■もう少し絵本的な展開で想像力を信頼した方が、より多くを語れたように思えました
Contents
■オススメ度
ストップモーションが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023..7.14(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Marcel the Shell with Shoes On
情報:2021年、アメリカ、90分、g
ジャンル:マルセルと映像作家の交流を描いたコメディヒューマンドラマ
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
脚本:ディーン・フライシャー・キャンプ&ジェニー・スレイト&ニック・ペイリー
キャラクター原案:ディーン・フライシャー・キャンプ&ジェニー・スレイト
キャスト:
ジェニー・スレイト/Jenny Slate(マルセルの声)
ディーン・フライシャー・キャンプ/Dean Fleischer Camp(本人役、映像作家)
イザベラ・ロッセリーニ/Isabella Rossellini(ナナ・コニー:マルセルの祖母の声)
Sarah Thyre(キャサリン:マルセルの母の声)
Andy Richter(マリオ:マルセルの父の声)
Nathan Fielder(ジャスティン:マルセルの弟の声)
Jessi Klein(ジュディ:マルセルの叔母の声)
Peter Bonerz(マエストロの声)
Jamie Leonhart(シェル一家の声)
ローラ・サラザール/Rosa Salazar(ラリッサ・ゲラー:家の元住人)
トーマス・マン/Thomas Mann(マーク・ブース:家の元住人)
レスリー・スタール/Lesley Stahl(「60ミニッツ」のジャーナリスト)
Shari Finkelstein(「60ミニッツ」のプロデューサー)
Samuel Painter(「60ミニッツ」のカメラオペレーター)
Blake Hottle(「60ミニッツ」のカメラオペレーター)
Scott Osterman(「60ミニッツ」のサウンドミキサー)
Jeremy Evans(「60ミニッツ」のカメラアシスタント)
Conan O’Brien(本人役、テレビの司会者、アーカイブ)
Brian Williams(本人役、ジャーナリスト、アーカイブ)
■映画の舞台
アメリカ:カリフォルニア州
ロサンゼルス
ロケ地:
アメリカ:カリフォルニア州
ロサンゼルス
■簡単なあらすじ
アマチュア映像作家のディーンは、恋人と別れた後、とあるAirbnbに引っ越してきた
そこにはマルセルと名乗る靴を履いた小さな貝がいて、祖母と暮らしていたが、他の家族とは離れ離れになっていた
ディーンは彼に興味を持ち、ドキュメンタリーを制作する感じでマルセルの話を聞くことになった
マルセルの話では、前に住んでいたカップルが喧嘩別れになり、その際に家族たちが一緒に連れて行かれてしまったという
ディーンはマルセルの映像をYouTubeに流していて、それによって彼は人気者になっていく
ダイレクトメッセージが届いたり、ニュース番組が取り上げたりするものの、家族へとつながるヒントは見つからない
そこで二人は元住人を探そうと、外に出ることになったのである
テーマ:興味と探究
裏テーマ:行動と結果
■ひとこと感想
ストップアニメで可愛い貝らしきものが動くというのは知っていましたが、YouTube発の映像作品のようですね
まるでペットを観察しているような感覚になっていて、ディーンの存在も飼い主にしか見えません
物語は単調で、映像を楽しむ作品になっていますね
コミカルな動きがたくさん出てきますが、基本的には動かないので、進まない物語を退屈に思う人もいるかもしれません
個人的にはそこまで面白いとは思いませんでしたが、ハマる人はハマるのかなという感じでしたね
車に乗ったら、体よりも大きなゲロを吐いたりするのは笑わずにはいられません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
基本的に会話劇で、中身もそこまで深いものではないので若干退屈かなあと思ってしまいます
中盤あたりから外に出て、そこからが本番のような感じになっていますね
SNSがバズって認知が広がり、取材を通じて家族たちとの再会というものが近づいてきます
マルセルはディーンと出会うことによって外の世界を知るのですが、行動範囲が拡がれば広がるほどに、可能性というものは増えていくのですね
マルセルの生活そのものの面白さと、祖母コニーのこだわりというものがあって、それによってマルセルは旅立ちを余儀なくされてしまいます
コニーはメンター的な役割になっていて、自分の死期というものにも気づいています
自分が死んだらマルセルは一人になってしまうので、その時のために家族探しは必須の出来事のように思えます
自分の人生を豊かにするためには殻に閉じこもっていてはダメで、それゆえに「動くための靴」を履いているのかなと思ったりもしますね
冒頭のテニスボールの行方は自分では決められないけど、自分の足ならば行きたい場所を選べるというテーマが内包されていたのだと思います
■未来のための行動
マルセルはあの部屋に住み着いた生物で、そこで家族と一緒に穏やかな時を過ごしていました
その部屋の持ち主であるラリッサとマークが喧嘩別れになって、マークの荷物に家族が紛れてしまったというもので、取り残されたのがメリッサと祖母コニーだけだったのですね
そして、二人が過ごす部屋を借りることになったのが、妻と別れた(恋人と別れた?)ディーンで、これが公私混同っぽくなっています
マルセルは自力で部屋から出ることができず、家族がどこにいるかもわからないため、冒険を始めるわけにもいきません
そんな中、マルセルに興味を持ったディーンが動画にしてSNSでバズるという今風の展開を迎えます
ディーンはドキュメンタリーを作るつもりで動画を撮っていて、それを小出しに公開しているのですが、これがリアルタイムドキュメンタリーになっていて、視聴者との交流が起こっていきます
通常のドキュメンタリーは、ある明確な意図をもとに作られた映像作品で、その制作過程に視聴者が入ることはありません
本作では、刻々と変化するリアルを取り込んでいるように見せることで、現実世界でも「行動が重要」であることをメッセージにしています
わかりやすくコニーがマルセルを促していますが、映画自体が「行動によって変化する日常」を追っているモニュメンタリーになっているため、行動が起こすリアルを体感できるようになっています
マルセルが外に出てから多くの人に出会っていくのですが、それらを全て肯定するように仕組まれていて、それは「観たいものを見せている」という感じになっていますね
なので、ありきたりに見える冒険譚にほっこり感が乗っている感じに思えます
ちなみにマルセルの声を当てているのが、ディーンの元妻ジェニー・スレイトさんなんですね
マルセルはあるカップルの離縁によって家族と離れ離れになっているのですが、ある意味メタ的な感じになっているのは狙っているのかもしれません
元鞘に戻るわけではありませんが、男女の関係は夫婦が最も適しているのではなく、仕事上のパートナーとして過去を乗り越えているというところも感慨深いものがあります
実際に二人がどんな感情で映画制作に取り組んでいるのかは分かりませんが、映画からはわだかまりが残っているようには感じませんでした
■世界の広さは可能性の広さ
マルセルは当初SNSを中心にバズりますが、そこでは家族のヒントというものは出てきません
インフルエイサーはマルセルとの絡みでバズりたいだけで、自己顕示欲を発揮しているだけの存在なのですね
全てのインフルエンサーがこのような自己中心的とは思いませんが、本作ではそれを誇張するように仕向けています
そんな時間の浪費を強いられるマルセルを助けたのは「60ミニッツ」というドキュメンタリー番組で、彼らはSNSでバズっている様子を知り、マルセルたちが何を探しているかを理解していました
それによって、マークの家でインタビューをして再会の流れへと足掛かりを作っていきます
彼らも全て善意ではないのですが、効果的な関係性を紡ぐという意味では、まず相手の欲するものを提示するという交渉を行なっています
このあたりがプロの仕業という感じになっていて、欲しがるだけでは何も得られないという教訓になっています
マルセルは「60ミニッツ」の助力がある前に外界に飛び出していて、ネットよりも認知が進んでいくことになります
マルセルは小さすぎるので相手からの認知は効果的ではなくても、これらの行動は自分自身の見識が拡げることにつながっています
この見識の広さは、すなわち可能性の大きさとも呼び変えられ、それは行動によってしかなし得ないものだったりします
どのような些細な行動でも、バーチャルで感じられるものよりは多くのものを得ることになるのですね
これは「視覚、聴覚のバーチャル」に対して「五感全てのリアル」という差異そのままの経験値になっていると言えるでしょう
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画全体は地味な作品で、離散した家族が再会するというわかりやすいプロットになっています
物語性は特にありませんが、「どうやって撮ったんだろう」という興味の方が、スクリーンに集中させる要因になっています
ストップモーションと実写を融合させていて、同時進行は難しくてもカット割りなどの工夫で映画として成り立たせています
基本的に会話劇になっているので、映像を楽しむためには字幕は邪魔だったりするのですね
このセリフが異様に多く、映像に集中できないところは勿体無い感じがします
かと言って、この規模で吹替版を作るのは不可能に近いので、字幕が要らない英語圏は羨ましくも思えてきます
個人的には「字幕なくても問題ないんじゃね?」と感じるところがあって、それは「そこまで細かい話はいらんだろう」というスタンスなのですね
それぐらいマルセルの動きにはセリフ以上の説得力があったので、音声をBGMにして字幕を無視するという鑑賞方法もありだったと思います
いっそのこと、字幕なし映像のみで公開というスタンスでも良いと思うのですが、それでは足りないと制作サイドは考えていて、繰り返されるテーマというものが強調されていました
いっそのこと、実写パートだけ会話があるという編集方法で、マルセルとは会話では意思疎通できないでもOKだったかもしれません
マルセルに興味を持ったディーンがYoutubeに動画を上げていく流れでも、ディーンが人間世界のことを説明していくのですが、マルセルがそれを理解する意味があるのかは微妙なのですね
なので、ペットを観察しているような感覚で、マルセルとコニーが何か言ってるけどわからない、というテイストでも良かったように思いました
交流があると物語は広がると思いますが、なくても同じように展開させることは可能なのですね
なので、セリフでテンポを悪くするよりは、もっと多くのアクションを主体として、進めても良かったかもしれません
ディーンがマルセルと交わしている会話の多くは、マルセルと相対した人類が共通で察する範囲であると思うので、マルセルの感情表現を信頼して汲み取っていくことで前に進みます
そんな中、マルセルが人間の行動を恐れながらも、自分のことを理解していることを気づいていくというスタンスの方がより感動的だったように思えました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/388465/review/d5b7a04b-1ae6-4da3-a50d-68d8a9475641/
公式HP:
https://marcel-movie.asmik-ace.co.jp/