■指点字で伝える際に、あなたならどちら側から行いますか?
Contents
■オススメ度
福島智さんの物語に興味がある人(★★★)
指点字の発明について興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.11.8(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2022年、日本、113分、G
ジャンル:後天性の視覚障害と聴覚障害を持ちながら世界初の大学教授になった福島智さんの半生を描いたヒューマンドラマ
監督:松本准平
脚本:横幕智裕
原作:福島令子「さとしわかるか(2009年、朝日新聞出版社)」
キャスト:
小雪(福島令子:智の母)
田中偉登(福島智:正美と令子の息子、視覚障害者、のちに東京大学先端技術研究センターの教授になる男性)
(幼少期:森優理斗)
(幼児期:遠藤千空)
辻岡甚佐(福島和弘:智の兄、長男)
(幼少期:長崎琉季)
和宥(福島久志:智の兄、次男)
(幼少期:前川伊織)
吉沢悠(福島正美:智の父、教師)
吉田美佳子(増田真奈美:智の想い人、ピアニストを夢見る盲学校の同級生)
山崎竜太郎(山本正人:盲学校の寮生活を共にする友人)
札内幸太(矢野正孝:入院中に智に点字を教えてくれる青年)
山口太幹(山内秀樹:入院中に同室になる少年)
リリー・フランキー(長尾光則:智を最初に診る兵庫県立病院の医師)
朝倉あき(飯田瑞穂:智の目の病気を指摘する長尾の後輩の医師)
上山学(児玉徹:智の主治医の青年医師)
井上肇(奥田勝利:東洋医学の民間療法を行なってる医師)
秋沢淳子(時報の声、アナウンサー)
■映画の舞台
兵庫県:神戸市
東京:
筑波大学附属視覚特別支援学校
ロケ地:
東京都:文京区
筑波大学附属視覚特別支援学校
https://maps.app.goo.gl/JhY9YxCX6BiLFXDz7?g_st=ic
東京都:台東区
佐竹商店街
https://maps.app.goo.gl/KEYPAoUSaps9nsje7?g_st=ic
東京都:渋谷区
渋谷氷川神社
https://maps.app.goo.gl/LjmwK9NxApAdMwsA8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
3歳になった智は眼球が膨張する病気に見舞われ、母・令子とともに近医を受診する
ものもらいだと思っていたが、紹介状を渡されて兵庫県立病院を受診することになった
当初は軽い診断だったものの、症状は悪化し、とうとう「牛眼」であると診断される
経過観察の措置が取られるものの一向に良くならず、処方されたリンデロンも効果がなくなってしまう
そして、3歳で右目、9歳で左目の光を失ってしまう
智は高校に入って東京の盲学校に進学することになり、そこで同じ視覚障害を持つ山本と出会い、ピアニストを目指している増田に恋をした
増田の奏でるピアノが唯一の彼の癒しだったが、徐々に聴力も弱くなり、18歳の時に突発性難聴で失聴してしまう
自分自身に訪れる不運に苛まれながら絶望に伏す智だったが、母・令子は懸命に彼を支え、そしてある日コミュニケーションの手段として「指点字」を思いつくのであった
テーマ:心の対話
裏テーマ:受難との向き合い方
■ひとこと感想
福島智さんのことは名前ぐらいしか知らなかったのですが、この映画を観て改めてその凄さというものが思い知らされます
視覚と聴覚を失った世界というものは想像できず、生活への影響も何となくでしかわかりません
そんな生活の中で、希望を手繰りながら、それが奪われていく様はとても辛く、彼を支えてきた家族の辛さというものが身に沁みてきます
映画では智さんの半生を描いていますが、原作者が母親の令子さんでもあり、彼女の苦悩の物語だったとも言えます
彼らと接する人に悪人はほとんど出てきませんが、実際にはもっと過酷なエピソードがあったのではないかなと思います
指点字を発明した令子さんもすごいですが、心が弱った彼女に対して現実を見せる父・正美さんの強さというものが彼女を支え、間接的に智さんを支えてきたのかなと感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
点字に関しては、母親が介護士だったこともあり、一瞬だけ学んだ経験があります
でも、モノになっていなくて、知識として何となく知っているというレベルでした
予告編にも登場する指点字に関しては無知で、こんな素晴らしいコミュニケーションがあるのだと感心してしまいます
人のコミュニケーションのほとんどは遠隔(近距離でもふれない)なのですが、指点字は直接ふれあって言葉を伝えるのですね
その指先の強弱で言葉が増幅されて、それが相手の脳内で想像力に変わっていく様というのは、傍から見ている以上にいろんなものが伝わっていくのではないかと思います
映画は静かなトーンで描かれていて、優しさに溢れていると感じます
後天的な病は他人事ではなく、自分がいつ同じ状況になってしまうかは分かりません
そんな中で強く生きた智さんたちが何を頼りに生きてきたのかというものが伝わる内容だったと思います
■福島智さんについてのあれこれ
福島智さんは日本のバイアフリー研究者で、2008年から東京大学の教授として活躍されています
映画にもあるように、3歳の時に右目、9歳の時に左目の視力を失い、18歳の時に失聴されています
目の病気に関しては、生後5ヶ月で眼病を患っていたとのこと
失聴したのが18歳の時なので、音の記憶があって、淀みなく普通に話すことができ、関西弁を話されるそうですね
盲ろう者という、稀有な事例のため、映画の脚本作成には積極的に参加され、その共同作業によってリアリティと深みのある内容になっていました
盲ろう者として日本で初めて大学に入られた方で、東京都立大学人文学部を卒業、その後金沢大学教育学部准教授の職を経て、現在の東京大学先端科学技術研究センターの准教授として活躍されています
ちなみに盲ろう者として常勤の大学教員になったのは「世界初」とのことで、社会福祉法人全国盲ろう者協会の理事、世界盲ろう者連盟のアジア地域代表などもされています
正確な統計は存在しないようですが、日本では23000人くらいの盲ろう者がいると推計されています(地域サンプルを取っての推計のため)
福島智さんが所属する全国盲ろう者協会が把握できている人数はおよそ900人だそうですね
そのうちの70%は70歳以上の高齢者となっています
盲・聾・擁護学校に在籍している人数も1998年の段階で338人が特定されています
コミュニケーションの多くは「点字」「指点字」「ブリスタ(ドイツ製の速記用タイプライター)」「手話」「指文字」「てのひら書き」「筆談」「パソコン要約筆記」「音声」など、その障がいの内容に応じて使い分けられています
映画館などでも「バイアフリー上映」というものがあって、一部の映画の前に告知されています
「Hello Movie」「UD Cast」と呼ばれるアプリケーションを立ち上げたり、個人で購入できる字幕メガネというものもあります
またバイアフリー上映をしている作品を調べるサイトなどもあったりします
本作でもバイアフリー上映がなされていて、「バイアフリー字幕版予告編」「バイアフリー音声ガイド版予告」などがありますね
■指点字について
指点字とは、盲ろう者の指を点字タイプライターの6つのキーに見立てて、左右の人差し指から薬指までの6つの指を直接打つコミュニケーションのことを言います
点字は6つの点から成り、縦向きで「2列、3行の6つの点」から構成されています
「あ」だと「左上」で、指点字だと「本人の右手人差し指」を1回さわるという感じですね
「い」だと「左上と左上2番目の2つ」で、指点字だと「本人の右手の人差し指と中指を同時にさわる」という感じになります
点字をタイプで打つときの本人側の視点で打つことになるので、指点字をする側は逆向きに変換しないといけなくなります
普通の点字タイプを覚えるのも大変ですが、それを逆変換するという作業はなかなかハードルが高いかなと思います
ちなみに「濁点」などは「さ+濁点」になるので、「さ=右列2番目」の後に「左列1番目と右列2、3番目」を順に押すという感じになるそうです
アメリカ式になると、アルファベットになるのですが、子音+母音の組み合わせになるので、ひらがな指点字よりは覚えることが少ないとされています
指の形によって示すので、拳を握った形は「0(お)」で、ピースの形は「K(か行)」になるので、ピースの後に拳を握るという動作を「盲ろう者に自分の手をさわらせて伝える」というふうになりますね
点字に関しては様々な公共機関にありますので、それがある場所を知っているだけで、盲ろう者を誘導してあげることができるでしょう
直接のコミュニケーションはハードルが高そうですが、初めから完璧なものを求めるよりは、積極的に手を貸すというところから始めれば良いと思います
映画でも言及されたように、指点字を開発したのは智さんの母・令子さんでした
1981年の出来事で、このコミュニケーションの発達によって、これまでの常識が覆ったとされています
映画では母親が向かい合ったために逆指文字打ちになっていましたが、同じ向きに並んで横から正指文字打ちをすることが一般的となっています
通訳介助の方がそれを駆使し、言葉以外にも相手の姿なども瞬時に伝えていて、本人の想像力で増幅させていくというイメージになるのかなと思いました
福島智さんの研究室のホームページにも指点字を使用している様子などの写真が掲載されているので、一度ご覧になっていただいた方がわかりやすいかもしれません
↓福島智研究室「福島智の研究環境」URL
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画の主人公は母親の令子さんで、原作も彼女が執筆したノンフィクションが元になっています
母親が主人公ということで智さん自身も「断るわけにはいかない」と思ったそうですが、出来上がったシナリオには難題も多かったと言われています
作り手が原作者も含めてほとんどが健常者のため、本人の視点を盛り込むのはなかなか難しいと思います
母親目線のノンフィクションでさえ、本人の視点にはなり得ないので仕方ないことかもしれません
でも、映画脚本に智さんが関わることで、自分の主張よりも「よりリアルな視点」というものが加味されることになりました
映画レビューの多くは「想像できない世界」というものが多く、私自身も「どんな気持ちになるのか」は想像できません
むしろ、「わかる」という方が嘘になってしまうでしょう
でも、それは彼が盲ろう者だからではなく、人は他人の視点には完全に立てないからだと思います
その解消に関して、人は多くのコミュニケーションを重ねますが、そのコミュニケーションの質を高めるのは信頼関係に依るところが大きいと思います
なので、盲ろう者の立場に立ってというような嘘っぽいことよりも、わからないということを前提にして、間違っていたら指摘してもらうというスタンスで、こちら側の心情を正確に伝える方が大切だと言えます
わかるというのは「わかった気になっている」程度のもので、それは自分のこれまでの経験則から想像する別物であると認識することなんだと思います
映画では「いかにしてコミュニケーションを取るか」という視点もありますが、それ以上に「親子の信頼関係をどう構築するか」というところもしっかりと描かれていました
困り果てた智さんが相談する相手は「同じ環境にいる人々」となっていて、同じ環境にいる人ほど感じていることの共通点が多いから、とも言えます
実際には同じような境遇だからというよりは、補助を受けてきたかどうかという立場であると思うので、その立場になったことがある人ならば、その視点に立ちやすいとも言えます
誰もが何らかの補助を受けて生きてきた経験があると思うので、全く相手の立場に立てないということは稀でしょう
その経験の中でどのような補助が助かったかということを考えれば、相手にどうしてあげるのが良いのかという最適解に近づけるのかなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384555/review/65cac2f2-2e24-4140-878e-5b99dbb78a1b/
公式HP: