■大人しい子どもほど、内面には穏やかならぬものを抱えているのかもしれない


■オススメ度

 

子役が活躍する映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.8.25(MOVIX京都)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、108分、G

ジャンル:家庭の事情で離島で生活することになった小学生を描いた青春映画

 

監督&脚本:長澤雅彦

 

キャスト:

新津ちせ(原田凪:東京から離島に越してきた小学4年生)

 

佐藤蒼希(岩本雷太:凪のクラスメイト)

室積光(岩本岩男:雷太の祖父)

太田知咲(岩本澄子:療養中の雷太の母)

 

角忠聖(山内健吾:凪のクラスメイト)

麻絵(健吾の母:美容師)

 

島崎遥香(河野瑞樹:凪の担任の先生)

結木滉星(守屋浩平:吃音のある漁師)

元木行哉(武居孝司:浩平の兄貴分の漁師)

 

加藤ローサ(原田真央:凪の母親、下松市民病院の看護師)

徳井義実(島尾純也:凪の父親、アルコール依存症)

木野花(原田佳子:凪の祖母、真央の母、深浦島診療所の医師)

 

嶋田久作(山村徳男:凪が通う小学校の用務員)

 

翁華栄(柳井東病院の院長)

 


■映画の舞台

 

山口県:深浦島(架空?)

山口県:柳井市

 

ロケ地:

山口県:下松市、笠戸島

https://goo.gl/maps/jFFLNJZA9V35bfUM7

 

 


■簡単なあらすじ

 

東京から山口県の離島に引っ越してきた小学4年生の凪は、海に潜ることが大好きだった

親友の雷太、健吾と連む日々が多く、島の小学校には彼らを含めて全学年で5人しかいない

 

凪の母・真央は本州の中規模病院で働いていて、夫・純也はアルコール依存症が原因で別れている

父は母の連絡先を知らず、時折凪に近況をSNSを通じて聞いていた

 

そんな島ではかれこれ30年以上、島での結婚は行われておらず、狭すぎる島で隠し事などすぐに見つかってしまう

凪たちは用務員の「笑らじい」を怖がっていたが、凪はなんとか「笑らじい」を笑わせようと奮闘するものので、自分自身は複雑な家庭が背景にあるので、心から笑うことができずにいた

 

そんな折、地元の漁師・浩平と凪たちの担任の先生・瑞樹に新展開を迎え、島は少しずつ色づき始めるのである

 

テーマ:子どもの存在価値

裏テーマ:絆の修復に必要なもの

 


■ひとこと感想

 

パンフレットも制作されておらず、情報源がほとんど皆無でしたが、なんとかキャスト欄のほとんどを埋められたのではないでしょうか

全国規模の公開だとしても、あまりにも存在が軽くなりすぎて心配になってしまいましたね

 

凪はまだ恋愛には興味がありませんが、雷太には恋心が隠れている

そんな幼い子どもたちが「生まれて初めて結婚式を見る」と言うエピソードになっていましたね

子役の演技がそこそこなので視聴環境が整えばそれなりの数字を出せそうですが

現在のラインナップが当分動きそうにないので、並行世界のようなわかりやすいものは展開されていません

 

父親はアル中と言う設定で、その回復の物語はあまり効果的だったようには思えません

細かな設定はチラホラあると言えばありますが、それほど物語に寄与しないものばかりだったように感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

新津ちせちゃんの主演映画ということで、謎の配役パワーが炸裂したように思えます

個性的な俳優が多く、印象に残るシーンもありますが、物語の中心軸は「大人との距離感に悩む子どもたちの成長」ということになるのでしょう

 

映画のクライマックスは子どもの出番がない結婚式になっていて、せめて最後は先生と一緒に踊るというシーンがあった方がよかったと思います

 

映画内では明るい人たちが多いけれど、それぞれの家庭に問題があって、また離島ならでは問題もありましたね

過疎地域でありながら、島の人々は明るくて前向きで人情味がある

狭すぎる世界ゆえに起こることが限られていて、そこが少し退屈ではありました

 

このネームバリューで公開規模がここまで少ない理由はよくわかりませんが、それほどヒットが見込めない題材では内容に思えました

ひと夏の経験が彼女たちを育てましたが、凪にとっての理想が実現したとしても、それが幸せにつながるのかは解釈次第にようにも思えました

 


離島の医療について

 

離島での医療問題はまれにメディアで取り出されますが、当事者以外はほとんど興味が持たれない案件であると言えます

日本は6852の島で構成されていて、このうち離島振興法による「離島振興対策実施地域」になるのは254島となっています

ちなみに「離島ではない島」というのは「本州、北海道、四国、九州、沖縄本島の5島だけ」だったりします

6847の離島のうち、有人島は416、無人島は6432に上ります

上の離島振興対策実施地域における離島振興法の対象は有人島416のうちの254(沖縄、奄美、小笠原は別の法律)となっていて、「特定有人国境離島地域・有人国境離島法」の範疇に入っています

また、離島の全てに病院があるわけでもなく、瀬戸内海の150の有人島のほとんどには医者がいないという現状もあります

 

長崎県などはほとんど離島で構成されている県では、僻地の医者不足は深刻なものがありました

平成16年に「長崎県離島・へき地医療支援センター」がようやく設立されましたが、その動きは40年前に遡るとされています

比較的離島の医療体制が進んでいる沖縄県でも、野甫島(人口104人0、池間島(人口653人)、来間島(人口168人)などを含めた十数の離島には医療機関がありません

これらの地域には「巡回医療」というものを「へき地医療拠点病院」が担っていて、また「へき地診療所」というものもあります

凪の祖母の深浦島診療所は、このへき地診療所にあたると思われます

 

厚生労働省の資料によると、「平成21年度に無医地域が705だったものが、平成26年には637にまで減った」という報告がありました

準無医地域(無医ではないが都道府県知事が無医地域同様に医療支援が必要を認めた場所)は逆に「371→420」に増えていたりしまう

このあたりは過疎化と認定基準によるものと思われますが、ますます高齢化していく社会の中で、離島以外でも深刻な医療不足が懸念されるために、対策の速度を早める必要はあるかと思います

でも、実際に離島診療では高額な機器の導入・運用もコスト面で民間が手出しできません

 

祖母の診療所でもレントゲンはあるけどCTはないという状況でしたので、より高度な医療を行うにはある程度の設備が必要となってきます

ちなみにCT機器の相場は1台8000万から1億円だそうです

CT検査は実費換算だと「非造影で2万から3万円」「造影だと3万から4万」ぐらいはするので、8000万の元を取るのに撮影だけで2500回強(実際には診察料などもかかるのであくまでイメージです)とかになったりします

凪の島の人の構成だと大体が「国保3割ゾーン」になると思いますが、よほどの大病(脳出血とか心筋梗塞)とかでもない限り検査に1万円はハードルが高いでしょう

通常なら、高度医療は本島にて行うということになりでしょうが、問題は救急の場合だと、行くのと来るのとどっちが早いかという問題が発生します

経験豊富な医者が離島にいれば、ある程度の緊急性などを考慮できますが、物理的な距離というものは拭えず、今回の健吾の脳震盪にしても船で移動するのにそこそこの時間がかかるので、仮に治療ができても後遺障害が残る可能性は高くなってしまうかもしれません

 


過疎地域の未来

 

日本では過疎地域に限らず、少子高齢化の問題があって、過疎地はさらに過疎化が進んでいきます

過疎地域とは、人口の著しい減少によって地域社会の活力が低下している地域のことを指し、法律的には総務省の「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」により「市町村単位で指定されるもの」となっています

これは日本だけの問題ではなく、アメリカの農村部、山間部などでも見られる現象で、過疎地域から都市部への流入の増加によって生まれていきます

 

日本では、2010年の段階において、すべての都道府県に過疎地域が存在します

2022年の4月の段階では、全部で885市町村が該当し、「みなし過疎」という市町村も162ほどあります

1970年に「過疎地域対策緊急措置法」が制定され、全国過疎地域対策促進連盟が発足しています

現在では「一般社団法人全国過疎地域連盟」という名前に変わっていますね

県知事などが連盟の支部長を務めたりする自治体もあり、過疎地域をいかにして充足させるかに対して、各関連団体と連携をしているとされています

 

実際問題として、日本の人口が減り続けているので、過疎地域に限らず、都市部でも空き家が増えて治安が悪くなるなどの問題は起きます

過疎問題の抜本的な方策は少子化対策につながるところがあり、いくら過疎地域のインフラが整って住みやすくなったとしても、物理的に無理な状況というのは訪れざるを得ません

少子化の打開策は単純に考えれば、子どもを産みやすい環境を整備することだと思いますが、現在のように就業者の半分が非正規雇用の状態だと難しいのが現状ですね

結局のところ、経団連などの要請を受けて雇用の流動性を推し進めていった結果、企業は一時的に内部留保を蓄えることができましたが、永続的な産業にはなり得ないという不透明さだけが残りました

このような短期的なビジョンしか持てない人材が国のトップになっている以上、長期的なスパンで構造を変えていかなければならない問題は解決の糸口すら見えないのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作の舞台は離島・過疎地でありますが、それは舞台設定に過ぎず、メインは親子の断絶の復興というものになっています

元妻に内緒で子どもとだけ連絡をとる夫というのは褒められたものではありませんが、真央自身も生理的に無理なぐらいまで嫌悪感丸出しで一切話を聞こうとはしませんでした

映画の中から読み取れるのは、アル中になった元夫が暴力的になり手がつけられない状態になるということで、普通の状態からは想像がつかないものだと言えます

お酒を飲んだ瞬間に人の本性が出るとは言いますが、元夫の性根という部分には隠された暴力性があるのかもしれません

 

この夫婦を間近で見てきて、そして苦しんできたのが凪でした

ある意味、セラピー目的で環境を変えることになったと思うのですが、そこでの生活は劇的に凪を癒すことになっていました

凪は海に潜ることが好きで、それは落ち着くからだと推測できます

過呼吸になった時に、浩平が咄嗟に一緒に海に飛び込みましたが、この行動によって凪の呼吸は正常に戻ることになります

過呼吸は酸素を吸い過ぎていて、体が呼吸を拒否する状態で、酸素飽和濃度では100%、手足の痺れなどのテタニー症状が出ることもあります

救急の現場だと深呼吸を促したり、ペーパーバックで自分の息(二酸化炭素)を吸わせることで酸素飽和濃度をわざと下げるのですね

そうすることによって自然な呼吸に戻るということがあります

 

そんな凪の呼吸苦の呼び水は「誰かの言い争い」になっていて、それによって過去の記憶が呼び覚まされてしまいました

記憶は身体と連動していて、それによって凪の容体が悪くなるのですが、その解消はやはり起因となっている夫婦関係の復活にほかないと言えます

あるいは父の存在の忘却になると言えますが、それはかなり成長しないと難しいでしょうし、今後誰かと夫婦になって、同じようなことが起きた時には同じように発症すると言えます

なので、やはり凪のことを考えると、夫婦の関係性が元に戻らなかったとしても、子どもが理解できる別れ方をするより他ないかもしれません

 

真央自身が完全に純也を拒絶しているわけではなく、現段階では信用が失墜している状況なので、まだ可能性はあるのかなと思います

そう考えると、凪のセリフ「二人と私は何があっても親子だけど、二人は私がいないと他人だからね」は言い方は悪いですが、二人の幼稚性に鉄槌を下す素晴らしい一撃だったのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/380016/review/7d7af916-bfe3-46f3-9450-ce892c189b1f/

 

公式HP:

https://nagishima.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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