■「悪夢のドライブ」に付き合わされたのは観客の方だったのかもしれません
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■オススメ度
ノンストップ系クライムムービーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.6(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Retribution(報復)
情報:2023年、フランス&ドイツ&スペイン&アメリカ、90分、G
ジャンル:爆弾が仕掛けられた車に乗った家族が犯人の野望に巻き込まれるスリラー映画
監督:ニムロッド・アンタル
脚本:クリス・サンマルプール
原作:アルベルト・マリーニ『El Desconocido(暴走車 ランナウェイ・カー、2015年のスペイン映画)』
(リメイク元)Amazon Prime Video リンク →https://amzn.to/3TmW8vt
(ドイツ版)Amazon DVD リンク →https://amzn.to/3uZi1Xy
(韓国版)Amazon Prime Video リンク→https://amzn.to/486UD8U
キャスト:
リーアム・ニーソン/Liam Neeson(マット・ターナー:ナナイト・キャピタルの投資担当)
リリー・アスペル/Lilly Aspell(エミリー・ターナー:マットの娘)
ジャック・チャンピオン/Jack Champion(ザック・ターナー:マットの息子)
エンベス・デイビッツ/Embeth Davidtz(ヘザー・ターナー:マットの妻)
ノーマ・ドゥメズウェニ/Noma Dumezweni(アンジェラ・ブリックマン:ユーロポールのエージェント)
アリアン・モアイド/Arian Moayed(シルヴァン:マットの同僚)
ルカ・マーカス/Luca Márkus(キャット:シルヴァンの恋人)
マシュー・モディーン/Matthew Modine(アンダース・ミュラー:マットの友人、CEO)
リュック・エティエンヌ/Luc Etienne(ピルス・グロガー:マットの同僚、1番目の犠牲者)
エミリー・クシュ/Emily Kusche(ミラ:ザックの彼女)
ベルンハルト・ピスク/Bernhard Piesk(ドレッガー巡査:シルヴァンを職質する警官)
クリスチャン・ケルナー/Christian Koerner(ドイツ連邦警察)
マイケル・S・ルシャインスキー/Michael S. Ruscheinsky(青いスーツの男)
アントニエ・スタンコビッチ/Antonije Stankovic(デモ抗議者)
ゲルハルト・エルファース/Gerhard Elfers(TVのニュースキャスター)
ピーター・ミクルシュ/Peter Miklusz(記者会見で質問する記者)
ネディ・ジョン・クロス/Nedy John Cross(通行人)
ダニエル・グレイブ/Daniel Grave(電話の男の声)
■映画の舞台
ドイツ:ベルリン
ロケ地:
ドイツ:ベルリン
ミッテ/Mitte
https://maps.app.goo.gl/RvceESXyWLV8SkNq8
■簡単なあらすじ
投資会社で投資顧問をしているマットは、顧客に金融商品を売りつけるやり手で、実績をあげて裕福な暮らしをしていた
妻ヘザーとの間に反抗期の息子ザックと年頃娘のエミリーと暮らしているが、夫婦の仲は冷え切っていた
ある日、ザックとエミリーを学校まで送り迎えすることになったマットだったが、運転中に謎の男からの電話が入った
男は「車に爆弾を仕掛けた」と言い、「座席から離れると起爆する」と続けた
マットは子どもたちを乗せたまま犯人の要求を聞くことになる
最初に指定された場所には同僚のシルヴァンがいて、彼も同じように車に爆弾が仕掛けられていた
そして、マットの目の前でシルヴァンの恋人キャットが車を降りたために爆発して木っ端微塵になってしまう
マットは子どもたちの安全を守るために犯人の要求を飲まざるを得なくなったのである
テーマ:報復と暗躍
裏テーマ:失うものの意味
■ひとこと感想
2015年のスペイン映画のリメイクということで、オリジナルではなく韓国版リメイクの『ハードヒット(2021年)』を見た記憶が蘇ってきました
同僚の車が爆発する構図に見覚えがあって、連鎖的に犯人を思い出していましたね
犯人がわかっている視点で見ると、古さを感じさせるし、穴が多いシナリオに見えなくもありません
本作では「家族愛」を前面に出していて、子どもを救うためになりふり構わない「父」というものを描いています
とは言え、リーアム・ニーソンの年齢だと「おじいちゃん」にしか見えないのですね
彼を主人公にして、決死の逃走劇を描くと画にはなりますが、さすがにキツい感じになってきましたね
映画は、爆発シーンの迫力がある以外は、犯人に結び付くまでの会話は単調で、リメイク元を見ていなくても「犯人ひとりしかいないやん」状態になっていました
犯人の行動もかなり微妙な感じで、ラストの行動には「?」しか浮かびませんでした
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
3度目のリメイクになっていて、ドイツ版『Don’t(原題:Steig. Night. Aus!、2018年)』、韓国版『ハードヒット 発信制限(2021年)』に続く第三弾となっています
それぞれは微妙に違いますが、主人公の過去の行動が起因になっていて、その罰を受けるという構図はよく似ています
とは言え、一番「善人っぽさ」があるのが本作だったように思えます
映画は、車から降りられないという「閉鎖空間パニック」で、自分の子どもが巻き込まれている状況になっています
そこで「親の犯罪が暴露される」という状況になり、さらに不信感を募ることになって、制御不能になるという感じになっています
それでも、状況が状況なだけに「従わざるを得ない」のですが、演者の雰囲気によって、そこまで険悪な感じにはなりません
一般人が危機に立ち向かう系の物語に「リーアム・ニーソン」を配するというだけのものなので、それ以上でも以下でもないのですが、やはりもっとアップデートしないと物語としての魅力を感じません
動機と犯人を変えるわけにはいかないと思うので、もっと「子どもたちが親を見限るぐらいの暴露」になった方がよかったように思えます
■配役で損している理由
本作は、リーアム・ニーソン主演の映画で、いわゆる「一般人巻き込まれ系シリーズ」の一環であると思います
元特殊部隊の一般人を演じてきたニーソンも現在71歳なので、アクションは控えめになっていて、一般人よりの配役が多くなってきたように思えます
特殊な仕事に就いて、それでいてトラブルに巻き込まれる感じの配役が多いのですが、彼らならば死なないという謎の安心感があったりします
どんな敵が来ても、ジェイソン・ステイタムなら素手で倒すんじゃないの?と思ってしまうアレと同じ感覚なのですね
本作では、金融商社マンということで、投資部門で営業をかけて顧客を嵌めるという役どころでした
でも、彼が投資で悪巧みをするという感じがせず、そのため「顧客の逆恨みではないか?」というイメージが湧かないのですね
これで、「めっちゃ残酷なことしてますやん」だったら良かったのですが、最終的には「社長の策略に巻き込まれた被害者」ということになっていました
これが俳優のイメージというもので、良くも悪くもカラーが染み付いていて、それを覆さないという安全策に出ていると言えます
また、マットはザックとエミリーの父親設定なのですが、さすがに70歳の子どもが10代というのは無理があります
これが原作準拠なのか、祖父役は嫌だ!なのかは分かりませんが、還暦間近で二連発というのはさすがに無理がありすぎました
10年くらい前なら気にもならないのですが、年相応の配役にした方が良いのではと、余計なことを考えてしまいます
設定的にも「娘の子どもを預かる父」でも問題ないわけで、ノイズになるものは極力避けた方がいいんじゃないかなと思いました
■勝手にスクリプトドクター
映画では、ほぼ原作準拠になっていて、原作の『El Desconocido(暴走車 ランナウェイ・カー)』から大きな変更はなかったと思います
リメイク元の主人公は銀行役員のカルロスで、妻のマルタがいて、2人にはマルコスとサラという子どもがいます
車を動かした際に「爆弾がある」と電話を受け、発信者に多額の資金を送金すればOKという内容でした
その後の展開も、同僚の車が爆発し、息子の方が怪我をしたために病院に行きたいと訴えます
送金に関しては、妻に依頼をして銀行に行かせ、後部座席はセーフのために子ども2人は解放されます
この一連の事件の中で、親の悪事を知る息子という構図も同じで、以降は完全ネタバレになるので控えておくこととします
映画は、先の配役にも通じるのですが、「マットを祖父にする」というところから手直しした方が良いと思います
そして、娘の子ども2人を預かるという構図にして、マットと同じ会社に勤めていた婿(娘の夫)が何らかの要因で行方不明もしくは死亡という関係性を作ります
マットはほぼ現役から退いている投資顧問で、数人の大口顧客を抱えていて、創業者利益を友人と得ているという状況になります
映画は、夫が亡くなったために子守りが必要で、その日はやむを得ずにマットが代わりを務めるという始まりにします
エミリーはマットに懐いていますが、ザックは父の死が仕事に関連していると思っていて、それゆえにマットを色眼鏡で見ています
走り出すと同じように電話が鳴り、爆弾の設置が仄めかされます
そして、シルヴァンにあたる男は「婿の同僚」という設定にして、婿とシルヴァンはマットの特命の仕事を請け負っていたことが暴露されます
これによって、ザックはさらに疑念を持ち、エミリーとの対比構造が深まります
物語の展開を大きく変える必要はありませんが、その特命は真っ黒な仕事で、それによってマットたちが利益を得ていることが暴露されます
それによって、エミリーも何かしらの不穏さを感じ、さらに爆発によってエミリーは負傷してしまいます
懐疑的なザックはエミリーを守るためにマットと対峙し、彼は犯人と車内で同時に敵と向き合うような状況になってしまうのですね
ザックとしては「マットと同じ車に乗る(命を預ける)ぐらいなら死んでも良い」ぐらいに思いこみ、それを制御することができなくなってしまいます
表向きは合法な特命であることを説明しても、金融知識のないザックには伝わらず、でもマットは「一線を超えたこと」を知っていて、それをひた隠しにするしかない
でも、犯人は次の一手として、「婿に命令しているマットの声」というものをザックに聞かせることになります
この会話によって、父の死にマットが関わっていることが決定的になってしまい、ザックは1秒でも早く離れたいと思うようになります
追い詰められたマットは、自分のせいで婿が死んだことを白状し、一線を超えさせた後悔というものを暴露します
あくまでも被害者的な立ち位置を崩さないマットに業を煮やしたザックは、エミリーを抱えて死ぬ覚悟で車から飛び降ります
後部座席には爆弾が仕掛けられていなかったので事なきを得ますが、これによってマットは絶望的な窮地に立たされることになります
物語のラストにて、この一連の計画を主導していたのは娘ヘザーということになり、彼女と婿の共通の友人が手を貸していたことがわかります
これは大幅な改変になりますが、物語の骨子が「爆発と同時に恐れるもの」というテーマになっているので、その業を受け止めるか逃げるかという命題になっています
娘からも完全に見放され、生きながらえるも地獄というエンディングになりますが、これぐらいショッキングが方が映画としての面白みがあるのではないでしょうか
問題はこの主人公をリーアム・ニーソンが演じてくれるかどうかというところですが、彼の眼鏡に適えば可能だったりするのかもしれません(知らんけど)
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは「Retribution」で「報復」という意味になるのですが、どのあたりが報復になるのかははっきりとしていませんでしたね
CEOがマットを裏切って、会社の金を横領しようとしたという流れになっていて、最後はマットの車に乗りこんでくるというアホな展開になっていました
犯人としての戦略も素人っぽさが全開ですが、爆弾設置を「ダークウェブに頼んだ」の一言で済ます「シナリオの雑さ」というものが滲み出ていました
報復というタイトルならば、マットがCEOから強烈な恨みを買っているということになるのか、CEOの暴挙に巻き込まれた子どもたちの仇を討つという流れになると思います
映画では、そのどちらもが緩くて、報復と呼べるものではなかったですね
エンドロール中にも「マットはCEOの犯罪に対してユーロポールに協力した」という感じになっていて、それってどうなの?と思ってしまいました
映画は、スリリングな展開を楽しめますが、これまでの主人公が背負っている業というものがほとんどなくて、妻の活躍(動き)も添え物程度になっていました
あくまでも、主人公が善人サイドで活躍するという改変がなされていて、それを面白いと感じるかは人それぞれかなと思います
個人的には「韓国版リメイク」を途中で思い出してしまい、その違いを探すという感じになっていましたが、さすがに物足りなさの方が優っていたと言わざるを得ない感じになっています
配役がその要因になっていると思いますが、それを仕方ないものだと流していくことになると、今後は無難なものしか観れなくなるのかもしれません