バンケットホールの派遣社員)
平岡裕太(横山蓮:恵麻が憧れる実業家)
落合モトキ(杉斗:恵麻が夜の街で出会う青年)
(幼少期:斉藤オーレル翼颯)
宮尾俊太郎(榊亮太:弥生の元カレ)
小西真奈美(高渕霧子:恵麻の頼り甲斐のある先輩社員)
梅宮万紗子(原田真澄:霧子の盟友、調香師)
川崎鷹也(河原優也:恵麻と一緒に入った社員)
水沢エレナ(原舞:弥生の店の常連客、元ホステス)
小出恵介(原翔:舞の夫)
川上麻衣子(優美:恵麻が経営者向けパーティで出会う女社長)
山本匠馬(誠也:優美が連れてるイケメン?)
宮澤美保(恵麻にアドバイスする女性経営者)
吉木遼(中原敬:恵麻の手柄を横取りする先輩社員)
上瀧昇一郎(尾花長人:恵麻の上司)
坂ノ上茜(鷺原美津子:恵麻の部下、広報担当)
西村知美(若林美鈴:恵麻の母)
小野みゆき(香水店の常連客)
大滝樹(?)
鈴木美羽(?)
Nattiy(恵麻の部下?)
山中猛(恵麻の元上司)
坂口風詩(恵麻の元同僚)
藍海斗(中村裕司:派遣会社の社員?)
■映画の舞台
都内某所の香水店
ロケ地:
神奈川県:横浜市
ヨコハマグランドコンチネンタルホテル
https://maps.app.goo.gl/cBGbXGGLJkama4jF9?g_st=ic
東京都:港区
BAR ALMON-NISHIAZABU
https://maps.app.goo.gl/1CzBdpyo94HEmLZA8?g_st=ic
東京都:渋谷区
アンジュパティオ
https://maps.app.goo.gl/8kuRrx1ZNewvmr4DA?g_st=ic
47ホールディングス 東京オフィス
https://maps.app.goo.gl/bpRJocpfL5pJehjU8?g_st=ic
東京都:武蔵野市
ムレスナティー吉祥寺
https://maps.app.goo.gl/SeRSU83iri6fa6Ts9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
都内にあるバンケットホールデ働いている恵麻は、ある日上司のパワハラに苦言を呈し、それが原因で雇い止めをされてしまう
途方に暮れる恵麻は、繁華街で女性をスカウトしている杉斗を見つけ、「自分ならいくら稼げるか」と問い詰めた
杉斗は呆れたまま彼女を店に連れていくことにしたが、その途中で注文した香水を取りに香水専門店へと足を運んだ
店内には「魔女さん」と呼ばれる女性がいて、たくさんの香水がところ狭しと並べられている
魔女さんこと白石弥生は恵麻に仕事上の悩みがあることを見抜き、事の顛末を傾聴する
弥生は「お手伝いしてみない?」と言って、一日だけ彼女を預かることになった
常連客で賑わう店と弥生の仕事ぶりを見て、恵麻は風俗に行くのをやめて香水会社への就職を決める
やる気満々で働き始めたものの、派遣という立場を逸脱する行為に、目付役の中原は苛立ちを見せていた
テーマ:やりたいことをやる方法
裏テーマ:女性の自立に必要なもの
■ひとこと感想
香水が人生を変える系で、あまり宣伝していなかったのですが、黒木瞳さんと桜井日奈子さんが出演しているとのことで興味はありました
個人的には香水をつけたことも買ったこともないのですが、調香師を取り扱った映画は大体観ていますね
いつも思うのは、映画でどうやって香りを伝えるのか、というもので、表情、表現などから記憶を揺さぶるしか方法はありません
映画は、底辺女性が這い上がる系の物語で、香水とそれを取り巻く人々との出会いによって、視野が広がり、好きなことを仕事にして自立していく様を描いていきます
今どきのAI登場で面白いなあと思いましたが、あのサービスにどれぐらいの女性が興味を持つのかはなんとも言えない感じでしょうか
物語は、恵麻の成長物語なのですが、ある程度ゴールが見えているものをどう装飾するのかなと思って観ていました
辛口になりますが、「引き算のないシナリオ」という印象があって、「一度塗ったメイクは取り消せない」という感じになっていましたね
ともかく、色々と盛り込みすぎていて、フォーカスが甘いと感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
香水に限らず、人生のターニングポイントでは、自分を転換させるものは何かを見極めなければなりません
恵麻の場合は、正義感が強く、曲がったことは嫌いなのですが、社会のルールには無頓着だったりします
これが彼女の弱点であり、武器にもなるのですが、おそれを知らない行動力が開花していくのは観ていて爽快なところがありました
問題は、設定の段階でいろんなものを詰め込みすぎていて、主人公が誰だかわからなくなってしまう流れでしょう
恵麻は派遣切り、不遇などを経て起業しますが、蓮は父親とのエピソードに加えて事故死してしまうし、弥生の背景とその回収もかなり大きな物語になっています
映画として、恵麻の変化の物語なのか、弥生の回復の話なのかは微妙なバランスになっていて、それが分離しているように見えています
本来ならば、恵麻の躍進の背景で「仕事を辞めようとしている弥生」が描かれ、師匠越えを果たすのか、恵麻の香水で弥生を再生させるのかどちらかだと思います
弥生のラスト1瓶の香水は、恵麻とは無関係のところで完成されてしまっていて、それまでモブだったキャラが唐突に存在感を増してしまいます
杉斗が重要なキャラだということはわかりますが、杉斗と恵麻の関係性も希薄なまま終わっているので、蓮のポジションを排除して、杉斗との関係を深めていく中で、恵麻が杉斗の正体に気づくという流れの方がまとまったように思えました
■香りがつなぐ縁
人の感覚の中で嗅覚は特別なもので、記憶に直結していると言われています
匂いは目に見えないものですが、変化が一番少ない感覚なのですね
見た目は化粧や身なり、成長によって変わりますが、香水まみれでない場合の人の体臭というのはそこまで変化がないとされています
体臭は汗(アンモニア、酢酸、イソ吉草酸)、加齢(ノネナール、ジアセチル)などがありますが、汗自体に匂いはなく、汗に皮脂と垢、菌などが作用して体臭となっていきます
女性の場合は、SWEET臭(ロート製薬の商標登録)と呼ばれる「y-デカラクトンとy-ウンデカラクトン」の成分が混じっていて、特有の匂いがするとされています
性別や年齢によって匂いの構成要素は変わっていて、20代から30代の男性だと「ペラルゴン酸(ライオンによる研究)」、30代から40代だと「ジアセチル(マンダムによる研究)」、40代後半の女性(閉経後)には「ノネナール(資生堂による研究)」などが主成分になっています
嗅覚も加齢とともに衰えますが、喫煙や副鼻腔疾患、生活習慣病などがそれを加速させます
人の匂いは純粋な体臭だけではなく、香水、喫煙、好みの飲料などによって左右され、記憶されているものは様々なものが混じっています
香りが記憶と結び付き合いやすい理由の一つとして、記憶を司る海馬という場所へ直接的に信号が送られるから、とされています
嗅覚からインプットされた情報が「喜怒哀楽を司る大脳辺縁系に送られ、そこにある海馬や扁桃核が反応を起こす仕組みになっている」のですね
ちなみに匂いで記憶が蘇るのを「プルースト効果(Proust Effect)」と呼び、マルセル・プルースト(Marcel Proust)が作った言葉「不随意記憶(Innvolutary Memory)」に由来します
彼の著作『À la recherche du temps perdu』にて初出しているキーワードなのですね
匂いが直接的に海馬を刺激し、そこから記憶領域に作用するとうもので、これは良い記憶だけに限りません
この辺りは生命の根幹となる「安全」というところが関係していて、匂いによって「危険を察知していた歴史」が大きく関係していると思われます
■女性の自立に必要なもの
人が自立をするのに必要なのは、「経済力」などのような目に見えるものの他に、「自分の意見を持つ」「感情のコントロール」「主体的な行動」などのマインドがあります
映画では、経済的な自立はされていて、一人暮らしが乱れるようなことは描かれていません
元々は派遣社員としてバンケットホールで働いていて、そこで目撃したセクハラに対して、機転を効かせて回避はできましたが、その先の上司の行動を糾すという部分は些か拙速な印象を持ってしまいます
セクハラに対抗すべきだということも、それに意見をすることも大事だと思いますが、それはTPOを弁えないと反撃を喰らうのですね
派遣という経済的に完全に自立しているわけではない社会的なポジションであれこれ言うのはリスクの方が高いと言えます
彼女がもう少し社会というものを知っていれば、然るべき手段で、然るべき方法を取ることが可能だったと思います
本来ならば、そのような回りくどいことをせずに直接的なアプローチができれば良いのですが、社会はそこまで個人の行動を保証はしてくれていないのですね
なので、この恵麻の行動は「現時点の日本社会においては」感情を制御できずにいた、と言うことになります
その後、恵麻は紆余曲折を経て起業し、経営者として蓮と向き合うことになりますが、この場合の叱責はこれまでのような対応とは意味が変わっていましたね
一個人の感情ではなく、会社を背負っている経営者としての判断が如実に現れていて、このエピソードは彼女の精神的な成長を裏付けることになっていました
起業だけに留まらず、雇用を生み出すことで生じる責任感は、精神的な自立を促す一方で、無借金以外だと経済的な自立ができているとは言えなくなります
ブランドが確立できても、健全なキャッシュフローが賄えなければ金主(株主)からの圧力に晒されます
この構図は日本に限らないことですが、金主から支持を受けている自分の要素を大切にして、利益のために邁進することが経営者に求められるので、それを自覚していれば蓮のような相談と言うものは生まれないのだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、女性の自立を描いているのですが、恵麻に集中させずに色んな女性問題が絡められています
恵麻自身に降りかかるのが「経済的自立」「精神的自立」「セクハラ&パワハラ」なのですが、彼女とほぼ絡まない原夫妻の方では「不妊」が描かれていました
物語はダブル主人公と言う感じになっていて、原夫妻は弥生の方の物語と関連があります
弥生は元恋人の裏切りによって未婚のまま現在を迎えていて、彼女自身には不妊などの問題はありません
そんな彼女の前に元恋人が遺した息子がやってくるのですが、弥生の物語は「子どもの有無による女性の幸福感」についての物語になっていました
一応、恵麻の方にも恋人はできますが、恋愛よりも経営者としての自立が優先されているので、恋愛をしている場合なのかと思ってしまうのですね
蓮が弱っているところを捕まえた感がありましたが、弱っている彼を経営者・恵麻は助けることができません
私情を挟んで自分の金主を紹介したところで、蓮の会社は損切りするか畳むしかない状況ないし、それによって金主の信頼を失うことになり兼ねません
映画的な感じで進むなら、蓮の会社の経営状況を外部である恵麻が見るとか、経営コンサルを紹介するなどになると思いますが、会社の規模と経験値が違うので何の役にも立たないと思います
映画では、様々な難題が恵麻を襲うのですが、ダブル主演のような感じで物語を包んでいるのが微妙だと思いました
蓮とのエピソードは恵麻の社会的自立を描いていますが、その癒しが弥生の過去になっているところが何とも言えない感じになっています
蓮の事故死自体がシナリオ上では不要で、弥生の過去に対して、恵麻が癒す側になる方が良いと思うのですね
なので、恵麻が杉斗と関わる中で彼の正体を知り、それによって弥生自身の人生観を変えていくことが必要だと思います
そうなった場合、映画の根幹ともなる「結婚は女性にとっての幸福の一部になるのか」と言う命題に対してはっきりと答えを出さなければなりません
結婚どころか恋愛すらも諦めた弥生の生き方は正しいのか、子どもを作るために結婚することが正しいのか、経営者には結婚は必要なのか、など、多くの問題がありました
弥生が恵麻を癒すと言う構図は、男なしで生きていくことでも幸福になれると言う意味合いがありますが、立場が逆で蓮が健在なら「結婚しても女性の幸福は損なわれない」と言う意味になると思います
どちらのメッセージが映画的に合うのかは何とも言えませんが、映画内の女性が誰一人幸せになっているように見えなかったので、せめて恵麻だけは「男性が絡んでも幸せ」と言うところを描いて欲しかったなあと思いました
映画では、男性と幸せになれた女性が一人もいないのが一貫していますが、それで良いのかはわかりません
私が男性だから寂しく思うのかもしれませんが、映画のようにひどい男ばかりではないと思うので、もう少し救いがあっても良かったのではないか、と感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386113/review/e2961be7-dcd0-497e-b428-14e882f71f33/
公式HP: