■この映画がご褒美になる人は、斧を見るたびに怯え続けるのだろうか


■オススメ度

 

グロ系ホラーが好きな人(★★★)

同じ顔の男に狙われると言うプロットに興味がある人(★★★)

意味がわからん映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.12.17(TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

原題:Men

情報:2022年、イギリス&アメリカ、100分、R15+

ジャンル:夫の自殺を機に避暑地に来た妻が複数の同じ顔の男に付き纏われる様子を描いたグロ系ホラー映画

 

監督&脚本:アレックス・ガーランド

 

キャスト:

ジェシー・バックリー/Jessie Buckley(ハーパー・マーロウ:夫に自殺された妻)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(ジェフリー:カントリーハウスの管理人)

 

ロリー・キニア/Rory Kinnear(司祭)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(裸の男)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(パブのオーナー)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(パブの客)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(警官)

 

ザック・ロゼラ=オックスリー/Zak Rothera-Oxley(サミュエル&サミュエルの遺体、マスクをした少年)

ロリー・キニア/Rory Kinnear(サミュエルの顔)

 

パーパ・エッシドゥ/Paapa Essiedu(ジェームズ・マーロウ:自殺するハーパーの夫)

ゲイル・ランキン/Gayle Rankin(ライリー:ハーパーの友人)

 

Sarah Twomey(フリーダ:陽気な警官)

Sonoya Mizuno(警察のオペレーターの声)

 


■映画の舞台

 

イギリス:ハートフォードシャー州

https://maps.app.goo.gl/pheam3uBK5KAWw3e6?g_st=ic

 

ロケ地:

イギリス:ロンドン

St Katharine Docks/セント・キャサリン・ドッグ

https://maps.app.goo.gl/J1HvQHsXUbGad3KQ8?g_st=ic

 

Gloucestershire/グロスターシャー

https://maps.app.goo.gl/DXdEPmR2D5Nvv2kh8?g_st=ic

 

Withington/ウィジントン

https://maps.app.goo.gl/uYegMMaDHCywSvzW9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

別れ話が拗れて、夫に自殺された妻・ハーパーはハートフォードシャー州のコットソンのカントリーサウスで傷を癒す旅に来ていた

そこの所有者であるジェフリーは一風変わった男だったが、親切丁寧にハウスを案内してくれた

 

ハーパーはオンラインで親友のライリーと通話をして寂しさを紛らわせていたが、ふと外からの視線を感じた

そこには全裸の男が立っていて、彼女の元に向かってくる

ハーパーは警察に緊急コールをかけて助けてもらい、男は逮捕されることになった

だが、男には罪がないとのことで釈放されたと聞き、彼女はこの地に不信感を募らせていく

 

ある日、森に入ったハーパーはその道中で仮面を被った奇妙な少年と司祭に出会う

だが、その二人はどこかジェフリーや裸の男に似ていて気味が悪かった

そんな折、再び彼女のハウスで不気味な音がして、同じ顔をした男が姿を現すのであった

 

テーマ:不条理の因果

裏テーマ:彫刻が示す幼児性

 


■ひとこと感想

 

同じ顔の男にストーキングされる話だと思って鑑賞していましたが、まさかのグロ系ホラーになっていて度肝を抜かれてしまいました

グロ耐性がなかったらおそらくダメな映画で、後方にいたカップルたちの静寂が劇場の空気を支配していましたね

 

映画のテーマを探るのは非常に難しいのですが、時折挿入されるシーラ・ナ・ギクとグリーンマンの意味を知っていれば、なお一層理解が早いかもしれません

とは言っても、見たまんまなんですが

 

映画は冒頭からコメディのようなストップモーション自殺があって、何の冗談かと思ったのですが、悪趣味全開の展開に好物だけどグロすぎると言う感想を持ちました

さすがにホラーを好きな人にもオススメできない感じになっていて、A24攻めすぎやろうと思ってしまいましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

謎の彫刻に関しての知識はありませんでしたが、思いっきり女性器を広げるような奇妙な石像だったので、感覚的に意味はわかりました

そして、後半ではその彫刻さながらに、出産(と言っていいのか微妙だが)を繰り返していくグロさを発揮していきます

 

テーマと言うのがものすごくわかりにくくて、おそらくは「夫婦の離婚」に関係する「妊娠」「女性」「母性」あたりなのかなと思いました

繰り返す出産の果てに夫が登場し、それを見て微笑むハーパーが描かれるのですが、この幼児性というかマザコンというか、そういった特質が確執の原因なのかなと思ってしまいました

 

グロさに耐性があれば良いのですが、どちらかというと出産を間近に見るという感じなので、それをグロと呼んでいいのかは悩んでしまいます

まあ、血が苦手な人はやめておいた方が良いとは言えるでしょうねえ

 


シーラ・ナ・ギグとグリーンマンについて

 

映画の端々で登場する「謎の石像」と「顔から葉っぱが生えた謎の男」ですが、これらに対する解説は映画内ではされていません

一応、パンフレットには載っているのですが、ここでもサラッと説明しておきたいと思います

 

「謎の雪像」は「シーラ・ナ・ギグSheela na Gig)」と言い、女性の外陰部を誇張した裸体の彫刻のことです

イギリスやアイルランドに多く見られ、教会や城などの建築物に彫られています

この彫刻が多いのがアイルランドで、101個ほどが確認されています(次いでイギリスで45個確認されている)

これらの彫刻には「死と病などを避ける」と言う伝承があります

 

「シーナ・ナ・ギグ」が生まれた理由は諸説ありますが、James JarmanとAnthony Weirの研究によれば、11世紀のフランスとスペインで生まれたと言う説が有力のようですね

12世紀頃になってイギリスに渡り、その後アイルランドに広がったとされています

語源としては、「Síle na gcíoch」と言うアイルランド語に由来があり、その意味は「胸のジュリア」と言う訳になるそうです

 

続いて「顔から葉っぱなどが生えている男」ですが、これは「グリーン・マン(Green man)」と呼ばれているもので、「葉で構成、もしくは葉で覆われている男」のことで、「春」「生命のサイクル」を意味しています

Mike Hardingによれば、2世紀頃のイラン、レバノンあたりで見られ、その後ネパールやインドでも同じようなものが見つかっています

グリーンマンは口から葉っぱを出しているのですが、その多くはステンドグラスや彫刻などで残されています

この緑の男は、しばしば『ガウェイン卿と緑の騎士』に関連づけられることが多いそうですね

緑の騎士はガウェインを騎士に導いた人物ですが、この映画でも「ハーパーを導く者」としての効果があったように思えました

 


ハーパーが犯した罪とは何か

 

ハーパーがコットソンに来たのは夫ジェームズの自殺によって受けた心の傷を癒すためでした

でも、その旅先で奇妙なトンネルの中で奇声を上げたことがきっかけで、同じ顔の男に追われるようになります

この同じ顔の男は、最終的に連鎖出産の奇妙な儀式の後、ジェームズを輩出することになりました

この連鎖出産で生まれてくるのが「ハーパーを罵る少年」「ハーパーを否定する司教」のように、コットソンの町で出会った者たちでした

 

ハーパーがこの町で同じ顔の男に遭遇することになった理由は色々とありますが、最大の要因は「ジェームズの執着をコットソンで呼び起こしたこと」になると思います

あのトンネルでの出来事が引き金となって、異世界に転生させられたと言うふうに感じ取れるようになっています

ジェームズとの別れを決めていたハーパーですが、彼は捨てられるくらいなら自殺をすると考え、実行します

この時のジェームズの呪いがコットソンで蘇ったのですが、おそらくはライリーとの物理的距離が遠くなったから、と考えられます

 

ラストでようやくライリーが登場しますが、彼女は臨月間近の妊婦さんでした

また、ハーパーとジェームズの離別の原因が「子どもを持てなかったこと」のように描かれていて、それが死産なのか、生殖不能なのかまではわかりませんでした

想像するに、夫婦を繋ぐ絆としての「子どもの不在」と言うものが二人の人生観の乖離を生み、それによって別々の人生を歩ませています

でも、それがジェームズの執着を生んで、連鎖出産に見られるように「今度はハーパーの子どもとして生まれたい」と言う歪な願望を生み出しました

 

ハーパーは最終的に「生まれ出たジェームズを斧で殺すこと」によって解放されるのですが、本作は全編を通じて「男の未練の愚かさ」と言うものを描いているように見えました

また、ハーパーの前に現れるのが「少年」「司教」などのような、自分に危害を加えないと思われる存在だったものが牙を向くと言う流れを生み出します

「少年」の願いを拒絶して罵られ、「司教」に助けを求めて言い返される

これらの流れを汲めば、「ハーパーがジェームズにしてきたこと」を想起させ、それによってジェームズの執着が生まれているように思えます

 

それでも、ハーパーが最後にジェームズを見下す目を見てもわかるように、その執着は愛などではなく、単に気持ち悪いだけの存在に成り下がってしまいました

いわゆる、「生理的に無理」を地で行くようなジェームズの執着は斧によって断ち切られるのですね

この斧は「グリーンマン」との繋がりを考えると、「ガウェイン卿と緑の騎士」に登場する「緑の騎士がガウェインに与える戦斧」であると思えます

「緑の騎士」はその斧によって、ガウェインと首切りゲームを行うのですが、本作では「男の未練を断ち切るアイテム」として「妊婦のライリーから託される」と言うところがエッジが効きすぎて笑ってしまう感じになっていましたね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作を観た率直な感想として、どんな経験を持てば、ここまで男(同性)を気持ち悪く描けるのだろうか、と妙なことでした

タイトルが『MEN』なので、これまでに「複数の男性から生理的に無理な体験があった」と言う感じに思えて、この映画が劇中の斧のような過去を消し去るアイテムのように思えてしまいます

ちなみに、監督&脚本を担当されたアレックス・ガーランドさんは男性なので、本当に不思議ば感覚が走りました

 

映画はかなり不可解に思えるのですが、映画で挿入される「シーラ・ナ・ギグ」や「グリーンマン」について知っていると、そこまで難解な物語ではありません

問題は「それを知っている前提なので映画では説明がない」と言うところでしょう

でも、この映画で延々と説明されても興醒めなので、「え? どうなってんの?」と思いながら鑑賞して、その後に色々と調べて(パンフ購入でもOK)、自分なりの解釈を見つけることが面白みになっていると感じました

 

本作はかなりぶっ飛んだ映画なのですが、この内容で企画が通るところがある意味すごいなあと思います

おそらく日本だと規制がかかって作れないし、諸外国でも男女を逆にすると炎上案件で上映中止になりかねない内容だったと言えます

個人的には「感覚的に映画を観ていた」ので、「シーラ・ナ・ギグ」のことも、「グリーンマン」のことも知らずに観ていましたが、それらが後半への伏線になっているところはわかりました

特に「どんどん葉っぱが増えてくるグリーンマン」は、解放に向かう象徴なのかなと考えていて、最後に花が咲いたらどうしようとか余計なことを考えてしまいました

 

本作はホラー映画なのですが、ぶっちゃけ「誰にも薦められない映画」なので、鋭敏なセンサーをお持ちの方々が口コミで拾っていくタイプの映画なのかなと思いました

グロとは違う連鎖出産のシーンは、あまり男性が直視してこなかったもの(出産に立ち会ってる人ぐらいかも)なので、女性に幻想を抱いているイタい人は立ち直れないかもしれません

また、マザコン気質の人も多分ダメで、「M的要素の強い趣向の人」がハーパーの嫌悪感丸出しの表情を恍惚に変えてしまうのかもしれません

私は普通の人だと言う自認があるので特殊な性癖はありませんが、かなりのフェチ映画だと感じたので書き残しておきます

この映画が「ご褒美」と言う男性が必ずいると思うのですが、もしかしたら「ご褒美タイプの男性」が何かしらの着想をもたらしたのかなあなどと余計なことを考えてしまいました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384680/review/bd4f2ae3-1c85-487a-83d1-eba61dee0374/

 

公式HP:

https://happinet-phantom.com/men/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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