■「K」が括弧付きになっていることで、彼らの使命というものが明確になっていますね
Contents
■オススメ度
不幸になりたがる人の心理に興味がある人(★★★)
キャストのファンの人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.7(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、91分、G
ジャンル:デートセラピーを通じて変化する女性を描くヒューマンドラマ
監督&脚本:中川龍太郎
キャスト:
川村壱馬(刹那:婚約者を演じさせられるデートセラピスト)
穂志もえか(稲本灯:高校教師、25歳)
坂井真紀(佳律子:灯の母)
RIKU(イチヤ:SNS用食材の処理を任されるデートセラピスト)
夏子(miyopo:フォロワー7万人のインスタグラマー、24歳)
吉野北人(刻:夫の気分擬似体験を頼まれるデートセラピスト)
安達祐実(宮地沙都子:夫の浮気に気付いている主婦、42歳)
村上淳(弘毅:「MY KNIGHT」のオーナー)
織田梨沙(茉麻:刻の恋人)
山本ロザ(ソフィア:刻の隣人)
エンリケ・ラジャビ(ソフィアの息子)
ボブ鈴木(ソフィアのストーカー)
日高七海(看護師)
中山求一郎(善友トモアキ:イチヤの旧友、写真家)
松本妃代(亜美:イチヤの旧友)
戸田昌宏(丸山教授:イチヤの恩師)
本間葵(miyopoのファン)
白浜そら(miyopoのファン)
中村莉久(miyopoのファン)
熊野善啓(レストランのウェイター)
神山慎太郎(紳士服屋の店員)
石森秀亮(?)
くらまなみ(レストランのピアニスト)
武藤晃子(イチヤの電話の相手、声の出演)
■映画の舞台
神奈川県:横浜市
ロケ地:
神奈川県:横浜市
SUITAKU
https://maps.app.goo.gl/rFoKGe9RUW8RfRmCA
帆船日本丸
https://maps.app.goo.gl/Y6xrkBZWobjtUj536
横浜みなと博物館
https://maps.app.goo.gl/4hLChdUpNsLnRFKW8
伊勢佐木町商店街
https://maps.app.goo.gl/KnrJ8Q7TqXKkdHg87
美心酒家
https://maps.app.goo.gl/SQ47o4eaXR7GyBxk9
隆昌園
https://maps.app.goo.gl/ympSAdYLF5Ak5J4R8
東珍味
https://maps.app.goo.gl/7Q42WX5m3cadqJpDA
神奈川県:川崎市
東扇島東公園
https://maps.app.goo.gl/LNnUgbhV4v47yPPM7
東京都:品川区
十三屋
https://maps.app.goo.gl/GxrdyYdYWjHHysMn9
京都市:中京区
蘭桂坊
https://maps.app.goo.gl/zQTW6rhUGSykqKa69
京都市:上京区
蘭州牛肉拉麺
https://maps.app.goo.gl/7PFcqnwgwymcQ7i28
■簡単なあらすじ
デートセラピストの刹那、イチヤ、刻は、オーナー弘毅の下、「世界を救う」を名目として、依頼人の女性の望みを叶える仕事をしていた
彼らは、依頼人の要望に応じて、王子様になったり、使いっ走りをしたり、婚約者を演じたりしている
その目的は全て、依頼人の心を満たすためのものだった
刹那の今夜の相手は高校教師の灯で、彼女は病気で先の無い母親に喜んでもらおうと「同僚の婚約者」を演じることになった
だが、母は全てを看過していて、灯の知らない一面が刹那との時間で浮き彫りになってくる
イチヤの今夜の相手はSNSにアップするのが趣味のmiyopoで、写真を撮るための料理を代わりに食べることだった
だが、彼女が流行りの写真家の個展に行きたいと言い出して風向きが変わる
そこは、かつて一緒に写真家を目指していた旧友の個展だったからである
刻の今夜の相手は主婦の沙都子で、彼女は夫の浮気に気づいて、同じことをしてみたいと考えていた
だが、罪悪感が先走って気分が乗らず、そこで刻は「やりたいことをしよう」と提案する
沙都子は刻になってみたいと言い、彼が普段していることを一緒にすることになったのである
テーマ:孤独の正体
裏テーマ:笑顔と視線
■ひとこと感想
アイドル系映画で、オムニバス形式と言う感じの宣伝で、イケメンに癒されたいファン向けの映画かなと思っていました
検索するときに面倒で、改悪Yahoo!検索でも一苦労する内容になっています
映画は、3つのデートセラピーが描かれ、それぞれが目的が違うものの、根底にあるものは同じと言う感じになっていました
夫に浮気されている主婦は「若さ」と言うものに悩みを抱えていて、インフルエンサーは「快楽」が何かを探っています
母に嘘をついてまで喜ばせたい娘も「解放の恐怖」に怯えているのですが、それぞれが不幸に見える状況を幸福に見せかけようとして苦しんでいるように思えました
映画は、章立てで物語が変わるんのではなく、同時進行にほぼ同じ場所を行き来しているゆえの切り替えのうまさと言うものが目立っています
それぞれの物語の背景にある別の物語という感じになっていて、この編集はなかなか凝ったものになっていたように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人生は自分の選択であるとは言いますが、本作における三人の女性も、きちんと自分の選択で生きていることがわかります
夫の浮気を容認すると決めている主婦は、別の夫婦(カップル)の在り方と価値観にふれる中で、自分自身の価値というものに気づいていきます
SNSで承認欲求を満たしていると思われているインフルエンサーは、実は別の人生を同時に歩もうとしていることがわかります
母親の束縛を嫌がりながらも、母親好みの婚約者を連れてくる娘は、一生束縛されることを望んでいるようにも思えました
これらの根底にある「自分らしく生きることへの恐怖」というものがあって、セラピストの過去とふれる中で、それを壊していく流れになっていました
綺麗にまとまっていて、構成も見事で、キャストのファンの満足度も高いと思います
女優陣も脇役も演技が良くて、インフルエンサーに会って感極まって泣くファンとか、「ウザ」の一言で違う意味を表す現代っ子などが描かれていました
■選択の先に選ばれる不自由の正体
人の人生は「選択の連続」で、今ある状況も「自分の選択の結果である」と言えます
流されているという状態も選択によるもので、誰かの言いなりになっている状態も選択ということになります
否定しがちではあるものの、それが現実であり、逃れられない事実だったりするのですね
この考え方になれるかどうかで、人生というものは大きく変わってきます
映画では、夫の不倫を見過ごしている妻、母親の言いなりになっている娘というものが「自分の選択ではない」というふうに思っている代表で、インフルエンサーは「すべて自分の選択」と思っている人物でした
人生の選択を自認している人は少なく、自認しているけど否定しがちな人もいます
沙都子も灯も自認はしているけど否定しがちに属する感じになっていて、それを突きつけられる時間だったと言えます
とは言え、灯の方は自認にまで至っておらず、思い込みが激しいまま視野狭窄を起こしている状態になっていました
人というのは不思議なもので、束縛にある状態の方が心地よいと思ってしまう場合があります
それは選択に対する責任を放棄できるという特権があると同時に、考える必要もなく、対応するだけで良いからなのですね
それで幸福感を感じる人もいれば、使命感を持つ人もいて、灯は使命感を感じているタイプの人物だったように思えます
この辺りの価値観は強制されるものではありませんが、変わりたいと考えている人をサポートする場合には、「聞きたくない現実を突きつける」という劇薬が必要な場合が多いでしょう
本作では、デートセラピーを通じて、女性たちの幸福を願うのですが、その劇薬が彼らの優しさによって中和されているように感じました(その要素の一つがイケメンであることは否定しませんが)
■セラピストの効能
本作の主人公は「デート・セラピスト」3人の男性で、それぞれが同時に顧客と接する時間を描いています
3人は「今夜も世界を救う」というモットーで動き、顧客の満足を最優先して、時間を共有することになりました
デート・セラピーの顧客満足度は、その時間を楽しめたかということと、顧客の要望に応えることができたかということになります
このセラピーで体の関係まで行くことはありませんが、それだと風俗になってしまうので、そのラインを超えないものだと思います
母親が望むであろう婚約者を演じたり、不貞の体験のための相手だったり、食事の処理係だったりと様々ですが、どれもが女性の幸福につながるものだったように思えました
通常の男女関係ではないものを利用するとき、そこには潜在的な苦悩があり、それを解消するために利用すると考えられます
沙都子の場合は体験でしたが、裏を返せば「夫への愛が残っているか」というものを探っているように思えます
それは早々に否定され、今度は「その世界を壊せるかどうか」というものを試すことになりました
miyopoの場合は表面上はSNSのお手伝いのようなものでしたが、彼女にとってのデートセラピーの時間は「その時間も本当の自分だ」という考えがあります
彼女はどの瞬間も自分のにとって大切な時間だと考えていて、このデートセラピーもその一環だったことがわかります
彼女はイチヤの方をまともに見ないのですが、彼女の畏れとは「二面性のある自分を真正面から受け止めてくれる人はいるのか」という自問自答だったように思えました
灯は婚約者を演じてもらいますが、それは彼女が理想とする男性ではありません
彼女は学校の教師で、同じ教師仲間と結婚するという設定になっていますが、いわゆる公務員として安定した家庭を持てば、母は喜ぶだろうと考えていたのですね
でも、彼女にとっての理想の夫とは、自分を母親の世界から連れ出してくれる王子様のような存在で、それを再確認する時間になっていたと思います
それぞれの女性は「最終的に笑顔になる」のですが、女性を笑顔にさせるというのはとても難しいことなのですね
表面的な笑顔を引き出すというものではなく、その時間が本当に楽しかったと言えるものにならないとダメだし、その時間が終わっても「日常でその笑顔が続かないと意味がない」のですね
その瞬間だけを笑顔にしても、残酷な日常に戻ると億劫になってしまい、また夢の時間を求めて彷徨う
この悪循環が人生をダメにして行くのですが、彼らの仕事の真髄は「満足を生み出しつつリピートしないこと」というのが命題になっているように思えます
真のセラピストとは、その日限りで永続的なパラダイムシフトを起こすというもので、それは職業として相手と接することでは生まれないものだったように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のタイトルは『MY(K)NIGHT』で、Knightの「K」は括弧つきになっていました
いわゆるダブルネーミングのようなものですが、「Knight(騎士)<Night(夜)」という意味合いになっていると思います
世界を救うことを目標にしていますが、彼らが提供するのは「体験」であり、それは「Night(夜)」のことになります
なので、リピーターを産むような「Knight(騎士)」にはなるなという意味があるのでしょう
セラピーに依存するようでは意味がないわけで、辛い日常からの解放で、「別人格の夜を過ごす」というのなら「Knight」で良いとも言えます
彼らは「特別な夜」を提供しますが、それは「明日を変える夜」であり、永遠に続いてほしい夜を提供するわけではありません
事実、沙都子は「自分の足で一歩を踏み出すこと」になりますし、灯は「本当の笑顔を母に見せること」になりました
そして、miyopoは「本当は諦めたく無かったバレエを踊ること」で、彼女のバレエに対する愛情というものを取り戻していきます
これは副産物なものではありますが、イチヤが再び写真を取り出したように、楽しかった写真(バレエ)というものを取り戻すに至っていました
映画は、これらの3つの物語が「複雑に絡み合う」わけでもなく、分断しているわけでもありません
彼らは劇中で何度もニアミスをしますが、決して交わらないし、それを意識しているわけでもありません
彼らは成長途上のセラピストで、セラピーを通じて自分たちが成長する存在でもあります
通常のセラピストは、対象者と一緒に成長するなんてことは言いませんが(実際には経験として成長する)、彼らは完成されていないからこそ、女性側がマウントを取る瞬間というものが生まれます
立場の逆転が起こる、それは客側がセラピーを施す側に回るという意味があるのですが、この視点の変化が起こることは悪いことではありません
それが起こることによって、自分自身の内面を深く掘り下げることにつながり、そしてそのヒントは自分を癒していくことになります
誰かに教えられるようになれば、本当の理解が進んでいると言いますが、これは勉強に限った話ではないのですね
人生のいつくかの場面も、成長する自分と成長する誰かが融合することで価値観のアップグレードが起こってくるものなので、そういったポジションチェンジが起こることを恐れる必要もないでしょう
そのチェンジが起こっているのは、チェンジによって学べる何かがそこにある、ということなので、そのようなタイミングを楽しみながら、状況を生きていけば良いのだと思います
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/my-knight/