■音楽の力が何を変えたのか、について、もっと深く追求することで、もう一つ上のステージに行けたような気がしました


■オススメ度

 

オペラを取り扱った映画が好きな人(★★★)

ベタなドラマが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.6.13(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Ténor、英題:Tenor

情報:2022年、フランス、101分、G

ジャンル底辺のラッパーが音楽学校の教師に魅入られてオペラを始めるヒューマンドラマ

 

監督:クロード・ジディ・Jr

脚本:ラファエル・ベノリエル&シリル・ドルー&クロード・ジディ・Jr

 

キャスト:

ミシェル・ラロック/Michèle Laroque(マリー・ロワゾー: ガルニエ宮で教える歌の講師)

Mohammed Belkhir/MB14(アントワーヌ・ゼカルウィ: パリ郊外に住むラッパー)

 

ギョーム・デュエム/Guillaume Duhesme(ディディエ:アントワーヌの兄、闇ボクサー)

Helene Zidi(アントワーヌの母)

 

マエバ・エル・アロウシ/Maéva El Aroussi(サミア:アントワーヌの幼馴染、軍隊加入)

サミール・デカザ/Samir Decazza(エリオ:アントワーヌのラップの相棒、職場の同僚)

Simon Larvaron(アーノルド:アントワーヌの上司、スシデリバリーの店長)

 

マリー・オペール/Marie Oppert(ジョセフィーヌ:マリーの生徒、ソプラノ)

ルイス・ド・ラビニエール/Louis de Lavignère(マキシム:マリーの生徒、ライバル視する新人)

ステファン・デバク/Stéphane Debac(ピエール:マリーの親友、音楽学校の責任者)

ロベルト・アラーニャ/Roberto Alagna(本人役、アントワーヌを導くオペラ歌手、マリーの友人)

Nathalie Steinberg(ナタリー:音楽教室のピアニスト)

Manon Lamaison(キャンディス:音楽学校の生徒)

 

Doudou Masta(ジャメル:ラップバトルのホスト)

Oscar Copp(アブデル:ディディエの友人)

Rachild Guellaz(ムース:ディディエの友人)

Fehdi Bendjima(サミール:アントワーヌの友人)

Horya Benabet(ハフィダ:サミールのいとこ)

 

Bruno Gouery(モロー:会計の教師)

Franck Giraud(オペラ座の警備員)

 

Cédric Chevalme(警官)

Florian Cadiou(警官)

Cyrille Droux(逮捕する警官)

Mickaël Sabah(警部)

 

Guy Amram(マトン:ディディエの対戦相手)

Karim JebliNECRO:ラップバトルの対戦相手)

Noureddine Salhi(ラップバトルの対戦相手のビートメイカー)

Soolking(エムカル:ラップバトルの対戦相手)

Ryad Montel(リヤド:エルオが連れてくる音楽マネージャー)

 

Moanna Ferré(ダイアナ:ジョセフィーヌの母)

Jacques Fontanel(ジョセフィーヌの父)

Alyssia Derly(クレア:ジョセフィーヌの友人)

Cherine Ghemri(ジュリア:ジョセフィーヌの友人)

Valeria Nicov(クラリス:ジョセフィーヌの友人)

 

Arthur Aspaturian(サミアの入隊先の隊長)

Youssef Sahraoui(サミアの入隊先の兵士)

Maxime Mallet(サミアの入隊先のコーチ)

 


■映画の舞台

 

フランス:パリ

オペラ座、ガルニエ宮

https://goo.gl/maps/a7ZPiVVRfBciDtZt7

 

ロケ地:

フランス:パリ

オペラ座、ガルニエ宮

 


■簡単なあらすじ

 

フランス・パリの寿司のデリバリーで働いているアントワーヌは、地元のワルたちの縄張り争いのためにラップスキルを磨いていた

彼の兄ディディエは地下格闘技で日銭を稼ぎ、アントワーヌが会計士になれるように授業料を工面している

 

ある日、オペラ座のガルニエ宮に配達に出かけたアントワーヌは、音学教師マリーの教え子たちの練習場所に足を踏み入れる

注文の品を渡した後も、生徒ジョセフィーヌの歌声に聴き惚れていたアントワーヌ

だが、生徒の一人マキシムから「寿司野郎は帰れ」と言われてしまう

 

そこでアントワーヌは即興でオペラの発声を披露する

その声を聞いたマリーは、彼の職場に出向き、再度自分の部屋に配達をさせる

マリーは「少しだけ時間を」と言い、彼にオペラの発声練習をさせる

アントワーヌはオペラに興味を持ち始めるものの、下町出身の彼はそれを誰にも言い出せずにいたのである

 

テーマ:才能と発掘

裏テーマ:自分の居場所の探し方

 


■ひとこと感想

 

ラッパーがオペラを習うというパワーワードに興味を惹かれて参戦

人気ラッパーMB14が本当にオペラを歌っているという内容で、ある種の説得力がありました

さすがに劇中で登場する本物と比べるのは酷なものではありますが、習いたての才能ある若者という点では及第点だったと思います

 

物語は、訳あり音学教師が偶然の邂逅に胸を躍らせるというもので、いわゆるジャンルシフト系音楽映画のテンプレのような作品になっています

ライバルが登場したり、高嶺の花と恋仲になったり、幼馴染の嫉妬を買ったりと、これまた予定調和になっていましたね

 

それでも、安心できるストーリテリングと「見たいものを見せるスタイル」が一貫していて、劇中の楽曲も中途半端に歌われたりもしません

兄弟の和解が物語の骨子になっていますが、そこに向かう流れはベタだとしても、感動を呼ぶ仕上がりになっていましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

いきなり地下格闘技のシーンから始まって、入るシアターを間違えたかなと思ってしまいましたが、その後に続くラップからビートボックスへの流れが秀逸で、一気に世界観に引き込まれましたね

兄貴の不器用だけど頼りになるところとか、留置所で日本にいる設定でママをごまかすシーンなどは最高でしたね

 

物語は王道すぎる展開で、子どもでも展開が読める内容になっていましたが、複雑にするよりは却って良かったように思います

サプライズを組み込むよりは、予定調和にリアリティを持たせる方が先決で、例えば兄貴たちが会場に乱入するシーンで一悶着あるとかでしょうか

ラストでも外野が拍手をするのはいいのですが、審査員まで一緒になって拍手喝采なのは作り込みすぎな感じがしましたね

 

オペラ好きの人がハマるのかは分かりませんが、オペラ初心者の入り口としては良いと思います

オペラの歌詞をラップっぽく歌うなどの演出はうまくハマっていましたし、ヒューマンビートの部分も面白い使い方でしたね

2PACで踊るマリーでしたが、彼女のソウル行きの目的と、病気設定の説明がなかったので、そこはふわっとしていましたね

ソウル行きと引き換えという条件だったので、病気設定を無くして「ソウルに向かう飛行機内」とかでライブ配信を眺めるでも良かったように思えました

 


ラップとオペラの親和性

 

オペラ(Opera)は、劇的な物語を歌手が歌うもので、演技、衣装、音楽、風景、ダンスなどが融合した舞台芸術です

歌われるものは所謂「セリフ」なので話言葉になります

舞台にいる別の演者に語り掛けるものや、自分の心情などを舞台に届けるかのように歌われることがあります

また、物語の設定のようなものを語る場合もあったりします

 

歌手の聖域によって、男性ならバス、バスバリトン、バリトン、バリテナー、テナー(テノール)、カウンターテナーに分類され、女性なら、コントラルト、メゾソプラノ、ソプラノに分類、このほかにカストラートというものもあります

主人公のアントワーヌの声域は「テノール」で、ジョセフィーヌは「ソプラノ」にあたりますね

映画で使用されたのは『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」、『リゴレット』の「女心の歌」、『椿姫』の「乾杯の歌」、『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」でした

「乾杯の歌」はソプラノとテノールのデュオで歌われるもので、「ある晴れた日に」はソプラノのソロ、「女心の歌」はテノールのソロ(劇中ではテノール二人による掛け合いで演出)、「誰も寝てはならぬ」はテノールの音域になります

 

オペラは作劇の中にあるセリフが歌になっていることが多く、いわゆる口語体である言えます

独白にしろ会話にしろ、感情が乗っている言葉が使われるので、これがラップに似ていると感じます

ラップも感情をぶつける言葉を多用し、韻を踏んでリズムを刻みます

劇中でもオペラの歌詞をラップっぽく歌っている部分があり、どちらも異なるタイプではありますが独特のリズムを持っていましたね

ラップは相手を打ち負かす言葉を多用しますが、打ち負かすためには感情に作用しないとダメなのですね

言葉に気持ちを込めることは歌の真髄でもあるので、その気持ちの乗せ方が繋がっているように思えます

 


発声練習アラカルト

 

オペラの歌唱法と言えば「ベルカント唱法」ですが、この歌唱法は「マイクを使わないでホール全体に声を響かせる」ために適した発声方法になります

カラオケなどの「マイクを通じて歌う場合」とは発声方法が異なるので、ベルカント唱法をマスターしてもカラオケが上手くなるとは限りません

ですが、発声というのは「体をどう使うのか」というカラクリを知ることが必要なので、マスターすることが無意味だとは思いません

私自身も完璧にベルカント唱法ができる訳ではありませんが、歌唱の構造を学ぶために勉強したことがあります

 

「ベルカント(Belcanto)」はイタリア語で「美しい歌」という意味を持ち、イタリアの伝統的な歌唱法とされています

低音から高音まで無理なく美しい声で歌え、アジリタ(=声を転がすように歌う技法のこと)に装飾歌唱を可能にするオペラや声楽における歌唱表現を支えるもの、と定義されています

イメージとしては、ファルセットとチェストボイスの声域境界を融合させる感じでしょうか

また、カント・フィオリート(Canto Fiorito)と呼ばれる装飾歌唱に重点が置かれていて、アジリタによって「細かい音符の連なりスムーズに転がす」などによって、歌手が技巧を競い合うということもありました

 

発声練習をする上で重要なのは、体の中にある空気がどのような場所を通って声になり、それがどこを伝って響いていくかを意識することだと思います

声帯を閉鎖した状態で、そこに効率的な空気を流す方法、どの角度で口腔内に当てるかなどを感じ取ることでしょう

腹式呼吸によって安定した空気を声帯に通し、その通す量をコントロールし、当てる場所を意識して、それをどのように響かせるかを考える

声帯の振動数とそこから出た音が当たる場所、そして声帯を通す時の空気の量と強さのコントロール

このあたりを意識していくと、声の高低をうまくコントロールできるようになります

口笛を吹ける人ならイメージできると思いますが、音階を変えるときに唇に空気をどのように通しているかを意識するとわかりやすいかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、わかりやすい音楽融合映画になっていて、最後どうなるかも途中で想像がつく内容でした

サプライズがあるとしたらマリーが死ぬとかですが、そんなことはありませんでしたね

彼女のソウル行きの設定と病気に関する設定は余計だったように思えます

マリーの教室との関係性もわかりにくくて、ピエールの役柄もよくわかりません

何かの音楽学校なのか、それとも私塾のようなものなのかもわからないので、アントワーヌがどれだけ優遇されたのかがピンと来ませんでした

 

底辺が通えない教室というのは理解できるのですが、アントワーヌを奨学生扱いにするのは結構無茶だと思うのですね

月謝なしで特別授業を受けさせるにしても、周りの生徒たちからすれば、彼が優遇されている理由はわかりません

生徒たちは基本的に富裕層の子息であると思われるので、「寿司のデリバリー」に来た男が教室に加わることで、ある程度の抵抗は生じると思います

それらを飛び越えて、アントワーヌが優遇される程の才覚を持っている、というのは、あのワンフレーズのオペラもどきでは説明できないと思います

 

本作のシナリオの欠陥は「底辺を富裕層グループに優遇させて入れる理由と説得力」と、「マリーの今後に関する身辺関連」だと思います

マリーがソウルにいくのは治療目的ではなく、資金的な問題にように見えます

ピエールは「行くしかない」と言いますが、それは「スポンサーの意向」などのような、資金援助を受けるための行動のように思えました

治療に関しては、自然を望むという発言があったので、無理な治療はしないという方針なのでしょう

それでも、これらの設定が必要だったか、というのはあまり感じられなかったのが正直な感想でした

 

音楽映画として特化するのであれば、ヒューマンドラマはアントワーヌの身辺だけでOKなのですね

なので、マリーが富裕層出身で自分勝手な判断でアントワーヌを引き込んで、それを証明していく段階を描いていくことになります

アントワーヌよりもマリーが能動的という流れを汲んで、それを周囲に理解させた頃に、アントワーヌ自身がオペラの良さを体感するという流れが理想でしょう

そうした先に「能動的になったアントワーヌへの障壁」というのが、ディディエとサミアの存在であったと思います

 

ディディエは「自分の知らない世界」という怖さをマリーに壊されるというポジションになるし、サミアは「可能性の世界」を体現するものでしょう

ディディエの日常はアントワーヌのためにありますが、それが既知の世界での最善にしか過ぎないということなのですね

これをアントワーヌの覚悟と「理屈を超えた音楽の力」によって変えるというのが命題となります

 

サミアに関しては恋愛関連で登場しましたが、それよりは「無理だと思っていることを打破する」という関連性を重視して、軍隊を甘く見ていたサミアの障壁がアントワーヌの歌によって打破されるという流れの方が良かったと思います

サミアは何らかのエピソードでアントワーヌがオペラをやっていることを知り(仲間が盗み撮りでOK)、それを軍隊の仲間に馬鹿にされる

そんな中で、これまでのアントワーヌとは違う彼を見て、その原動力と可能性を感じる

それによって、幼馴染を馬鹿にされたことが原動力となって、殻を破るなどのエピソードになると思います

 

街角で美女と一緒にいたから嫉妬、というあまりにも下世話なエピソードで二人の関係を使われるのはナンセンスだと思うので、ぶっちゃけ恋愛エピソードは不要だったと思います

あえて入れるならラストシーンで、アントワーヌの歌を聴いたサミアが彼を見る目を変えるというという感じで、それまでに打ち消していた自分の感情に素直になる、というぐらいで良かったのではないかと感じました

ともあれ、涙腺崩壊するスタンダードナシナリオになっているので、MB14さん自身が猛特訓したラップ、本物の歌唱(ロベルト・アラーニャさん)を体感するために、劇場に足を運ぶのは悪くないと思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/389027/review/393ff9b2-301f-42fe-b06e-b5f18d9ae1fe/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/TENOR/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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