■どんなシナリオにだって、魔法というものはかけられるものなのですよ
Contents
■オススメ度
中島裕翔さんのファンの人(★★★)
ワンシチュエーション映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.14(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、99分、PG12
ジャンル:マンホールに落ちたハイスペック男の顛末を見守るワンシチュエーションスリラー
監督:熊切和嘉
脚本:岡田道尚
キャスト:
中島裕翔(川村俊介:マンホールに落ちる結婚を控えた会社員、不動産会社「CRレジデンス」営業部のハイスペック男子)
奈緒(工藤舞:俊介の元カノ)
永山絢斗(加瀬悦郎:俊介の同期社員)
佐藤玲(中川さゆり:川村の婚約者、社長令嬢)
愛田菜楽(マンホール女のアイコンのオリジナル)
長友光弘(LLL:YouTuber)
松藤史恩(深淵のプリンス:正義の少年)
井上肇(川村の元上司)
若林時英(川村の同僚)
板倉武志(川村の同僚)
磯部泰宏(川村の同僚)
遠藤隆太(川村の同僚)
黒木華(折原菜津美:大塚村出身の女)
■映画の舞台
東京:渋谷区
神泉町
埼玉県:神野郡大塚村(架空?)
ロケ地:
Dining&bar KITSUNE
https://maps.app.goo.gl/8DUknbSbTPKnmNfb9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
社長令嬢との結婚を控えた川村俊介は、同僚の加瀬たちと結婚前夜にパーティーを開いていた
酔いが回る深夜、加瀬たちと別れた川村は、そのまま渋谷の路地裏へ消えていく
フラフラした足取りのまま、闇に消えていった川村だったが、ふと目を覚ますと、そこは得体の知れない穴の中で、右足の太ももに抉れたような傷があった
事態が飲み込めないまま、知り合いに電話をかけまくる川村だったが、誰もが飲み会の途中で電話に出ない
やっと繋がったのは元カノの舞だったが、イタズラ電話だと思われてしまう
その後、警察に連絡するものの、酔っ払いのイタズラだと思われ、すぐに救出には来ない
そんな中、穴の中に白い泡が立ち込め、川村はSNSで「女性のアカウント」を作り、SOSを発信することになったのである
テーマ:自業自得か運命か
裏テーマ:性根が腐るとすべてが腐る
■ひとこと感想
ネタバレしないでくださいと鑑賞前にわざわざ表示され、公開数日ではほとんど情報がない映画で、まあ確かにネタバレ厳禁ですよねという内容になっていました
ここでもネタバレする気はありませんが、そもそもネタバレなしのツイートだと、短文の悪評が飛び交うだけなんだと思います
この映画が好評だった人は「面白い!」「絶対、観て!」みたいな称賛の嵐で、この手のツイートは「仕込みだと思われている」時代なのですね
なので、内容にふれない賛辞が集客に結びつくとは思えません
個人的には「よく考えたなあ」と思いながら、「どうやったら、こんなに論理破綻を起こしているシナリオを書けるのだろう」と頭を抱えてしまいます
映画は勢いで99分耐えられますが、予想を裏切れば良いってもんじゃないというのは普通に考えてわかりそうなものだと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
とは言うものの、99分間飽きさせないと言う努力は感じますし、色々と考えたんだろうなあと言うことは伝わります
ワンシチュエーションで間を持たせるためには色んな仕掛けが必要ですが、本人はパニクっているのにカメラワークが冷静すぎるので、そのアンバランスが悪目立ちしている印象を受けます
穴に落ちてからどうするか?と言う単純な流れで、普通では考えられないアプローチを始めるのですが、その瞬間に「警察を頼らない何か」がモロバレだったりします
また、マンホールに落ちたと言う設定ですが、それも「拉致」っぽさと言うものが結構序盤でわかるので、怨恨系閉鎖空間パニックであることは容易に想像できてしまいます
ここまでは普通に考えても辿り着きますが、辿り着かせた上で裏切ろうと考えた結果、論理的には考えつかないような顛末を探し出した感が否めないですね
ハイスペック男がマンホールで喘ぐ中、知り合いを頼っても誰も助けてくれずに疑心暗鬼になって本性を表す
これが本作のメインシナリオですが、そこに色々と載せすぎているように思いました
■マンホールに落ちたらどうするか
「マンホール」とは、地下の下水道や暗渠(給排水用の水路のうちの小規模な溝状のもの=路肩にある側溝みたいなものを埋め込んでいる状態)、埋設された電気・通信ケーブルなどの管理を目的とした「作業員が出入りするために作られた縦穴」のことを言います
川村が落ちたのは「一般的な円筒型」で、他には大型バルブボックスと呼ばれる箱型のものもあります
マンホールはこれらの縦穴構造全体を指している言葉で、「蓋」はその一部のことですね
老朽化したマンホールが使われなくなるというよりは、その地域に張り巡らされた配線や配管の使用がなくなり、そこのメンテナンスをすることがなくなったので使用されなくなる、というのが一般的だと思います
地下を巡る配管などが閉められているはずなので、今回のように死んだ配管にガスが通じていることの方が不思議かなと思いました
組立マンホールというものがあって、いくつかの「円形」の部品を個別に作って現場で組み立てることになります
鉄蓋、鉄蓋を受ける受け枠、調整部、斜壁、スラブ(中間などに設置される床のこと)、直壁、底部という各部名称があります
マンホールの直径は一般的なものだと60cm、深さに関しては「1号マンホール」だと、「I種が5m」「Ⅱ種が10m」となっています
○号という名称は内径のサイズのことで、0号は内径750mm、1号は内径900mm、という感じに号数が大きくなるにつれて内径が広くなります
川村が落ちたのはおそらく5mのもので、彼の身長の約3倍くらいの深さに見えました
マンホールは元々「人孔」と呼ばれているように、人の出入りを目的としたものでした
映画の場合は廃校になったところにあったものが老朽化しているという設定なので、昇降に使うハシゴが腐っているという状態になります
かなり不安定で、サビの部分などで怪我をすると破傷風になる可能性が高いと思われます
設定では、折れた老朽化部分のハシゴに足を抉られ動けませんでした
よほど懸垂に自信があっても、腕力だけで登ることは不可能でしょう
川村が落ちた状況で持っていた道具といえば、スーツ上下、カバン、ベルト、スマホなどですが、ワンチャンありそうなベルトで一番下のハシゴに届くかどうかだったので、その時点で2mはあることになります
足の怪我の状態によりますが、石や残骸などを積み上げて土台を作り、その距離を縮めて引っ掛けるしかありません
それでも、ハシゴの老朽化によって二次被害が生まれる可能性が高いので、体力を温存し、外部との連絡を取るというのが最優先になります
ちなみにGPSが狂っているという設定ですが、これが細工によるものかを判別することは可能ですね
一番単純な方法は「Fake GPS Location」などの擬似ロケーションアプリの導入でしょうか
Androidの場合だと、開発者向けオプションの中に「現在地情報の強制変更アプリを選択」というものがあり、そこに擬似ロケーションアプリが入っているかを確認できます(追記:位置偽装状態のスマホでテザリングをした際の、テザリング先の位置情報所得に関しては未検証です)
それを解除すれば、機器の破損などがなければ正確なGPSを割り出すことは可能でしょう
そこからは「グーグルマップ」などの地図アプリを起動させた状態でスマホを真上に投げるなどの方法で位置情報を拾えるかもしれません
普通なら、110番通報すれば仮の位置情報ガン無視で向こうが探知するので、それで終わる話なんだと思います
■実現可能かどうかを考えてみた(真似しないでね!)
本作は、近年稀に見る駄作認定をされていて、アイドルに一人芝居をさせ、まさかのフェイスオフでネタバラシ、挙げ句の果てに犯人の犯行実効性の説得力も皆無の案件になっています
ネタバレ厳禁通達は「悪評による初動に影響が出るのを防ぐため」という意味合いが強く、この時代にそれが通用するとは思えません
「面白かった」「つまらなかった」の二択で観客の感想の拡散で集客をしようとしたら、よほど完成されたものか、本当にネタバレしない方が良い内容かのどちらかになるでしょう
残念なことに、完成度は低く、オチが最低なので、「つまらん」「観る価値なし」などのツイートの嵐になるか、「グーグル検索」の予測候補に「最低」「つまらん」などが並んでしまうように思います
本作は「過去に傷のある男が怪我を負ったのに救急に頼らない」という設定があり、「110番通報ではなく、最寄りの交番に連絡」という状況になっています
設定に関しては、ラストシークエンスに繋がる部分なので改変せず、どうしたらこの映画がマシになったかというのを考えたいと思います
映画の骨子は「動けないので助けを呼ぶ」という条件があり、それが落ちた際に怪我をしたということになっています
折れたハシゴの部分で太ももを抉られるというもので、応急処置をしつつ、次の策を練ることになりました
そこで川村は「いきなり119番」ではなく、知人&友人に電話をかけまくるという暴挙に出ます
この行動の理由は後半に明かされますが、前半の時点では「明日の結婚式ができなくなるから」という建前が「脱出できない」という状況判断より上回っているのですね
これに対する説得力が必要になります
これに対する単純なシナリオは「スマホが一時的に壊れる」というもので、落下した際に不具合が生じて、画面が割れてしまうというものになります
スマホが使えないと外部に連絡を取れないと思われがちですが、彼ほどのハイスペックなら「スマホをルーターにして他のデバイスで連絡を取る」という説得力は生きていると思います
パソコンやiPadだとそのまま通話ができないということはあっても、SNSを使用することは可能でしょう(データ通信契約で2台目を持っている人もいるはず)
なので、スマホは生きているけど画面は使えないという状況にして、そこで機転を効かせてテザリングを使って、なんとか救出方法を探るというシナリオにします
そこからSNSの連動をしていたPC用アプリを使用して、LINE通話などで友人に連絡をしまくるという方法を取り、それが最終的に元カノしか繋がらなかったという流れにします
そこで元カノと連絡を取って状況説明をして、「代わりに110番通報をしてもらう」という展開を迎えます
一応、元カノ=折原という偽装になっているので、連絡を受けた折原が「110番通報をしたふりをする」ということで、警察は一向に来ない状況を生み出します
ここで問題になるのは、元カノにLINEを送った際に真犯人に繋げる方法ですが、一番簡単なのは「もともと入っている元カノのLINE(ともだち)を削除」して、新たに「元カノの名前で友だち登録をする」という方法でしょう
5年前に連絡を絶っている設定なので、相手のアイコンが変わっていても気づくことなないと思います(相手のアイコンを使うなら、相手のページに行って画像を長押しで保存、もしくはスクショ保存でもOK)
映画にしか登場しないアプリを使うよりは、一般的なものの方が偽装の理解は早いと思います
元カノは看護師ですが、折原はおそらくは医師だと思われるので、応急処置に関することは問題なく伝達できます
警察に連絡するのが折原になるので、警察の緩慢な態度にキレるというシークエンスは無くなりますが、その鬱憤はそのまま元カノにぶつけるように改変してもOKでしょう
そこで疑心暗鬼が生まれ、頼れるのが元カノしかいない状態でどんどん追い込んでいくという流れになります
あとの流れはほぼそのままでいけますが、爆発を起こすシークエンスでは、もっと川村にダメージを与えないとダメでしょう
ダメージを最小限にする工夫は防火シートを持っているみたいなところになりますが、そういったものを描くと「都合が良すぎるシナリオ」になってしまうと思います
なので、ネットの知識をそのまま鵜呑みにして大怪我をする方が説得力があります
そして、さらに動けなくなり、爆発によって「白骨」が発見されて場所がわかるという流れになります
映画では遺体ということになっていて、時系列が符合しない凡ミスとなっていますが、そこにあるのが全く別人の白骨だったとしても、川村はそこが自分にとって意味のある場所だと理解するでしょう(遺体は単純にグロ度を上げる以外に意味はありませんでしたね)
最後は真犯人の実行可能性ですが、クリアしないといけないのは「体格差による移動」「物理的な距離の移動」になると思います
渋谷から埼玉の奥深い村に連れて行くことを考えれば、約2時間の移動が必要になります
彼女を医療従事者(医師)の設定にして、ビールか何かに睡眠薬を入れ込むのが「仕掛け」になります
薬に詳しければ、倒れるところまでの時間などは普通の人よりは正確だと思います
映画では明確に何かに落ちたみたいな倒れ方をしていますが、そこをもう少し濁すことで、倒れたという感じに仕上げればOKでしょう
180cmぐらいある成人男性だと体重は約70キロ、それをどのようにして車に運び入れるかが問題になりますが、今回の場合は「拉致」ではなく「殺害」が視野に入っているので、川村の身体状況がどのような感じになってもOKだといえます
問題は、路地裏で「拉致には見えない」という感じに連れ去る必要があることでしょうか
深夜の渋谷の路地には普通に人がいますので、ふらついている状態の川村に接触(ぶつかって)して、用意してあった車の影の倒すというのが一番見つかりにくいと思います(映像的には何か=電柱にぶつかったように音をつければOK)
そこにスクープストレッチャー(分離するタイプの救急搬入用の救護用品のこと)を用意しておいて、体の下に滑り込ませて固定します(トランスファーボードでもいけそう)
そのストレッチャーを介護用のワゴン車の「車椅子固定用の引き上げフック」に差し込んでスロープ牽引をさせます
車椅子を牽引できる介護タクシーを使えば、そのままストレッチャーを格納するところにそのまま入れることができます
あとは、そのまま高速を走って現地に到着させ、スロープを滑らせるようにして搬出させます
そこで体にロープ絡ませた状態でマンホールに落とし込み、スクープストレッチャーを外して引き上げる(牽引フックにつけたまま引き延ばす方法でもOK)
スクープ自体の体への固定をあらかじめ外しておけば、落下の反動で川村の体はロープのみで支えることになります
そこからロープを緩めて、高さ3mくらいのところから落下させるか、死ぬかもしれないけど、スクープ解除の反動でスロープから滑落させるのもありでしょう
問題は、この犯行をどのように見せるかなのですね
一昔前なら、成人男性を女性が動かすのは無理、ということで否定されがちなのですが、現在では「職能や知識によって可能」ということも増えています
それが手に入る環境にあるかどうかの方が重要で、折原が救急医という設定ならば可能であると思います
具体的に描きすぎると模倣犯が増えて大変ですが、そもそも誰でも用意できるものではないので、真似しようがないかもしれませんね
介護用車はアレですが、スクープストレッチャーならAmazonで3万円ぐらいで売っていたりします
また、電動ウインチで引き上げることは可能なので、こちらもAmazonで3万円以内で売ってたりしますね
絶対に真似してはいけませんよ!!!
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作はシナリオが破綻しているために、誰が演じても評価を劇的に変えることはできなかったと思います
その際たる理由は「整形」なのですね
整形して都会に逃げた相手をどうやって見つけるのかとか、整形に費やす時間と転職へのタイムラグというものは見逃せません
川村(吉田)があの街から出たかったとして、そこで他人になりすます必要性はあまり感じられません
いくら整形をしたとしても、実際に面接を受けて企業に就職しているわけで、面接担当官を騙せるほどの正確な整形はファンタジーにしか思えません
整形に時間を要し、かつ川村になりすまして生きるとするならば、後追いで本物の部屋に行き、そこで彼を殺害し、廃校のマンホールに捨てることになります(帰省中でもOK)
その後、元の会社は辞め、整形をして別の会社に潜り込むことになると思います
折原が川村を殺すほど憎むには、本物の川村の顔と彼の死が必要になりますが、それをそのまま活かすには「時間」が必要になります
なので、都会に出た川村を追って、その人生を丸呑みするというのがベターなのですね
そこで就職した会社をどう円満に辞めるかですが、整形時期を利用して、トラブルに巻き込まれたために休職する形をとります
そこでバレるかもしれませんが、退職代行を頼む(あるいは書面か電話連絡)などの方策をとって、できるだけ会わないという方法は取れなくはないでしょう
トラブルに巻き込まれて自宅療養しているということにすれば、そこに社の人間が来ても見過ごされる可能性はあるかもしれません
流れとしては、トラブルに巻き込まれたために休職届を郵送で提出、事情を聞きに来た社の人間に包帯姿の自分を見せ納得させる
その後、正式に退職手続きを取る、という流れになります
そこからは、整形が終了したあとに、川村のキャリアを活かして転職し、別の人生を送ることになりますが、ここまで手が込んでくると、折原がどうやって彼を見つけるのか、という問題が浮上します
そもそもが、事件化していない川村の死を発見していること事態が無茶なのですが、犯行を帰省中にすれば、彼女がそれを目撃していた、というふうに繋げることは可能でしょう
そこから、都会に潜伏する吉田(川村)を見つけ出し、𠮷田としてではなく「川村として生きていること」を知った折原が、計画を立てるという流れになると思います
本作はシナリオに粗が多すぎて、手直しどころの作業では済みません
でも、マンホールに落ちたハイスペック男というのは魅力的な設定なので、シナリオの作り方次第では化けたコンテンツだったと思います
ワンシチュエーションはアイデア勝負のところがありますが、実質的には「アイデアをどのようなリアリティで偽装するか」というのが肝要なのですね
なので、もう少し考えてシナリオを練って欲しかったというのが正直な感想でした
まあ、一番単純な解決方法は「元カノと折原による犯行」という路線で、「折原は別人だと知ったから」で、「元カノは恋人を殺された恨み」というわかりやすいものがあります
接点がなさそうな二人ですが、折原は救急医で東京に彼氏を追ってきたという設定にして、そこで勤務する看護師ということならば、そこまで深く考える必要すらありません
その関係性を川村だけが知らなければ良いわけで、本作のように無茶な理屈を並べるよりは、よっぽどまともなものができたのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384548/review/674aa089-7eb8-46c7-9e54-1928195234b9/
公式HP: