■すべてのシナリオに整合性を持たせるには、神様視点を捨てなければならないのだと思いました
Contents
■オススメ度
クライムミステリーが好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.8(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、115分、PG12
ジャンル:高校時代の因縁を持つ3人が20年後に再会する様子を描いたクライムミステリー映画
監督&脚本:斎藤勇起
キャスト:(わかった分だけ)
高良健吾(阪本春:父親からの暴力を受ける中学生→半グレのリーダー)
(中学時代:坂元愛登)
大東駿介(吉田晃:刑事の父を持つ中学生→刑事)
(中学時代:田代輝)
石田卓也(朝倉朔:父兄と一緒に暮らす中学生→農家)
(中学時代:柴崎楓雅)
石澤柊斗(木田正樹:殺された同級生)
坂口辰平(朝倉直哉:朔の兄)
(中学時代:深澤幸也)
久保耐吉(朔の父)
朝香賢徹(阪本隆:春の父)
しゅはまはるみ(隆の恋人)
蔵原健(晃の父、刑事)
志水季里子(晃の母)
成瀬亜未(晃の姉、少女期)
下田美莉愛(晃の妹、少女期?)
勝矢(刑事)
齋賀正和(刑事)
大迫一平(刑事)
安部賢一(刑事)
中野英樹(刑事)
大槻ヒロユキ(おんさん:河川敷の小屋に住む謎の男)
市川知宏(武健太郎:春の右腕)
若林拓也(川畑:春の手下、健太郎の右腕)
奥野壮(鈴木:健太郎の元に来る少年)
本田旬(小林大和:健太郎の元に来る少年)
桝田幸希(小林の母)
工藤孝生(春の商店で働く少年)
佐藤五郎(春の部下、工事会社の頭)
仁也(春の部下)
村上淳(清水:白山會・清水組の組長)
成田瑛基(村田:清水の手下)
佐藤浩市(笠原:白山會の会長)
椎名桔平(佐藤邦治:刑事)
守屋茜(春の妻)
朝日湖子(春の娘?)
林佑城(春の息子)
三納みなみ(谷中先生)
上のしおり(トイレから出てくる女)
逢坂由委子(キャバクラのホステス)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
福井県:坂井市
テクノボート福井総合公園
https://maps.app.goo.gl/6EzxSan6P1wh5YRo7?g_st=ic
福井県:福井市
焼肉はるや
https://maps.app.goo.gl/LTUybxsDyyymDVzM9?g_st=ic
珈琲貴族
https://maps.app.goo.gl/ToMhScLhtrVtp7G18?g_st=ic
ヴァアナーレ・ナフ
https://maps.app.goo.gl/XmC73Q4Jgmj6UQ6H6?g_st=ic
福井市清水中学校
https://maps.app.goo.gl/LSKuRPG3e9AAxPBt8?g_st=ic
福井県福井運動公園
https://maps.app.goo.gl/WGPxfiNP4Bdz1pka8?g_st=ic
CAVERNA AZZURRA
https://maps.app.goo.gl/jLSA77QcgDr6EmUL7?g_st=ic
福井県:羽生郡
レストハウスシーサイド
https://maps.app.goo.gl/Xkj66A4xCHj8QdTV8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
地方都市の中学のサッカー部に入っている、春・晃・正樹・朔とその兄・直哉の5人は固い友情で結ばれていた
ある日、試合の集合に遅れてきた正樹と朔、他の3人は単なる遅刻だと思っていたが、実はそれには裏があった
そんなある日、正樹が死体となって発見されてしまう
朔・晃・春の3人は、児童虐待の噂のある男の元へと向かい、正樹を殺したのはその男だと断定する
揉み合いの末、朔がスコップで男を殴り殺してしまう
そこで春は、二人を逃して罪を被り、それから20年の時が過ぎた
春は地元の裏稼業を取りまとめるリーダーになり、朔は親の農家を注いでいた
晃は父と同じように警官になり、そしてようやく地元へと舞い戻る
20年もの間会うことがなかった3人だったが、あの日を忘れることはなかった
そんな折、晃は繁華街にて少年たちが暴れているとの通報を受けて現場に向かう
そこには地元の刑事のまとめ役・佐藤も来ていて、彼は小林という少年だけをその場から逃してしまう
その動きを不審に思う晃だったが、周りの雰囲気はそれを言い出せるものではなかった
そんな折、地元のヤクザ・清水が小林の捜索のために春の元を訪れた
条件は情報を渡すことだけだったが、その情報を持ってしても小林は一向に見つからなかった
テーマ:仁義
裏テーマ:生き残るためのシナリオ
■ひとこと感想
20年の時を経た幼馴染が違う立場になっているという作品で、幼少期に起こった事件と同じような事件が起こることで、再会を余儀なくされてしまいます
予告編ではここまで見せているのですが、第二の事件が起こるのは後半になっているので、予告編で見せ過ぎでないかと思ってしまいます
タイトルコールが入るのがちょうど30分ぐらいで、いわゆる「中学生編」が終わるまで、という感じになっていました
少し古めの、昭和テイストっぽいキャストロールでしたが、時代設定もそれぐらいなのかなあと思ってしまいました
いわゆる暴対法以前なのか、田舎だからこんな感じなのか、というイメージになりますね
映画は、かなり脚本に問題がある感じで、人物の動きが「一人ずつしか動かない」という感じになっていて、不自然な部分が多かったと思います
特に、中盤あたりでヤクザを刺し殺すシーンでは、もう一人のヤクザが棒立ちという意味のわからない展開になっていたのは驚いてしまいましたね
これ以外にも、とにかく同時に動きそうなシーンで、単体で動くというシーンが多かったように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
一応クライムミステリーということで、中学時代の正樹を殺した犯人と、後半の成人期の少年殺害がリンクしているんじゃないかというものがありました
20年もの時間差があるので関連づける方が難しいのですが、成人期における小林の殺され方は「偶然の一致」になっていて、あの死に方を見て過去を思い出して、慌てる二人(春と晃)という謎の展開になっていました
少年時代の真相も「それはないやろ」という展開で、これをミステリーで引っ張るのには無理があります
朔の兄・直哉の顛末もはっきりしないし、それを含めて彼の仕業だとしても、手際が良過ぎてびっくりしてしまいます
映画は、役者の演技で引っ張っていきますが、悪を飼い慣らすことで被害を限定させるというテーマも、落とし前をつけるためのシナリオもどっちつかずの印象になっていましたね
結局のところ、春は笠原に許されたのかどうかすらも放置されていましたのも微妙だなあと思いました
■何を描こうとしていたのか
本作は、高校時代の事件をきっかけに離れ離れになった幼馴染が、再会する過程において「過去の過ちに気づく」という内容になっていました
冒頭30分がまるまる高校時代で、その関係性がきちんと描かれてから事件が起こります
そして、小屋炎上まで描き切った後に、現代パートが始まるという構成になっていました
現代パートでは、それぞれの過去の延長線上にある人生を描き、誰もが想像したままの人生を歩んでいきます
春は少年院と育児放棄の末に反社的な活動をしているし、晃はそのまま親の後を追って刑事になっていました
朔と直哉に関しては、過去の時点での進路は不明で、彼らは地元に残りながら、春とは関わらない人生を歩んでいました
本来ならば、春の出所後にコンタクトを取りそうなものですが、様子を伺いつつも静観し、距離を取っていたことになります
なので、彼が春に顔を合わせられない理由があるのかな、と勘繰っていました
映画は、現在で起こった事件を機に過去の出来事を清算する流れになっていますが、朔と直哉が行った正樹の死体遺棄と小林少年の事件は全く関係ないのですね
朔たちはおんさんに罪を着せるためにあの川に放置しましたが、小林を始末したヤクザがあの場所に遺棄したのは偶然だったりします
彼らが20年前の事件を知っていても、それを準える意味がなく、春たちに過去を想起させるだけの舞台装置にしかなっていません
とは言え、彼らは再会するだけで過去を思い出してしまう存在なので、小林少年遺棄事件があろうがなかろうが、晃が町に戻ってきた時点で蒸し返されるのはやむを得ない感じになっていました
結局のところ、その事件を追うことと、過去の殺人事件は冤罪だったのではないか、というのが平行線になっていて、これが完全に分離しているところが微妙なのかなと感じました
現在パートでは、小林少年匿いからのヤクザとの抗争に勃発し、晃はこの街を守るために作られている佐藤のルールに憤慨しています
一方の過去の清算は、街を守るとかは関係なく、単に事故だったものを事件化した愚かさを描いているだけなのですね
また、この後半の真相というものは「朔だけが知っている」もので、彼が自白をしない限り誰も知り得ない情報になっていました
なので、朔は「推理を晃と春から聞かされます」が、それは「お前らの妄想だろ?」で終わってしまうものなのですね
でも、推定無罪状態なのに始末をつけるという顛末になっていて、それを刑事である春が受け入れるかどうかは別問題のように思えました(朔死亡事故に関しての春の反応が描かれないのも微妙だとは思いますが)
■勝手にスクリプトドクター
本作は、過去を想起させる事件が起こり、それによってそれぞれの立場でどうするか、というものを描いていきます
春は事件を捜査する中で、街に蔓延っている暗黙知というものを知ることになります
これは、佐藤が作ったルールで、「悪い奴はどこに行っても迷惑をかけるから、この街で飼い慣らして管理する」というものでした
その対象になっているのが春という存在だったとも言えます
この現代パートのメッセージがあるとするならば、春たちの過去もそのようなルールの起点になっているのかどうかを問いただす必要があると思います
なので、あのルールは佐藤ではなく春が作ったもので、彼の口から出るべきものだったように思います
佐藤としては、そう言った「誰かが作ったルール」をさらに自分の領分で管理する立場になっていて、それは警察と白山會によって強固なものになっている、と考えるべきことなのでしょう
このあたりの構図が別物になっているところにシナリオ構成の惜しさというものがあります
春は出所後に何らからの理由があって事件の真相を知り、それによって朔と直哉の関わりに気づいていく
彼を地元から逃さないために工作をして、晃が戻ってくるのを待つ
これぐらいの裏書があった方が良くて、春は晃の持つ公権力を利用して、朔を追い詰めていく、という流れの方がよかったでしょう
映画では、晃の方が先に過去の真相を知るのですが、それでは物足りない部分があるように思えました
晃が真相を知ったことで、朔の思惑が判明するのですが、これを推理で終わらせるのは無茶だと思うのですね
なので、直哉と晃がどこかで会っていて、その真相を知るというものがないと、彼の名推理も担保されていないものになります
でも、この流れよりは、朔の落とし前を含めると、出所後に春と直哉が会って、そこで何かに気づく、という流れの方がしっくり来ます
それを考えると、春は晃にそれを気づかせる(推理させる)ことによって、真相を暴露するフィクサー的な立ち位置になるので、それによって制裁というものの意味が生きてくるのではないかと感じました
そして、小林少年を殺害し、あの場所に捨てたのが春である、という方がしっくりくるのだと思います
春がそれを行ったのは、過去の人物が揃った段階で過去を否応なしに思い出されることで、役者が揃ってから事を起こすことを考えていたことになります
春は佐藤と関わりのある小林を殺害する意味を持ち合わせていて、それは公権力への抵抗を意味するので、ヤクザが始末するというだけでは意味が無かったのではないか、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、本格的なノワールミステリーで、どんな感じにケリがつくのかを楽しんで観られる映画だったと思います
オリジナル脚本なのでネタバレが映画にしかなく、過去と現実のそれぞれのパートをうまく構成されていたので、終盤あたりまでは牽引力がうまく機能していたように思えました
後半になって、朔の想起を春と晃の推理と掛け合わせることになるのですが、あの時点で春と晃があの真相を思い描くことに無理があって、そこからの急速な始末というのが腑に落ちない部分が多かったように思います
事故の現場には転倒して頭を打って死んだ正樹、そのそばにいて自分が殺してしまったと思い込んだ朔がいて、そこに直哉がくる、という場面になっていました
子どもの思考力なので、それをどう隠蔽しようかと考えた末、これまでに少年性愛で悪戯をしてきたおんさんのせいにしようと考えます
血のついた正樹の靴を仕込み、その近くの川に死体を遺棄することになるのですが、この一連の事を主導したのは直哉であるように見えています(晃と春の視点では)
彼はその行為に後悔していて、ある時から引きこもっているのですが、それは春が出所してからだと考えられます
でも、本来は朔が主導していないと、その後のおんさんに見せかけるなどの行動に辻褄が合わなくなってしまいます
あの推理シーンは、春と晃の妄想ではありますが、それは二人が思い描いている朔と直哉への思い込みというものがあり、それが直哉が主導、朔は動揺してそれに従った、みたいなイメージになっていました
でも、本当のところは、朔にサイコパス気質があり、偶然その場に来てしまった直哉を巻き込み、そして春と晃を焚き付けておんさんへの濡れ衣を着せることになりました
この推理と真実の違いが、朔の「それはお前らの妄想だろ」という言葉になっているのですが、実際に朔が行ったことについては闇の中に葬られているのですね
なので、そのあたりをきちんと描くためにも、直哉を通じて真相を知る人物というものが必要だったように思います
そして、それができて、朔を足止めし、晃を巻き込むことができるのは春しかいないのですね
それを考えると、春の行動は「のちの佐藤のルールにつながる」という意味では合理性(悪者は街の中で飼い慣らす)が生まれるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100517/review/03462466/
公式HP:
https://tsumitoaku-movie.com/#modal