■ホスト狂いを純愛と言われて、納得できる人がどれだけいるのだろうか
Contents
■オススメ度
偏愛映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.7(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、127分、PG12
ジャンル:ホストを刺した過去を持つ女を巡る群像劇
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
キャスト:
橋本愛(園田沙苗/小泉沙苗:ホストを刺し殺そうとした女)
仲野太賀(小泉健太:沙苗と見合い結婚をする男、林業)
木竜麻生(足立よしこ:沙苗を知る謎の隣人)
森田湊斗(よしこの息子)
坂井真紀(園田多美子:沙苗の母)
木野花(藤井圭子:沙苗のカウンセラー)
鳴海唯(宇佐見美紀:健太の同僚)
佐々本宝(健太の同僚)
猪俣俊明(所長?)
アベラヒデノブ(健太の友人)
松澤匠(健太の友人)
望月めいり(梨沙:メガネの友人)
水上恒司(望月隼人:沙苗の刺し殺されそうになったホスト)
楽駆(詩音:新宿の新人ホスト)
河野凌太(蓮:ホスト)
諏訪珠理(先輩ホスト)
田中佐季(居酒屋のキレる女)
中山求一郎(居酒屋の店員?)
政修二郎(佐々木:本来の沙苗の見合い相手、写真)
宮田佳典(警官)
小井圡菫玲(プラネタリウムに向かう少女)
平原テツ(神父)
■映画の舞台
東京:新宿
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
長野県:上伊那郡
https://maps.app.goo.gl/WPs15KJ71XeAtobZ6?g_st=ic
長野県:伊那市
国立信州高速青少年自然の家
https://maps.app.goo.gl/oxrumy9v4yMzCkWT6?g_st=ic
神奈川県:相模原市
相模原市立博物館(プラネタリウム)
https://maps.app.goo.gl/HpJgMARgtZRDfFYr7?g_st=ic
長野県:諏訪市
ホテルAtoZ諏訪インター店
https://maps.app.goo.gl/huVHV8P8ApnkM3vK8?g_st=ic
HOTEL BLACK
https://maps.app.goo.gl/esfdujymEEJUt8z16?g_st=ic
東京都:新宿区
Club MAJESTY(ホストクラブ)
https://maps.app.goo.gl/LLr1buzPgFhfeT3a7?g_st=ic
新宿東メンタルクリニック
https://maps.app.goo.gl/oVTvXgvoaY7QDvfi7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
新宿にて、ホストを刺し殺しかけた沙苗は、その罪を償ったあと、第二の人生を歩むことになった
母・多美子がセッティングしたお見合いに参加する沙苗は、そこで佐々木という銀行勤めの男と会うことになった
その後、二人でドライブに出かけたが、男は佐々木の身代わりにきた小泉という男で、林業で生計を立てている男だった
結婚をする気のない二人だったが、二人は意気投合して、ペンションを改築して一緒に住むことになった
沙苗は時折、新宿のメンタルヘルスに通っていて、主治医の藤井と面談を行なっていた
二人の生活は可もなく不可もなくと言った感じに進んでいったが、ある日を境に雲行きが怪しくなってしまう
それは、小泉に依頼をかけた足立よしこの存在で、彼女は近くの農園で働いていたが、沙苗の過去の事件と繋がっていたのである
沙苗の中で6年前の事件は終わっておらず、それによってホストへの愛情が残っていたことを突きつけられてしまう
そして沙苗は、単身ホストの元へ行こうと荷物をまとめ始めてしまうのであった
テーマ:愛とは何か
裏テーマ:愛の試し方
■ひとこと感想
新宿ホスト殺人未遂事件がベースということでしたが、その事件そのものとの関わりはほとんどないような印象を受けました
ホスト狂いと見合いをしたことで人生を破滅に向かわせる男を描いていますが、この二人の間に愛情があったのかがわからない感じになっていましたね
どちらもが「用意された檻」の中で過ごす偽装結婚のようにも思えました
映画は、室内のシーンが思って以上に暗くて、ミニシアターの映像能力ではキツいものがありました
声とシーンを頼りに誰と誰がいるのかを把握するような感じになっていて、人間関係に関しても、同僚なのか友人なのかもほとんど説明されません
物語は、沙苗が狂った元凶のホストと結婚している女が登場するのですが、彼女があの土地にきた理由とかもよくわからない感じになっています
パンフレットにざっくりとしたストーリーが最後まで書いてありますが、人の動きの理由が結構意味不明なものが多かったように思います
これを読んでから観てもわからないシーンが残ってしまうのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ホストに狂う役を橋本愛が演じるということで気になっていましたが、ホスト狂時代がほとんど描かれず、カラーリングの入ったシーンもわずかなものになっていました
その後、なぜかお見合い結婚が成立し、愛もないのに同居し始めたら、なぜか執着を持ち始めるという不思議な展開になっていました
小泉が沙苗に執着を持つ過程がよくわからず、お見合い、ドライブのあとにいきなりペンション改造と指輪を渡すという、結婚しているのかどうかも怪しい流れになっていましたね
その後、偶然なのか故意なのかわかりませんが、沙苗がホストに狂っていて事件を起こしたことや、今この場所に住んでいることを知っている足立という女性が登場しました
偶然の出来事とは思えず、農園での二人の会話からも、沙苗とホストが関係を持っていたことを知っている感じになっていましたね
それが呼水となって、沙苗はホストへの執着を取り戻し、いつの間にか沙苗に執着を持っていた小泉が止めるという感じになっていました
そこで突き放されたと思ったら、今度は同僚から告白を受け、彼女が猟銃を突きつけて殺してあげる的な展開になってしまい、ぶっちゃけ何が起こっているのか理解できない流れになっていたように思いました
■それぞれの執着はどこで生まれたのか?
本作は、新宿のホスト刺殺未遂事件をモチーフにしていますが、それは導入だけになっていました
どのような生活と関係だったのかは描かれないまま、沙苗は隼人に一方的な愛情を押し付けていました
服役してからもその想いは燻っていたようで、母は「檻に入れる」ことで、娘にバカな真似をさせないようにしたいと考えていました
とは言え、どんな檻でも良いわけでなく、当初は銀行員という高スペックな男性を狙っていました
映画は、殺したいほど愛しているという関係を描いていますが、それは沙苗の一方的なもので、隼人にその気があったのかもわかりません
客として、貢いでくれるだけの存在だったのか、そう思わせるような素振りを見せていたのかはわかりませんが、ホストが客に勘違いさせるほどにうまいというのは、今更のようなものだと思います
言わば、ホスト狂いをしている女の感情を純愛と言っているのですが、この関係を純愛とは呼ばないと思います
沙苗にとっては、隼人こそ全てなので、他のホストには興味がありません
一番近い言葉は溺愛で、それが身を持ち崩すほどに無茶苦茶だったということになります
沙苗は隼人依存症のような状況になっていますが、これが起こってしまうのは、彼女を肯定してきたものが何もなかったからだと考えられます
特定の誰かからの愛を渇望し、そこに身を捧げるという行為は、裏を返せば「自分が誰かにして欲しいこと」なのですね
そう考えると、これまでの人生において、「愛されることの欠乏」が生まれていることになります
それが偶然沙苗の好みの人がいなかったのか、家族がその接近を阻んできたのかまではわかりませんが、おそらくは後者なんだと思います
彼女がここまで執着を持ってしまうのは、これを手放すと後がないと思い込んでいるからなのですね
これは、連続した愛情の受け取りというものに慣れていないからと言え、これまでの人生において、継続的な愛情を受け取ってこなかったか、裏切りの連続が起こってきたからでしょう
その原因は母親にあるのは明白で、母は自分のわずらしさを増やさなければと考え、身代わり婚約に関して何の感情も持ち合わせていませんでした
これは「自分から娘を引き剥がしたい」という欲求がそうさせているのですが、この感情が起こるまでは「執拗以上に束縛していた」という環境があったものと推測されます
人が偏る時は、その振り幅と同じだけの対極の感情や出来事があるものなので、沙苗の純愛(溺愛)に関しても同じことが起きているのだと思われます
■勝手にスクリプトドクター
本作は、沙苗の溺愛をメインに描いていて、健太との結婚生活が破綻していく様子が描かれていきます
健太は沙苗の隼人への愛に嫉妬して、「俺を殺したいと思ったことがあるか?」と聞きますが、彼女は即答で「ない」と突き放していました
彼女にとっての健太は「母親から逃れるための居心地の良い檻」のようなもので、それが彼の絶望となっています
とは言え、健太が沙苗に執着する意味がわからず、その後の美紀との心中騒動も意味不明なものになっていました
健太は沙苗の過去を知っても一緒にいることを選択しますが、彼がどの時点で沙苗のことを好きになって、そして手放したくなくなったのかはわからないのですね
指輪を渡す段階でハグしようとしても拒絶していたので、そもそもこの結婚生活は「ぬるま湯的な檻生活」のスタートだったはずでした
それから時を重ねて気持ちが移ろいでいったのかもしれませんが、恋愛の熱というのは衝動の激しさと比例するので、執着の度合いも衝動の強さに比例するように思います
なので、彼が心中をしようと思い込むほど沙苗を愛していたという過程が描かれていないと、一連のシーンは何をしているのかわからないように思えました
健太は、沙苗の過去を知ることによって、彼女を救いたいと思っていますが、友人たちに言われるように「健太が何かを言っても沙苗が変わることはない」と言えます
その沙苗はメンタルクリニックでは「夫のことが好き」というのですが、それが愛と呼べるものかはわかっていないのですね
後半の流れは、健太に感じているものが愛で、隼人に感じてきたものは愛ではなかったことを確認する流れになっているのですが、非常にわかりにくいものになっていました
その後、心中を図ってラブホに行った健太はなぜか美紀に刺されてしまいます
文字通り殺したいほどの愛を受けることになりましたが、彼はそれを愛だとは感じていません
美紀もまた、愛というものを履き違えて、執着による激情を行動に移しただけなのですね
この美紀の行動があるから、沙苗のしてきたことも無意味さがわかるのですが、それを映画から読み解くというのは無理のように思います
健太が美紀から受けた愛と、隼人が沙苗から受けた愛は同質のものだと思います
そして、沙苗の執着を断ち切ったのは、隼人によるハグだったのですが、それを受けて、沙苗は「時が過ぎた」と言って、二人の関係が過去になったことを理解します
この過程でも「よしこは隼人と離婚している」のですが、その理由は分かりません
隼人は「沙苗との関係が過去になった」と感じているわけで、それは現在、すなわちよしことの関係を肯定していることになります
それを考えると、隼人とよしこが別れる理由はわからず、いっそのこと「過去になっていることを知らしめるために嘘をついて隼人と会わせた」というカラクリがある方がしっくり来るように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作のタイトルは「熱のあとに」というもので、この「熱」は沙苗の隼人への想いという意味になると思います
そして、その「熱」がどうしたら冷めるのかということを描いたいたように思えました
結局のところ、現在の隼人と会って、彼の変化を見たことで彼女の熱が冷めるという展開になっていました
それまでの沙苗は「愛情を抱えたまま引き裂かれてきた」のですが、彼女が彼を殺そうとしたのは「愛の証明」であったことがわかります
二人の世界というよりは、沙苗の激情を見せつけることで、隼人に群がっていた無数の愛を蹴散らそうとしていたのでしょう
そうして隼人への愛情を知らしめたとしても、彼は自分がいない間に別の女と結婚して、子どもまで作っている
あの時の自分の行動は何だったのか?
これを確かめるには、会う以外の方法がなかったと言えるのでしょう
沙苗を隼人と引き合わせたのはよしこの存在ですが、彼女は刺殺されかけた男と知って彼と結婚したのでしょうか
おそらくは、「沙苗のことを知っていて、会ってみたかった」というマインドがあったので、事件の全貌を込みで知っていたのだと思います
彼女は途中で退場してしまいますが、隼人が沙苗との決別に向かったことを考えると、よしこのフェードアウトも仕掛けのように思えます
よしこが沙苗に会いたかった理由は分かりませんが、事件への興味と隼人から聞いていたことの真相を確かめたかったのかもしれません
かつての加害者と会うという理由だけで離婚する理由にはなりませんが、よしこの中では踏ん切りがついたのだと考えられます
映画は、このあたりの心情などが分かりにくいまま進んでいたので、それぞれの登場人物の欲求というものが見えにくくなっていました
この辺りをすっきりと整理した方がメッセージは届きやすかったと思うし、モチーフが新宿の事件という宣伝をする必要ななかったでしょうね
それがマイナスになっているとは言えませんが、実在の事件の人物が思ったり考えていたこととは相入れない部分があるので、ほとんど無意味だったのではないかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100139/review/03459186/
公式HP: