■余白を想像する楽しさを味わって、あれやこれやと盛り付けるのも一興かと思います
Contents
■オススメ度
余白のある映画が好きな人(★★★)
香川照之さんの真骨頂を観たい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.11.24(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2022年,日本,87分,G
ジャンル:記憶を失くした男の元に元同僚が訪れて、妹夫婦と再会するヒューマンドラマ
監督&脚本:関友太郎&平瀬謙太朗&佐藤雅彦
キャスト:
香川照之(宮松:記憶を失くしたエキストラ俳優)
津田寛治(健一郎:宮松の妹の夫、ホテルマン)
尾美としのり(谷:宮松を知る元タクシー運転手)
中越典子(藍:谷の妻、宮松の妹)
野波真帆(里帆:宮松の共演者、女優)
大鶴義丹(潮田:宮松の出演作品のディレクター)
諏訪太郎(初老の男、宮松の共演者)
尾上寛之(國本:ロープウェイの従業員)
黒田大輔(宮松の主治医)
■映画の舞台
日本の関東のどこかの地方都市
ロケ地:
東京都:世田谷区
一越観光株式会社 世田谷営業所(タクシー会社)
https://maps.app.goo.gl/Ki3csVFQAGtJtiW26?g_st=ic
茨城県:つくばみらい市
ワープステーション江戸(時代劇撮影)
https://maps.app.goo.gl/wmFBoGdq1Gtu9tjo6?g_st=ic
宝登山ロープウェイ山麓駅
https://maps.app.goo.gl/shBrVJYtrmQW5Lpw5?g_st=ic
■簡単なあらすじ
時代劇やヤクザ映画にエキストラとして出演している宮松は、何らかの理由によって一時的に記憶を失っていた
エキストラだけでは食べていけない宮松は、ロープウェイの従業員と掛け持ちしながら、日々を送っている
ある日、彼の元に谷という中年の男性が訪れる
聞けば、元同僚とのことで、姿を消した宮松を探していたのである
そして、谷は「妹さんにも連絡していいか?」と訊き、宮松は驚きを隠せぬまま、谷の手筈で妹夫婦に会うことになったのである
テーマ:人は何者を演じているか
裏テーマ:記憶の中に残している本質
■ひとこと感想
単館系の映画で宣伝もひっそりでしたが、よくよく見ると豪華なメンバーが集結していました
監督が3人という馴染みのないプロジェクトでしたが、あまり観ないタイプの映画だったように思います
物語はエキストラ俳優をしている男が記憶喪失ということなのですが、エキストラで死ぬシーンが連続していて、どこからが彼の日常なのかが不明瞭な感じに進んでいきました
彼が唯一役をもらったのが女優との絡みのある作品のようで、そのシーンはおそらくは回想になるのだと思います
映画はエキストラシーン、回想、現在軸を交互に織り交ざっていて、真剣に観ないと混乱すること必至だと思います
妹との関係性も「本当なの?」と思いながら見ていましたが、どうやら「妹であって妹ではない」というただならぬ感情が迸っていたように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
山下ってどこで出てくんのかなあと思ったら、最初から出てきてたというオチで、記憶を失くす前は「山下」だったということが出オチのようになっています
エキストラシーンの連続で、どこで日常になるんだろうと思いながら、何回も騙される流れは面白かったですね
映画は記憶を失くした男が別人としてエキストラをやっているのですが、そこに至った経緯は分かりません
宮松を名乗っているのも、どこからその名前を拾ったのかは不明ですが、おそらくは「記憶喪失ではない」というパターンもあるのかなと感じました
記憶を失くした人が病院に来ると、警察なども絡んで調べ尽くすので、二種免許を持っている山下ならば、身元が割れるのはそう難しくもないように思います
病院の費用をどうしたのかなどのツッコミどころはあるのですが、山下としての記憶があるのなら問題なさそうではありますね
また、妹の存在もどうやら「腹違い」っぽさというのがあって、妹以上の感情を有していたというふうに解釈もできるし、だからこそ「兄が戻らない理由」を妹は理解できたのだと思いました
■エキストラとは何か
エキストラとは、そのものズバリ、映画やドラマなどで群衆や通行人を演じる役者さんのことを言います
エキストラがいないと作品に重みがなくなりますので、必要なのですが、今回の宮松のように存在感を出しまくるエキストラというのはあまり見かけません
日本の場合だと、タレント事務所に登録しているエキストラを使う場合と、現地で調達するという場合があります
宮松は前者のタレント事務所に所属しているエキストラということになりますね
エキストラに登録するのは無名な役者や役者志願の人だけではなく、ちょい役として参加するのが趣味になっている素人さんもいるそうです
今では「○○フィルムコミッション」などのような感じでロケ地勧誘政策の一環として地元の自治体が募集をかけている場合もあります
映画のエンドロールの最後の方にずらっと名前が並んでいるのがいわゆるエキストラで、フィルムコミッション絡みだと明記されることが多いとされています
映画の宮松は純粋なエキストラというよりは「端役」のイメージが強く、メインキャストとエキストラの中間にいる「物語上で必要なキャラ」を演じているイメージがありました
映画内では「率先して斬られる役」で、他のエキストラと衣装が違っていましたね
このあたりは、かつて役名付きを演じた過去があって、事務所にも所属している兼ね合いがあるのかなと思いました
ちなみに映画の中で台所で女優さんと絡むシーンがあって、おそらくは役名付きのシーン(回想録)なのかなと思います
そこで共演した女優・里帆のオフの視線には感じるものがあり、またこの撮影の監督かディレクターの態度には含みがあったように感じました
邪推するなら、プレイベートでも関係があった女優さんで、監督らしき人はセクハラ問題が背景にある、みたいなイメージでしょうか
このあたりは想像にお任せしますという感じのつくりになっていましたね
■山下が選んだ道とは何か
事前情報ゼロで鑑賞したので、「山下、いつ出てくんのかなあ」とかのんびりしていました
さすがにある程度進んだ段階で「宮松=山下」というのが谷が出てくる前にはわかるように作られていましたね
そこで疑問に思ったのは、「山下はどうして宮松という名前を選んだのか」なのですね
何らかの理由で記憶がなくても、他人の名前を借りるパターンはあまりなくて、誰かに「君は宮松だよ」と言われたか、「記憶喪失が嘘で宮松を名乗っている」かのどちらかになります
谷の登場によって、宮松は山下であることがバレて、しかも妹の存在も発覚し、妹はすでに結婚していて、その夫との付き合いもあることがわかります
もし、山下が記憶喪失のふりをしているなら相当の演技者ですが、個人的な感覚だと演じているんだろうなあと思って見ていました
その理由は前述の「なぜ宮松を名乗るのか」というところもありますが、記憶が戻っていく段階に少しだけ違和感を感じたからと言えます
それを細かく説明するのは難しいのですが、相手から情報を引き出して、その情報をもとに次の段階へ向かうという所作が一貫していたように見えました
何かしらの情報が自分のものであるとわかった時、その情報に付随するいろんなものが想起される場合があります
でも、山下はその付随情報をも制御しているという風に思えるのですね
例えば、日本酒のくだりだと「日本酒の飲み方」、タバコのくだりだと「タバコを吸う場所」みたいなところがセットで登場するのですが、それが相手が違和感なく見えているというところに「自分が酒をどう飲むのか」とか、「タバコをどこでどのような感じで嗜むのか」というところを考えて再現しているように思えたのですね
このあたりの細かなところは、私個人の「演じているやろ」という思い込みが見せている部分もあるのでなんとも言えないのですが、そう思ってみると、うまいこと記憶喪失のふりをしつつ回復を演じているなあと感心してしまいました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画の後半で、山下と妹の関係は実の兄妹ではないと暴露されます
そして、健一郎の「女として見ていた」という発言がありました
それが原因で喧嘩になって、山下は怪我をするのですが、抵抗があるというのは何かしら思うところがあるのかなと感じました
実際にどうだったかは置いておいて、そのように見えるというのは「そのような感覚がない」と見えないものだと思います
実の兄妹でも近親相姦は普通にある出来事で、そういった感情を知られたことに対する抵抗かもしれませんが、どっちにしろ「社会的に見て、妹との関係性に性的要素が露見するとアウト」という風潮はあります
健一郎がどのようなシーンを見てそう思ったのかはわからないのですが、最終的に山下が妹の前から姿を消したのは、その要素が一番の原因だったのかなと思いました
想像の世界になりますが、妹の夫にそのような指摘をされることで山下自身はその場所にはいられなくなります
それで頭を打ったという事実を利用して、山下は宮松になりすまして、別の場所で生きようと考えたのではないでしょうか
その後、山下が無断欠勤をしていることを心配した谷が妹夫婦を訪れると、山下は行方不明だと聞かされる
この事件が何年前の出来事なのかわからないのが厄介ですが、タクシー会社の社員証からすると、さほど年月は経っていない印象があります
山下としても、完全に妹から離脱する距離まで逃げるということは考えていないと思うので、ある程度近場で潜伏していたのかなと思いました
山下の妹への感情を彼女も理解しているようで、山下が姿を消した理由もわかっているのでしょう
もしかしたら、妹も同じような感情を有していたのかもしれませんし、山下が距離を置くと決めたことが自分のためでもあると悟っているのかもしれません
映画はこれらの文字情報をほとんどセリフで伝えないという荒技をやってのけていて、俳優の演技をじっくりと観るという作品になっています
ひょっとしたら、音声を消しても同じように映画を理解できるのではないかと思えたりもするので、俳優の個人的な騒動は傍においてでも観る価値はあると思いました
ただし、エンタメ慣れしていると、余白ばかりなので退屈に感じてしまうかもしれないので一般向けではありません
ある程度、映画を見慣れていて、昨今の「セリフで全部説明」に嫌気が差している人向け、かなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384058/review/474586a0-57ae-46a9-9324-5109fca92202/
公式HP:
https://bitters.co.jp/miyamatsu_yamashita/