■メデューサの目を見た愚か者たちと、無垢なる美意識への憧憬


■オススメ度

 

奇抜なヘアメイクを堪能したい人(★★★)

ワンカット風の映画に興味がある人(★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.10.26(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Medusa Deluxe

情報2022年、イギリス、101分、G

ジャンル:あるヘアメイクコンテスト会場で起きた殺人事件をめぐる参加者を描いたミステリー映画

 

監督脚本トーマス・ハーディマン

 

キャスト:

クレア・パーキンス/Clare Perkins(クリーブ:アンジーを担当するヘアドレッサー)

リリット・レッサー/Lilit Lesser(アンジー:フォンタンジュを施されるモデル)

 

ケイラ・メイクル/Kayla Meikle(ディヴァイン:イルスを担当するヘアドレッサー)

ケイ・アレクサンダー/Kae Alexander(イルス:シニヨンを施されるモデル)

 

ハリエット・ウェッブ/Harriet Webb(ケンドラ:エッツィを担当するヘアドレッサー)

デブリス・スティーヴンソン/Debris Stevenson(エッツィ:ケンドラと一緒にネフェルティティを施して昨年優勝したモデル)

 

ダレル・ディシルバ/Darrell D’Silva(レネ:ヘアコンテストの主催者)

 

ハイダー・アリ/Heider Ali(ギャック:ロッカーの血を見つける警備員)

ニコラス・カリミ/Nicholas Karimi(パトリシオ:ギャックの同僚の警備員)

 

ジョン・アラン・ロバーツ/John Alan Roberts(モスカ:亡くなったデザイナー)

アニア=ジョイ・ウワジェ/Anita-Joy Uwajeh(ティンバ:モスカが担当していたモデル、死の直前までいたとされる女性)

ルーク・パスカリーノ/Luke Pasqualino(アンヘル:モスカの恋人)

 


■映画の舞台

 

イギリス:ランカシャー州

プレストン

 

ロケ地:

イギリス:ランカシャー州

プレストン

Preston Guild Hall

 


■簡単なあらすじ

 

イギリスのプレストンにてヘアドレッサーのコンテストが行われ、そこに4組のヘアドレッサーとモデルが集まった

だが、その矢先にひとりのヘアドレッサーが殺害されてしまう

 

厳戒態勢が敷かれる中、現場から離れられない彼らは、殺人犯探しを始めていく

取り留めない会話で探り合いを入れていく中、それぞれが疑心暗鬼になりながら、コンテストに向けての準備を同時で進めていく

 

死んだヘアドレッサーのモスカの髪の毛は皮膚ごと切り取られていて、警備員のギャックはロッカールームで血のりを見つけてしまう

それを拭き取るために楽屋の道具を撮りに行った先で、ドレッサーたちとの会話を繰り広げていく

だが、誰もが自分の保身に走り、誰かに対する文句を重ねるばかりだったのである

 

テーマ:因果の絡みとトランス

裏テーマ:絡み合う欲望

 


■ひとこと感想

 

ワンショット風撮影ということで、画面の切り替わりがこわやかになっていますが、その意味合いはあまり感じないように思えました

技巧に特化しているけど伝わらないという内容で、自己満足感がつご異様に思えてしまいます

 

舞台は殺人事件が起こった現場なのですが、それがわかるまでに時間を要するように思えます

警備員のロッカーに血がついているということで、それを拭うための道具探しを行うのですが、無理やりモデルたちの楽屋を訪れているように思えてしまいます

 

映画は、その技巧とアドリブ込みの会話劇を楽しむ感じになっていますが、有益な会話がほとんどなく、ただ眺めているだけという感じになっています

なので、どこで区切っているのかなあと野暮なことを考えるだけの映画になっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

どこまでがネタバレなのか微妙な感じになっていて、最後まで見ても犯人がはっきりしないようなモヤモヤ感が拭えません

警備員が何かを知ったことはわかるのですが、基本的に「回想部分も話す」ことになるので、うとうとしていると置いてけぼりになってしまいますね

 

個人的には、犯人探しはどうでも良い感じになってしまい、ロングショットをどう組み合わせるのかなということばかり考えてしまいました

ちなみに、モデルはわかるのですが、誰がヘアドレッサーなのかが分かりにくかったですね

モデルのマネージャーにも見えるし、メイクの補助のようにも見えるし、コンテストの主催側のようにも見えてきます

 

そもそも、コンテストなのに4組だけというわけがわからない設定になっていて、設定まるごとの規模などは全く分かりませんでした(被害者に関係する人だけ登場していたのだと思う)

興味がなかったこともありますが、ロングショットでひたすら中身のない会話を喋っているだけなので、「だから何?」という感じで眺めていました

 


ワンショットの効能

 

本作の特徴は、ワンショットに見える編集方法で、このタイプの映画を見慣れている人なら、繋ぎ目っぽいところを感じることができると思います

実際に100分近くを長回しにすることは不可能に近く、特にこれだけの会話劇になってくると、どこかでミスが生じてしまいます

それでも、会話をほぼ意味のないものにすることによって、そのミスは見えないように演出されていました

 

本作における会話のほとんどは「被害者モスカ」に対する印象論で、その次に「関係者の人格と背景」へと繋がっていきます

それぞれのキャラの印象を明確にされて、その人物が言いそうなことをアドリブで回しているようにも思えるのですが、それが成功しているのかどうかわからない部分はあります

かなりの言葉数になっていて、字幕を追うのが精一杯という場面もあり、また登場人物の相関を把握するのに時間がかかる作品になっていました

 

ワンショットで紡がれる物語は、ある人物から別の人物へと視点がバトンタッチされていくのですが、これを群像劇でやるのは結構ハードルが高いのかなと思います

それは、情報の整理のための初回の一巡で、どこまで人間関係と状況を伝えることができるかというところで、わかりやすく言えば「被害者が誰で、容疑者は誰?」というところになると思います

本作の場合は「被害が伝聞」に成らざるを得ず、登場人物がそれを伝え聞くという流れになっています

それゆえに、事態を把握している人がいない状況で物事が示されていくので、観ている方は彼らよりも少ない情報で内容を理解していくことになります

 

通常のミステリーだと、第三者視点に立って事件の概要が掴めるものですが、本作のようにワンショットになってしまうとその視点に立つのは非常に難しくなってしまいます

あらすじや人物相関を予め知っていればそこまで混乱しないかもしれませんが、一巡するまで「登場人物の全体像」すら把握できないので、物語と手法があまりマッチしているとは言い難い作品になっていたと感じました

 


タイトルの意味について

 

映画のタイトルは「メドゥーサ・デラックス」で、ギリシア神話のメドゥーサが由来になっています

メデゥーサは、アテナと美を争って、その髪を蛇に変えられたという逸話があり、さらにその蛇はそれぞれが別の方向を見ているという意味合いも含まれています

これは、モスカに対する登場人物の想いが合致していないこと、事件に対する距離感の違いなどのメタファーのようなもので、迷走していく様子が伺えるようになっていました

 

「デラックス」の方は、一般的な意味合いとしては、「豪華である」「優れた」という意味があり、スラングとしては「メデゥーサを強調する言葉」だったり、「有害、差別主義」などを定義する言葉にも使われます

「あなたはとてもデラックスですね」という文言だと「あなたは頭が弱いですね」というニュアンスに近くなるという感じになっています

一見すると良い意味に思える言葉ですが、使い方次第では「御花畑」みたいなニュアンスになるのは面白い言葉だと言えます

 

映画における意味だと、「ヘアスタイルの豪華さ」であると同時に、「被害者を取り巻く人物の愚かさ」を強調しているように思います

また、それぞれのキャラが他の人物に思っていることがあって、それが好意的ではなく、疑いあうという構図になっていました

単純にゴージャスという意味に使うのが良いと思うのですが、劇中内で起こっていることを考えると、負の意味で使われているイメージの方が強く感じました

 

ちなみにパンフレットの監督のインタビューでは、「メドゥーサの物語は男性的視点で紡がれていて、本作は女性が主体なので神話を再構築するつもりだった」と述べられています

これはギリシャ神話の体系が男性が紡いできたものという意味合いになっていて、メドューサの物語を「メドューサもしくはアテナの視点で見ればどうなるか」ということに繋がるのでしょう

これらの視点の再構築によって導き出されるのは、「この事件を被害者モスカの視点で見よう」ということになるのだと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

被害者は死んでしまっていて、いわゆる死人に口無し状態で、彼の不在を良いことに、それぞれのキャラが自分勝手な発言を繰り返すことになりました

これらの言葉を全て聞いているのは観客だけですが、映画の中では赤ちゃんのパブロも傍聴者の1人になると思います

赤ちゃんは全てのシーンでは出てきませんが、モスカ同様に口を挟まない存在なので、それぞれのキャラクターは言いたい放題言えるという状況を作り出しています

 

この場に不似合いな赤ん坊の登場は、監督の意図する「物語の視点の再構築」に通じる部分があり、言い換えると「子ども目線で、ここにいる大人たちはどのように見えているのか」に繋がっています

観客は大人の視点で物事を見ますが、そこに純粋性を持たせるために赤ちゃんが登場しているのかなと感じました

監督の意図としては、メドューサの物語を女性視点にしたいというものがあって、それは美を競う人の視点ということになります

その観点で言えば、メドューサは被害者で、アテナは嫉妬の化身のようにも見えます

 

そして、本作のモスカもまた嫉妬の対象であったことが仄めかされています

死体から頭皮が剥がされるというものも、この世界では髪の毛のことを意味します

それは髪型への憧れであったり、ヘアスタイルの技術への憧れであったり、美意識への憧れだったように思います

そうしたものに対する嫉妬を強烈に持つ人物というのが犯人になるのですが、彼の死は意外なものだったことが判明します

 

嫉妬の感情は大人に渦巻いているもので、無垢の段階ではそれを思いもしないでしょう

そう言った意味において、嫉妬による犯人探しのその向こう側に真実があり、頭皮を剥がすという行為も一種の憧憬のようにも思えます

頭皮を剥がしたのは警備員のギュックで、その理由が彼の髪を守るという一見理解し難いものに思えるのですが、髪は死んでも朽ち果てないことから、彼の中で永遠に残るものであるとも言えます

複雑な人間関係が最後に明かされるものの、ギュックにとってのモスカの髪の毛というのは、まさに良い意味でのデラックスということだったのかもしれません

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

http://www.cetera.co.jp/medusadeluxe/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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