■ゴールの先に喜びがあり、喜びの先に勝利がある
Contents
■オススメ度
実話ベースの感涙コメディが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.2.24(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Next Goal Wins(次に勝ち取るのはゴールだ)
情報:2023年、イギリス&アメリカ、104分、G
ジャンル:世界最下位のチームが公式戦で初得点を獲る様子を描いた伝記映画
監督:タイカ・ワイティティ
脚本:タイカ・ワイティティ&イアン・モリス
原案:マイク・ベレット&スティーヴ・ジャミソン『Next Goal Wins(邦題:ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦、2014年のドキュメンタリー映画)』
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キャスト:
マイケル・ファスベンダー/Michael Fassbender(トーマス・ロンゲン/Thomas Rongen:米領サモアのサッカーチームの監督を任される男、元オランダ代表のサッカー選手)
オスカー・ナイトリー/Oscar Kightley(タビタ・タウムア:サッカーチームのマネージャー、米領サモアのサッカー連盟会長)
レイチェル・ハウス/Rachel House(ルース:タビタの妻)
デビッド・フェイン/David Fane(エース:チームのコーチ)
Armani Makaiwa(アルマーニ:トーマスの付き人の少年)
タイカ・ワイティティ/Taika Waititi(アメリカ領サモアの司祭)
ウィル・アーネット/Will Arnett(アレックス・マグヌッセン:アメリカ・サッカー協会の会長)
Rhys Darby(リース・マリーン:サッカー協会の理事)
Angus Sampson(アンガス・ベンルンドン:元オーストラリアのサッカー選手)
Luke Hemsworth(キース:元オーストラリアのサッカー選手)
エリザベス・モス/Elisabeth Moss(ゲイル・メガラウディス:サッカー協会の理事、トーマスの別居中の妻)
Kaitlyn Dever(ニコール:トーマスの娘)
(幼少期:Tui Vincent)
カイマナ/Kaimana(ジャイヤ・サルエラ/Jaiyah Saelua:ファアファフィネの選手、センターフォワード)
ビューラ・コアレ/Beulah Koale(ダルー・タウムア:タビタの息子、フォワード)
ウリ・ラトゥケフ/Uli Latukefu(ニッキー・サラブ/Nicky Salapu:31失点した伝説のゴールキーパー)
セム・フィリポ/Semu Filipo(ランボ:トーマスを捕まえる警官、途中加入する選手)
クリス・アロシオ/Chris Alosio(ジョナ・デフ:足の速いミッドフィルダー)
リーヒ・ファレパパランギ/Lehi Makisi Falepapalangi(ピサ:間の抜けたゴールキーパー)
イオアネ・グッドヒュー/Ioane Goodhue(スマイリー:父がソニーで働いているついていない男)
ヒオ・ペレササ/Hio Pelesasa(サムソン・ベガス:ドレッドロングヘアーの選手)
Wil Kahele(「Who’s on the Plane」のレポーター)
Sisa Grey(雑貨屋の店主)
Levy Tuiala(シラ族の長老)
Loretta Ables Sayre(ランボーの母)
Lori Pelenise Tuisano(米領サモアの女性)
Tulalagalaga Tatalo Wily(米領サモアの女性)
David Tu’itupou(トール・デイヴッド/Tall David:トンガのフォワード)
James Burghardt(トンガの選手)
Patrick Mullen(トンガの選手)
Roland Tupola(トンガの選手)
Don Nahaku(トンガのコーチ)
Jonathan J.I. Knox(主審)
Martin Tyler(試合のコメンテーター)
■映画の舞台
2011年、
米国領サモア:
https://maps.app.goo.gl/59Ro7AqMaLqcg1Zn7?g_st=ic
2012年、
ワールドカップ予選
米領サモアVSトンガ戦
ロケ地:
アメリカ:ハワイ州
ホノルル
■簡単なあらすじ
U-20のアメリカの男子チームの監督を務めていたトーマス・ロンゲンは、2009年のFIFAワールドカップの出場権を逃したために解任されてしまう
サッカー協会の会長アレックスは、彼に米領サモアの再建を任せることになったが、これまでのキャリアを考えれば墓場に行かされるようなものだった
米領サモアは2001年にオーストラリアに0−31で歴史的敗戦をしていて、チーム結束以来得点を入れたことがなかった
米領サモアのサッカー協会のタビタは、なんとか1点獲りたいと考えていて、アメリカ協会から送られてきたトーマスに期待を寄せていた
チームは素人に毛が生えた程度で、基礎体力もなければ技術も戦術も知らなかった
すべての選手が兼業で働いていて、中でもファアファフィネのジャイヤは、ホルモン治療の影響で練習もままならない状況だった
トーマスはこのチームのサッカーは遊びに過ぎず、自分の出る幕ではないと考えていたが、一緒に時間を過ごす中で、少しずつ考えが変わり始めていた
テーマ:サッカーをする理由
裏テーマ:勝利よりも優先するもの
■ひとこと感想
実話ベースのコメディ映画で、タイカ・ワイティティの風味が存分に発揮されていましたね
冒頭から司祭の格好をしてストーリーテラーを始めるのですが、エンドロールの後にも登場するのでご注意くださいまし
映画は、数名の選手が実名で登場しますが、相手チームは架空に近い存在になっていましたね
この予選は4チームの総当たりだったのですが、その第1戦目を描いていたことになります
監督就任からの紆余曲折を経ていくのですが、勝つことを至上としてきたトーマスが「サッカーの原点に立ち返る流れ」になっていて、彼自身がチームから学んでいく過程が描かれていました
ウィキなどで調べたらわかりますが、彼が成績を落としたことにはある理由があり、妻ゲイルとの関係の変化というものの始末もつけていくように描かれていたのは印象的だったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
史実を知っていても楽しめる内容で、どうやって1点獲ったんだろうという視点で観ていくことになりました
ほぼ素人だけど体力はあるというレベルで、2001年の大敗を機に多くの選手が離脱してしまった経緯があります
数人かのメンバーを再招集する中で、一人が事故に遭って離脱してしまったのはびっくりしてしまいました
映画は、サッカーシーンはそこまで緊迫感はありませんが、さまざまな「初めて」がある内容だったので新鮮なものがありましたね
本当のところはドキュメンタリーを観た方が良いとは思いますが、安心して観られるスポーツ映画という感じになっていました
感動するかどうかはなんとも言えませんが、努力が報われる話というのは気持ちの良いものです
映画的な脚色でトンガが悪者になっているのは可哀想ですが、敵側もキャラが立っていて面白かったですね
トンガ流の試合前の気合い入れ?はいつみてもかっこいいなあと見惚れてしまいます
■ファアファフィネについて
映画に登場するジャイヤはサモアの第3の性という意味を持つ「ファアファフィネ(Faʻafafine)」と呼ばれる属性を持っていました
ファアファフィネはサモアでは「非バイナリー」の役割を認識している人々のことを言います
伝統的なサモアの性自認・性役割になっていて、サモア文化の不可欠な要素として知られています
人類学者の見立てでは、サモアの家庭に女児より男児が多かった場合、または女性の家の家事を手伝うのに十分な女児がいなかった場合に、男児がファアファフィネとして育てられてきた、という推測をする人もいますが、これに関しては議論の対象になっているとされています
サモア人の1〜5%ぐらいが自分をファアファフィネであると感じていて、2013年の段階で3000人ほどのファアファフィネが住んでいるのですね
言葉の由来としては「女性を意味する言葉」と、「〜のやり方でを意味する言葉」が連なっている言葉で、他のポリネシア文化で使われる言葉と構造が同じになっています
これらの文化は、一般的なジェンダー用語とは一致せず、また別の概念になっています
サモア文化ではファアファフィネは非常によく受け入れられているので、ほとんどのサモア人の友人に一人はいる、というぐらいになっています
それでも、キリスト教原理主義をはじめとした一部のコミュニティでは受け入れられていないという現実があるとされています
米領サモアにはファアファフィネ協会があり、サモアの価値観と西洋の影響の両方のバランスを取ることを目的としている団体となっています
2006年に設立されたサモア・ファアファフィネ協会は、政府、教会、青少年団体と連携し、様々なコミュニティ・プロジェクトを視点しています
それでも、サモアではファアファフィネの同性結婚は違法状態にあるので、米国本土でOKでも、米領サモアではダメという状況が続いています
■実際の道のりについて
映画の主人公であるトーマス・エディ・ロンゲンは実在の人物で、選手としても活躍していました
1996年にはMLS初年度シーズン似て、MLS年間最優秀コーチ賞を受賞しています
その後、2016年の12月には、米国男子サッカーチームのチーフスカウトに任命されています
選手としては、1971年〜1933年まで、管理職として1984年からキャリアをスタートさせています
選手としては、アムステルダムシェFCにてキャリアをスタートさせ、主に守備的ミッドフィルダーとして活躍していました
その後、1979年にアメリカに移り、北米サッカーリーグのロサンゼルス・アステカズに所属することになりました
その後、フォートローダーデール・ストライカーズへの移籍があり、最終的にはフォート・ローダーデール・ストライカーズというチームで選手としてのキャリアを終えています
その後、ロンゲンハ1984年に教皇ヨハネ・パウロ2世高校の男子チームのアシスタント・コーチに就任し、1986年にはヘッドコーチに昇格しています
メジャーリーグサッカーとしては、その初代コーチの一人であり、1996年のタンパベイ・ミューティニーというチームの指揮を執り、レギュラーシーズンで優勝し、MLS年間最優秀コーチ賞も受そうしています
代表チームとしては、2001年から2005年までのU-20男子サッカー米国代表チームのヘッドコーチに任命されています
この際は1勝1分8敗という散々な成績だったため、その職を解任されているのですが、これが冒頭の解雇騒ぎの顛末として描かれていました
その後、2011年から米領サモアのヘッドコーチとして指揮を執り、わずか3週間のトレーニングで、ワールドカップ予選で勝利を勝ち取ることになりました
この試合は2−1で米領サモアが勝利していますが、得点の入り方が映画とは違います
実際には前半43分にRamin OTTによるゴールで先制、後半に入って74分の時点でShalom LUANIが追加点を入れています
そして、88分にUnaloto FEAOに1点返されるという展開になっていました
映画でそのまま登場している選手は、ニッキー・サラプ、ダルー・タウムア、ジョニー・サエルア(ジャイア)の3人となっています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、実際にあった出来事に脚色を加えたもので、それによって劇的な意味合いが強くなっていました
得点の経過が違うとか、コミカルで実在しない選手なども登場させています
また、リアルな部分もおざなりにせず、ロンゲンの私生活もそのまま引用され、劇中で登場するゲイルは本当に夫婦関係がありましたりします
また、二人の別居原因と描かれる継娘ニコール(ゲイルの連れ子、他に2人います)は実際に事故で亡くなっていて、2004年(監督就任の6年前)にバージニア州の高速道路にて単独事故を起こしていました
ニコールが亡くなったのは19歳の時で、映画でも登場するように米領サモアが勝利した時には、娘の帽子を被っていていました
本作はドキュメンタリーではないので、劇的な演出を加えることは問題ないと思います
監督自身も司祭役で登場し、まるで架空の出来事を語るかのようなスタンスを取っていました
かつてこの国には「わずか1ヶ月足らずで史上最低のチームを立て直した監督がいた」という感じの伝説譚のようになっていますね
あのリーグのレベルがさほど高くなかったということもあると思いますが、0−31で負けたチームが失点1で抑えているということも奇跡なのでしょう
それに至る過程として、フォーメーションや戦術などの訓練が描かれますが、最終的には「サッカーを楽しむ」という方向に向かうのは良かったと思います
ジャイアが第3の性として初めて公式戦に立ったとか、色んな歴史の転換点になっている試合でもあり、それを描くことにも意味があったでしょう
ジャイアは試合で勝つことと引き換えに、自身のホルモン治療を中断するなどの苦難の道を選ぶのですが、それが試合当日のメンタルに密接に関係していました
最終的にジャイアの重荷を解くことがチームの活性化につながるのですが、この構成にしたのは見事だと思います
ジャイアはサモアの象徴でもあり、そして一人苦しい道を歩んでいた人物でもありました
そんなジャイアをチームの精神的柱として信頼し、そして目を覚ますような自分の話を始めていきます
ロンゲンにとっての若者たちのチームというのは、どこかにニコールがいるのではないかという置き換えにもなっています
そんな中で、楽しいサッカーで勝ち上がることは、勝利至上主義では手に入らないものを得る歓びというものを彼に与えたのではないか、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99362/review/03524262/
公式HP:
https://www.searchlightpictures.jp/movies/nextgoalwins