■水を感情に置き換えると、物語を理解しやすいかもしれません
Contents
■オススメ度
広瀬すずさんのファンの人(★★★)
ほっこり系のドラマで癒されたい人(★★★)
何かに怒っている人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.6.9(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、123分、G
ジャンル:シェアハウスを舞台に、26歳の孤独なOLと高校生の出会いを描いたヒューマンドラマ
監督:前田哲
脚本:大島里美
原作:田島列島『水は海に向かって流れる(2018年、講談社)』
キャスト:
広瀬すず(榊千紗:いつも不機嫌なシェアハウスに住む26歳のOL)
(少女期:南琴奈?)
大西利空(熊沢直達:叔父の家に居候することになった高校生)
高良健吾(歌川茂道/ニゲミチ先生:直達の叔父、脱サラした漫画家)
當間あみ(泉谷楓:颯の妹、直達の同級生)
戸塚純貴(泉谷颯:楓の兄、女装占い師、シェアハウスの住人)
勝村政信(榊謹悟:千紗の父、成瀬の友人)
坂井真紀(高島紗苗:千紗の母)
矢柴俊博(紗苗の現在の夫)
磯村アメリ(高島美由:紗苗の娘)
北村有起哉(熊沢達夫:直達の父)
山口香緒里(熊沢麻子:直達の母)
生瀬勝久(成瀬賢三:海外を放浪する大学教授、シェアハウスの住人)
コロ(ミスタムーンライト:シェアハウスで飼われることになった野良猫)
山下夕越(田中:直達のクラスメイト)
梶原裕太(鈴木:直達のクラスメイト)
吉村龍希(佐藤:直達のクラスメイト)
犬塚心(川島:直達のクラスメイト)
■映画の舞台
日本のどこかの閑静な街
ロケ地:
千葉県:夷隅郡
サヤン・テラスHOTEL&RESORT
https://maps.app.goo.gl/eFKgXPbbZSc6f1s59?g_st=ic
旅の宿 浜よし
https://maps.app.goo.gl/tGidFYHeta3oYjQv6?g_st=ic
千葉県:市原市
上総牛久駅(部妻川駅)
https://maps.app.goo.gl/Bzvdz6gg3kuxcRhW8?g_st=ic
千葉県:佐倉市
佐倉スタジオ(シェアハウス)
https://maps.app.goo.gl/wLBtocqAQ7vznSQ2A?g_st=ic
守谷海水浴場
https://maps.app.goo.gl/UMiyGhYqQdiDr17v5?g_st=ic
東京都:葛飾区
東京都立葛飾総合高等学校
https://maps.app.goo.gl/9rqhSgUj3b4DGF418?g_st=ic
■簡単なあらすじ
高校生の直達は、学校へ通うのが近いという理由で、叔父の茂道の家に居候することになった
だが、彼を駅に迎えにきたのは見知らぬ女性で、聞けば茂道の住んでいる家はシェアハウスになっていた
また、脱サラをして漫画家としてデビューしていて、ニゲミチというペンネームで活動をしていた
シェアハウスには見知らぬ女性こと榊千紗、女装占い師の泉谷颯がいて、颯は直達のクラスメイトの楓の兄だった
千紗は無愛想で笑わない女性で、OLとして働いている
彼氏はいないようだが、ミステリアスな雰囲気に直達はどハマりしていた
だが、彼女の母と直道の父がW不倫をしていることが発覚し、二人の間にぎこちない空気が流れ始める
さらに、そんな直達を楓は好きになってしまい、さらにドロドロな三角関係が生まれてしまうのだが、千紗はそんな青春とは無縁の人生を送っていたのである
ある日、直道を訪ねて父・達夫がシェアハウスに来てしまう
千紗は反射的に達夫にお盆を投げて怪我をさせてしまったが、達夫には殴られても当然の過去を持っていて、それが息子にバレてしまうのである
テーマ:呪縛と混濁
裏テーマ:開放に向かう無鉄砲
■ひとこと感想
ツンデレっぽい榊さんがデレになる展開を期待しつつ、前半の重っ苦しい流れを耐えることになりました
その甲斐あってか、徐々にデレっぽく(笑うだけですが)なっていくのは良かったですね
まさかのW不倫と重めの話とは知らず、てっきり「過去の恋愛が最悪だった系」かと思っていました
10歳年下の高校生の熱意に押されてという感じになっていましたが、平気に見える人ほど闇を抱えている、という感じになっています
シェアハウスで生活する中で、少しずつ距離が縮まっていくのですが、年頃の高校生がいる割にはエロ展開皆無になっていましたね
てっきり風呂を覗くとかで軽蔑されるとか、一泊旅行でヤバい展開になるとか期待してしまいましたが、全く何もなかったですね
潔いのか、NGなのか、そもそも原作がピュアなのかはわかりませんが、物足りなさは募ります
映画はプチ三角関係なのですが、ドロドロしたものではなく、さらっとしていて、まさしく「バッカじゃないの」という感じだったのかもしれませんね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、W不倫の被害者が結託して仕返しをするというものではなく、その余波で動けなくなっていた千紗を救う物語になっていました
青春っぽさ全開で、直達の感情が爆発するのですが、そこで年齢差が一気に縮まったように感じました
千紗は「母親のようになりたくない」という理由で恋愛を拒むのですが、そのテイストが逆に異性を惹きつける結果になっています
それをミステリアスというかは何とも言えませんが、直達の年上女性好きが良い感じに暴走していましたね
物語は、ちゃんとしない大人に対する宣戦布告になっていて、翻弄されることで成長するという感じになっています
それぞれが未来を歩いている中、直達との出会いによって、一人留まり続けていた意味というものは崩壊してしまうのですね
千紗にとっての直達は、暴走した若気の至りではありますが、彼女が思いもしないことをするタイプということで、意外な親和性があるのかもしれません
とは言え、高校生と何とかなってしまうということはなく、現実を見ていくことで状況が変わっていくのかなと思わせます
■タイトルが示すもの
作品のタイトルは「水は海に向かって流れる」と言うもので、映画内での意味の言及はありませんでした
最後の方で川の流れ、海辺でのシーンなどが印象的に使われていて、千紗の精神的な解放の先に「海がある」と言うイメージがあります
考えられる最もポピュラーな解釈は、「水は留まると澱む」と言うもので、千紗が10年前で止まっていることと連動しています
その澱みを無くすことになったのが、直達の若さゆえの暴走ということになっていました
水と言うのは透明なものですが、それは流れているからであると思います
同じ場所にずっとあり続けると、様々な要因で澱んでいき、そして透明ではなくなってしまいます
水は自らの浄化を流動させることによって行い、不要なものを然るべき場所に運ぶという役割を持っています
人間の体の中を流れる水も同じような役割を持っていて、どこかに留まることで不調をきたしていきますね
これらの流動性というものは、人間の精神でも起こることだと思います
精神における水は感情と言い換えるとイメージがつきやすいと思います
感情を内側に留めておくことで不調をきたし、その放出方法を誤ると周囲に惨事をもたらします
まるでダムが決壊するようなことが精神爆発では起こってしまうので、必要な量だけを効果的に放出する意味は大きいと思います
映画における千紗は、貯水量を超えても感情という名の水を溜め続けている状態で、彼女にとっての放流は「料理」というものになっていました
これがあるおかげで決壊せずに済んでいたのですが、この行動は悩める人のヒントになると思います
自分の中にある感情を留めておくと、それはストレスに繋がります
根本的な解決をするのが良いとわかっていても、それは中々難しいものでしょう
なので、そんな時は「自分の体の中に流れている感情」というものを「水に例えてみること」で、それをどのように放出していけば良いかをイメージできると思います
小出しに何回も行うのか、迷惑にならないように一気に放出するのかは人それぞれですが、自分の中にある「水質」を知っていく上で、効果的な放水方法が見つかるように思えます
ちなみに私の場合は「バイクの移動中にフルフェイスヘルメットにスピーカーを仕込んで、楽曲に合わせて大声で歌う」ですね
バイクの排気音以上の声は出ないので、周囲にバレずにストレスが発散できると思います
■過去の呪縛をどう解すか
人には様々な過去があり、囚われているものがあると思います
私自身にも多くのものがありますが、個人的には「うまく過去と付き合っている」と考えています
本作のように、幼少期に親が不倫ということもあったし、生活困窮も普通にあったし、交通事故で足を失いそうになったこともあったし、登校拒否もいじめ問題もなんでもありの人生でした
小学生が「二号さん」という言葉を覚える生活環境で、疎遠の父親が死体で発見という出来事もあったり、まあ語ることが多すぎる50年ではありますが、それらが全部ネタになっているのが人生の醍醐味だと思います
映画では、母親のようになりたくないから「母親がすることはしない」と決めた千紗がいました
それが恋愛で、千紗の母は恋愛衝動が抑えられずに、周囲を顧みないというところがありました
娘が突き放したとは言え、さっさと新しい関係を紡ぎ、子どもまで作って普通の生活をしています
彼女の娘が幼稚園児ぐらいなので、千紗と疎遠になってから数年であっさりと次の人生を歩むことになっていました
言い換えれば、千紗が悩んでいる時間の半分以上は新生活を満喫していたことになります
このように、他人の人生というものはコントロールできず、自分と同じ問題が起こっても処理能力は違うし捉え方も違うものです
私自身が過去に囚われないのは「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」というポリシーが根強くあって、それを強く思ったのは「人生を壊した父に対する母親の感情」だったのですね
この奇妙な夫婦感というものがパラダイムシフトになって、同じ出来事が起きて、自分より傷ついている人でも、処理の仕方によっては精神が和らぐんだなと理解するに至りました
同じ問題は弟と妹にも起こっていますが、それぞれに反応も違うし、過去との距離感も違うし、それによってその後の人生も違っていたりします
過去と言うのは、現在の自分を作った感謝すべき存在で、どんなに酷いことだろうと、良いことだろうと、その出来事があったから今の自分がいるのですね
両親が不倫の果てに(Wではなかったけど)離婚したから今の生活があるわけだし、生活が困窮だったから知恵が生まれたし、5体満足を体感できたから当たり前に感謝できるし、といった具合に、過去は捉え方次第でどんな悲劇も方向性を変えることができます
また、過去で起きたことは未来でも起こるもので、何かに躓いて立ち止まった経験は、形を変えて再度目の前に現れるものだったりします
おそらく千紗にも同じようなことが起こっていて、何度も何度も「千紗のことを好きになる人」が現れ、その都度「過去を持ち出して」相手を拒絶してきたのだと思います
直達が特別なのは、千紗の感情が理解できるからで、それによって「私の気持ちはわからないでしょ」という千紗特有の突き放し方が彼にはできないのですね
直達の苦しみもわかるし、彼の過去への向かい方を知ることによって、自分の中にあったものというものが言語化されていきました
直達は千紗が怒ることを否定もしないし、むしろ発露すべきだと考えていて、千紗の発露は直達自身の感情のコントロールの先生にもなっていきます
そうした奇妙な一致によって、二人の間には通常の恋愛とは違ったものが生まれつつあったのだと考えられます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のラストは、直達の告白に対して「バッカじゃないの」と答える千紗が描かれていました
告白の答えとしては「NO」ということになるのですが、明確な「NO」でもなかったりします
その後どうなったかは原作を読めばわかると思いますが、映画の流れのままだと、諦めない直達によって攻略される未来があるのかなと思ってしまいます
10歳離れている男女で、相手が高校生なので「OK」路線は描けませんが、直達が成人しても同じ想いを持ち続けたらわからないと思えるのですね
それは、秘密の共有と「嫌いなものが同じだから」という価値観の重なりがあるからだと言えます
まれに恋愛相談を受けたりするのですが、夫婦が長く続く秘訣として「嫌いなものが同じ方が良い」とアドバイスをすることがあります(早いうちに共有しとこうね、という感じかな)
関係性を進める近道は「共通点」なのですが、通常の場合だと「同じ趣味」などで関係性を深めていくことになります
でも、「好きなこと」は結構細分化されていくので、突き詰めると「違う」ということがあるのですね
これに対して、「負の感情を動かすもの」というのは同じものに近づいていきます
本作における千紗と直達は「子どものことを考えない大人は嫌いだ」という共通点があり、その原因と行動も共有されるものです
この感情はそう簡単には変わらないし、彼らがもし結婚して子どもが生まれた時に「子どもにはしないこと」が一致するのですね
好きなことはそれぞれの時間を尊重することで満たすことができるので、経験則からどうとでもなると思います
私の場合も、妻の趣味は骨董で、私の趣味は競馬(当時は)と全然違う分野だったりします
それでも、同棲生活を含めた20年間で一度しか喧嘩をしたことがなかったので、少しぐらいは参考になるのかなと思います
ちなみに二人の共通する嫌いなことは「自分の時間を確保し、過干渉にならないこと」だったので、同じ空間にいて違うことをしていても苦痛ではないという関係性がそれを可能にしたのだと分析しています
合ってるかを確かめる術はないのですけど、そう解釈することがひとつの答えなのかなと考えています
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385758/review/dd376a1d-7868-4576-b124-21b6b992d73f/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/mizuumi-movie/