■あの状況を生み出すことになったことが、『X』に至るまでの夫婦の物語を作ったのかもしれません
Contents
■オススメ度
ゴア表現が大丈夫な人(★★★)
後日譚『X』を観た人(★★★)
サイコホラーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.7.13(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Pearl
情報:2022年、アメリカ、102分、R15+
ジャンル:抑圧された酪農家の娘の豹変を描いたサイコホラー映画
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト&ミア・ゴス
↓前作『X』Amazon Praime Video リンク
キャスト:
ミア・ゴス/Mia Goth(パール:コーラスガールを夢見る女性)
デヴィッド・コレンウェスト/David Corenswet(映写技師)
タンディ・ライト/Tandi Wright(ルース:横暴なパールの母)
マシュー・サンダーランド/Matthew Sunderland(病弱なパールの父)
エマ・ジェンキンス=プーロ/Emma Jenkins-Purro(ミッツィ:ハワードの妹)
Alistair Sewell(ハワード:第一次世界大戦に出征しているパールの夫)
Amelia Reid(マルグリット:ミッツィの母?)
Gabe McDonnell(オーディションの案内係)
Lauren Stewart(オーディションのピアニスト)
Todd Rippon(オーディションの審査員、映画監督)
Grace Acheson(映画館のチケット係)
■映画の舞台
1918年、
アメリカ:テキサス
ロケ地:
ニュージーランド
■簡単なあらすじ
酪農家の一人娘として育ったパールは、夫ハワードが戦地に赴いているため、母の抑圧から解放されずにいた
父は病気のために車椅子生活をしていて、食事からすべて全介助でサポートしなかればならなかった
パールはダンサーになる夢を持っていて、父の薬を買うついでに映画館に足を運んでいる
その日もいつも見る映画を堪能し、パンフレットを購入して映画館の裏手で余韻を楽しんでいた
するとそこに映写技師の男が休憩にやってきて、「今度、映画を無料で見せてあげる」と誘ってきた
パールは嬉しさのあまり、母の目を盗んで深夜に映画館を訪れる
技師はジプシーとして、住み込みで仕事をしていて、色んな土地を渡り歩いてきていた
パールはニューヨークに行く夢を語り、二人は大人の関係になっていく
だが、その行動は母に筒抜けだった
テーマ:抑圧と解放
裏テーマ:本性の伝承
■ひとこと感想
『X』を観ていたのと、ミア・ゴスさんのホラーということで、迷うことなく鑑賞
鑑賞後に食欲が失せる内容でしたが、サイコホラーとして、徐々におかしくなっていく描写は特筆すべきものだと思います
『X』の前日譚ということで、ビデオ撮影グループが遭遇したヤバい老夫婦がいかにして誕生したかという内容になっていて、あの状況で夫ハワードがパールに寄り添うことになったのもホラーだと思います
映画は、かなりのゴア描写が最後に畳かかる内容で、抑圧された魂が自己愛と自己肯定感の末に変貌していく様子もしっかりと描かれています
義理の妹のミッツィは気の毒ですが、あの流れなら怒りを買ってもおかしくはない感じがしますねえ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
何を楽しむかはそれぞれですが、心理的なホラー、ゴア表現など、一定の需要を満たせる仕上がりになっています
前半が少しスローテンポではありますが、動けない父だけがパールの本性に気づいているところがあって、彼目線だといつ殺されてもおかしくない感じに思えたでしょう
母ルースも大概な人ですが、父ではなく夫の介護をしているという閉塞感は相当なもので、口には出せない感情があったものだと感じます
母は自分自身の中にある邪なものに気づいていて、パールを嗜めるのは自分に言い聞かせているという感じでしたね
アクシデントによって、パール王政が築かれてしまいますが、死んだ方が楽なんだろうなあというシーンが連続で続き、その行為を正当化し、最終的には何も与えずに餓死させるのは常軌を逸しているというレベルではないと思います
映画自体も怖いのですが、一番の怖さは『X』を知る人だけが感じる、ハワードの偏愛なのですね
あの状況で逃げ出さずに『X』の年齢まで添い遂げているのは、かなりのホラー感があったと思いました
■抑圧が生む衝動
パールは抑圧された過程で育ち、その生活からの反発が徐々に顕在化していきました
パールの母ルースも同じく抑圧されていて、貧困と夫の介護は自身への理不尽となり、その苦痛を和らげるためにパールを抑圧していきます
人は苦しみから逃れるためには何でもする動物ですが、一方で「苦しみの中にいる自分に存在価値を見出す」という性質も持ち合わせています
要は、父という枷があるからパールをコントロールできると考えていて、自身のパールへの抑圧をストレス解消の理由づけにしているとも言えます
本来ならば、ルースも夫と酪農に勤しんで、今よりももっと裕福な生活をしていたことでしょう
夫が今の状況になっている理由は描かれませんが、症状的には脳疾患による半身不随か、外的要因による脊髄損傷を含む半身不随のどちらかだと思われます
時代性としては、スペイン風邪が流行っている年代で、もしかしたらそれに罹患して、インフルエンザ脳症のようなことになっているのかもしれません
父に飲ませている薬はモルヒネだったので、いわゆる鎮痛剤にあたると思われます
それをこっそり飲んでいたパールは、その薬の麻薬効果を感じていて、それで気を紛らわしていたのかもしれません
パールの衝動を抑えつけていたのは母による監視でしたが、全てを監視できていたわけではないでしょう
でも、ルースはパールの隠されたヤバいものを感じていて、それが解き放たれることを恐れていました
それはルースの中にもある衝動だったので、彼女は極端にそれを恐れていたのだと思います
ルースに関しての背景はあまり描かれていませんが、あの状況を生み出したものは普通と呼べるものではないことは確かだと思います
■自己愛の果てにある憑依
パールはコールダンサーになる夢を抱いていて、その理由の一つに「一糸乱れぬダンス」というものを挙げていました
この横並びの同じ動きをするダンサーの中でも、メインダンサーとして踊ることを夢見ていて、ソロではないところが興味深くもあります
ソロだと突出した自己顕示欲が見えますが、集団の中のメインというのは、それを隠している状態なのですね
でも、この集団の中では抜けた何かがあるからメインになっているわけで、それは他者比較の中で秀でることで、パールの承認欲求が満たされるという意味合いになると言えます
この横並びはいわば隠れ蓑のようなもので、それはルースに隠したいものがあることを示しているのだと思います
突出したソロであれば自由というものへの固執が見られますが、横並びのダンサーというものはある種の抑圧を印象づけます
パール自身が抑圧による快感を感じていることを示唆しつつ、でも存在感は失わないという欲求を併せ持っている
これがパールの本性なのだと思います
パールは自分の所業の始末をワニにさせていましたが、両親だけはそうしない
このあたりの異常性は、これまでの抑圧の反動と復讐の現れなのでしょう
動けない状態で団欒に縛り、その中で自分だけが自由でいる
抑圧された家族の中にいて、自分だけは自由であるとも言えるので、このあたりがラインダンサーの中で輝く自分とリンクするように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は『X』の前日譚として、撮影カップルを襲った夫婦の過去を描いています
『X』にて、特殊メイクでパールとして登場したミア・ゴスさんですが、今回は若さはち切れんばかりの快演をされていました
ラストシーンの長回しが印象的で、その視線の先に何も知らない夫ハワードがいるのでなんとも言えない感じになっています
ハワードとしては、戦争が終わって、ようやく家族のもとに帰って来たのですが、彼の足取りを考えると、父が半身不随だったことすら知らない可能性があるのですね
夫から手紙はパールに会いたい系のものでしたが、パールはこちらの現状を伝えていなかったのかもしれません
とは言え、父の病状がどの時点で起こったのかも分からず、出征前なのか後なのかもわかりません
もし、ハワードが父の看護にあたっていれば、農場を手伝っていれば状況は変わったかもしれません
彼の不在がルースとパールの関係性を生み出した可能性はあるので、それに対する贖罪のようなものが『X』に引き継がれる「パールの全てを受け入れるハワード」の誕生に繋がったのかなと思わずにいられません
本作は、パールの豹変が最大のホラーのはずなのですが、『X』を知っている人ほど、ラストから『X』に繋がるまでの空白、すなわちハワードの献身こそが真のホラーだと感じるのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/389187/review/f085e562-6b5a-41ff-9fbb-16c8c586e7d3/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/pearl/